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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
レベル2魔術師による修行生活(サバイバル)
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02.ヴァルトルーデコレクション

10話ぐらいの予定だったんですが、早速プロットになかった話が飛び込んできました。

「本当に、二人だけで野営生活をするのだな。しかし、一週間もだぞ? 危険ではないのか?」

「危険がなかったら修業にはならないでしょう?」

「それは……そうなのだが……」


 部屋に入るなり議論を始めた、ヴァルトルーデとアルシア。

 まったく似ていないが姉妹のような二人を、ベッドに呪文の巻物(スクロール)を広げていたユウトが呆然と見上げた。


 その勢いに押されたというのが三割。六割は、いつまで経っても慣れないヴァルトルーデの美しさに圧倒されて。


 たとえ、シンプルなチュニックにズボンという出で立ちでも。実用性しかないバックパックを背負っていても、それは変わらない。


 しかし、忘我を引き起こした聖堂騎士(パラディン)は気付かなかった。というよりも、自らの相貌にそんな効果があるなど思いもしていない。


 ちなみに、残り一割は珍しく「勉強の邪魔だから、どっか行っとくね」と部屋から出ていったラーシアへの感情である。


「しかし、段階というものがあるだろう?」

「あるわね。ヴァルが言うと、あまり説得力がないけれど」

「なぜだ!?」


 天才肌のヴァルトルーデから出ると、説得力に欠ける言葉だから。


 ……とは言えず、ユウトは巻物を片付けると部屋の隅に片付けていた椅子を運んできた。

 ここに厄介になって、一ヶ月ぐらいだろうか。もう、ラーシアやエグザイルの部屋に間借りしているという感覚は薄れていた。


「まあ、とりあえずようこそ」

「うむ。済まない」

「忙しいところ、悪いわね」


 オズリック村に一軒だけある宿。その一室で準備を進めるユウトの前に、バックパックを置くヴァルトルーデ。


 そのまま、男物のズボンを華麗に着こなす……というよりは、一方的に服から奉仕されている聖堂騎士(パラディン)がどかっと腰を下ろした。


 粗野としか思えない所作にもかかわらず、それが正しい行為だと脳が認識してしまう。美人は得というレベルではない。ヴァルトルーデになると、彼女の行いが美の基準となるのだ。


 一方のアルシアは、ローブの裾に気をつけながら木製の簡素な椅子に座った。

 とても、真紅の眼帯で目を塞いでいるとは思えない。それが、周囲の状況をソナーのように感知する魔法具(マジック・アイテム)だと知ったときは、ユウトは驚きを隠せなかった。


 それどころか、生まれつき目が見えないと聞いて二度驚いた。


 しかし、逆に自然な動作なので気にならなくなった。ただ、色や文字のような情報に関しては忘れないようにしている。


「いきなり過ぎる……。というか、情報早くない?」


 どうにかペースを取り戻したユウトは、ベッドに座ると直接用件に入らず周辺から攻めた。


 だが、完全な脇道というわけではない。なにしろ、師であるテルティオーネから実習を言い渡されてから、一時間も経っていなのだ。いくら狭い村とはいえ、情報伝達速度が速すぎる。


「ああ、テルティオーネから言われたのだ」

「……俺を手伝えって?」


 それは意外だ。

 あの師匠も甘いところが――


「いや、余計なことをするなと言われた」


 ――なかった。


「……アルシア姐さん、通訳をお願いします」

「そうね……」


 あぐらのまま頭を下げたユウトに対し、微苦笑を浮かべたアルシアは言葉を探す。


「持ち物のアドバイスは余計なことではないそうよ」

「当然だ。テルティオーネでは、まともな指導もできないだろうからな」

「一応、あの人エルフなんじゃなかったっけ……?」


 このブルーワーズにおいても、エルフは森に生きる種族である。


 しかし、ヴァルトルーデは容赦というものを知らない。


「エルフの常識が、人間に通じるはずがあるまい」


 きっぱりと言い切った。


「そう言われると、そんな気もしてくるな……」


 ユウトの脳裏に浮かんだのは、一つの指輪を捨てにいく壮大な映画だった。

 字幕を憎しみすら込めて酷評していた幼なじみとその父親は、元気だろうか。


「そこで、私とアルシアの道具を貸してやろうと思ってな。いろいろ持ってきたのだ」

「邪魔だったら、置いていっていいわよ?」

「ただ、あくまで貸すだけだ。無事に戻ってきて返却するのだぞ?」

「気持ちは嬉しいけど、死亡フラグ立てられても困る……」


 ユウトの戸惑いを余所に、ヴァルトルーデはバックパックをがさごそと漁りだした。


「まずはロープに、火打ち石と打ち金。それから、鍋だ。これは、絶対に必要だろう」

「そっか。自分で火を熾さなきゃならないのか」


 ライターはおろか、マッチもない世界だ。その代わり魔法はあるが、火熾こしぐらいで使うわけにもいかない。


「なにを心配する必要がある。火ぐらい、誰でも熾せるだろう?」

「ユウトくんの世界だと、もっと簡単な道具があったらしいわよ」

「そうなのか……」

「ああ。俺の国に限って言えば、8割ぐらいの人間は火打ち石とか使ったことないと思う」

「……なぜ、そのことをアルシアが知っているのだ?」

「もちろん、ユウトくんから聞いたからよ」

「……なぜ、私はそのことを知らなかったのだ?」

「それを、私に聞かれても困るのだけど……」


 釈然としないと、腕を組み首を傾げるヴァルトルーデ。

 しかし、良くも悪くもこだわらないのが彼女の美点だ。


「それから、携帯用の食器一式だな」

「へえ、これは便利だな」


 鉄ではなく錫だろうか。

 金属製の皿とボウルにコップ。それから、ナイフ、フォーク、スプーンが一セットになっている。

 それぞれ小さな穴がついていて、革紐で一纏めにできるようになっていた。


「そうだろう? あとは、寝袋と……折りたたみ式のシャベルだな。これは便利だぞ」

「随分高かったわよね。確か、金貨10枚だったかしら」

「そ、その分、便利だぞ?」

「まあ、ヴァルの収入の範囲内で買ったんならいいんじゃない?」


 金貨10枚と言えば、日本円にすると5~10万円ほどだろうか。

 シャベルひとつに、この値段は理解が得られにくい。


 擁護するのは苦しいなとユウトも感じていたが、それはそれとして惚れた弱みには勝てなかった。


「まあ、ユウトくんが有効活用してくれるのであれば構わないわよ」

「絶対に、ちゃんとした形で返却しないとなとは思いました」


 もちろんそのつもりだったが、重みが違う。


「気にするな。使い潰しても構わん。おっと、あとは、テントとこのシートも持っていくといい」

「ああ、助かる。シートは、テントの下に敷けばいいんだよな?」

「いや、木と木の間に渡して雨水や夜露を集めるのだ」

「それは、水場の近くにキャンプすれば良くない?」


 水が大切なのは分かるが、迂遠すぎる。

 そう言ったユウトに首を横に振ったのは、ヴァルトルーデではなくアルシアだった。


「水場は、いろいろな野獣が近づいてくるのよ」

「ああ……。そりゃそうか……」


 水を汲みに行って、危険な野獣に遭遇でもしたらたまったものではない。

 野営地で水を確保できるなら、それに越したことはないわけだ。


「私が同行できたら、呪文で水を出せたのだけどね」

「水はいいが、食べ物のほうはいらないからな」

「贅沢を言うものではないわ」

「あれは、塩ゆでした厚紙だ」


 食べ物の話だったはずでは……?


 ユウトは、賢明にも疑問を素直に口にすることはなかった。

 この一ヶ月ほどで、誰がパーティの実質的なリーダーか知っていたからだ。


 代わりに口にしたのは、また別の懸念。


「動物だけじゃなく、虫もいそうだな……。そうか、虫除けも必要か」


 レンもいるのだし、忘れるわけにはいかない。


「それは、出発前に用意したほうがいいだろう」

「ええ。有効期限があるものね」

「……蚊取り線香って、実は便利な発明品だったんだなぁ」


 今のところあまりホームシックは感じていないユウトだったが、こういった違いは度々感じていた。

 しかし、どうにもできない。


「む。そういえば、例の棒を持ってこなかったな」

「棒? 孫悟空の武器かよ」

「ソンゴクウなる人物は知らないが、武器ではない」

「ダンジョンで、罠がないか床や壁を叩いて確かめるのよ」


 ユウトは、転ばぬ先の杖ということわざを思い出す。意味は違うが、似たようなものだろう。


「怪しい穴に手を突っ込むよりも安全だからな」

「安全だけど……わざわざ持っていかなくても、棒ならその辺に落ちてるんじゃないのか?」

「拾う手間が省ける」

「……なるほど」


 長いが杖代わりにもなるし、背負い袋にくくりつければそこまでかさばることもない。


 3メートルほどの棒が所持品に加わった。


「棒を運ぶのであれば、釣り竿も折りたたみ式でなくていいな」

「俺、釣りなんてまともにやったことないんだけど……」

「それでも持っていったほうがいい。保存食を食べていれば、自ずと分かる」

「分かりたくねえ……」


 キャンプとは違うことを改めて突きつけられ、ユウトは天を仰ぐ。けれど、当然ながら天井しか見えない。


 具体的な準備が進むに連れ、不安が大きくなってきた。


 そんなユウトを目の当たりにして、ヴァルトルーデは軽く咳払いをする。


「ううんっ。まあ、私にそのつもりはない。ないのだが……」


 微妙に視線を逸らしながら、聖堂騎士は続ける。


「どうせ、ラーシアやエグザイルは陰から見守るつもりだろう」

「いや、そんな暇……暇だわ」

「それに、レンも一緒なのだ。村の近くで、そこまで無茶をさせるつもりはあるまい」

「いくら師匠でも、そうだよな。レンもいるしな……」


 しかし、それをテルティオーネが予見していないはずもなく。そこまで甘くもなかった。


 修業の地として選ばれたのは、オズリック村から離れたケラの森。


 後に、吸血侯爵ジーグアルト・クリューウィングが自然主義者(ドルイド)たちを滅ぼし、竜人(ドラコニュート)たちが移住してくる因縁浅からぬ場所だった。

キャラシーに書き写すのが面倒なので細かいアイテムはあんまり買わない派なんですが、それはそれとしてアイテムリストを眺めているのは楽しい。


それから、もう一回宣伝。

前回お知らせした三作品、ランキングタグのところにリンクがあるのでよろしければそちらからどうぞ。

ランキングタグがどこかって? 星を入れるところの近くにありますよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 10フィートの棒www
[一言] ラーシアやエグザイルとは打ち解けてますがまだヴァルやアルシアには照れがあった頃なんですね。 きっとわかりやすく挙動不審だったに違いない。
[一言] スコップは万能だからあれば持って行くのは当然ですね。10フィート棒はどこでもそれなりに使えるし…後はできれば調味料、特に塩と砂糖ですかね? 手鏡とかレンズもあってもいいんですが。
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