第八話 異世界への扉
あーマジで Window XP 限界きつつあるな。
早いとこ新しいの準備しないと……。
アルとハボアは一月後に家に戻ってきた。
元気に出迎えてくれたイオリに驚くアル達。
「一体、何が在ったんだ?」
ルビアは困り顔でアルに事の次第を話す。
「そりゃあーまあ……陽月石もダグザの木も実在してるがとても貴重なもんでそうそう手
に入らんぞ。それに、伝説の杖にについてはシモン教が秘匿しているから俺が知ってい
る以上の事は詳しく調べられんし……」
シモン教とは生と死を司る神を崇める、この世界で最も古い宗教の一つだ。
「だが、イオリが元気になってくれたのは良かった。これからイオリにも手伝ってもらわにゃ
ならん。忙しくなるぞ!」
旅から帰宅したアルはその日一日休養を摂り、次の日の早朝、早速作業に取り掛かる。
アルはイオリとハボアにイオリを帰還させる為の異世界転移用の魔道具の作成手順を
説明する。
帰還の為の魔道具の作成手順は、
1、まずは異世界転移の刻印珠紋を解析する。
2、イオリにブレイブエンブレムの珠紋を使って祖父イオルと交信してもらいその力の波
動を検知し共振作用を利用してブレイブエンブレムの波動の指向性を調べ波動の行
き着く場所を特定する。
3、場所が特定出来たら異世界の其の場所とこの世界と往復可能な刻印珠紋と魔道具
を作り上げる。
の三段階である。
三つ目の条件、『異世界の其の場所とこの世界と往復可能』は、全く別な場所に転移し
た時、この世界に再び戻ってこれるようにする為の安全措置である。
と、言うのは半分建前で、もう半分は異世界とはどんな所かアルが自分の目で確かめて
みたいという、好奇心と言う名の欲求を満たすための機能だ。
一つ目の段階は解析はイオリの珠紋術のスキルであっさり出来た。
使用されている核石は高純度の魔石で付与されている属性は光、風、無の三つで、刻
印されている術式は空間の座標識別、異世界への空間の解放と閉鎖の操作、空間跳躍
の三つ。
だが、二つ目の段階で難航した。
波動は検知出来たのだが問題は指向性、波動の行き着く場所の座標の特定で波動が
途中の空間で忽然と消えてしまうのだ。
此れにはさすがのアルもどうしたものかと頭を悩ませた。
「そりゃそうか。そもそも別の世界と交信しとる。つまりは此の世界と全くの別空間と波動
の遣り取りしとるのだから波動が途中で途切れるのも当たり前か……。さて、困ったぞ。」
アル達は皆で話し合い、あーでも無いこーでも無いと試行錯誤してはみたものの、解決
には至らない。
そんなこんなで数日が過ぎたある日。
ルビアがイオリの為にハボアの古着を解いてイオリの服を仕立てている時だった。
「イオリ、此方に来てくれない? 貴方の服を仮縫いしたいの。」
イオリはルビアの元に行き、仮縫いする服を着る。
仮縫いする服を着たイオリの背丈、袖口等にルビアは待ち針を打ち、仮止めしていく。
ルビアが仮縫いをする為、針に糸を通している時、イオリは目を見開いてそれを凝視す
る。
「ルビアさん! それ貸して!」
イオリはルビアから糸を通した針をひったくる。
「あ、あらら、イオリ!? イキナリどうしたの? 動いたら針が刺さって危ないわよ!」
ルビアの注意する声も聞かずにイオリは両端を引っ張った糸を上下に傾け、針を端から
端に往復させる。
「これだ!」
イオリはすぐに工房に向かって走りだそうとする。
そんなイオリを止めるルビア。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、イオリ! 服が仮縫いの途中だわ! 行くのは仮縫いが終わっ
てからにしなさい!」
ルビアはイオリの襟首を掴み正面を向かせて嗜める。
(イオリもアルと同じ魔道具馬鹿なのね。将来、この子のお嫁さんになる娘は苦労するわ
ね。)
イオリを見ながらルビアは溜息を吐く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
イオリは自分の思いついた方法をアルに話す。
「なるほど! 波動を糸に見立て、それに空間の座標を検知する魔道具を乗せてイオル
の居る異世界に送り、座標を記録して此方の世界に再び戻すという事か!」
「師匠、出来る?」
「任せろ! 早速、座標を記録する魔道具を作るぞ!」
アル達はすぐに作業に取り掛かる。
そうして出来上がったのが小さな長方形の金属製のタグの様な魔道具だった。
「イオリ! ブレイブエンブレムでイオルと交信だ!」
「うん!」
イオリは早速、ブレイブエンブレムの珠紋で祖父イオルと交信する。
「……イオリですか? 先日、交信が途中で途切れたので心配しましたよ! 大丈夫です
かイオリ!」
「うん! 僕、大丈夫だよ! 死んじゃったお父さん、お母さんは僕が伝説の杖を作って生
き返らせてみせるよ!」
「伝説の杖? ……ひょっとするとシモン教に伝わるリヴァイブスタッフの伝説ですか?」
「よくわからいけど、多分それだよ!」
「そうですか……。でも、イオリが生きていてくれて本当に良かった……。しかもアルの所
に居るなんて驚きましたよ」
「それでね、お祖父ちゃん! 今からそっちに帰る為の情報を記録する魔道具送るからそ
のまま繫いでてね!」
「!? わかりました! 此のままの状態でいれば良いのですね?」
「うん! 師匠、いつでも行けるよ!」
「よしきた! 魔道具を波動に乗せるぞ、イオリ!」
アルはイオリとイオルの間を流れている波動に魔道具を乗せる。
「うお!」
すると、物凄い勢いで魔道具が波動を伝い流れて行き、あっという間に戻ってくる。
「うわ!」
魔道具がイオリにぶつかり、珠紋を落としてしまった。
「痛っ!」
「だっ、大丈夫かイオリ……。」
ハボアが手を差し出し、その手を取るイオリ。
「う、うん。大丈夫だよハボ兄。」
そうこうしていると、イオリが床に落としたブレイブエンブレムの珠紋が白く光り出す。
「あれ? ブレイブエンブレムが……」
イオリがブレイブエンブレムの珠紋を拾い上げるとイオルと通信が繋がる。
「イ、イオリ! さっきのがお前の言う魔道具ですか? イタタッ! 魔道具の角がちょっと
額に刺さりましたよ!?」
さすが超一流魔道具職人が作った魔道具! 魔王の攻撃すら無傷の勇者にダメージを
与えた! 凄いぞアルノート!
「やれやれ。 あんな速度が出るとは思わんかった。」
座標記録用魔道具を拾い、壊れていないか確認するアル。
「うん! しっかり座標を記録しているな! 二人共、最終作業に入るぞ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
三つ目の最終段階。
イオリが生成した高純度の魔石を核石に使用し異世界転移の刻印珠紋を作り出す。
其の刻印珠紋を魔道具に組み込む。
魔道具には異世界転移の刻印珠紋を制御する必要な機能を組み込む。
その他に転移場所の状況が不明な為、モニターを取り付けて転移場所の状況を確認出
来るようにした。
そうしてイオリが居た元の世界に帰還する為の魔道具が完成した。
念の為、異世界転移魔道具は家から離れた何も無い原っぱで動かす。
「いよいよだな、イオリ! ようやくお前を元の世界に返してやれるぞ!」
「うん! ありがとう! 師匠! ハボ兄! それにルビアさん!」
ハボアは無言で頷き、ルビアは涙ぐむ。
「それじゃあ、異世界の扉を開くぞ!」
アルは異世界転移魔道具を起動させた。
次の投稿は水曜日です。




