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ブレイブエンブレム ~僕、勇者なんて出来ません!~  作者: 真田 貴弘
第一章 偶然か必然か
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第十一話 人喰い

小説を書いていた最中、分厚い雑誌が倒れてきてキーボードがぶっ壊れました。

 今週、色々お金が入用だったのにさらなる追い打ち……。

 勘弁してよ、神様~。

 イオリがベルン村で過ごすようになって四カ月たった頃だ。

 ある日、大工道具をよく注文に来る大工の熊獣人ベアードが、アルの家にやって来た。

 普段の温厚な様子からは想像できない慌てぶりだ。

 コップ一杯の水を差し出したルビアの手からひったくるように受け取り水を一気飲みした。

 全身身震いさせながら怯えるような瞳でアル達に向かって言った。


「で、出た! 出たんだ! 人喰いが!」


 ベアードのその一言でイオリ以外、その場にいる全員に一気に緊張が走る。


「間違いないのか?」


 アルが念押しの確認をする。


「あ、ああ。 三つ隣のフロッグ村が数人の子供を残して全滅したのをいつもの行き付け

の行商人が発見したんだ! その子たちの証言で二匹の猿獣が目撃されている。しか

も、その内の一体はデカさが家一家分(十m位)あるらしい……。今、領主軍の兵士やギ

ルドの冒険者を総動員して探索を行っているそうだ」


 イオリは何の事を話しているのか気になり隣にいるルビアの袖を引っ張って聞いてみ

た。

 人喰いとは人の味を占めた猿の魔獣の事で体長は三メートル以上だと言う。

 猿の魔獣は大抵、単独か数匹で行動し、本来は大人しい魔獣なのだが、何らかの理

由で一度人肉を食らうと人を餌として認識し、凶暴化して積極的に人を襲って食らい、魔

獣の中でも知能は飛び抜けて高く、ヘタするとS級のドラゴンに匹敵する強敵であるらし

い。


 過去、その猿獣の被害で村や町、合わせて十数件の壊滅的な被害を受け、中には

廃村となった村も少なくないという。


「とっ、とにかくだ! 村の男衆は皆、此れから集会場に集まり村長と今後の対策を話し

合うからアルノートとハボアは必ず来てくれ! なんせこの村にとって貴重な戦力だから

な!」


 アルはS級、ハボアはA級冒険者だ。

 戦力としても十分な実力を兼ね備えている。

 皆から当てにされるのも当然だ。


「分かった。ルビアとイオリは家からでるな。明かりもなるべく使うな。ハボア、集会場に

行くぞ」


 アルとハボアはベアードと共に村の集会場に出かける。

 ルビアはイオリは人喰いの対策が決まるまでアル達を家で大人しく待つ事になった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




――村の集会場――


  集会場での会議は紛糾した。

 其れというのも村長やその取り巻き達が他の村人、特に獣人や妖精族に対して危険

な役割を多く振り分けたからだ。


「村長! 我々に死ねと言っているようなもんだぞ!」


「そうだ村長! もっと我々の負担を減らしてくれ! 此れじゃあ不公平だ!」


「それに、年端もいかない子供も動員するとはどういう事だ! 人喰いの生贄にでもする

つもりか!」


 三十代前半の年若い村長ガルフォードはそんな獣人族や妖精族の村人達を鬱陶しそう

に目を細め眉間に皺を寄せて睨んだ。


「お前達はそもそも人よりも頑丈に出来ている。そうそうう簡単には死にはしないだろう? 

此れはガキにも言える事だ! だから其れに合わせて俺が役割をふらせてもらった。嫌な

らこの村から出て行くんだな!」


 村長の取り巻き達は、下卑た笑いを顔に浮かべながら反論する獣人や妖精族の村人

達をまるで下等な生き物を見るような目で見下していた。


「だがな村長、あんたの理屈から言えば普通の人族の子供である内のイオリも含まれて

いるのは納得できん!」


 アルは村長達に威圧を込めた眼光で睨み返す。

 其れに対して村長達は怯みながらも反論する。


「お、お前の所のイオリってガキはお前の弟子で剣術の稽古もつけてるっていう話じゃね

えか! なら、頭数に入れるのは当然だろう! 其れに人喰いが必ずこの村に来るって

いうわけでもねぇ! 領主様も領主軍を一応、派遣してくれるらしいから其れまでの緊急

対応ってやつだ!」


「だからと言ってイオリをを戦力に加える事は出来ん! イオリはまだ戦闘経験の無い未

熟者だ! それにあの子は親友から預かった大事な子だ! もし、人喰いと遭遇でもした

ら一溜まりもなく殺られてしまう! 其れじゃあ親友に顔向け出来ん! 他の子供達も同

様、人喰いの犠牲になるわ! この事に関しては俺は反対させてもらう!」


 それでも村長は退かず、


「と、とにかく、此れは決定事項だ! 反対は許さん! いいな!」


 そそくさと村長達は集会場から出て行ってしまう。

 その後を追いかけ、何とか考え直すよう村長達を説得を試みようとする村人達だったが

結局、ガルフォードは聞き入れはしなかった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 夜遅く帰宅したアルとハボアはまだ起きていたルビアやイオリに集会場での村長が決

めた人喰い対策について話した。


「まあ! 何ですって! 子供達も参加させるですって!? しかも、内のイオリも加える

なんて、あの村長、頭がどうかしているわ!」


 実は、イオリの件に関してはファイがガルフォードに告げ口してファイがイオリに嫌がらせ

目的でしていたのだ。


「じゃあ、僕も参加するの?」


 アルは苦虫を噛み潰したような顔でイオリに首肯する。


「スマンな、イオリ。此れは本来、お前達がするような仕事じゃないんだがな……。領主軍

が駐留する話はあるが其れも何時になるかわからんらしい。冒険者を雇おうにも金がかか

るし、今、人喰いに対応してて駆け出しの冒険者位しか残って無いだろうからな……。ガル

フォードの奴め!」


 アルは忌々しそうにガルフォードの名前を吐き捨てる。


「でも、僕、どうすればいいかわかんないし、武器もいるよね? 今から作るの?」


 イオリが所持しているのは普段使っている鍛錬用の木剣のみで当然、実践で使用出

来る武器などではない。


「そうだなあ……、イオリは剣術に特化しているから剣がいいんだろうが、俺の手元には

今、適当な剣が無いからなあ。まあ、そうなるわな。何ならイオリ、自分で作ってみるか

?」


「えっ、いいの!?」


「と、言っても実践に耐えられないような代物なら俺が作るがな!」


「僕、作ってみたい!」


「わかった! じゃあ早速、作ってみるか!」


 だが其処にルビアが割って入る。


「ダメよ! もう夜も遅いわ。剣を作るなら明日にしなさい!」


 イオリとアルは顔を見合わせがっくりと肩を落とす。


 次の更新は土曜日の0時予定です。

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