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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
レベル2魔術師による修行生活(サバイバル)
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01.駆け出し魔術師ユウト・アマクサ

こちらではお久しぶりです。

久々だったのに書きやすすぎて、思わず笑ってしまいました。


次回以降の更新などに関しては、後書きで。

 黒髪の少年が、手にした本から一ページ切り裂き頭上に放った。

 ただの紙ならば、風に吹かれて飛び散るだけ。あるいは、ひらひらと舞い落ちるか。


 どちらにしろ、意味があるとは思えない行為。


 しかし、結果は違った。どちらの道もたどらない。


 それはただの紙などではなく呪文書の一ページであり、放った少年もまたただの人間ではなく魔術師(ウィザード)であったから。


「《理力の弾丸(フォース・ミサイル)》」


 精神集中。目標指定。呪文完成。


 頭上の紙片は白とも金ともつかぬ矢に姿を変えた。


 純粋魔力の矢弾が10メートルほどあるカカシ――をかすりもせず、その背後に設置された本当の標的。50cmほどの丸太を直撃した。


 人の胴ぐらいの太さがあった丸太は簡単に吹き飛び、中心に穴と焦げ跡を穿たれる。


 必殺ではないが、必中。それが、第一階梯の理術呪文《理力の弾丸(フォース・ミサイル)》だ。


「……師匠?」


 黒髪の少年。

 異世界からの来訪者である天草勇人――ユウト・アマクサは、くるりと背後を振り返った。


 その視線の先には、不機嫌そうな顔で紫煙をくゆらす無精髭のエルフ。姉弟子である小さなレンとともに、師であるテルティオーネを見つめる。


 しかし、弟子と娘に見つめられてもエルフの魔導師(ウォーロック)は気にした素振りを見せない。


 問われてもすぐには答えず、肺に煙を入れてからゆっくりと吐き出し……そして、言った。


「ま、いいだろう」

「じゃあ?」

「合格だ。今日から、見習いはなく駆け出しと名乗っていいぜ」

「やったねっ……おにい……ちゃんっ」


 テルティオーネの側で見守っていたレンが、天使のような微笑みを浮かべてユウトへ駆け寄った。小さな両手でユウトの右手を握って祝福する。


「ああ、ありがとう。全部、レンのお陰だよ」

「そんな……こと……ないよ?」


 ふるふると、小動物のように首を振るレン。

 だが、ユウトは万事控えめな姉弟子の手に手を重ねて感謝を伝える。


「いやいや、きっかけはほんと大事だから。下手したら、今でも袋小路に入ったままだった可能性あるし」


 異世界からの来訪者であるユウトが理術呪文を使えるようになったきっかけは、レンにあると言っても過言ではない。

 あの瞬間の感動は、どれだけ経っても忘れないだろう。ユウトには、その確信があった。


「ふんっ。まったく懐きやがって」


 そんな娘と弟子の様子を細目で眺めつつ、内心でテルティオーネは驚きを新たにしていた。


 このわずかな期間で、魔術師(ウィザード)として認められた。駆け出しとはいえ、とんでもないことだ。

 才能だけで片付けるのは浅はかだが、それを否定するのも愚か。


 ユウトには、魔術師(ウィザード)の素質がある。


 これは、明白な事実だった。


「もっとも、この先どうなるかは……」


 本人次第。そして、導く師の器量にも左右されるだろう。


 まだ吸うか。次にいくか。迷う素振りを見せつつ、テルティオーネは続ける。


「ただし、俺以外が認めるかどうかは別だがな?」

「はい?」


 いったい、どういうことなのか。


 疑問に支配されたユウトの鼻先を、通り過ぎていくものがあった。


 一本の矢だ。


 それはカカシを掠めて、《理力の弾丸(フォース・ミサイル)》で弾き飛ばされた丸太に突き刺さった。


「これくらいのことは、ボクでもできるからね。あんまり調子に乗らないことだよ、ははんっ」

「ラーシア!」

「それはそれとして、駆け出し認定おめでとう。今夜は宴会だね!」

「なにもなくても、毎日飲んでるじゃねえか。でも、ありがとう!」

「どういたしまして!」


 怒鳴るように言っているが、二人とも笑顔。

 目を瞑ればケンカをしているようだし、耳を塞げば仲の良い親友にしか見えない。


「よく……分からない……よ……」


 特殊すぎて、レンには理解できない世界だった。

 誰に相談しても、理解する必要はないという答えしか返ってこないだろうが。


「もっとも、ユウトはお酒を飲まないみたいだからボクの美技に酔うといいよ」

「美技……確かに、すごいけど一回しかできないわけじゃないんだよな……」

「おーい、ユウトー?」

「俺だと、《理力の弾丸(フォース・ミサイル)》は一日に多くて四回ぐらいか? 一方、ラーシアは疲労もあるにしろそこまでじゃない……」

「もしもーし?」

「俺は下手に攻撃に回るより、みんなを支援する……のはアルシア姐さんがいるか。となると、敵の妨害に回ったほうが……?」


 ぶつぶつと自分の世界に入ってしまったユウト。

 その行動自体はほめられたものではないが、独り言の内容は別。次の授業でやる予定だった部分を先取りされ、テルティオーネは思わず足下に煙草を放り捨てていた。


「ああ、でも。俺の腕がもっと上がって、広範囲に効果がある呪文が使えたりすると話が変わるのか……」


 それはかなり正確な未来予測だった。

 結果として外れることになるのだが、それはヨナという破壊神がパーティに加わることになるから。


 今はまだ神ならぬユウトでは、そこまで見通すことはできない。


「まあそれはそれとして、ラーシアが授業に乱入してきたことはエグザイルのおっさんに言う」

「なんでエグなのさ!? ヴァルなら適当に言いくるめられるし、アルシアならちょっとそれらしい理由を言ったら頑張ればごまかせるのに」

「だからだよ」

「だよねー」


 来訪者と草原の種族(マグナー)のコントは続く。


 その間に、レンはユウトから離れて父親の下へと戻る。そして、彼女にしては強い口調で言った。


「ちゃん……と、お兄ちゃんのことほめてあげて……ね」


 言われたテルティオーネは足下の煙草を名残惜しそうに眺めつつ、無精髭を生やしたあごを撫でる。


「これくらいできてもらわんと困る」

「でも、こんなに早くできるなんてすごい……よ」

「あまり言うなよ。調子に乗る」

「もう……」


 レンはぷくぅと頬を膨らませ師であり父であるテルティオーネに抗議するが、たなびく煙草の煙のように受け流されてしまった。


「ちゃんとほめ……ないと、お兄ちゃんやめちゃうかも……だよ」

「それはないな」


 新しい紙巻に火を付けず、指の間でもてあそびながらエルフの魔導師(ウォーロック)は言下に否定した。


「やめたくなるのは、これからの話だからな」


 そして、にこりともせずに言い切った。





「実習ですか?」

「ああ。次のステップに進んでいい頃だろう」


 テルティオーネが、経営するポーション店。

 授業の対価というわけではないが、いつもその後にはアルバイトをすることになっていた。


「といっても、実質はサバイバルだな」


 ポーションだけでなく魔法関係の何でも屋だが、その商品整理をしているところに伝えられた話は唐突だった。

 ユウトが手を止めてしまったのも、仕方のないことだろう。


「サバイバル……」


 異世界に来たとき自動的に備わった言語翻訳能力。

 その正しさに疑問を抱くように繰り返したユウトだったが、どうやら事実らしい。


「簡単に言うと、森の奥で一週間。一人だけで生き延びてもらう」

「それは、魔法だけを使ってという意味ですか?」

「いや、使える物はなんでも使え」

「なんだか、難易度が跳ね上がったような……」


 カウンターで帳簿の整理をしていたテルティオーネが、顔を上げた。

 くわえ煙草で、いつも通り少し不機嫌そうな表情。


 それを見て、ユウトは自らの懸念が的を射てしまったことを知る。できれば、外したかった。


「こいつは俺の持論なんだが……基礎さえ憶えてしまえば、実践するのが一番伸びる。研究なんざ片手間で充分だ」

「そうなんですか? 座学よりも、実際に呪文使うほうを重視してたのは気付いてたけど……」


 サッカー……スポーツでも似たようなところはある。

 ただ、試合に勝つという明白な目標があるのに対し、理術呪文はなにを目的とするのか。それは個々人によって違う。


「もちろん、呪文の研究をしたいって言うんなら無理に勧めるこたねえが……」


 そう、ユウトにとって理術呪文とは手段であって目的ではない。


「だが、冒険者……それもヴァルたちと一緒にとなれば時間もないだろう?」

「……ですね」


 紙巻煙草を灰皿に置き、テルティオーネはユウトを真っ正面から見つめる。


「やるか?」

「やります」


 ユウトは、迷わない。力強くうなずいた。


 その宣言に、テルティオーネは珍しく微笑んだ。


 だが、店の扉が開いて小さな人影が入ってきたことで笑顔は凍り付いた。


「お父……さん、私も……やりたい……な」

「……レン? お前、話聞いてたのか」


 粉ひき小屋へ使いに出していたレンが、荷物を持ちながらとことこっとカウンターへと駆け寄った。


「うん。お兄ちゃん……と、一緒に……やる……よ」

「それは……」


 テルティオーネが、珍しく言い淀む。

 まさか、危険だから。心配だからと、実の娘だけを特別扱いはできない。理性は、認めざるを得ないと言っている。


 それでも、簡単にうなずけないのが親心。


「分かりました。レンと協力して頑張ります」


 レンが持ち帰ってきた小麦粉の袋を受け取りながら、ユウトは決定事項かのように言った。

 これでいいんでしょと言わんばかりの表情で。


 どうも、ラーシアから良くない影響を受けているようだ。


 テルティオーネは煙草をくわえ直して、ユウトをにらみつけた。


「なに先回りしてやがる。百年早いんだよ」

「俺、エルフじゃないんで百年はちょっと」

「師匠の揚げ足を取れる気概があるなら、心配ないな。俺みたいに大物になるぜ」

「それは、まあ、師匠みたいになれるなら……?」


 テルティオーネは天井を見て、静かに煙草の煙を吐く。


 その仕草が照れ隠しだと、娘であるレンは知っていた。

書籍版一巻の書き下ろし小説の続きです。

次回は、たぶん土曜日。以降、週一で更新の予定です。


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それでは、今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 駆け出しユウト…実は護衛にラーシアがハイドしてたりして?
[一言] 退路を断っても結局書いてそうだけど。
[良い点] ユウトとラーシアは相変わらず仲が良いなあ! [一言] 投稿ありがとう御座います!お待ちしておりました!また楽しませていただきます。
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