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Boy meets Girl again(前)

エイプリルフール嘘予告サイバーパンク世界編の続きの続きの続きです。

良ければ、お楽しみください。


・前回までのあらすじ


西暦2070年。

世界は、超古代からの侵略者との戦いを余儀なくされていた。


孤島でドラゴンを手懐けたユウトたちは、賢哲会議(ダニシュメンド)からの信頼を勝ち取ることに成功する。

そして、ついに麻衣那の祖母、真名との面会に許可が下りたのだった。

 賢哲会議(ダニシュメンド)の用意した無人リムジンが、舗装されていない道を引き返していく。

 エンジン音は静かだが、土の道を進んでいるため走行音はしてしまう。


 この西暦2070年では、旧世界における電気自動車が主流。ゆえにもはや電気自動車とは呼ばれていない。

 ガソリンエンジンの自動車が、ガソリン自動車(クラシックカー)と呼ばれている時代だ。


「ここに、おばあちゃんが……」


 走行音が聞こえなくなる頃。賢哲会議の第二級戦闘魔術師秦野麻衣那(まいな)が、身長の数倍はある門扉を見上げて呆然と口を開く。


 東京市から、車で二時間以上離れた郊外。

 小高い山の上にある屋敷は、この2070年代ではありえない平屋の和風建築。


 しかも、周囲には他に家はない。

 この屋敷のためだけに、インフラが維持されている。


「しばらく会ってないんだよな?」

「はい。申請しても、却下されていました」


 特殊な任務ということで、身内すら面会できなかった祖母秦野真名。

 祖父だという傍らの男、天草勇人とともに孤島でドラゴンを倒したあと、すぐに面会の許可が下りた。


 あのときに遭遇した、女帝の存在と無関係ではないだろう。


 それなのに、賢哲会議の極東支配人から師と呼ばれる男に緊張感はなかった。


「しかし、かなり贅沢なんじゃないか? 俺の時代でも、観光地になりそうなぐらい珍しいぞ、これ」


 カンブリア紀から時を超えて現れた殺戮者。パレオゾイック・モンスターは、世界の様相を一変させた。


 人々が安全と利便性を求めて完全環境計画建築(アーコロジー)に集住している現代に真っ向から反する、旧時代の生活様式。


 この時代がかった日本家屋を維持するだけで、かなりの現金が吹き飛びそうだ。


 ……ということが分かる程度には、ユウトもこの時代に溶け込んでいた。


「ご心配なく。賢哲会議の持ち出しですから」


 携帯端末に居座っている超AIマキナが、立体映像(ホログラム)を投影して指で円を作る。

 侍女のお仕着せを身にまとった銀髪の美少女がやるポーズではないが、今さら誰も気にしていなかった。


「ということは、マキナ。おばあちゃんがここにいると、知っていて黙っていたんですね?」

「秘密ですから」


 立体映像のマキナが、唇に人差し指を当てる。

 ご丁寧に、ハーフツインの銀髪も一緒に揺れた。コケティッシュでいながら、可愛らしい仕草。


 麻衣那は、いらっとして携帯端末を投げ捨てよう……として、門扉を傷つけそうだったので思いとどまった。


「……なんですか?」

「いや、真名もよくマキナが入ったタブレットを投げつけてたなって」

「実際、ご主人様(マスター)はよく似てますよ。ほんと、マキナのことが大好きで困ってしまいますね。困らないですが」

「マキナが悪いんですよ、マキナが」


 地面に叩き付ければ良かったかと後悔したとき、内側から門が開いた。


「こういうのは、屋敷の奥にいる大御所とご対面ってなるんじゃないのか?」

「あれだけ騒いでいたら、嫌でも気付きます」


 出てきたのは、かくしゃくとして腰を伸ばした老婆だった。


 きっちりと着物を着込み、視線は力強い。

 白い物が混じったというよりは、ほぼ灰色に白い物が混じった髪をひとつ結びにして肩に垂らしている。


 実年齢よりは、若く見える。


 だが、年老いていることは間違いがなかった。


「おばあちゃん……」

「久し振りね、麻衣那。活躍は聞いているわよ」


 柔和に微笑むと、老婆が腕を広げる。

 そこへ麻衣那が飛び込んでいった。


 着物の硬い感触でも関係なく、額を押しつける。


「会いたかったです……」

「こんなに大きくなったのに、甘えん坊ね」


 祖母と孫の再会。

 マキナも、珍しく空気を読んで黙っている。


「私、おばあちゃんに負けないように頑張ろうって……」

「苦しかったでしょう? よく頑張ったわね」


 老婆が、手袋越しに優しく孫娘の髪を撫でる。


 他の誰かになる必要はない。自分自身になればいい。


 そう思っていても、決して口には出さない。


 それは、自分自身で気付かなければならないことだから。


「でも、遥か高みにいる非常識な相手と比較して落ち込むのは駄目よ? 意味がないですからね」

「おばあちゃん……っと、そうです!」


 名残惜しそうに祖母から離れると、祖父を自称する大魔術師(アークメイジ)の手を強引に引いた。


「この人、この人は本当に私の……」


 麻衣那の声が、尻つぼみになって消えていった。


 これ以上、確認するまでもない。


 事実は、見れば分かった。


 ユウトの瞳には、慈しみが。

 そして、祖母――真名の瞳には確かな愛情が宿っていた。


「この姿で、会いたくはなかったんですけどね」

「俺は気にしない……と言っても、そっちの気持ち次第だからな」

「相変わらずですね。安心します」


 笑うと、しわが一層深くなる。

 声も、しゃがれて聞き取り難い。

 目を悪くしているのか、眼鏡もかけていた。


 ユウトが知る真名からは、かけ離れている。


 まるで、特殊メイクで老婆の格好をしているように感じられる。


 だが、間違いなく真名だった。


「勇人さん、お久しぶりですね」

「真名から名前で呼ばれるのは、ちょっとむずむずするな」

「諦めてください。そういう関係になってしまったんですから。ほんと、今にして思うとどうしてという感じですけど……」


 頬に手袋で包まれた掌を当てて、ほう……と息を吐く。

 50歳以上も、若返ったように見えた。


「若さと勢いって、恐ろしいですね」

「今の俺に言われても困るんだがな」

「は? おばあちゃんと、そういう関係なのが嫌だというんですか?」


 麻衣那の瞳が、すっと細くなった。


 祖父母が仲睦まじいところを見せられても困る。

 それ以上に、祖父の目が祖母へ向いていないのは嫌だ。


 あの女帝に言い寄られているのも気にくわないのに。


「いいんですよ、麻衣那。この勇人さんは、まだ私がセンパイと呼んでいた時期しか知らないんですからね」


 真名が、苦笑しつつもユウトをかばう。


 うれしそうに。


 嫉妬ではない。

 そのはずだが、もやっとしてしまう。


 だから、どちらに対しての感情なのか麻衣那は気付かない。


「眼鏡をかけるようになったんだな」

「老眼ですよ。魔術師(ウィザード)なんてやっていると、サイバーウェアにリプレイスもできなくて不便ですね」

「おばあちゃん、それは……」


 思わずといった調子で、麻衣那が口を挟んだ。


 サイバーウェアやバイオウェアと理術呪文の相性は最悪だ。原理は未だ不明だが、理術呪文の発動が著しく困難になる。


 それを不便と表現するのは、賢哲会議の誇りに泥をかけるようなもの。


「気にする必要なんてありませんよ。魔導具(マジックアイテム)で代替できないのに、下手に気位だけは高いんですから」

「そんなことより、ご主人様(マスター)。いつまで、こんなところで立ち話をしているんです? そんなに、教授(プロフェッサー)と会うのが楽しみだったんですか?」

「聞かないと分からないようでは、AIとしてはまだまだね」


 余裕でマキナを受け流す。

 ユウトが知る真名なら、むきになっていたところだ。


「真名は、年を取って綺麗になったな」

「はいはい、ありがとうございます。来ると聞いて、ごちそうを用意しているから期待していてください」


 和服の裾を乱すことなく、真名が踵を返して門の内側へと向かう。


 その後ろに、ユウトと麻衣那が続く。


「ご主人様、気付いてますか? 気付いてますね?」

「気付いているなら、言わなくていいです」


 銀髪美少女メイドの立体映像をくねくねさせ、マキナが盛り上がる。

 一方、麻衣那は祖父母――とは、完全に認めていないが――を交互に見ることしかできない。


 なぜなら、真名の足取りは年甲斐もなく弾んでいたのだから。





 平屋の屋敷は、隅々まで手入れが行き届いているようだ。

 庭に面して廊下を歩きながら、ユウトは綺麗に整えられた庭を見て感心する。芸術的な素養は皆無だが、素晴らしく手間がかかっていることは分かる。


「この程度で分かると言ったら、朱音に怒られそうだけどな」

「朱音さんは優しいですよ。それに、ヴァルトルーデさんのほうがあれですから」

「そうだな……。ヴァルがいるよな……」


 楽しそうにしている、知らない祖母の横顔。

 いい年をして、へそを曲げるはずがない。ありえない。


 それでも、面白くはなかった。


「麻衣那、今日はたくさん食べていきなさい」

「あ、はい……」


 正直、食欲などない。


 しかし、食事が用意された広間に一歩踏み入れた瞬間。麻衣那の目の色が変わった。


「おお、寿司か」

「はい。天然物ですよ」

「天然物ですか!?」


 全力で走って、重厚な座敷机に取りついた。


「本当です。見れば分かりますね!」


 どこの駅前にもある、スタンドのスシバーとは違う。

 どことなく水っぽい合成マグロや、脂の味しかしない養殖サーモンではない。


「すごい! 本物のお寿司ですよ!」


 前触れもなく突然出現し、恨みを晴らすかのように暴れ消えていくパレオゾイック・モンスター。

 カンブリア紀からの殺戮者により、第一次産業も大きな影響と被害を受けた。


 海でなにかあれば助けが来るまでの間に、死ぬしかない。

 漁などできようはずもなく、天然食品は食卓から消えていった。


 それで資源量が回復しているのは、皮肉としか言いようがない。


「好きなだけ、お食べなさい。勇人さんもどうぞ」

「ああ。そういえば、俺も寿司は久し振りかもしれないな」


 好きか嫌いかで言えばもちろん好きだが、ブルーワーズで気軽に食べられるものでもなかった。


「いただきます!」


 子供のようにわくわくとしている麻衣那が、箸を白身の魚へと伸ばした。


 綺麗な身をしたタイだ。


「んん~~」


 味は淡泊だが、噛めば旨みがあふれる。

 わさびの量もちょうどいい。しっかりとした、職人の仕事だ。


 続けて、イカに手を伸ばす。

 ねっとりとした身の食感と甘さが、口いっぱいに広がった。思わず、柏手を打ちたくなる。


「美味しい! おばあちゃん、美味しいですね!」

「好きなだけ食べなさい」

「……俺も、いただこうか」


 実に微笑ましい。ずっと見ていても良かったが、それでは真名もつまらないだろう。


 ユウトは、見るからに脂が乗っているブリを手に取った。

 醤油を付けると、脂が染み出していく。


「うん。美味い」


 期待に違わぬ美味さ。すっと脂が消えてなくなり、お茶でさっぱりさせる必要もない。


「良かったわ」

「天然物ですよ。美味しいに決まってます!」


 麻衣那はサーモンとイクラを一緒に取り、軍艦からイクラを何粒かとってサーモンにまぶした。

 即製の親子握りといったところだろうか。


「そんな工夫もあるのね」


 真名は、それを楽しそうに眺めている。


「ご主人様、撮れ高のある映像をありがとうございます」

「え? 撮影してるんですか?」

「むしろ、なぜ撮っていないと?」

「消しなさい!」

「いいですが、消すと増えますよ?」


 座敷机に置いた端末から投影されている、銀髪をハーフツインにした美少女。

 それから、桶に入った天然物の寿司。


 麻衣那は、心の中で天秤にかけ……。


 本命である、天然クロマグロに箸をつけた。


「あ。そこは食べるんですね、ご主人様」

「マキナ、あとでコピーしてくれ」

「お任せを、教授」

「ふふっ。ああ、おもしろい。こんなに愉快なのは、いつ以来ですかね」


 真名が、本当に楽しいと笑った。

 閲した時間が感じられる、年老いているが輝くような笑顔。


「真名は、美人になるんだな」

「そうですよ。もっと早めに手を出していれば良かったんです」

「不明を恥じ入るばかりだ」


 ユウトと真名。

 外見だけなら孫と祖母のよう。


 そんな二人が、目を合わせて笑った。


 時を超えるのは、パレオゾイック・モンスターだけではない。


 二人の思いもまた、同じだった。


「……賄賂で、ごまかされてあげます」


 麻衣那が、ホタテを頬張る。

 身が厚くしっかりとして、味も濃い。


 思うところはあるが、仲が良くて安心した部分もある。

 今は、今だけは見逃してあげようと麻衣那は飲み込んだ。


 初めてとなる祖父母と孫娘の食卓は、それなりに和気藹々と進んでいった。





 豪華で楽しかった昼食が終わり、黒檀の座敷机の上は綺麗に片付けられた。


「悪いけれど、真面目な話をしてもいいかしら?」

「もちろんです、おばあちゃん」


 空気が変わった。

 雰囲気を感じ取り、マキナが立体映像を消した。


「私も知りたいです。おばあちゃんが、なにをしていたのか」

「頼もしくなったわね」


 麻衣那が正座をして、姿勢を正す。

 ユウトは、無言でうなずいた。


「まずは、これを見てちょうだい」


 真名が手袋をさっと取り払うと、座敷机の上で掌を広げた。


 そこには、胎児のような形をしたなにかが、どくんどくんと脈打っていた。


「……禍々しい魔力だな」

「勇人さん、怖い顔をしないでください。命に別状はありませんから」


 真名が笑うが、麻衣那は顔を引きつらせたまま戻らない。


怨嗟の精髄エッセンス・オブ・マイアズマ。なんとか、あの女帝から奪った秘宝具(アーティファクト)です」

「秘宝具か」


 その情報ひとつで、ユウトは正解にたどり着く。


「ヴェルガが、絶命した生物は他にもたくさんいると言っていたが……」

「これを使って、恐竜を呼び戻そうとしていたようですね」

「恐竜を……」

「パレオゾイック・モンスターならぬ、ジュラシック・モンスターになるのか」


 特に凶暴や危険というわけではない、古生代の生物があのモンスターになるのだ。

 恐竜がモンスター化したら……人類は地球の支配権を譲り渡すしかないだろう。


「つまり、おばあちゃんが危険な秘宝具を封印していたということですか?」

「ええ。そういうことよ。なにも言えなくて、ごめんなさいね」

「……」

「それは、許可が要るはず――」


 言葉の途中で、ユウトが呪文書を手に立ち上がった。


「なにを……」


 戸惑いながらも、麻衣那も愛刀を手にする。

 それを一瞥もせず。ユウトと真名は、庭に面したふすまを開け放った。


「おびき出されて来てみれば、婿殿の近くにいた小娘ではないか。生きておったとはの」


 日本庭園に、悪の半神が立っている。

 真名が卓に手をついて立ち上がると、真っ正面からヴェルガに相対した。


 そして、開口一番。


「負け犬が、なにか喋っていますね」


 出会い頭の挑発。


 私は、センパイの子供を産みましたけどなにか?


 そんな幻聴が、ユウトにも麻衣那にも聞こえた。聞きたくなかった。

ヴェルガ様をあおったヒロイン、真名が初なのでは?


というわけで、初回掲載時に記載したコミカライズ関連のあれこれは活動報告へ移しました。


そして、もはやエイプリルフールでもなんでもないですが、続きも更新しましたのでどうぞ。


最後に、お知らせというか宣伝。


前回お知らせしたノベリズムで連載している『使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記』ですが、ベーシア(ラーシア)に出張してもらってます。

有料になってしまいますが、スマホアプリからなら広告見たらもらえるポイントで無料で読めたりします。

前作主人公っぽいムーブをしていますので、気になったら読んでいただけたら嬉しいです。


というわけで、今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] だー、ヨナの存在が漏れてましたねー 加えてセネカちゃんのことも忘れてましたねー セネカはまたちょっと一味違いますかねー
[一言] いえ、ヴァル・アルシア・アカネ組、カグラ・ペトラ・レジーナ組に次いでのレン・真名組みたいな印象を持っていたので、活躍の場が現れたことの反作用な感じで行き過ぎました。反省。
[一言] 真名ちゃんはいつか何か成し遂げる子だとおじさんは思ってましたよ。 思ってましたとも。 なんですか。
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