第十八話 そしてお宝ゲット!
アル、イオル、イオリ、ハボアはランタン型魔道具で地下最奥を目指し降りて行く。
アルが地下最下層の奥の突き当りで隠し扉を開ける作業をする。
「へ~ぇ、そんな仕掛けが在ったんですか」
「俺も地図型魔道具が無けりゃあ一生気付かなかっただろう、なっと!」
アルはイオルと話しながら壁に顕われた窪んだ空間の中にあるレバーを思い切り力を
込めて回した。
すると以前のように壁の中央から切れ目が入り左右に壁がスライドして行く。
アルとハボアは隠し部屋に設置されていた明かり取り用の魔道具を起動させる。
隠し部屋はかなり広い空間でその中に所狭しと貴重な素材や魔石、魔道具、武具、薬
品類、宝石類に金銀財宝の宝の山がある。
ちなみに隠し部屋の奥の方には簡易的な仕切りをした工房の作業場のような空間に見
た事が無い道具類が置かれていた。
次いでにそれらの道具類も全て回収しておく。
「おお~、凄いですね~。 私も財宝がこんなに在るとは思いませんでした」
「こんなに一杯、《何処でも工房》の中に入りきるかな~」
「押し込みゃあ何とかなるだろ」
「父さん、傷つきやすい素材は丁寧に扱わなきゃ……」
「わかってるって!」
四人はまず財宝を魔道具《何処でも工房》の素材置場の中にそれぞれ分類して置いて
いく。
素材置場が一杯にになると次に工房の方に傷つきやすい素材を置いていく。
それでも入り切らない物はプライベートルームに詰め込む事で何とか全部入った。
《何処でも工房》に財宝を運び入れる作業を四人で開始してから約三刻近く掛かった。
遅い昼食を財宝で狭くなったプライベートルームで摂りながら話をする。
「漸く全部運び終えたなあ!」
と、肩を握り拳で軽く叩くアル。
「もうこの城には何も無いの?」
「ああ、念の為に地図型魔道具で調べておいたけど他には何も無い」
イオリの疑問に答えるハボア。
「じゃあ、直ぐにベルン村に帰るの?」
「そうですね。 あの無頼の冒険者達のような輩もいますし、此処は一旦城から離れた方
が良いでしょう」
「そうだな。 イオルの言う通り城からは離れておいた方がいいだろう」
「そうだね、父さん。 財宝は家に帰ってからゆっくり分ければいいし……」
「あっ、そうそう、私は宝石類や金銀財宝以外要りませんから其れ以外はそちらの三人で
分けて下さい」
「其れじゃあイオル、お前には金目の物を多めに渡しておけばいいな」
「はい、それでお願いします。 いや~、思った以上に財宝が在ったので、此れで十分村
の開拓が行えますよ!」
「でも、村に帰ったとしてこんな沢山の宝物、何処に置くの?」
イオリは首を傾げて三人問うた。
「私はイオリに魔道具《何処でも工房》改め《何処でもハウス》を作って貰うつもりなので其
処に保管しようと思っています」
「俺達は当然決まっている!」
「そうだね、父さん!」
「「イオリに《何処でも工房》の作り方を教えてもらって自分達で作る!」」
アルとハボアは声を見事にハモらせながらイオリに教えを請うのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
イオリ達がベルン村に帰り着き帰宅しようとしたアルにイオルは地図型魔道具を借りる。
「何で其れが必要なんだ?」
「いえね、もしかしたら前村長の不正の証拠と言うヤツが出てくるかもと思いまして。 確
か前村長は領主街から王都に召喚された後、そのまま王都に住居を与えられたという話
し。 なら、私が今住んでいる前村長の家の何処かにその証拠が持ち出されず今もあの
家に在るのではと。」
果たしてイオルの予想は的中した。
前村長の部屋の壁の一部に隠し戸のようなものがあり、其処から何時、誰に、どれだけ
賄賂を送ったかの裏帳簿が見つかった。
此れを元に監査役人が書類に記載された税の金額を合わせるとピタリと一致した。
「此の事は直ちに御領主様に報告致しますが恐らく……」
「承知しています。 勇者の父親がこのような所業をしていたなどと世間に知れたら大変
ですからねぇ。 誰にも喋りませんよ。その代わり村の開拓について融通してもらえるよう
御領主様に何卒よしなにお伝え下さい」
「……わかりました」
その後、ガウルン伯爵はイオルの要求に出来うる限り答える事と前村長ガルフォードの
賄賂を受けた関係者は内々に厳しい処罰を下し、脱税についてはガルフォードは王より
厳しい叱責を受け、勇者であるファイと引き離して悪事を働かぬよう一日中見張りが就く
事になった旨を手紙で知らせてきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
イオリに魔道具《何処でも工房》の作り方を教わり、思うがままの作業空間を創りだした
アルとハボア。
二人共、此れほど凄い魔道具を作れるイオリに感心していた。
「しかし、まさか魔神タイランが作った刻印珠紋をこんな風に応用すとはなあ」
「誰も考えつかないし、それ以前に作れない。 此れはイオリの能力だけじゃなく、育った
環境がいい刺激を与えているんだと思う」
そして、三人を近くで見守るルビアは……、
「そんな事より早く昼食を食べなさい! 片付か無いし、何より冷めてしまったら美味しく
なくなってしまうわ!」
と、お冠である。
さすがに、最近は勝ってしすぎてルビアに迷惑掛けたと反省するアル。
「おお、そうだ! 丁度《何処でも工房》も出来た事だし、お宝を後で分配するか!」
あわよくばルビアに似合う装飾品をお宝の中から見つけて贈ろうと考えたアルであった。
そしてアル、ハボア、イオリの三人は昼食後、村長であるイオル宅に訪れる。
「お祖母ちゃん、こんにちわ! お祖父ちゃん、今、時間空いてる?」
「いらしゃい、イオリちゃん! 今、丁度食後のお茶を居間で楽しんでいる所よ」
三人はタマキに居間で寛ぐイオルの下に案内される。
「やあ! どうしました三人共、なにか用事ですか?」
「イオル、お前がイオリに依頼してた《何処でもハウス》が出来上がったんでな。 次い
でにアレの分配もしちまおうと思って来たんだ。」
「おお! そうですか! では此れから分配と参りましょうか」
イオルはタマキに訪問者が来ても断る事、イオルの部屋に誰も近づけないように言付け
る。
イオリ達は二階に在るイオルの部屋に行き、イオリの魔道具《何処でも工房》を使用す
る。
アル、ハボア、イオルも各々の魔道具を使用する。
「イオルが魔神タイランを倒したんだ。 先ずは一番の功労者であるイオルから選んでく
れ」
「では、そうさせて頂きます」
イオルは早速、イオリの《何処でも工房》の中に入り財宝を選び始める。
選んだ財宝は残りの三人が運ぶのを手伝う。
そうして一刻程で選び終わる。
「ふぅ、結構掛かりましたね」
「まあ、アレだけありゃあ時間も掛かるだろう」
「其れじゃあ、次は父さんの番だね」
「おう、其れじゃあとっと選ばせて貰うか!」
アルはまず、ルビアに贈る装飾品を選ぶ。
(ええと、アイツが喜びそうなのは此れと此れと……)
イヤリング、ネックレス、髪飾りの三つを選ぶ。
後は魔道具作りに使う素材と金になりそうなものをそれぞれ選んでいく。
魔石を選ぶ段階でイオリがアルに尋ねる。
「ねぇ、師匠。 陽月の石ってこの中にある?」
「ん~、幾らなんでも流石に無いだろうなあ」
其処へ近くで聞いていたイオルが、
「有りますよ。 アルの足下に」
と、何気に発言する。
「「えっ!?」」
その言葉に驚く二人。
「ほら、白と黒に輝いてる魔石。 それが陽月の石です」
「此れが陽月の石……」
アルが陽月の石を手で摘んで眺める。
そしてイオリに差し出す。
「ほらよっ! 目的の物の一つだ! 受け取れ!」
イオリは両手で包み込むように陽月の石を受け取る。
だが、この大量の素材の中にも流石にダグザの木は無かった。
しかし、イオリにとっては両親を生き返らせる目標に一歩近づけて顔を綻ばせる。
そんなこんなでアルも全て選び終えた。
「じゃあ、今度は俺だね」
ハボアが財宝の中から魔道具の素材や魔石、魔道具や金目の物等選んで行く。
その途中、ハボアは武具を置いてある一角に突き出た一本の槍斧が目に付いた。
何と無く気になり武具の山から其れを引き抜く。
ハボアはその搶斧を手に持ち驚く。
「こ、此れは!?」
「どうした? ハボア」
「《風搶雷斧》だよ! 父さん!」
「《風搶雷斧》だと!?」
《風搶雷斧》。
それは搶斧を愛用した歴代勇者が使用した中でもランクS級に入る逸品である。
ちなみにイオルの《炎王の大剣》アルノートが制作したランクS級の逸品物である。
「いい物見つけたなあ、ハボア!」
「うん! 父さん!」
ハボアは《風搶雷斧》を見てウットリした。
ハボアも財宝を選び終え、残るはイオリだけなのだが……。
「選ぶも何も結局残りの余り物が僕の取り分に成るんじゃないかあ……」
不満そうに三人に呟くイオリ。
「そうでもないぞ! イオリ! 此れでもかなりいい物が残っているぞ!」
「そうだよ、イオリ! この木は世界樹の木と言って、とても貴重なんだよ!」
「それにほら! 魔神タイランの作業場で見つけたこの魔道具、何か凄そうですよ!」
イオルが不意に魔道具に付いていた機器を触るとイキナリ半透明の長方形のパネルが
目線の高さの空中に浮かび上がる。
「何だ此れ!?」
其れに驚くアル。
イオリは目を見開きそのパネルに喰い付く。
そして、パネルを色々操作してわかった事は……
「此れ多分、魔道具版3Dプリンタだよ! お祖父ちゃん! 師匠! しかも使う素材は何
でもいいみたい!」
「「3Dプリンタ?」」
アルとハボアは揃って首を傾げる。
「つまり、絵とかの情報を元に樹脂等の素材を使用して絵の形に物を作り出す道具です
よ。」
と、イオルが解説する。
だが――アルとハボアは、
「う~ん、俺達には良くわからん!」
「そうだね、父さん」
現段階ではよく理解出来ずにいた。
しかし、後にこの魔道具の凄さを垣間見て二人共、何故この魔道具を選ばなかったの
か後悔する事に成るのは、また別の話……。
そして、残った呪われた品々と用途不明の薬品類をどうするか皆で相談する。
「師匠、お祖父ちゃん、この呪われた奴ってどうするの?」
「うむ! いい質問だなイオリ! 此れ等は一般人には忌み嫌われているが、ある特定の
者達、好事家には人気があって高値で取引されるんだ。 そういう所に持ち込めば
いい。 その辺は俺が遣っておく。 此れ等の売っぱらった金は後で皆で分けよう」
「でも、流石に薬品類は専門じゃないからどうしようか、父さん?」
そこでイオルが、
「此れ等の薬品類は領主のガウルン伯爵に頼んで専門家を紹介して貰いましょう。 所持
していて不味いものは処分して貰い、活用できる物は此方で所持して、どうでも良い物は
売り払ってお金に変えて皆で分けましょう」
残り全ての品々の処分方針が決まった所で既に日も落ちてきていたのでアル達はイオ
ル宅から御暇する事にした。
帰宅したアルは早速、ルビアに装飾品をプレゼント。
暫くの間、ルビアの機嫌はとても良かったという……。
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