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番外編その15 異世界における間違ったハロウィンの過ごし方(後)

評価、感想ありがとうございました。

とても勇気づけられます。

「それじゃ、勇人。次はアルシアさんの所だから」

「…………」


 この状況でアルシアに会いたいはずがない。

 ユウトは視線でアカネへ抗議をするが……通用するはずもなかった。


「でも、あたしに感謝することになるわよ」


 もはや人質としての建前すら守ろうとしないアカネに背中を押され、ユウトとヴァルトルーデは二人でトラス=シンク神殿を訪れた。


 アカネたちは、ゴールで待っているということだ。一瞬、魔法薬(ポーション)の効果を呪文で打ち消してしまおうかとも思ったが、それでは興ざめもはなはだしい。


 罠にずっぽりはまって、アルシアと対面したのだが……。


「アルシア。なぜ、そんな格好をしているでござるか?」

「……来たわね、二人とも」


 正確には、神殿の入り口でアルシアが待ち受けていた。

 なぜか、フード付きのマントを目深にかぶって。


 ヴァルトルーデの口調に触れることなく、早口でまくし立てる。


「ここでは、謎かけ(リドル)を解いてもらうわ」

「それはユウトがやるからいいが、その格好はいったいなんでござるか?」

「……それは関係ないわ」


 やはり語尾には触れず……というよりは、その余裕もなくアルシアは会話を拒否した。


「…………」

「…………」

「…………」


 奇妙な沈黙が、場を包む。


「……分かったわよ」


 耐えきれず、アルシアは屈した。

 事前に、アカネかヨナから言われていたのかもしれない。


「わ、笑わないのよ?」


 覚悟を決めたアルシアが、フード付きのマントを脱ぎ去る。


「」


 それはネコミミだった。

 太陽神フェルミナもご照覧あれ。


 黒い、ネコではあり得ない大きさの。しかし、可愛らしいネコミミがアルシアに生えていた。


 もちろんカチューシャだ。生えているわけはない。


 しかし、ユウトにも、ヴァルトルーデにも関係なかった。


 それは、アルシアが身につけたゴシックロリータ衣装から生えている尻尾に幻惑されたからかもしれない。


 あるいは、肉球のせいかもしれない。

 もちろん手袋だ。人の身に肉球が存在するはずはない。


 ネコだ。

 ネコであった。


 それは、誰がなんと言おうとアルシアにゃんこであった。


「……笑わないの?」


 ユウトとヴァルトルーデは、真面目くさって首を横に振った。


 そんなことができるはずもない。トラス=シンク神とリィヤ神の名にかけて!


「あう……あ……」


 どう思われているか伝わったのだろうか。アルシアは限界だった。

 ぱくぱくと口を開いては閉じてを繰り返すと、そそくさと真紅の眼帯を身につけて神殿へ踵を返す……寸前。


 ぱたぱたぱたとUターンした。


「次は、力の神の闘技場へ向かうのよ」


 それだけ告げると、真っ赤な顔で戻っていく。


 再び、沈黙が場を支配する。


 謎かけ(リドル)は出されなかった。

 しかし、ユウトに不満はなかった。欠片も。





「よく来たな、二人とも」

「珍しい組み合わせでござるな」


 ここは、力の神の修練場に併設された闘技場。

 待ち受けていたのは、エグザイルとヴァイナマリネンという武と知の極致。


 ヴァルトルーデが言う通り、滅多に見ない組み合わせだった。


「なんで、ジイさんまでいるんデース?」

「なあに。ジジイも子供も似たようなものであろうが」

「センシティブな部分だから、やめるっぴ」


 またしても、語尾に関する指摘はなかった。ここまで無視されると逆に哀しくなってくる……かと思いきや、そんなことはなかった。

 ユウトの精神は、アルシアにゃんこで浄化されていたのだ。


 まあ、いじられたらそれはそれで反駁したくなるのは間違いないが。


「オレは、ヴァルと戦えると聞いてな」

「望むところでござる」


 一瞬で臨戦態勢に入るヘレノニアの聖女と岩巨人(ジャールート)の大族長。

 お互いに良き友人であり心から信頼する仲間だが、それはそれ。これはこれ。


「こうして戦り合えるとは、ハロウィンとはいい祭りだな」

「同意するでござる」


 うなずくと同時に、熾天騎剣(ホワイト・ナイト)を抜き放ったヴァルトルーデが距離を詰めた。


選定(セレクト)


 エグザイルは動かない。


 動かずユウトが贈った最高の剣を体で受け止め、代わりにスパイク・フレイルを見舞った。


「ハハハハハ、若いな」

「あいつらは、年取っても似たようなことをやるですぞ」


 濃厚なバトルマンガ時空に踏み込んでいった二人から意識と視線を外し、ユウトはヴァイナマリネンを見つめる。


「それで、ワシも課題を出さねばならんのだが、なにも考えとらん」

「いったい、なにしに来たのかいっ?」

「代わりに、ひとつ頼みがある」

「ジイさんの頼みっしゅ……?」

「そうだ。ワシの八円の塔(エイトサークル)が、魔力異常地帯の監視のためにあるのは知っとるだろうが」

「それは初耳っしょ」


 大賢者ヴァイナマリネンその人が監視しなければならない異常地帯。

 ユウトのテンションと警戒感が、対ラーシア級に引き上げられた。これより上は、ヴェルガに対するときだけだ。


「そうか? 有名な話のはずだがな」

「別に俺、ジイさんのこととかそんな興味ないんダナ」

「それでは、孫にワシのことをどう説明するのだ?」

「俺の子供であって、ジイさんの孫じゃないじぇ」


 そもそも、カイトたちはまだそんな年齢ではない。


「まあ、今すぐどうこうというわけでないが、なにか起こったときに手を貸してもらおうか」

「……それくらいならいいんだぜ」


 というよりも、言われなくても介入することになるだろう。

 つまり、ヴァイナマリネンの提案は交換条件になっていない。


 なにか裏がある。

 絶対にだ。


「あまりにらむな。今は得したとでも思っておけば良いわ」

「口を割る気はなさそうじゃん」


 大賢者ヴァイナマリネンに無理強いなど通じまい。

 ここは、なにが起こってもいいように常に備えておくしかなさそうだ。


 ……それも、いつものことだった。


 ユウトが、自らの人生に疑問を抱きそうになったところで、早くも勝負はクライマックスを迎えた。


「この程度でやられてくれるなでござるぞ、エグザイル」

「心配無用だ。全力で来い」

「聖撃連舞――陸式」

「本当に本気でやるワケ!?」


 邪悪なる炎の精霊皇子すら屠った一撃――否、六連撃。

 手加減などなく。手加減したとしても関係なく致命的な連撃。


 しかし、それでエグザイルは沈まなかった。


「さすが、ヴァルだな」

「それはこちらのセリフでござる」


 その後も数十合に亘ってぶつかり合う。


 力と技。

 技と力。

 力と技の饗宴は、やがて武器を捨てて素手でぶつかり合う第四次世界大戦のごとき様相を呈し……。


「エグザイル、今日はこの程度にするでござるか」

「ああ、そうだな。学校で、ヨナたちが待っているぞ」


 ――腹八分目にしようといった感じのやり取りで終わりを迎えた。


「外に出たら治るからって、やりたい放題じゃけん」


 勝負は、とりあえずヴァルトルーデが勝った。





 最後の地。

 そこは、ヨナたちが通う初等教育院だった。


 ヨナにレン、そしてアカネ……だけではない。


「最後の課題は、ここにいる全員を満足させること」


 初等教育院の校庭には、全校生徒が揃っていた。今ひとつなにが行われるのか理解していなさそうだが、ヨナの号令ひとつで集まったことを考えると大したものだ。


 姿は見えないが、テルティオーネもどこかにいるのだろう。


「勇人、あたしのために頑張って!」

「そういえば、そうだったでござるな」


 正義感に溢れる。いや、正義そのもののヴァルトルーデからすら忘れられる人質設定。

 ユウトは、しかし、それに反応しなかった。


 勝機が。この問題を解決に導く道筋が見えたからだ。


「それだけでいいぴょん?」

「お兄ちゃん……だいじょうぶ……なの?」

「…………」


 ユウトは無言でうなずいた。

 さすがに、ぴょんはダメージがでかかったらしい。ヨナやアカネはともかく、レンの前というのが、また最悪だった。


 同情されると、本当にいたたまれないのだ。アルシアにゃんこで浄化されても、効くものは効く。


 そんなユウトが校庭を見回し……その中心に視線を定めた。


「呪文を使うつもりのようでござるな」

「もう。ユウトはなにかあると呪文に頼るんだから」


 しれっといたラーシアがなにか言っているが、無視。

 ユウトは呪文書を取り出し、初めての時のように緊張しながら7ページ切り裂いた。


「《小願(リトルウィッシュ)》」


 ああ、良かった。呪文名には変な語尾はつかない。


 ユウトが安堵しつつ発動した《小願(リトルウィッシュ)》は、第七階梯の理術呪文。

 その名の通り《大願(アンリミテッド)》には及ばないものの、術者の意思通りに現実を改変することができる。


 たとえば、準備していない第六階梯以下の呪文をエミュレートしたり、非魔法のアイテムを作り出したり。


 それでユウトが生み出したのは――


「家がお菓子で……できてる……よ!」

「やるわね、勇人」


 レンは当然。

 アカネも、童心に返って目を輝かせていた。


 スポンジでできた壁。

 クッキーでできた屋根。

 チョコレートやマシュマロ、ホイップクリームのデコレーション。


 思った通り、色鮮やかなお菓子の家が生まれたのを確認し、ユウトは黒幕――アルビノの少女へ向き直る。


「満足してもらえたポン?」

「変な喋り方」

「それ言うづら!?」


 だが、ヨナも満足してくれたのは確かなようだ。

 時折ユウトから視線を逸らし、お菓子の家をちらちら見ている。今にも、走り出さんばかりだ。


 それでも、やるべきことは忘れない。


「その喋り方、もどしていい」

「ありがとでつ」


 二重の意味で胸を撫で下ろしたユウトは、遠慮なく《破魔(ディスペル)》の呪文を使用した。


 お菓子の家に群がる子供たちを横目に。


 ヴァルトルーデと、二人分。


 全力で。





 翌年から行われるようになったハロウィンという名の、オリジナルからかけ離れたイベント。


 このファルヴでは、仮装をした子供たちが謎かけを解いて街のどこかにあるお菓子の家を見つけるというお祭りになった。


 謎解きのヒントを出す役目として住民たちも参加できるため、なかなか好評で続いていくことになるのだが……。


 お菓子の家をいくつも建てなければならない家宰には、負担が大きかった。


 そのはずなのだが、当人は、ほっとした様子だという話だ。

過去最高にひどい内容でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。


ヨナとユウトが異世界に飛ばされてヨナがユウトを養う話とか、ユウトと真名の子供がスペースファンタジーなせ回に召喚される話とか構想はあったんですがまとまらず。

こんな話で番外編の更新となりました。


というわけで、今挙げた内容になるかは分かりませんが、次回をゆるりとお待ちいただけたら幸いです。

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[一言] はははひひふふへへへへへ やっぱり事務所で読み進めなくてよかったぴょん。
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