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番外編その12 サンタクロースがいなくても

感想でいただいた、ラーシアサンタというお題にインスパイアされたクリスマス番外編です。

でも、途中でラーシアの霊圧は消えました。

「プレゼントが欲しいと不平を言うよりも、進んでサンタになりましょう」


 目の前で草原の種族(マグナー)がくるっと回り、こちらに指を突きつけてきた。殴りたくなるほど、さわやかな笑顔で。


 その光景を、執務室で仕事をしていたユウトはぼんやりと見つめていた。


 だが、数秒後。


 瞳に理解の光が点る。


 これしかない。


「……金か?」

「最悪な答えだ! でも、くれるんならちょーだい」

「仕方ねえな……」


 ユウトは懐から金貨を数枚取り出して、執務机の上に置いた。一般的にはさておき、今の二人にとっては端金(はしたがね)

 それなのに、ラーシアは心底嬉しそうに金貨を懐に入れた。


「このように、プレゼントをもらえるのはとても嬉しいものなわけだ」

「……金払ったら、帰ってくれる仕組みじゃなかったのか」

「帰らないよ! むしろ、居座るよ!」


 仕方がないと、ユウトは改めて聞く態勢に入る。

 対ラーシアの専門家として場数を踏んでいる大魔術師(アークメイジ)は、話を聞き流すのが一番の対策だと経験で知っていた。


「つまりね。こっちでもクリスマスをやればいいと思うんだ」

「……幻聴か? ラーシアが、プレゼントを配って回るように聞こえたんだが」


 サンタクロースの格好をしたラーシアが、家々に忍び込んでプレゼントを置いていく様を想像するユウト。


 盗賊(ローグ)として最高峰の力量を持ち、理術呪文をも操るラーシアに侵入できない場所はない。《瞬間移動(テレポート)》を駆使するユウトやヨナをトナカイにすれば、一晩で世界中にプレゼントを配ることは……さすがに一人では不可能だろうが、適性があることは間違いなかった。


「違う違う。クリスマスがこっちでも流行ったら、ビッグビジネスの予感がする。しない?」

「そりゃ、するけど……。上から流行らせようとして、どうにかなるもんでもないしなぁ」


 ユウトもクリスマスのような行事を……と考えたことがないとは言わない。

 しかし、今口にした理由に、もうひとつ付け加えるならば、文化的な侵略行為を懸念して構想に留めていた。


 今さらと言われるかもしれないが、今のクリスマス自体がミトラ教の祝祭を併呑して始まったという経緯がある。


 そんなクリスマスをさらに、ブルーワーズにまで広める気にはなれなかったのだ。


 ――が。


「でも、ユウト。クリスマスとお正月と言えば、子供の頃の一大イベントだったよね?」

「まあそうだけど……。朱音から聞いたのかよ」


 ラーシアに言われるのは非常に釈然としないが、事実は事実。

 クリスマスプレゼントとお年玉は、現金収入に乏しい子供にとっては欲しい物を手に入れる絶好の機会だ。


 親の財布のことなど知ったことではなく、サッカーボールやスパイクをねだったものだ。ゲーム機に関しては、朱音の父である忠士が出たそばから買ってしまうのでプレゼントに選んだことはないのだが。


 そんな、昔の暖かな思い出が急速に蘇ってきた。


「考えてもみなよ。今からファルヴでクリスマスを流行らせとけば、ユウトの子供たちが成長した頃には、普通にお祝いをするようになるよね?」

「ああ、そういう……」

「そうさ。ユウトは、子供たちにクリスマスプレゼントという思い出をプレゼントできるだけじゃない」


 再び、ラーシアがくるりと一回転して指を突きつける。


「クリスマスというイベントそのものを、プレゼントできるんだよ」


 進んでサンタになりましょう。


 ラーシアが言い出した意味不明な言葉につながった。


「クリスマスの時期まで、一応、まだ二ヶ月ぐらいある……か」

「時間は関係ないよ。やるか、やらないか。どうすんの?」

「やるか」

「やろう」


 そういうことになった。





「是非やりましょう」


 ユウトが事前にまとめたクリスマスの企画案を目に通したレジーナは、確固たる決意とともに言い切った。


 商業を根幹とするハーデントゥルムの評議員である彼女は、いろいろと無茶をする家宰の担当のようになっている。


 そんなレジーナがユウトからの呼び出しを受け、ある意味で戦々恐々としていたところ、提示されたのは今のイスタス公爵領にぴったりの企画。


 これを逃すという選択肢は、ない。


「お分かりとは思いますが、公爵領全体で消費する機会を求めていますので」

「イスタスの大祭もあるし、機会は用意しているつもりではあるんだけど……」

「あればあるだけいいのです」


 まだ足りなかったらしい。


 冒険で稼いだ金貨を大量に投下した好景気は、まだまだ続いている。


 賃金が上がり生活も安定していく中で、怖いのは消費先がなく貯め込まれてしまうこと。それはもはや貨幣ではなく、ただの金属でしかない。


「なにより、楽しみが増えるのはいいことです」

「その分、いろいろ苦労することになると思うけど?」


 無理そうなら来年からでもと思っていたユウトは、応接スペースのソファに腰を掛けながら、改めて意思を確認した。


 自分から持ちかけておいてなんだが、前向きすぎるとそれはそれで不安になる。


「稼いだ金貨を数えるという楽しみがありますから」


 しかし、レジーナはたおやかな笑顔で一蹴した。


「要諦としては、プレゼントの交換に、イルミネーションやクリスマスツリーでの雰囲気作り。そして、お祝いの豪華な食事……と、こんなところでしょうか?」

「ああ。食事とケーキは、別々に考えたほうが良いかも」

「なるほど。甘い物だけでもという需要も考えられますね」


 竜人(ドラコニュート)の里で作った紙のメモ帳に、砂糖、小麦粉、果物と必要になりそうな物資を記していくレジーナ。


「イルミネーションに関しては、こっちでなんとかしよう」

「はい。お願いいたします」


 ユウトで……というよりは、ユウトしかどうにかできない。


「プレゼントに相応しい品に関しては、評議会でアイディアを募ります」

「あれなら、メインツのドワーフたちにも協力を依頼するから」

「はい。頼らせていただきます」


 また、クリスマスらしいメニューに関しては、レジーナからアカネへ確認をすることになった。そこから、評議会を通して展開していかなくてはならない。


「それから……。そうか、クリスマス前にはボーナスがあったな」

「ボーナス……ですか?」

「賞与っていう、会社の業績に応じて社員にも還元する一時金……みたいなものかな」

「なるほど。それは祭りの前に気が大きくなりそうです」


 宵越しの銭ではないが、人間、金貨があれば使い道を考えるものだ。

 つまり、資金はあればあるほど良い。


「これは今年すぐ導入できるかは分かりませんが、検討の余地は大いにあると思います」

「確かに、クリスマスと同時は難しいか」


 まったく別の問題になるし、急に出せと言って出せるでもないだろう。


「ボーナス分は減税にしてもいいけど、それなら、うちから配ってもいいかなぁ。クリスマス期間だけ使える商品券みたいな形で」

「現金であれば貯め込まれる可能性がありますが、それならばなんの問題もないかと」


 名目は、祭りの祝い金でもなんでも適当に付ければいい。

 そして、チケットの偽造防止には、武闘会の掛札でノウハウがある。


「人間万事塞翁が馬というか、なんというか」

「クリスマスのイベントとして、また武闘会の開催を――」

「しないから」


 エグザイルやラーシアやヴァルトルーデやヨナに聞かれたら、最悪勝手に開催されるまである。パーティの半分が裏切り者だった。おかしい。


「でしたら……」

「なにか?」

「代わりというわけではありませんが、曰くと言いますか、謂われのようなものがあれば万全かと」


 冬至の祝いというだけでは、やや弱い。

 もっと消費するのにふさわしい……祝う気持ちになるような理由付けが欲しいとレジーナは言っているのだ。


 それはユウトも理解できたが、発端が発端だけに難しい。


「かといって、捏造するわけにもいかないしなぁ」

「長く続けていくうちに、自然と定着していくとも考えられますので。そこまで気にされずとも」

「いえ。でも、重要なのは間違いないので心にとめておきます。……アルシア姐さんに相談すれば、なにかいいアドバイスもらえるかな?」


 しかし、それは果たされない。


 まさか、謂われが向こうからやってくるとはユウトにも予想できなかったから。


 覚悟はしておくべきだったかもしれないが。





 遠い遠い昔のこと。

 ある森に、二人の兄妹が住んでいました。


 早くに両親を亡くした兄妹は、貧しいながらも良く協力して、日々森の女神様に感謝を欠かすことなく過ごしていました。


 森の女神様は二人を見守っていましたが、それ以上のことはしてあげられません。


 神様たちが結んだ青き盟約(ブルーワーズ)により、地上に生きる者への理由のない手助けは戒められていたからです。


 約束は守らなくてはいけません。


 しかし、森の女神様は貧しい兄妹を見守っているうちになにかをしてあげたくなりました。


 そこで、他の神様たちに相談をし、森の女神の名前を出さないことと引き替えに、手助けを認めてもらいました。


 みんなで話し合うことは大事です。


 冬至の夜。


 太陽が蘇ろうとするそのときに、森の女神様は兄妹の夢に現れました。


 名前と姿を変えて。


『私は森の女神……の使い、サンタクロース。いつも、あなたたちのことを見守っています』


 思ってもみなかった言葉に兄妹は驚き、そして、とても喜びました。


『私から一本のもみの木(クリスマスツリー)を贈りました。夢から覚めたら、庭を見てみなさい』


 クリスマスツリーとは、なんだろう。

 森に住む二人とも、聞いたことのない木です。


 ですが、森の女神様の使いサンタクロースが贈ってくれる木なのです。きっと、素敵な木に違いありません。


『これから一年間、正しく過ごしたならば冬至の日の翌朝に、もみの木(クリスマスツリー)が実を付けることでしょう』


 決まった日に実を付けるなど聞いたことはありません。

 さすがは森の女神様の特別な木だと、兄妹は感心します。


『青い実には兄が、赤い実には妹が最も欲しい物が入っています』


 しかも、ただの実ではないと言うではありませんか。


『本当に大切なものを見失うことなく、正しく過ごすのですよ』


 兄妹は、同時に目を醒ましました。


 意を決して庭へ出ると、冷たい空気の中にクリスマスツリー。身長ほどの大きさのもみの木が生えていました。


 あの夢は、本物でした。


 二人は森の女神様と御使いであるサンタクロースに感謝し、いつも以上に正しく生活するよう心に誓いました。


 変わらず貧しくはありましたが、森の女神様からの贈り物が楽しみで、まったく苦になりません。


 そして、一年が過ぎます。


 綺麗な石や布でもみの木(クリスマスツリー)を飾り、冬至の翌朝を待ちました。


 すると、森の女神様が言った通り、青と赤の実が生っていました。


 青い実をふたつに開くと、綺麗で暖かそうな服が入っていました。


 しかし、小さすぎて兄は着ることができそうにありません。


 赤い実をふたつに開くと、立派な弓が入っていました。


 しかし、妹には引くことができそうにありません。


 サンタクロース様は間違えてしまったのでしょうか?


 いいえ、それは違います。


 兄は言いました。


「ああ。これだ、この服だ。いつもの服は薄く寒そうで、どうにかしてやりたかったのだ」


 妹は言いました。


「女神様、感謝いたします。兄さんには、もっと強い弓を使ってもらいたかったのです」


 森の女神様は、兄妹に相応しい贈り物を下さったのです。


 兄妹は、森の女神様からの贈り物を交換し、またこれから一年正しく暮らしていくことを誓い合ったのでした。


 めでたし、めでたし。


「――というお話を作った」

「創作って言い切っちゃった」


 夢の中で、貧しい兄妹のお話を目撃していたユウト。


 その背後に現れたのは、美と芸術の女神リィヤだった。


 素朴なクリスマスツリーと静止した貧しい兄妹の姿を前に、リィヤ神が説明を始める。


「仕方ない。そうそう都合のいい伝承はないから」

「まあ、神様が作ったのならある意味神話……なのか?」


 時折、道徳的な文句が入るのはどうかと思ったが、子供向けならむしろ好ましい要素だろう。少なくとも、神の子が生まれて賢者が贈り物にやってくるという話よりは分かりやすい。


「作ったのはアカネ先生だけど」

「……そう来たかぁ」

「エフィルロースからのイメージアップしたいという要望にも応えてもらった」

「うちの嫁が有能すぎる」


 道徳的なだけでなく、プレゼント交換とクリスマスの名前が、しっかりと盛り込まれているのがポイント高い。

 それだけでなく、明言はしていないが森の乙女エフィルロースのイメージも、確かに改善するかもしれなかった。


「なんとなく、名前も似てるしな」


 サンタクロースをエフィルロースの使いにするのは、ユウトが懸念した文化侵略になってしまうような気がするが、お互い様だと思うことにする。


「でも、リィヤ神はいったいなにを?」

「私は敏腕編集者ぐらいのポジション」

「……つまり?」

「先生の作品を広めるのが、私の仕事」


 要するに、ユウトのクリスマス計画に便乗したということなのだろう。

 この話をリィヤ神殿を通して広げることで、クリスマスというイベントも定着し、エフィルロースのイメージアップにつながり、リィヤ神もアカネの話を浸透させられる。


 もともと宗教行事だったので、違和感はない。


 誰も損をしない計画だ。


 しかし、上流工程で行われた作業の結果、下流のユウトの仕事がまたひとつ増えてしまったのは間違いない。


 ……のだが、簡素なクリスマスツリーをぐるりと一周したユウトに不満の色はなかった。


「とりあえず、感謝しないとだな」

「……意外」

「忙しいのは慣れてるし、直接神様が出てきて変な要望を言われないだけ助かるし。ほんと、そこはマジで」

「これが本当の売れっ子……」


 否定したかったが、できなかった。


 そこで、夢は終わりを告げた。


 目覚めたユウトは、てきぱきと吟遊詩人(バード)や美神の劇場の関係者にシナリオを送る準備を整え、初等教育院での上演の手配も行なった。できれば、来年からは生徒たちで上演してほしいという要望も添えて。

 テルティオーネはかなり迷惑そうだったが、表面上のことなのはよく分かっている。何事もなかったかのように、押し切った。


 その他の準備も進めていったが、その間も通常の業務がなくなるわけではなく。父やダァル=ルカッシュの力を借りても、綱渡りのようなスケジュールとなってしまった。


 そして、迎える冬至の日。


 その前日の夜に、ユウトはようやく解放された。


「やっと、終わった……」


 最後のチェックを終えて、ユウトは椅子の背もたれに体を預けた。


 だが、ユウトに安堵の色はない。


 クリスマスイベント自体の準備に時間を取られ、プレゼントのひとつも用意できていなかったのだ。冷静に考えると、これはかなりまずいのではないか。


 一応、視察名目で街へ出る予定はあるので、その時一緒に選ぼうとは思っていた。


 ――のだが。


「勇人、今、だいじょうぶ?」

「ん?」


 執務室に、アカネが来るのは珍しい。

 特に用事は思い当たらず、拒否することなど思い浮かばず。


「ああ。ちょうど終わったところだからって、……なんで、三人揃って?」


 しかし、アカネだけでなくヴァルトルーデとアルシアまで揃ってやってきたことに、驚きを隠せずにいた。


「明日はどたばたするのだろうから、今のうちがいいだろうとみんなで相談してな」

「そうそう。今のうちに、渡しておこうってね」

「一番乗りをしたかっただけだから、あまり気にしなくていいのよ」


 そこまで言われれば、ユウトも気付く。


「もしかして、クリスマスの……?」


 気付けば、ちょうど日付が変わっていた。


「じゃあ、せーので渡すわよ?」

「いや、さすがに、この大きさの物を三人では無理があるだろう?」

「ヴァル、練習までしておいてそれはないわよ」


 三人が、ちょっと窮屈そうに綺麗にラッピングされた小さな箱を差し出してきた。


 少しだけ早いクリスマスプレゼント。


「あ、ありがとう」

「ふふふ。ユウトくんが驚いているわ」

「あのユウトが……。たまには、いいものだな」

「ね? あたしが言った通りでしょ?」


 してやったりと笑い合う三人。


 とても魅力的で、目を逸らせない。


「ええと……。開けても?」

「もちろん」


 でも、そんな感情を悟られたくなくて、ユウトは無理やり意識をプレゼントへ向けた。


 執務机に置いて、下を向き、綺麗にラッピングを剥がすことに集中。


 数分で、プレゼントの正体が明らかになった。


 それは、香水だった。


「ちょっと三人で出かけて、一緒に調香してきたのよ」

「全然、気付かなかった……」


 それも無理はない。

 ここのところ追い込みで、ユウトは忙しかったのだから。


 それで、謎が解けた。


「つまり、俺が忙しくしてる間にサプライズを仕掛けた……。いや、サプライズを仕掛けるために、俺に仕事を与えたわけか」


 ユウトに、怒りの感情はない。


 むしろ、感心してしまった。


「うむ。特に魔法的な効果がない、ただいい匂いがするだけの物なのだが」

「毎年のクリスマスプレゼントなんだし、あんまり重たくならないように選んだのよ」

「うむ。私たちはほとんどなにもしていないから、感謝は主にアカネへだな」

「ダメよ。あくまでも、三人からのプレゼントなんだから」

「そうよ、ヴァル。来年はあなたが中心になって選ぶのだから」

「そうなのか? 聞いてないぞ」


 それは、ストッパーのアルシアとアカネのほうが苦労しそうだなと、ユウトは心の中でだけ笑った。


 そう。表情は、あくまで厳粛にしなければならない。


「あー。俺は、まったく用意してないんだけど……」

「いいの、いいの。それも作戦のうちなんだから」

「……ちょっと、意味が分からない」


 普通、プレゼントを忘れて笑って流すパートナーがいるだろうか。


「だって、勇人って全力でプレゼントを選んでくるじゃない?」

「そりゃ、普通手抜きはしないだろ」

「毎年毎年、婚約指輪とか結婚指輪レベルのプレゼントを用意されたら、お互いに大変でしょ?」

「いや。毎回、そのレベルを期待されても困るというか……」


 選ぶのに手抜きはしないが、もちろん、常識の範囲内でだ。


 ユウトはそう思っていたのだが、ヴァルトルーデやアルシアも目を合わせてくれなかった。


「う、うん……」


 つまり、先手を打って素朴だが心のこもったプレゼントを用意し、基準を示したということのようだった。


「というわけで、クリスマスプレゼントは使ってなくなるようなものがいいわね」

「結婚式の引き出物みたいなチョイスになってない?」


 負担を減らすという意味ではいいのだろうが、ロマン的にどうなのか。


「いいんですよ、ユウトくん」


 なおも釈然としないユウトに、アルシアが慈母のごとき笑顔で語りかける。


「私たちは、もうたくさんもらっていますからね」


 当然、ヴァルトルーデとアカネも同意見。


「……とりあえず、この香水はありがたく使わせてもらうよ。ありがとう」


 そう言うのが精一杯だった。


 それに、日頃の感謝を伝えるのなら、物や言葉以外にも方法はある。


 彼らは、実際に触れ合える距離にいるのだから。





 クリスマス以降、以降、ユウトの執務机には香水の小瓶が常に置かれるようになった。


 些細な変化。


 しかし、影響は大きい。


「ユウト、いっつも香水の瓶を眺めたりしてるけど、それをもらえるきっかけになったのはボクだったこと、忘れてないよね?」

「もちろん」


 ラーシアが執務室に来ても、ユウトは嫌な顔ひとつしない。

 むしろ、歓迎している雰囲気すらあった。


「感謝してるしてる。超してるよ」

「軽いっ。そのまま飛んでいきそうな軽さっ。助けてぇ、ユウトが浮かれてると逆に怖いんだけど!?」


 自称にして他称親友の言葉にも、余裕を持って対処できるようになったという。

久しぶりに、ちょっとだけ領地経営っぽい話を書いたような気がしないでもない。


というわけで、こっちは今年最後の更新になると思います。

長い番外編があったりしましたが、お付き合いいただきありがとうございました。


少し早いですが、来年もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 婚約用じゃないからって、百眼の外衣みたいの送られたりなんかしたらねぇ?
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