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ブレイブエンブレム ~僕、勇者なんて出来ません!~  作者: 真田 貴弘
第一章 偶然か必然か
18/23

第十七話 勇者イオル、帰還す

 ✼8/12 第十五話のイオリのステータスの称号に《人喰い殺し》を

       追加し忘れたので追加します。ご迷惑をお掛けし申し訳あま

       せん。




――グローリア王国 ベルン村――


 ベルン村に新たな村長がやって来る。


 久那技 イオルである。


 最初、偽名を名乗ろうかとイオルも思ったのだが、イオルが勇者になってからその偉業

にあやかろうと子供にイオルの名を付けるのが流行ったお陰でイオルという名は一般人

の名前として浸透していた。


 村人達は新たな村長であるイオルを期待と不安で歓迎会の準備をしていたが、知り合

いであるアルノートからイオルと言う人物像を聞いた村人達は不安よりも期待を大きく膨

らませた。


 遂にイオルがベルン村に遣ってくる日が来た。


 村人達がイオルとその妻のタマキを見てびっくり仰天する。

 若い!とても七十代、八十代に見えないその容姿に驚く村人達。

 疑問に思った村人の一人が尋ねると、


「ええ、私は今年アルと同じ八十六歳です。エルフの血が流れている所為で若く見られる

んですよ」


 その話に納得する村人達。

 しかし、タマキが純粋な人族だと知った村の御婦人方からはその若さの秘訣を教えてく

れと群がってくる。


 その問いに対しタマキは、


「全ては主人の愛情のお陰ですわ」


 と話をはぐらかす。


 前村長の家に引っ越したイオルは歓迎会の翌日から早速、村長の仕事を始める。

 が、初っ端から躓いた。

 毎年の村の収支報告書の書類の数字が全く合っていない。

 特に徴税官に支払った税の計算が無茶苦茶なのだ。

 一つ大きな溜息を盛大に吐き、良く此れでこの村が今まで遣ってこれたものだと呆れを

通り越して感心した。


 だが、さすがにこの状況は良くないので、この村の経済を改善する対策を主要な村人達

と話し合う。


「ガルフォードの奴、昔から税金をちょろまかしていた噂はあったが、本当に誤魔化してい

たとはな……」


 誰かが呆れたように呟いた。


 だが、此れではガルフォードのやり逃げである。

 現村長として村人達に示しがつかない。


 此処で槍玉に挙げられたのは前村長の取り巻き達だ。

 イオルは取り巻き達を締めあげて吐かせる。


「お、俺達は何も知らねえ! 全部、前村長のガルフォードが遣った事だ!」


「嘘を言うものでは無いですよ? 貴方達は前村長と懇意にしていた。ならば知らないは

ずは無いでしょう?」


 イオルは更に取り巻き達を締め上げる。

 遂には取り巻き達も音を上げ白状する。


「わ、わかった! 言う! 言うから堪忍してくれ! あんたの言う通り、ガルフォードは税

金を誤魔化して自分の懐に仕舞い込んでいた! その上、徴税官や役人に賄賂を送って

いたんだ! 俺達はそのお(こぼ)れに(あずか)っていただけだ!」


 イオルは溜息混じりに取り巻き達を村の牢屋に閉じ込めておくよう村の男衆に指示を出

す。


「一応領主には訴え出ますが、今の彼の立場から言って無駄でしょうねぇ。何せ勇者の親

が脱税していたなんてスキャンダル、国としても外聞が悪いですからね。まあ、せいぜい口

止め料を国からぶん取るといたしましょうか。」


 イオルは誰にも見えない死角で口角を釣り上げニッと笑うのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 アル、ハボア、イオリの三人は兼ねてから計画していた魔神タイランの財宝を回収する

準備をしていた。


 其処へ丁度、イオルが遣ってくる。


「おや? アル、イオリ、貴方達一体何処に出かけるつもりですか?」


「おう、イオル! 実はな、お前が倒した魔神タイランの奴、城にたんまりお宝を溜め込ん

でいたんでな今から其れを回収しに行く所だ!」


「私が倒した時に回収しなかったのですか?」


「タイラントとお前が相打ちになったと思ってた俺にそんなもん調べる余裕なんて在るか!


 イオルは少し考えて、


「……私も同行しても宜しいですか?」


「其れは構わんが村長の仕事はどうするんだ?」


 イオルは首を左右に振り、


「前村長のお陰で私では手がつけられない状態でして、今、領主の監査役人が来ていて

処理に一月掛かると言われました。其れまで私は手持ち無沙汰なんですよ」


「……ガルフォードの奴、本当に遣りたい放題遣ってたんだな」


「と、言いう訳で私も同行します異論は無いですね?」


「ああ、かまわん。出発は明日の明朝だ。遅れるなよ!」


「はいはい、わかりましたよ。」


 早速、イオルも家に帰り旅支度を始める。

 

 早朝、村の入口で落ち合ったアル、ハボア、イオリ、イオルの四人。


 今回は魔神タイランの財宝回収以外に旅路の途中の街でイオリのギルド登録申請を行

なうつもりだ。

 冒険者ギルドや職人ギルドは街にしか無いからだ。


 魔神タイランの居城に向けて出発する四人。


「馬車が有ればもっと早く行けるんですがねぇ」


「仕方が無い。こんな辺鄙な所じゃあ馬は高くてなかなか手に入らん。だからお前が何と

かしてくれ」


 肩をすくめてイオルに要求するアル。


「財宝が手に入ればそれも可能でしょう。まあ、財宝はきっちり公平に分けさせて貰いま

すよ」


「……この話、お前にするんじゃなかったと今更ながら後悔し始めたぜ」


 項垂れるアル。

 それに対してイオルは元気一杯にアルに話しかける。


「いや~、此方としては渡りに船でしたよ。此れで開拓費が捻出できます」


 ウキウキと軽い足取りで歩くイオルであった。

 そうこうしている間にグロリア王国の北東、樹海手前の街ケサラに辿り着く。


 此処までの旅程ではイオリの作った魔道具《何処でも工房》が役に立った。

 何せ夜の見張りが必要が無くプライベートルームの中で快適に過ごせるのだ。

 あまりの快適さにイオルはこの魔導具をイオリに作ってもらう事を依頼する。


 アルは予定通りイオリのギルド登録手続きを行なう。


 先ずは職人ギルドからだ。

 アルはイオリを連れて職人ギルドの建物内に入る。

 此処ではギルドの職員に領主のサイン入りの書類に少々驚かれたがスムーズに手続

きが完了した。

 ランクは当然最下級のランクHからだ。


 問題は次の冒険者ギルドで起こった。

 登録手続きを済まそうとギルドの受付に向かっていたた所、アルとイオリの前に五人の

冒険者が立ちはだかる。


「なんでい! ガキ連れのドワーフかよ! こんな所にガキなんて連れてくるな!」


「冒険者は子供連れで出来るお遊びじゃないんだ! あんま俺達をなめんじゃねえぜ!」


「仕事のジャマだ! 冷やかしなら他所に行け!」


「ようよう! 此処は託児所じゃねえんだ! とっとと家に帰んな!」


「ガキは家でママのオッパイでもシャブッてな!」


 昼間から酒を煽り呑んだくれた人族の冒険者達。

 アルが以前来た時には居なかった連中だ。

 たまたますれ違いになって会わなかっただけか、最近この街にやって来たと言う所だろう。

 アルはイオリに無視するよう小声で囁き、冒険者達を避けて受付に向かう。

 だが、またしても先回りしてアル達の進路を妨げる冒険者達。


 アルは眉間に皺を寄せ、ギルド職員にこの冒険者達を注意するよう視線で訴える。

 それに気づいた職員がアル達に絡んでいた冒険者達に厳重注意を与える。

 此処で漸く酔っ払った冒険者達はブツクサと文句を言いながらアル達から離れる。


「申し訳ありません……。彼等はつい最近この街にやって来た流れの冒険者で誰かれ構

わず絡んでギルドでも困っているんです。ですが別段大きな違反行為をした訳では無い

ので注意する位しか出来ないのです……」


「まあ、いいさ。此方は用事さえ済ませればいいんだからな」


「それで当ギルドにどのような御用でしょうか?」


「コイツの登録手続きをしたいんだ。必要な書類は持って来ている」


 アルはイオリを指さしながら書類をギルドの職員に渡す。


「確認させていただきま……! 此れはっ! 領主様直筆のサインと印章! しかも、狩

猟採取許可証の保有者なんて!?」


 ギルド職員は目を見開き驚愕し思わず大声を上げる。

 その声に周りの冒険者達は(にわか)に騒ぎ出す。

 ギルド職員は記入に間違いがないか目を皿のようにして確認する。


「すみません! 狩猟採取許可証はお持ちでしょうか?」


 イオリは首に掛けていた金色の小さなプレートを取り出しギルド職員に渡す。


「しょ、少々お待ち下さい。ただいま確認を取らせて頂きます!」


 ギルド職員は奥に引込み、それから暫くして上司らしき人物と一緒にやって来た。


「念の為、この書類と狩猟採取許可証を確認させて頂きましたが本物である事が確認出

来ました。ですので当冒険者ギルドではイオリ様をランクA級より登録させて頂きます」


 更に周りの冒険者達が騒ぎ出す。


「あのガキがA級だって! なんかの間違いだろう!」


「しかも狩猟採取許可証も持ってるらしいじゃねえか! し、信じられねぇ! 俺、夢でも

見てんのか?」


「狩猟採取許可証の保有者を示す王印が押されてあるなら書類の偽造は出来ねえだろ

う! 一体あのガキ何もんだあ!」


 などと、そこかしこで騒ぎ出す冒険者達。

 不味い!とにかく大騒ぎになる前に冒険者ギルドを出よう!アルは顔や態度こそ平常だ

が内心ドキドキものである


「問題無いならもういいだろう? 登録証を渡してくれねぇか?」


「は、はい! 此方に! ではこの登録証の円の部分に親指を押して下さい。それでその

登録証はイオリ様の物です。狩狩猟採取許可証と一緒に大事に保管して下さいね。紛失

や破損した場合は再発行に銀貨一枚(一万円)を支払って頂きます」


 ギルド職員の説明を聞き終えたと同時にアルとイオリは足早に冒険者ギルドを出て行

く。

 後にはその場に残された冒険者達が騒然としていた。


 その騒動の中で五人の冒険者だけはアルとイオリの後を付けてギルドから出て行った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 アル達は樹海に入り、魔神タイランの居城を目指す。


 その途中でアルとイオルはイオリに樹海で出会う魔獣や魔物の特徴や気をつけるべき

事、戦闘方法や倒し方を解説しながら樹海を進む。


 すると、後方を歩いていたハボアがアルに耳打ちしてきた。


「父さん、誰かに付けられてる。数は五。」


「わかってる。冒険者ギルドを出てから後を付けられてる。多分、ギルドで俺達に絡んでき

た奴らだ。大方、嫌がらせでもしようと考えてんだろう」


「襲って来たら?」


「返り討ちにする!」


 当然!と言う感じでその選択を口にする。


 五人組の冒険達の目的は報復だけでなく、イオリの持っている狩猟採取許可証も狙って

いた。

 狩猟採取許可証を奪って自分達が使えば希少性の高い物を狩猟採取して大儲けが出

来る!と考えたのだ。

 イオリから奪っても、その事を冒険者ギルドに報告されたら一発でバレるのだが、五人

の冒険者達はイオリが恥をかいてまでギルドに報告はすまいと高を括っていた。


 本来、彼等には別の目的が在った。


 魔神タイランの居城に隠されていると言う財宝だ。

 魔神タイランは魔道具研究で有名でかなり貴重な素材や財宝を貯め込んで入ると当時

もっぱらの噂だった。

 勇者イオルが魔神タイランと相打ちとなりその後、城から派遣された騎士や兵士達が魔

神の城を調べ尽くしたが結局、未だ見つかっていないという話だ。


 財宝の噂話を聞き付けてやって来たが当然、オツムの弱い冒険者達では未だ発見出

来ずにいた。

 その鬱憤を晴らす為の言わば八つ当たり行為でもあった。


 イオルの提案で途中茂みで覆われた場所で《何処でも工房》を使い冒険者達を遣り過

ごす。

 イオルの経験上、この手の手合いと一度でも関わるとしつこく付き纏われ損するだけで

ある。

 ならば初めから関わらなければ良いだけだ。

 そうして一日のんびりして冒険者達を遣り過ごした次の日、早朝再び魔神タイランの居

城に向けて出発した。


 


――魔神タイランの居城――


「いや~、懐かしいですねぇ。あれから随分年月が立っているのに此処はあまり変わって

いませんね~」


「次いでに言うと魔神タイランの白骨死体もそのままだ」


「何故、そのままにしておくのですか?」


「其れは奴の体自体が城の結界維持に必要な鍵になっていて、此処を利用する冒険者

達には必要だからだ」


「死んでも報われないですね~」


「まあ、何千人も人体実験で犠牲にしたんだ。此れ位の償いしてもバチは当たらんだろう

と言う事らしい」


 アル、イオル、イオリ、ハボアの順で城の大門を潜り抜け中へと入って行く。


「一応念の為に誰かいないか調べておくか」


 アルはバックパックの中から地図型魔道具を出して城内を調べる。

 すると地図型魔道具に五つの人族の反応があった。


「げっ! 彼奴等、この中に居やがる!」


 凄く嫌そうな顔で思わず叫んでしまうアル。


「彼奴等って、あの冒険者?」


 首を傾げて尋ねるイオリ。


「其れ以外に誰がいる!」


 イオリの問いに怒鳴りながら答えるアル。

 その答えにイオリは少し考えて、


「僕が行って脅かして来るね!」


「いってらっしゃい、イオリ」


 ちょっと其処までコンビニに買い物に行く感覚でイオリを送り出すイオル。


「おっ、おい、イオリどうするつもりだ?」


「ひ・み・つ!」


 イオりは誰も見えない死角で口角を釣り上げニッと笑い、アルにそう答えると五人の冒

険者達に居る場所を聞き、其処へと向かう。

 イオリが冒険者達の居る所へ向かってから暫くして突然、城中に響き渡る悲鳴が聞こえ

てきた。


「ギャアァァァーーーーーーーーッ!」


「ヒッ、ヒィーーーーーーッ!」


「でっ、出たーーーーーーっ!」


「お助けーーーーーーーーーーっ!」


「待ってくれーーー俺を置いてかないでくれよぉーーーーーーーー!」


 すると大扉の前で待っていたアル達の所へ、ギルドでアルとイオリに絡んで来た冒険者

達が何かから逃げるように走って来て、此方に脇目も振らず大扉から外に飛び出した。


「イオリの奴、何したんだ……」


 ハボアの呟きと共に冒険者の出て行った大扉を呆然とただ黙って見詰めるアルとハボ

ア。


 ちなみに、五人組の冒険者達はこの城には魔神タイランとそのタイランに殺された亡霊

が出ると言う噂をケサラの街で言いふらした。


 その後、冒険者達は何処へともなく姿を消し、ケサラの街で二度と見かける事は無かっ

た……。


小説を読んで頂き有難うございます。

 次の更新は土曜日を予定しています。


 ✼第一章は二十話迄予定しております。

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