第十五話 何処でも工房
人喰い騒動が落ち着いたら今度は勇者の降臨騒ぎ。
村長のガルフォードは自分の息子が勇者になったと大喜び。
王都に召喚されたファイに付き添いで一緒に付いて行く。
王都に向かう前、村長ガルフォードがアルに無理やり遣り命令されて測定したファイの
ステータスレベルは、
名前 ファイ
年齢 十歳
生命力 G(Max A)
魔力 G(Max A)
能力総合評価 G(Max A)
スキル
武器使い S(Max S) 格闘術 H(Max A) 能力値上昇 G(Max A)
珠紋術 H(Max A)
称号
身勝手な村長の息子 聞かん坊 我儘勇者
アルにしてみれば、実際勇者のイオルやイオリのステータスレベルに比べれば雲泥の
差。
限界能力も一つを除いて全てA。
一応、一流のレベルであるが、それでも常人の行きを出ていない。
歴代勇者の中でもワーストワンに入るだろう。
まあ、何も知らないガルフォードとファイは限界能力の高さに大喜びなのだが……。
スキル《レアアイテムゲッター L(Max L)》が《武器使い S(Max S)》に変化した。
スキル《レアアイテムゲッター》はその名の通り貴重なアイテムを採取する能力である。
ガルフォードとファイは称号の部分を見てステータス測定器を壊そうとしたがアルの必死
の抵抗と『壊したら弁償だからな!』の一言で諦めた。
ステータス測定器はとても高価なのだ。
ちなみにイオリの現在のステータスレベルは、
名前 久那技 伊織
年齢 十歳
生命力 C(Max L【測定不能】)
魔力 A(Max L【測定不能】)
能力総合評価 C(Max L【測定不能】)
スキル
剣術 B(Max L【測定不能】) 道具作製 B(Max A)
魔道具作製 B(Max L【測定不能】) 魔道具使い D(Max L【測定不能】)
珠紋作製 L(Max L【測定不能】) 珠紋術 L(Max L【測定不能】)
称号
異世界転移者 勇者の孫 勇者の証を捨てし者 限界を超えし者 アルノートの弟子 人喰い殺し
アルはイオルにイオリが珠紋をファイに譲渡した事を話に異世界転移の魔道具でイオル
に会いに行った。
「そうですか……。ブレイブエンブレムを手放しましたか。なら、イオリは勇者の呪縛から
開放されたのですね。良かった……」
「イオリの力ならお前のブレイブエンブレムも取り除けるんじゃないのか?」
イオルは頭を振った。
「私もそう思って一度試してみたのですがダメでした。イオリが言うには『草木が大地に
複雑に根を伸ばして根付いてる』と言う感じらしいのです。おそらく長年ブレイブエンブ
レムの力を行使し続けた結果、体に完全に定着したのでしょう。例えL級の今のイオリ
でも相当難しいはずです。」
「確かイオリも『ブレイブエンブレムの珠紋を解析したら余りにも複雑な構造だった』といっ
ていたな……」
「それにイオリのブレイブエンブレムの珠紋を飲み込んで勇者になったファイのステータス
レベルやスキルレベルの限界値はお前やイオリに比べて低かったぞ。何故だ?」
「其れはファイと言う少年が生まれながらの勇者で無いからでしょう。ブレイブエンブレム
の力で無理やり力を引き出して何とか一流レベルの能力まで持っていけたのでしょうが、
後で反動が来ないか心配ですね。まあ、そうなればその少年の自業自得でもありますか
ら無用な心配ですね」
「そうなんだがな。 イオリの場合はファイの持っていた虹皇石に目が眩んだ部分がある
からなあ」
アルは困った様な顔をしてイオリの行動を非難する。
「ハハ、イオリらしいですね。所でイオリは本気で《リバイヴスタッフ》を再現するつもり何で
しょうか? 私にはとても可能とは思えません。」
「そうでも無いだろう? 貴重な素材だが一応、現実に存在している。 後はシモン教の
古文書に記された資料を調べる事が出来ればイオリなら可能だろう」
「!? イオリは其処までの能力を持っているのですか!」
「何せL級だからな。成長も異様に早い。師匠としては優秀な弟子は誇らしいが、一人の
職人としては嫉妬しちまうよ。」
「アルに其処まで言わせるとは……。私の想像以上です。イオリの能力は。」
「それでお前、いつ此方に帰ってくるんだ? イオリも首を長くして待っているぞ」
「用事は済んだのですが、如何せん此処に長く住んでる分、柵も多くて……。もう暫く
掛かりそうです」
イオルは苦笑しながら答える。
「そうか……。待ってるぞ、イオル」
「はい、アル」
その後二人はお茶を啜りながら歓談する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
イオリは悩んでいた。
工房が狭い!
自分専用の工房が欲しい!
でも、場所がない。
外に別棟を建てようにも金が掛かる。
そもそもイオリは金など持っていない。
どうしたものかと逡巡しているとある一つの考えが思いつく。
異世界転移の刻印珠紋の技術を応用して作れないか?
魔神タイランが作り出した異世界転移の刻印珠紋。
その空間操作の技術を応用すればもしかして作れるのではないか?
イオリは早速、作業に取り掛かる。
先ずは空間操作の刻印珠紋の作製。
此れにはさすがに難渋した。
なかなか思うようにいかない。
出来たと思えば、中の空間が歪んで安定しない。
空間をどうやって安定させればいいか?
またまた難問に悩むイオリ。
「どうすれば空間が安定するんだよ~!」
工房内で絶叫しても発想が出てこない。
気晴らしに外へと散歩に出かけるイオリ。
村の中を通りかかると村の大工の熊獣人、ベアードが家畜小屋を立ててる最中だった。
「こんにちは、ベアードさんお仕事ですか?」
「おう、イオリ! この家の家畜小屋が古くなったんで立て直して欲しいって頼まれてな!
それにしてもイオリ、この間は大活躍だったな! 何でも人喰いを一人で三匹全部仕留め
たんだって? イオリ達が居ればこの村は安泰だな!」
イオリは苦笑いしながらベアードと話す。
「でも、ファイが勇者になったからファイにこのベルン村を守ってもらえるんじゃないの?」
「バカコクでねぇ! 勇者になったらこの国全体を守らなきゃいけなくなる! この村だけを
優先して守って貰えるわけでねぇ! それに勇者があのファイだぞ! ファイが何の見返り
もなくこの村を守るなんて考えられねぇ!」
ファイへの信用はゼロを通り越して最早マイナス街道一直線であった。
ふと、イオリはベアードが小屋を建てているのを見て何か思いついたらしく、ベアードに
建物を建てる際に必要な事を尋ねた。
「建てもんを建てるのに必要な事? そりゃあまず、頑丈な土台を作る事からだな。土台
がしっかりしてねぇと建物が脆くなって崩れちまう。そんでもって土台に柱を立ててその柱
が倒れねえように梁で繋ぐ。後は壁や屋根、扉や窓を貼り付けて作るだけだ」
凄くざっくりした説明ではあるがイオリにとっては此れだけで十分ヒントとなった。
「ありがとう! ベアードさん!」
イオリは直ぐさま家まで走って帰宅した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
早速工房に篭もり作業に入るイオリ。
「刻印珠紋の作り方がそもそも間違えてたんだ!」
イオリは空間操作の珠紋を作る時、常に空間を操作する術式を珠紋に刻んでいた。
此れが間違いの基である。
常に空間を操作するという事は空間が変化し続けるという事だ。
此れでは中の空間が歪んでいて当たり前である。
「まずは空間を固定する為の土台を作る」
部屋数は三部屋。
一つ目は作業工房、二つ目は素材置場の倉庫、三つ目はプライベートルーム。
プライベイトルームを作ったのはハボアと部屋を共有している為、自分専用の部屋が欲
しかったからだ。
プライベートルームにはバス、トイレ、キッチンを念の為、備え付けていた。
此れは何れ自分も冒険者として素材を集める旅に出るのを予想しての事だ。
「次に骨組みである柱を建て、梁を繋げるて空間を仮止めする。最後に壁を貼り付け完全
に空間を固定して、出入口の扉を付ける」
ただ、問題なのはこの刻印珠紋を第三者に悪用される可能性が有る事だ。
其処でイオリはセキュリティー対策としてドアノブ型の魔道具を作る。
このドアノブ型の魔道具と空間操作の刻印珠紋をセットにして魔道具に登録した人物だ
けが視認、扉の開閉が出来るようにした。
逆に言えば津録していない人物はこの魔道具使用中は扉の開閉どころか視認すら出来
ない。
早速、魔道具に自分を登録して使ってみる。
「うん! 空間が安定して部屋もちゃんと作れてる! この魔道具を《何処でも工房》と名
付けよう!」
突っ込みどころ満載の名前を付けた魔道具《何処でも工房》から満足して出てきた時、
其処へ丁度アルが工房の中に入ってきた。
「イオリ居たのか。……何だ、その満足そうな遣りきった感じの顔は。また何か作ったの
か?」
「うん! 実は……」
イオリはアルに魔道具《何処でも工房》の事を話した。
半信半疑のアルはイオリに魔道具《何処でも工房》を見せてもらう。
「……またとんでもない物を作ったなあ。ん? 待てよコイツはひょっとしてアレを回収する
のに使えるなあ……」
アルはイオリに魔神タイランの居城にある財宝の事を話し協力を取り付けた。
この小説を読んで頂て有り難うございます。
次の更新は土曜の予定です。
8/12 称号に《人喰い殺し》を追加しました。