表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブエンブレム ~僕、勇者なんて出来ません!~  作者: 真田 貴弘
第一章 偶然か必然か
21/23

第二十話 イオルのベルン村開拓日誌

うん! この話、最早何処へ行き着くのか筆者も予測不可能!

 ベルン村に帰ってきたイオルは早速、薬を売った代金を皆で分けた。

 一人当たり金貨八枚(八百万円)の分前だ。

 イオルはアルに分前を渡す次いでにベアードの家の建築を手伝ってもらうよう依頼する。


「領主のガウルン伯爵に人喰いの被害に遇い、住む家を失った人達を受け入れるよう要

請されました。 次いでに港の建設と塩田を作ろうと言うことに成りまして、人出を増やす

為にも住む家が必要ですから頼みますよ。 当然、村で手の空いている者も手伝わせま

すから。 後、異世界転移魔道具を貸して下さい。 用事を済ませてきます」


 転移魔道具を借りたイオルはさっさっと異世界の地球、日本に転移した。


 と、言う事でアルとハボア親子とその弟子イオリは必然、駆り出される事になった。


 だがしかし、それでも人手が足り無い。

 何せ村人も自分の仕事を持つものが者が多く、手が空いてる者は子供や老人ばかり

である。

 アルはベアードと話し合い、再び村長のイオルに相談するべく家に向かう。


 丁度、イオルが地球から戻ってきていた。

 人手の件に付いて相談を持ちかけられたイオルはとんでもない事を提案してきた。


「人手不足は想定済みです。 其処で異世界日本の私の知り合いに頼んで家と港の建

設を依頼してきました。 準備出来しだい迎えに行きます。 そうそう、アルには言語翻

訳の魔道具を作って貰いますよ」


 ビックリ仰天のアル。

 何の話し訳がわからないベアード。


 イオルは地球に渡り、色々と手を回してきたのだ。


「おっ、おい! 幾らなんでもそれは不味いんじゃないか!? 悪目立ちして噂がそこい

ら中に拡散するぞ!」


「なあに、どうせ此処は辺境のド田舎。 外からの人の出入りは現状、滅多にありません。 その間に一気に事を進めれば問題ありませんよ。 それにどうせ異世界の存在は、ガウルン伯爵やスレイオン王には知られているんです。 なら、利用しない手は無いでしょう

?」


「それはそうだが、本当にいいのかなあ……」


「良いのです!」


 断言して言い切るイオルであった。

 

 取り敢えず皆で出来る所まで家を建てる事にした。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 二週間後、イオルは異世界転移魔道具をアルから借り受けて建築業者や港湾建設業

者を迎えに行く。


「いや~、久那技さんに話を持ちかけられた時は何の冗談かと思ったよ。 まさか異世界

なんてーのが本当に在るなんて驚いたねぇ。」


 建設会社の若社長の工藤 大輔(クドウ ダイスケ)、二十八歳がベルン村を見渡し

て感動した声で言う。


「でもこのご時世、仕事が減ってこのままじゃあ首くくる嵌めになりそうだったんで助かっ

たよ!」


 港湾移設建設業のイオルの昔なじみの塚本 誠司(ツカモト セイジ)、五十六歳がイ

オルを神仏のように拝みながら感謝する。

 

 ベルン村の村人達は遠巻きに建設機械や重機を恐る恐る見ている。

 村人達とは対照的に初めて見る道具に興奮するアルとベアード。


「でも建設資材が足り無いからどうしましょう? 久那技さん」


「それは、森の木を伐採して魔道具で乾燥させた物を使用して下さい。 材木の事は其処

に居る獣人のベアードに、コンクリートや鉄骨はドワーフのアルノートに相談して作って貰

って下さい」


 アルとベアードは右手を差し出しクドウとツカモトに挨拶しながら握手を求める。

 それに慣れたように答え、握手するクドウとツカモト。


 クドウとツカモトは早速、現地調査を開始する。

 家屋や宿泊施設、塩田施設はどのような物を立てれば良いか?

 港の施設には何が必要か?

 等々、イオル、アル、ベアードは話し合う。

 ツカモトはある事を提案する。

 

「船の事なら造船会社の船橋に相談したらどうだ? アイツん所も色々大変だからさあ。 

仕事回してやったら喜んで引き受けるるぞ」


 船橋 真司(フナバシ シンジ)、五十六歳。

 中小規模の造船会社を経営する人物で、彼もまたイオルの知り合いである。

 中型船――この世界では大型船になるが、その大きさまでなら建造出来る能力を有す

る企業だ。


「無論そのつもりです。 ただ、どの程度の規模の港が出来るかわから無いので船の事

は後回しにしたのですよ」


 ツカモトは港の建設予定地の入江を見回して言う。


「この大規模な入江なら立派な港が作れるよ! それこそ大型船を六隻くらい入港させて

も大丈夫だよ!」


「そうですね……。 彼にも前もって話しだけはしておきましょうか」


 後にイオルと塚本に話を持ちかけられ、実際にベルン村の港の建設予定地を見たフナ

バシは、


「久々に遣り甲斐のある仕事が舞い込んできたぜ! ヒャッハー!!」


 と、大喜びであった。


 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 イオルが次に手を付けたのが加工食品――大豆から醤油と味噌、穀物類からできる酒

類である。


 醤油と味噌はタマキが久那技家秘伝の技を受け継いでるので問題ない。


 さて、問題は酒の類だ。

 こればかりはイオルも伝手を持って無い。

 いや、正確には持っていたのだが、酒造りの名人であった知り合いは老衰で既にこの世

の人でなく、残っているのはその弟子達であった。

 優れた酒造りの技を持つその弟子達も師匠が亡くなってからは遣る気を無くし半ば隠遁

生活を送っていた。


 どうしたものかと頭を悩ませているとアルの妻、ルビアが訪ねて来た。

 何でも以前ご追走して貰った時に聞いた日本酒の作り方を聞いて自分なりに再現した

物を持ってきたらしい。

 材料となる米はベルン村でも栽培している。

 ただ米は非常用の食料であり普段は家畜の餌なのだ。


 本来なら夫のアルに一番に飲ませるものだが実はアル、ドワーフの癖に酒が一滴も飲

めない所謂下戸であった。

 ドワーフにとって酒は水のようなもの。

 その酒が飲めないというのはドワーフとしては半人前以下。

 ルビアにとっては良き夫の唯一の欠点である。


 話を戻そう。

 そのルビアが持ってきた酒をイオルが試飲する。

 その酒の感想を述べるなら美味い!その一言に尽きる。

 一口、口に含む。

 口の中で酒の酷と香りが調和し、味わっている内に溶けて無くなる儚い夢の様な味だ

った。

 何度飲んでも飽きが来ない不思議な酒だった。


 イオルはこれでも異世界地球の日本で様々な酒を飲んできた。

 しかし、これほどの逸品は口にした事が無い。

 まさに超一流の酒だ。

 《酒姫》とドワーフ達の間で呼ばれる所以である。


 イオルはこの酒をこの村で作ってくれるようルビアに頭を下げて懇願した。

 最初は難色を示したルビアであったが、イオルの情熱に負け、酒の造り手に指導するだ

けならと承諾した。


 イオルは早速地球の日本に渡り、酒造りの弟子達の下をルビアの造った酒を持って尋

ねる。

 最初は誰もが断るのだがルビアの酒を飲んだ途端、死んだ魚の様な目をしていた弟子

達が見る見る生気を取り戻し、


「この酒を作ったのは何処の誰なんだ!? 俺をその人の弟子にしてくれ!!」


 と、逆に懇願して来た。


 これで当面の課題は達成出来たと一安心して異世界転移魔道具を使って帰還しようと

した矢先、後ろに人の気配を感じ振り向いたら、鼠色の仕立ての良いスーツに身を包ん

だ二人組の男に声を掛けられた。


「久那技 イオルさんですね? 我々とご同行願えませんか?」


 いかにも怪しい展開に遭遇するイオルであった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 連れて来られたのはイオルが居た場所から約四十分近くにある都心の会員制の高級レ

ストランの個室。

 テーブルを挟んだ対面の椅子には見たことがある、いや、もう二度と(まみ)える事

は無いと思っていた人物と再開する。


「やあ! 久しぶりですね! イオルさん。 何年ぶりでしょう?」


 目の前の人物は糸のように細い瞼を開けてにこやかに挨拶してくる。

 龍玉リュウギョク 鷹臣タカオミ 三十六歳。

 日本の最大与党、慈民党総裁と同時に日本の内閣総理大臣 龍玉リュウギョク 崇将タカマサ 六十七歳

の次男である。


 タカマサとは妻タマキを巡って恋の鞘当てをした、いわばライバルであった。

 そのタカマサはイオルの出自と能力を知る数少ない人物である。


 韓国の竹島上陸の際、イオルは当時防衛庁長官であったタカマサに懇願されて韓国の

竹島上陸を陰ながら阻止したのだ。

 その代わり、イオルはちょっとした理由から国営事業であった諫早湾干拓事業をタカマ

サに頼んで裏から手を回して貰い、主導で行っていた人物達を黙らせ、干拓事業そのも

のを潰したのである。


 その後、タカマサはイオルに政界に出るよう誘ったのだがイオルは頑として受け付けな

かった。

 それが原因で二人は長い間疎遠になっていた。

 タカオミともそれ以降、高校進学以来会ってない。

 実に十三年ぶりの再会である。


「まさか君に呼び出されるとは思っていなかったよ。 ……それで、私に何か用かい? 

タカオミ君」


 イオルは彼が幼少の頃より彼の事が苦手であった。

 表面上はにこやかに人と接しているがその実、蛇を連想させるような視線は何を考えて

いるのかわからない不気味さがあったからだ。


「私は今、父の公設第一秘書を務めておりまして、その関係で色々な情報が入ってくる

のですよ」


「ほう! 例えばどんな事だね?」


 イオルは冷静な態度を取りつつも背中からは冷たい汗が吹き出していた。

 何かとてつもなく嫌な予感がするのだ。


「例えば、……そうですねぇ。 中国の航空機撃墜事件で死んだはずの貴方のお孫さん

のイオリ君が実は生きていたとか……。 後、捕虜として拘束していたパイロットの不審

死がロシアに亡命した墜命令を下した軍の上層部の人間の死と似通っているとか、…

…ですかねぇ」


 どうやら彼は自分を疑って鎌を掛けているのだと思い、終始惚ける事に徹しようとした

が、


「あそうそう、 貴方と一緒に居た建設業者の人間が忽然と姿を消したというのもあります

ねぇ。 その消えた人のお身内の人の話では、何でも貴方に仕事を紹介されて異世界に

行ってくるとか言っていたそうなんですが……、お心当たりありますよねぇ」


 イオルはクドウとツカモトに特に口止めしていなかった。

 する必要も無いと思っていた。

 他人に話してもまず信用され無いと高を括っていたからだ。

 

 だがまさか、タカマサに目を付けられているとは思わなかった。


「……私に監視をつけたのは、あの撃墜事件の時からですか?」


「ええ、父から貴方の息子さん御家族が巻き込まれたのを知って私に命じたのですよ。 

出来る事なら貴方の復讐を止めてやってくれとね。 ……まあ、父も端から止められると

は思っていませんでしたが。 貴方の監視は気づかれないようにするには兎に角、骨が

折れましたよ」


 タカオミは肩を竦めて(おど)けて見せた。


「タカマサは相変わらずの理想主義者ですね。 それで? 私を捕まえますか? にして

も回りくどい遣り方ですね。 何か別の思惑があるように感じますが……」


 タカオミはイオルの言葉にニヤリと笑みを浮かべる。


「貴方の犯罪は現状、証拠も無い。 立証も出来無い。 無い無い尽くしです。 犯罪者と

して捕まえる事は出来ません。 なら何故、私が貴方に接触したかと言うとイオルさん、

貴方には既に予想が付いているのでは無いですか?」


「異世界ついての情報。 タカマサはあわよくば、閉鎖されたこの国の現在の状況の打

破に私の生まれ故郷を利用するつもりですね?」


「人聞きの悪い事を言わないで頂きたい。 異世界と国交を開いて貿易をし、お互いの

足り無いものを補完し合おうと言っているのですよ」


「それについて私には拒否家は無い――と、言う事だね? タカオミ君」


 イオルは盛大に溜息を吐き、やれやれと首を左右に振った。


「おわかり頂けたのなら結構。 それでは今後の事についてお互い話し合いをしましょう

か?」




――後日――


 イオル達はガウルン伯爵と話し合い、内密にタカマサとグローリア王と会談の場を設け、

お互い国交を樹立する誓約書にサインをした。

 

 そして、季節が移ろい、ベルン村には五年の歳月が流れたのであった。

 これにて第一章は終了です。

 次回の更新は二週間後以降になります。


 8/23 第四話 悲しい真実


      ルビアのスキルに酒造りを追加しました。

      話の展開上、どうしても必要だったもので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ