蛙
俺は高校二年生だ。でも若さをエンジョイしてはいない。部活にも入っていない。まあ俗に言うところの干物組だ。そんな俺の友達はやっぱり暗い。今日はそんな友達の話をしようと思う。
その友達の名前をKといった。ある日俺はKと一緒に昼飯を食べていた。そしたらKが言ったんだ。「僕もしかしたら死ねかもしれないって」生っ白くてひょろひょろして死人みたいな顔してたから何をいまさらって思ったけどKは真剣に話し始めたから俺はそれを聞いたんだ。
それはKが中学生の時の話だ。Kはやっぱり干物組で教室の隅っこでいつもぼっとしていた。でもそんなKにも彼女がいたそうな。名前をJとしておこう。Jは容姿はまあ普通だが優しい女の子だったそうな。やっぱり付き合いだすと一緒にいる時間も長くなるしそしたらお互いの家に行きたくなるよな。でもJはKを家に連れて行こうとはしなかったんだ。いろんな理由をつけて断ってたんだってさ。Kはなんだか自分が信じてもらえてないんじゃないかと思ったそうな。だからこうゆうことするのは悪いと思いながらJを付けて家の場所を突き止めたんだ。そこは集合住宅の三階の一番端の部屋だったんだと。
そして次の休日にKはお菓子を持ってJの家に行ったそうな。三階の一番端の部屋だ。ドキドキしながらチャイム押したんだってさ。そしたら中からなんかキャバ嬢みたいな恰好した女が出てきたんだってさ。なんだこいつって感じでKを見たんだって。それが結構きつい感じだったらしい。そしたらJが奥から出てきてあっていう顔しながら「お母さんこの人私の知り合いなの」ってJがKと外に出たんだとさ。Jはびっくりしてたみたいだけどすごく喜んでた。近所の公園で他愛もない話をしてその日は帰ったんだ。
それからKはちょくちょくJの家に行くようになった。そのたびにJはKを公園に連れて行って話をした。Jの母親ともたまにあった。態度は最初の時と変わらなかったんだと。KはJといろんなことを話したが家族のことは話さなかった。いろいろ訳ありなんだろう。水商売かもな。だからKもあまり聞かなかった。
KがJの家に行くようになってから二か月くらい経ってからか。Jが突然「私いつかいなくなっちゃうかもしれない」って言った。なんでだってKが聞いた。そしたらJが話し始めた。
Jの母親はキャバ嬢みたいな恰好してるって言ったろう。Jから聞くと高そうなドレスとか宝石とかいっぱいあるらしい。でもキャバ嬢じゃないんだって。しかもJの母親は仕事してないんだって。そしたらどうしてそんな贅沢ができるんだ。
それはJが小学一年生の時に見たんだって。ある日学校から帰ってきて玄関を開けたら見知らぬ人の靴があったそうな。誰か来ているのかなってJが母親の寝室をそっと開けたらそこの焦げ茶色のぶよぶよしたものが布団の上にうごめいていたんだってさ。その下敷きになって母親がいたんだって。本当はこのJには姉がいてその時は中学三年生だったんだけどその姉もいたんだって。二人とも裸らしかった。まああれだきっと交合してたんだな。その焦げ茶色のぶよぶよしたものと。Jは怖くてその場に固まってしまった。母親と姉が喘いでいる。そしてその焦げ茶色のぶよぶよしたものがこっちの向いたんだって。そいつはバカでかい蛙だった。Jはその時ぴんと来たんだって。きっと母親と姉がこの蛙に養ってもらっているんだって。その代わりに体を提供しているんだって。その蛙が気味の悪い笑顔をしながら「かわいいお嬢さんだねえ。次は君の番かな」って言ったんだって。Jは怖くなってそこから逃げ出したんだと。でも行く当てがないから夕食時には家に帰ったんだけどとくに何事もなかったように母親と姉は振る舞ってた。
でもJはその日から自分のいつか蛙と寝る日が来るかも入れないってもっと言えば姉のように連れていかれるかも知らないって思ってたんだと。そう姉は中学を卒業したらJに働き先も言わずにどこかに行ったそうだ。Jはそれを蛙に連れていかれたと思っているらしい。母親に聞いても良い所に行ったとしか言わないらしい。Kは当時それを聞いてそんな馬鹿な話があるものか。蛙はきっとJが記憶を改ざんして覚えてるだけだとKは思ったらしい。でもJがあんまりにも切実なトーンで言うもんだから。Kが安心させようと「俺がいるから大丈夫だって」言ったらしい。そしたらすごく喜んだんだってさ。
そして中学三年生、卒業のシーズンだ。Kもそんな蛙の話を忘れてた。そんな時だ。Jが深刻な顔で言ったんだ「ママの様子がおかしい。どこかよそよそしいの。きっと私蛙連れていかれるんだわ」Kはそんな話信じていなかったけど人助けだと思ってJの家の前を見張ることにしたんだ。いつまで続けるかは決めてなかったそうな。Jに俺がいるって安心させるだけだったし。そして見張りの一夜目は何も起きなかった。Kは内心面倒だった。だけどこれでJが安心して仲が深まればいいと思っていた。二夜目。三夜目。特になにも起きなかった。
そしてそれは四夜目だったそうな。Kが夜の集合団地の物陰からJの部屋を見ているとその時はもう深夜一時を回っていた。こんな時間に出歩く人は珍しい。だからはっきり覚えている。身長の低いでっぷりと太った男だ。背広に帽子被っていた。その顔はそうまさに蛙だった。もしかしたらこの顔を見てJは蛙と思ったのかもしれない。Kはその時点でつかみかかかればよかったのかもしれないけれど、卒業も控えていたしあまり問題は起こしたくないから様子を見ることにしたんだ。そしたらその男は階段を上ってJは部屋に入った。Kは男の後を追う。Jの悲鳴がした。KがJの部屋のドアを叩いた。ドアは開いていた。KがJの家に入った。リビングではKの母親が煙草を吸っていた。KはJの悲鳴のする部屋の戸を開けた。そこには大きな蛙に抱き着かれたJがいた。「助けてK君! 助けて!」Kが蛙に飛びかかった。蛙の皮膚は厚くてぶよぶよしたびくともしない。KはJを助けようと必死だった。だがふいに記憶が飛んだ。一瞬だった。
気付いたらKは寝ていた。そこには誰もいなかった。そしてKは中学を卒業した。Jは卒業式には来なかった。でも先生含め生徒も何も言わなかったそうだ。なんだか触れてはならない暗黙のルールのようだったと。Jの家にはいつの間にか別の住人が住んでいた。その存在がなかったかのようにされていた。
そして今だ。Kは俺に「僕ももしかしたら死ぬかもしれない」と言っている。なぜか。それはつい三日もことだ。ある日Kが都心のスクランブル交差点を歩いていたんだ。そしたら前から歩いてく男に見覚えがある。それもそうだ。あの夜Jの部屋に入っていった男がいたんだから。Kは身震いがしたそうだ。あの日以来KはJの「助けて!」という幻聴が聞こえるそう。そのたびに憎しみを込めて蛙をハンマーでたたき殺しているんだとKは言う。その本当の相手が目の前にきたのだから。Kは怒りをぐっと抑えこみ男の後を付けていった。そしてその男が住んでいる家を突き止めたそうな。それは結構大きな一軒家だったんだと。Kはその瞬間にあの男すなわち蛙を殺そうと思ったんだと。その時窓からその男が窓から顔を出したんだと。そして「また会いましたねぇ」と言ったんだ。Kは一目散に駆けだしてあの男すなわち蛙を殺す計画をたてた。ホームセンターでのこぎりなどの凶器をそろえてあの男すなわち蛙が家にいる時間も綿密に調べて。
そしてこれから殺しにいくんだとKは俺に言った。
正直俺はビビっていた。Kがほんとうにやりそうなぐらい鬼気迫っていたからだ。でも止めることはできなかった。今Kの意に添わぬことを言ったら俺も殺されそうだったからだ。そこでKと別れるなり俺は先生のもとに走った。先生にKが人を殺そうとしていると言った。これは緊急だ。でも先生は「あいつはそんな大それたことをするはずない。明日にでも注意するから。俺は今忙しんだ」と言った。俺はそして祈ることにしたんだ。Kが変なこと起こさないようにって。
そしてKは資産家の男性を殺した。俺はKと親しかったから警察から事情聴取を受けた。Kに関して何か不審なことはなかったかと聞かれ俺は今までの話を話した。俺はそれしか知らなかったからだ。警察も困惑していた。Kは俺の言ったことをずっと繰り返しているそうである。「Jはあの蛙男に連れていかれた。だからあいつを殺してJを助けるんだ。守るんだ」だがKを過去を調べてみるとKの中学の同級生にJという名の少女はいないそうである。一応資産家男性の家を調べては見たがとくになにも怪しい点はないそうである。警察はKを精神鑑定にかけるそうである。
そしてKの部屋からは叩き殺された蛙の死体が大量に保管されていたそうである。
ただ俺はKの言うことを信じている。Jとその母親はきっと蛙に連れていかれその存在を人間社会から消されたんだきっと。Kが殺してしまった資産家の男性はきっと蛙が化ける元にした男性なんだ。Kは勘違いして資産家の男性を殺したんだ。本当の真実はこの世にはない。だから俺はその蛙の正体を探ることにしたんだ。これはきっと俺の運命だ。
ー了ー