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ブレイブエンブレム ~僕、勇者なんて出来ません!~  作者: 真田 貴弘
第一章 偶然か必然か
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第十六話 領主ガウルン伯爵の怒り

――領主街ガウルン 領主の館 執務室――


 この一帯の領を治めるゼノべ=ガウルン伯爵は憤っていた。

 何故か?

 其れはつい先日、出現した勇者の子供――ファイについてだ。

 勇者出現の報を派遣から戻ってきた領主軍の隊長より受けたゼノベ伯爵は直ぐ様、

ファイとその父親であるベルン村の村長、ガルフォードを先ずはこの領主街ガウルンに召

喚した。


 其処で謁見に応じたファイは一言で言うと生意気だった。

 いや、そんな生易しいものでは無い。

 自分に対して一応敬うような素振りを見せてはいたが傍若無人でまるで世界は自分を

中心に回っているような性格の持ち主であった。


 しかも事前に礼儀作法や言葉使いについての注意をしておいたにも関わらず現王の

グローリア王や大臣達、他の王侯貴族達や他国の客人である大使や勇者に対してもそ

の態度は変わらなかった。

 子供だからと言って見逃せる範疇を超えていたファイの態度は目に余るものがあった。

 常ならばそんな子供は親と一緒に牢屋送りにして首をはねられても文句は言えない。


 しかし、相手は子供とはいえ曲がりなりにも勇者。

 そんな事は出来はしない。

 現王は温厚な方だからファイのそのような振る舞いにも目をつぶって庇われていたが他

の王侯貴族や他国の勇者たちは良い顔はしなかった。

 

「何だあの勇者の小僧は! 自分や目上の人間を敬わ無い所か王に対してもあのような

振る舞いをするとは許せん! 最早、平民であるとか貴族であると言う以前の問題だぞ!


「旦那様、落ち着き下さい」


 ゼノべの老年の執事であるパウエルは主人であるゼノベを宥める。

 幼少のみぎりより仕えていたパウエルですらこのような怒りを露わにするゼノベを目にす

るのは初めてである。

 表面は落ち着き払っているが内心ではかなり驚いていた。


「これが落ち着いていられるか! 勇者の小僧だけならまだしもあの小僧の親は何だ!

人の事を我が子と共に舐め腐りよって! 今思い出しても(はらわた)が煮えくり返るわ!!」


 ゼノベ伯爵は階級意識が強い方ではない。

 むしろ貴族と平等に民草を大切にして敬っている。

 王に次ぐ温厚な性格の持ち主である事を周囲の者にも認知されていた。

 民有ればこその貴族、そして国なのだからと常日頃から思想している人物なのだ。

 そんな人物を怒らせるファイとガルフォードも相当なものである。

 ()く言うパウエルも勇者親子の事は快く思っていない。

 何せ自分の自慢の主をバカにされたのだから。


 主の心を落ち着かせる為、パウエルはハーブティーを主専用のティーカップに淹れる。

 其れをゼノベが執務室の椅子に座り荒い息使いを落ち着かせながらティーカップに注が

れたハーブティーを飲む。

 

「其れに気になることも在る。他国の勇者方の反応だ。どなたもファイのステータス測定器

でステータスレベルを見て勇者である事に疑問を持っておられた。……まあ、胸にブレイ

ブエンブレムが刻まれているのだ。勇者であるのは疑いようも無い事実なのだがな。

だが――その方達が言うには能力が異様に低い感じがすると皆、声を揃えて仰られて

いた。少し調べてみる必要があるな。パウエル、ファイを発見した第三中隊長のロウルを

呼んでくれ」


 パウエルは直ちに領主軍に連絡し、ロウルを領主の御前に召喚した。


「ロウルよ聞きたい事がある。ベルン村で発見された勇者の事についてだ。もう少し詳しく

話して欲しい。もし、何か隠し立てしている事があるのなら全てを包み隠さず話せ。でない

とお主の為にならんぞ?」


 ロウルは眼光鋭く自分を見つめる領主に全身から汗を吹き出させた。

 実はロウル、ブレイブエンブレムの珠紋の事やイオリがその持ち主である事、勇者イオ

ルの生存の事をゼノベに一切報告していない。

 ロウル自身こんな世迷い言を報告して領主であるゼノベが真に受けるとは思っていなか

ったからである。

 長い沈黙の後、ロウルは観念して自分が知る全ての情報をゼノベ伯爵に話した。


「何だと! どうして其れを先に報告せなんだのだ! 愚か者!」


 ゼノベは思わず椅子から腰を浮かせロウルを怒鳴りつける。

 ロウルはゼノベの叱責でその身を萎縮させる。


「も、申し訳ありません。その、妄言と取られかねない話でしたので御身のお耳に入れる

を憚られたのです……」


「つまり本来はその人喰いを退治したイオリなる少年がブレイブエンブレムの持ち主。つま

りは本物の勇者で、あのファイという小僧は本来の勇者ではなくその少年から勇者の力を

奪い取ったと言う訳だな。しかもその少年、イオリは死んだと思われていた勇者イオル様

の孫で今は別の地にて生きていて今も健在であると、イオル様の御友人であるアルノート

殿が話してくれた。そういう事だな。」


 ゼノベはロウルが報告した内容を掻い摘んで話し、ロウルに確認を取る。


「は、はい、その通りです」


「全くあのファイとか言う小僧、ややこしい事をしでかしてくれたものだ。あの小僧が勇者で

ある事は最早覆せん。ならば事実を隠蔽する他あるまい。ただでさえイオル様が魔神と相

打ちなされた時、当時の王のイオル様に対する扱いについて周辺各国から抗議や圧力が

有り、退位を迫られた程なのだ。この上、勇者の力を奪い取った者が勇者になった事を知

られれば我が国は立場が無い」


「もしや、関係者を暗殺……」


 などと不用意な発言をしたロウルはまたまたゼノべに叱責される。


「馬鹿者! そんな事をすれば余計に事態がややこしくなるわ! 其ればかりか事情を知

ったイオル様にこの国を滅ぼされるぞ!」


「思慮の足りない発言でした! お許し下さい!」


「まあ、良い。そのイオリという少年は魔道具作りにしか興味が無いという話、ならその

方面で融通してやれば良い。さすれば此方の要求にも答えてくれよう」


「旦那様、具体的には?」


「冒険者ギルドと職人ギルドへの即時加入、後は狩猟採取許可証だな。魔道具職人なら

喉から手が出るほどに欲っする立場と権利だ」


 冒険者ギルドで素材の入手を行い、職人ギルドで作製した道具、魔道具類の特許を得

たりして販売する。

 特に駆け出しの職人は金が無いので冒険者となって自ら金策や素材の入手に赴かね

ば生活出来無い。


 冒険者ギルドへの加入条件は満十五歳以上の成人である事。

 職人ギルドへの登録条件は満十五歳以上の成人である事と一定以上の技術を持つ事

を証明する為の試験に合格する事である。

 ただし、男爵以上の貴族の後見人が居ればその貴族のサイン入りの書類が有れば未

成年で試験を受けなくてもギルド登録が可能である。


 狩猟採取許可証は通常、希少な魔獣や魔物の狩猟、薬草や鉱物採取が国への事前

の許可申請が無くとも行なう事が出来るもので冒険者ギルド加盟国であればこの許可

証が通用する。

 勿論、狩猟や採集には限度というものがちゃんとある。

 ただし、狩猟採取許可証は国王直々にその人物の性格や技量を審査し、合格した者に

のみ与えられる許可証である。


「冒険者ギルドと職人ギルドへの加入は問題無いとして、狩猟採取許可証は王の御許可

を頂かなければならないのでは? 旦那様」


「問題ない。既に王より人喰い討伐の褒美として与えられる予定となっておる。たた問題

はどのようにしてそれらを使って説得するかだが……」


 其処でロウルが提案する。


「ならばその役目、我が隊の副隊長ネージュ=ブランシュに任せれば良いと思います」


「何故だ? ロウル」


 首を傾げるゼノベ。


「イオリという少年は副隊長のネージュに懐いております。なれば彼の者が適任かと……


「そうか! ならばその者に任せる。手続きに必要な書類を準備出来しだいそれらを携え、

ベルン村に直ぐに向かいイオリ少年の説得に赴くよう命ずる。ただし、この件は内密にな」


「はっ! 承知つかまつりました!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 第三中隊の副隊長ネージュは馬を駆り、ベルン村に向かっていた。

 目的は三つ。

 まず一つがイオリが真の勇者である事を口外しないよう説得する事。

 だが、ネージュは今回の任務、あまり気が進まなかった。

 自分達の都合をイオリに無理矢理に押し付ける事が彼女にはどうしても納得できなか

った。


 しかも、人喰いを倒した件も勇者ファイの偉業とする事が王室と大臣たちにより内々で

決定された。

 いわゆる泊付けと言うものである。

 後は目撃者である第三中隊の生き残りに緘口令(かんこうれい)を引き、ベルン村の村人に

口止めする事だ。

 ネージュは不満は大いに在ったが軍人としての命令なので受け入れざるおえない。

 しかし、ベルン村の村人達が口を噤んでくれるかはわからない。

 溜息を吐きながらネージュは馬をベルン村に走らせた。


 村に着き急いでアルノートの家に向かいイオリ達に事情を説明する。


「いいよ!」


 イオリの意外な程あっさりした答えに一瞬呆気に取られるネージュ。

 直ぐに正気を取り戻したネージュはイオリに理由を問うた。


「だって、勇者なんて面倒な事、僕したく無いよ。其れよりも魔道具作りをしていた方がず

っと楽しいし」


 と、ネージュの目から見て本心からイオリがそう思っていると知って安堵するネージュ。


「あ、でもネージュさんが時々この村に遊びに来てくれたら嬉しなー」


 ネージュはイオリに微笑んで、


「いいわよ。でも、今度は覗き見しちゃダメよ!」


 と笑いながら釘を刺す。


「ち、違うよ! あれはその…あの…」


 イオリはネージュの言葉に言い淀む。

 アル達はそんな二人の会話に何の事だかと首を傾げる。


 ネージュは一つの問題が片付いたので別件をアルに相談する。

 すなわち村人に対する口止めともう一つ、このベルン村を開拓し街と呼べる規模にまで

拡張する為にイオルが指導者になって貰えないかと言う事だ。


「何だって! どうしてこの村を開拓するのにイオルを指導者に何て話が出てくるんだ!

そもそも何でこの村を開拓する必要がある!」


 ネージュは困り顔でこの地方に取り巻く問題点をアルに話して聞かせる。


「この一帯は前回、そして今回と人喰いの被害が甚大で経済的にも大きな損失を被って

います。其処で御領主様はこの領の経済を立て直す為、街道の要所に在るこの村を開

拓する事で経済を活性化させこの付近の資源、魔獣や魔物の素材、鉱物資源、海産物

資源を陸路や海路を使った交易で得られる資金で経済復興させるおつもりなのです」


「だからって何でイオルに……」


「其れはベルン村の村長と直接お会いになって今の村長では役不足と判断されたからで

す。本来はアルノートさん、貴方にお任せしたかったらしいのですが何やら問題が在ると

かでイオル様にお任せ出来ないか相談しに来たのです」


「確かにあのガルフォードじゃあ無理だし、俺も色々と事情があって無理だ……。仕方が

ない。直接本人に相談しに行こう。付いてきてくれ」


「直接イオル様にお会いする事が出来るんですか!?」


 ネージュは意外な展開に目を見開き驚愕した顔で思わず大声で叫んでアルに問うた。


「ああ、出来る。ただし、俺達の作った魔道具を使わないと行けない場所だがな」


 アルはネージュを外にでるよう促す。


「師匠。 僕も付いて行ってもいい?」


「うん? そうだな、別に構わんだろう」


「じゃあ、一緒に付いて行くね!」


 アル、イオリ、ネージュの三人は外に出て異世界転移魔道具を起動し、地球世界に転

移した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




――地球世界 久那技家――


「ふむ、そうですか」


 ネージュの話を聞き終え思考を巡らせるイオル。

 固唾を呑んで其れを見守るネージュ。


「良いでしょう。 引き受けましょう」


 軽く答えたイオル。


「宜しいのですか!?」


 またしても意外な答えに驚くネージュ。


「私も働いてお金を稼がねば餓死してしまいますからね。それに一度、開拓と言うものをや

ってみたかったんですよねぇ」


「引き受けて下さり有り難うございます!」


「ただし、一つだけ条件があります」


 ネージュはイオルの返答に緩んでいた気を引き締める。

 どんな無理難題を押し付けてくるか警戒する。


「大した事ではありません。私の事は内密にして頂きたい。特に前々王には」


「しかし、恐らく現王には知らせるとは思いますが……」


「話しに聞く所によると現王は温厚で情に厚いお方だと聞きます。その方ならば良いでし

ょう。ですが、前々王はいけません。あの方には私は怨みや憎悪、嫌悪と言った負の感

情しか持っていません。あの方にだけは知られたく無いのです。知られたら私、前々王を

サクッと殺ちゃいますよ?」


 イオルの瞳に宿る黒い炎のような情念を垣間見たネージュは震え上がる。

 壊れた首振り人形のようにブンブンと首を縦に振り、


「しょ、承知しました。領主様には今のイオル様の御言葉、必ずお伝えいたします!」


 そう言葉を紡ぎ出すだけで精一杯だった。


「所でネージュさんと言いましたか?」


 突然、自分に話が振られ動揺するネージュ。


「な、何でしょう。イオル様?」


「イオリとはどこまでいったんですか?」


「はい?」


 突然意味不明な事を言われ困惑するネージュ。


「もうイオリとは男女の中になったのかと聞いているんです」


「なあーーー!? 何をおしゃっているんですか! イオル様! イオリ君、まだ十歳じゃ

ないですか!」


「言えね、イオリの貴方への懐きよう、まるでそういう感じがするんですよ」


「ちがっ、ちがっ、ちがっ!」


 人目も憚らず動揺しまくるネージュ。

 最早、否定しようにも、この動揺が逆に肯定しているような感じを生む。


「私としては少ーーーしだけ早いという気はしますが、まあ、お互い愛し合っているのでし

たら反対はしません。『姉さん女房は金のわらじを履いてでも探せ』と言う言葉もありま

すからね。あ、所で式は何時上げるんです? 早く曾孫を見てみたいですねぇ」


「違う! 違います! 人の話を聞いて! ねっ! お願いだから聞いて下さい! イオル

様!」


 イオルのマシンガントークに翻弄されるネージュであった。


 ちなみに村人達への口止めの件はガルフォード一家が村長を辞任して王都に行くと言

う事で村人全員が喜び、皆承知してくれた。


 この小説を読んで頂て有り難うございます。

 次の更新は水曜日の予定です。


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