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ブレイブエンブレム ~僕、勇者なんて出来ません!~  作者: 真田 貴弘
第一章 偶然か必然か
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第九話 再会

 異世界転移魔道具を起動させた途端、イオリ達の足元から薄い光の粒子が湧いてくる。

 其の光が急速にイオリ達を包み込み、一瞬、強烈な光が放たれ全員反射的に目を瞑

る。

 フラッシュにより瞼に焼き付いた光が消え去るのを感じながら、恐る恐る目を開ける。


 其処はイオリにとって馴染み深く、アル達にとっては初めて見る光景だった。

 目の前には独特の光沢を放つ瓦葺(かわらぶ)きの屋根に昔ながらの日本家屋が立っていた。

 周辺には其のような建物が三棟、計四棟が立っている。

 アル達はポカンと口を開け、其の建物や景色を我を忘れ眺める。


「やった! 此処、お祖父ちゃんの家だよ! 帰ってこれたんだ!」


 どうやらイオリ達が今いる場所はイオルの家の庭のようだ。

 と、其処へ二人の年若い男女が目の前の家から裸足で出てくる。


「イオリ!」


「イオリちゃん!」


 二人の男女はイオリに駆け寄るとイオリを抱きしめた。


「よかった! 本当によかった! 本当にイオリちゃんが生きていてくれて!!」


 女性は涙を流しながらイオリを愛しそうに抱きしめる。


「ほら、私が言った通りでしょう? イオリは無事だ! イオリは生きている! と」


 男性は興奮気味に(まく)し立てる。

 イオリはその二人を小さな腕で抱きしめ返す。


「お祖父ちゃん! お祖母ちゃん! 僕、帰ってきたよ! 帰ってこれたんだよ!!」


 三人はお互いがお互いに涙を流して再会を喜び合う。

 そんな三人を少し遠くから見守っていたアル達。

 感動の再開が落ち着いた所でアルが男性に話し掛ける。


「久しぶりだな、イオル。五十年ぶりか?」


「ええ、そうですね。もう、其れくらいになりますか……」


 イオリを抱きしめていた腕をそっと離し、アルに向き合う久那技(くなぎ) イオル。

 向かい合う二人はお互い懐かしげに目を細めて微笑する。


「積もる話もありますし、こんな所で立ち話も何ですから家の中に上ってください。あっ!

靴は玄関で脱いでくださいね。」


 イオルはアル達家族を家に招き入れる。

 そして、居間に案内してイオルの祖母、久那技 玉姫(クナギ タマキ)がアル達にお

茶を差し出し、皆が落ち着いた所でイオルが話を切り出した。


「私が魔神タイランに此の世界に跳ばされた時、此の国――日本は第二次世界大戦――

世界の国々を巻き込んだ二回目の大きな戦争が終わる末期でボロボロの状態でした。そ

んな危険な時期に私を拾い助けてくれたのが此処に居る妻の玉姫です」


 イオルは顔をタマキに向けて紹介する。

 礼儀正しく美しい正座をしていた玉姫はアル達に向かって一礼する。


「イオルの妻の久那技 玉姫と申します。アルノートさんの話はかねがね主人から伺って

おります。」


 イオルは話を続ける。


「終戦してからはタマキの家に婿養子に入って此の家の剣術道場の師範をしながら農業

を営み生活の糧をえていました。そして、元の世界に帰還する方法が無い為、勇者として

務めも無くなり、息子と孫に恵まれてのんびりとした日々を送っていた矢先の出来事で

す……」


 一時、無言になり沈痛な表情で言葉の続きを話す。


「息子の(れい)や零の嫁の(しずく)さん、そして孫のイオリが乗った飛行機―

―空飛ぶ乗り物が中国と言う他国の戦闘機――戦闘に特化した飛行機によって落とされ

たのです。しかも日本の領土、領空を侵犯して……。


その中国の戦闘機は此の国、日本の戦闘機に直ちに撃墜されました。その時の証拠映

像と脱出し助かった中国の戦闘機の操縦者の証言を世界中に公開し中国に責任を追求

したのですが、逆ギレし開き直って 日本に宣戦布告して攻めてきました。


が、中国は経済が破綻寸前、軍隊の兵力差は圧倒的に日本より上だったのですが練度

が低く少し戦闘すると直ぐに撤退、国民は政府に不満を持ち、国によって弾圧されていた

少数民族の一斉蜂起。其の上、中国と隣接していたロシアという国が中国国内の混乱に

乗じて侵攻して来る始末。


軍隊が反撃の為に起動させた大量破壊兵器は誤作動で次々誤爆、国内の都市の幾つ

かは二千年は草木一本生えない不毛の大地と成り果てました。


トドメは責任を取らされるのを恐れた政府、軍の首脳陣は揃って国外に逃亡。最後には中

国という国は分裂し此の地上から消え去りました……。


世界に多くの争いの火種を撒き散らして……。


そして、私達には絶望だけが残りました。

大事な家族を理不尽な仕打ちにより失うという出来事で……」


 室内は耳が痛くなる程の静寂。

 誰も何も言えない空気が場を支配した。

 だが、イオルは敢えて其の場の空気を切り裂き言葉を発した。


「だけど、奇跡が起こりました。私達には希望が残されていたのです。イオリという希望

が……。ありがとうございます、アル。イオリを助けてくれて。そして、私達の元に返してく

れて……」


 アルは照れながら、


「よせやい! イオリが助かったのはイオリ自身の運が良かっただけだ。俺はただイオリに

手を貸しただけだ」


「それでもです。それでもアルには心から感謝しています。本当にありがとう、アル……」


 イオルとタマキは再びアル達に頭を下げて一礼した。


 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 其の夜、アル達一家の歓迎とイオリの帰還を祝う為、ささやかな宴会が開かれた。


「それにしてもお前の嫁さん若く見えるなぁ。人族なんだろ? とても七十過ぎには見えね

えなぁ……」


 タマキの見た目の歳は二十前後に見える。

 イオリを連れていても、ヘタすると姉弟に見える程の若さだ。

 おそらくは寿命と若さを保つ秘訣の一つ、生命力と魔力が高い者との睦言を繰り返して

いるのではとアルは当たりを付けた。


「今でもラブラブですからね~」


「つまりはそういう事か、此の助平!」


「いや~、照れますね~」


「褒めとらんわ!」


 などとアルとイオルは二人で猥談に花を咲かせ、


「あらあら、此のお酒美味しいわ!」


「此のお酒は地酒で其の筋では有名な『龍神殺し』と言う銘酒なんですよ」


「まあまあ! そんな貴重なお酒をいただけるなんて、其れに此のお寿司?と言う食べ物

もとても美味しいわ!」


「そんなに喜んで頂けて嬉しいですわ」


「他にも手軽なお料理のレシピが有れば教えていただけます?」


「もちろんです!」


 ルビアとタマキは酒と料理の話で盛り上がっている。

 居間の隅ではハボアとイオリが、


「イ、イオリ! これは何ていう道具なんだ!」


「其れはテレビだよ、ハボ兄。遠くの映像と音を受信して再現して映し出しているんだ

よ!」


「ほっ! 他には無いのか!」


「ん~、ゲーム機やパソコン何かも有るけど……」


「見たい! 触りたい!」


「わかった! 持ってくるね!」


 珍ししい道具に夢中になるハボアと其の説明をするイオリ。

 そして、夜は更けていく……


 次の更新は土曜日になります。

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