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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 2 もう一人の来訪者 第四章 闇の公子

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5.源素の大渦(後)

「あいつらはたぶん、守護者(ガーディアン)だよ。だから、倒しちゃいけなかったんだ」


 それがユウトがたどり着いた結論。

 けれど、まったく理解されなかった。


「ユウト……。意味が分からない」


 ヴァルトルーデが頭を振って不満をアピールする。


「あれが守護者(ガーディアン)というのは、そもそもどういうことだ?」

「あの大渦自体の守護者なのか、それともこの先にあるはずの祭壇のなのか。それは分からないけど、外敵からの守護者さ」

「その両方ということも考えられるな。だが、その物言いでは論理が循環しているように思える」


 婚約者たちの潤いに欠けた会話に、横からアルサスが口を挟む。


「はっきりしない部分が多いのは、分かる」


 更に、エグザイルがいつもの低音で議論に参加する。


「だが、行く手を阻むのであれば、倒していいのではないか?」

「押し気味だったところ、相談も無しにぶった切ったのは悪かったよ」


 降参だと、ユウトは両手を挙げた。


「でも、色々考えた結果、倒さない方が利益になる。そう思ったんだよ」


 けれど、決して判断は誤りではなかったと。その点は譲らない。


「ユウトの判断に不満があるわけではない。だが、私やエグザイルにも分かるように、頼む」

「おやおや、新婚のエグ先生。ヴァルと一緒にされてますよ?」

「ヴァルが分かれば、オレも理解できるだろう。問題ない」

「揺るがないなー」


 そんなエグザイルとラーシアの掛け合いで、空気が少し緩んだ。


「まあ、いい。ちょっと休憩しよう」

「……そうね」


 手頃な石に腰掛けるユウトに、アルシアも同意する。

 彼女は、バラバラに座っていく仲間たちの様子を確かめながら治癒の呪文を使用していった。そうしながら、ユウトへ先を促す。


「あの三体の複合エレメンタルだけどさ、強すぎなかったか?」


 氷炎の大蛇、風の岩獅子、光と闇の巨人。

 相反する性質を合わせ持つ複合源素の精霊は、一筋縄ではいかない敵だった。


「確かに、難敵ではあったな」


 それでも、言外に勝てぬ相手ではなかったと匂わせつつ、アルサスがユウトの問いかけに同意する。


「そっかなー? 面倒だけど、強すぎってほどじゃなかったと思うけど」

「なんにもしてなかったのに、ラーシアは」

「したよ! 頑張って魔法の短杖(マジックワンド)を振ってたよ!」

「がんばって、あのていど?」

「ヨナが最近、ボクに冷たいんだけど!?」

「反抗期じゃないか?」

「それはともかく、オレもラーシアと同じ意見だ」


 不完全燃焼だっただろうに、そんな不満を見せずにエグザイルが言う。


「私も、そうだな。けれど、ユウトの基準は違うようだ」

「ああ」


 難しいことは分からないが、ユウトのことなら分かる。

 そう言っているのに等しいのだが、本人だけは気づいていない。エグザイルの治療に取りかかっているアルシアが、含み笑いを浮かべていることも。


「考えてみてほしい。あの源素の大渦と不死の怪物(アンデッド)の関係は不明だけど、ここは何代か前まで、王族が訪れていたんだぜ?」

「なるほど。言われてみれば、そうですね」


 真っ先に理解の色を浮かべたのは、アルシアだった。続けて、ヨナやラーシアも「そういうことか」と得心する。


「あのレベルのモンスター三体。それを相手に『強敵だったね』で済むのは、俺たちと殿下が一緒だったからだよ」

「……そうか」


 アルサスも、ユウトの言わんとするところに気付いた。


「歴代のロートシルト王も聖堂騎士であった。過去の王太子が仮に私より実力が上だったとしても、確かにイスタス伯たちに並ぶ仲間がいたとは思えない」

「だから、強すぎるか。……うん?」


 納得したとうなずきかけたヴァルトルーデだったが、すぐに次の疑問に行き当たる。


「待て、ユウト。それは倒してはいけない理由にならないぞ」

「そうだな。厄介な相手というのなら、消してしまえば禍根を断てる」


 エグザイルも同調する。


「一理ある」


 その意見を、ユウトはあっさりと認めた。

 ただし、全面的にではないが。


「だけど、祭壇に着く前の試練にしては厳しすぎる。それに、俺たちはあんな大歓迎を受けるような悪いことをしてるか?」

「ラーシアは悪の組織の首領」

「そうだな。ラーシアだけ、《次元扉ディメンション・ポータル》でさっきの部屋に戻そう」

「冗談だって分かってるけど、真顔は止めて!」


 それはともかく――と、ユウトは話を戻した。


「百年ぐらいここに来なかった間に妙に強くなったということも考えられるし、実は、元々あれくらいだったのかも知れない」


 証拠は何も無い。


「でも、今の状況には、過去の事例と異なる点があるはずだ」

不死の怪物(アンデッド)の発生だな」

「そう。その一因に、第三者の介入があることは分かっている」


 そう言ったユウトが見る先にはアルシアがいた。彼女もそれに気付いたのか、そっとうなずく。


「神託にあった内容よ。間違いはないわ」

「この地に、不死の怪物を操るような敵がいる。ならば、通常よりも強力な守護者が生まれても不思議じゃない」

「つまり、あの三体はその敵に反応した守護者だったのではないかと言うのだな?」

「そういうこと」


 ヴァルトルーデの確認を、ユウトは大げさな身振りで肯定した。


「短時間で再出現するんじゃないかぎり、あれが健在だったということはその敵は先行していない。だったら、残しておかないとな」

「そういうことなら、納得だ」

「邪魔だったら、帰りに倒していけば良いだけか」


 最初からなにも問題など無かったと、エグザイルが軽く腕を回す。


「単純でいいなー」

「敵がいるかもって分かってて、《ウォール・アイアン》を使わせた?」


 あの複合源素の獣たちと戦った後、更に鉄の壁を壊さなくては先に進めない。

 いやがらせに近いだろうが、効果は十分だ。


「ああ。俺たちみたいなショートカットをされちゃ困るからな」


 意地悪く笑うユウトへとことこと近づき、ヨナが表情を一切変えぬまま「よくできました」と頭をなでる。


「ものすごい、保護者目線」

「ヨナは、アルシア以外はみんな『自分が世話をしないと』と考えている節があるな」


 そんな心温まる光景を眺めながら、ヴァルトルーデは『敵』の存在に思いをはせる。

 あの複合源素の守護者たちを相手取りながら鉄の壁を破壊して先に進むか。あるいは、倒した後に鉄の壁を破壊するか。


 いかにもユウトらしい小細工だが――

 

「同情する気にはなれないな」


 冷たく。

 彼女にしては本当に珍しく、ヴァルトルーデは吐き捨てるように言った。


「敵か。不死の怪物を解き放ち、恐らくは自然崇拝者(ドルイド)たちを殺し尽くした敵だな?」

「ああ。ただし、自然崇拝者たちには別の考えがある」

「別の?」


 おうむ返しの――つまり、なにも考えていない――問いへ、ユウトは意地悪く婉曲的に答えた。


「自然崇拝者たちは、樹木や動物たちだけでなく源素にも近しい。だから、強大な敵を察知して、あの大渦をどうにかしたんじゃないかと思っている」

「そうですね」


 その推論に、アルシアも同意する。


「いくら不死の怪物たちが大挙して襲ってきたとはいえ、戦いの痕跡もなく消え去ったというのは、不合理です」


 殺された後、不死の怪物の材料になったとしても、不自然さは消えない――とまでは言わない。言わなくても、皆そう考えているだろうから。


「その場合、彼らは自らの存在を代償にしてあの守護者たちを強化した可能性も考えられるが……」

「ここまで言っておいてなんですが、どこかへ逃げ延びていてくれればと思っています」


 アルサスからの確認を、遠回りではあるが肯定する。源素へ還ったとも言える死は、もしかしたら本望なのかも知れないと思ってすらいた。


 生きるため、悪を駆逐するため、仲間のため。エクスキューズはいくらでもあるが、ブルーワーズに来てから倫理観が変わっている自覚はある。

 人の命は地球よりも重いとは、決して言えない程度には。


 そんな自分を否定はしないが、特にアカネには積極的に見せたくもなかった。


「だけど、良く気付いたね」

「たまにあるんだよ。戦うこと自体が間違いだってシチュエーションがな」


 ただしゲームの中では……とは言わない。思いつきの発端にはなっても、根拠としては怪しいからだ。


「ま、ユウトが下した判断の根拠は分かったよ。じゃ、先に進もっか」


 意図してか、ラーシアが明るい声で皆へ呼びかける。


「そうだな。もう少し余裕はあるけど、急ぐに越したことは無い」

「待て」


 気楽に先へ進もうとするユウトとラーシアを、ヴァルトルーデが押しとどめる。


「なんだよ?」

「その『敵』とやらは、どんな相手か分からないのか?」

「そうだな……」


 浮かしかけた腰を戻し、ユウトは考え込む素振りをする。


「悪の相の神の神官クレリック、屍解術を得意とする魔術師(ウィザード)吸血鬼(ヴァンパイア)に、死界の王(ノーライフキング)……」

「やはり、絞りきれないか?」

「いや。状況証拠になるし、当てずっぽうに近いけど、自信はあるよ」


 柔らかな微笑を浮かべて、ユウトは婚約者へ告げる。


「敵は、吸血鬼だ」

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