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番外編その11 High School Dungeons&Dreaming 第二十二話

申し訳ありません。

切り所の関係で、今回は短めです。

「はっ」


 ユウトが、風紀委員長のヴェルガをブルーワーズへ連れ帰ろうとした。

 あまりの衝撃に思わずユウトの胸ぐらを掴んでしまったアカネは、我に返って手を放し……。


「どういうつもりよ、勇人!?」


 結局、もう一度掴み直した。より強く。


「冷静になっても、やっぱり胸ぐら掴むのかよ……」


 ユウトも冒険者の端くれ。この程度苦しくもなんともないし、やるやらないは別として振り払うのは簡単。

 だが、アカネの剣幕には思うところがあったようだ。

 事前に相談しておくべきだったかなと、少しだけ目を逸らす。


「言っておくけど、浮気とかそういうのじゃないからな?」

「なんと。では、本気だと?」

「ヴェルガに、そういう低レベルな返しをしてほしくなかった……」


 完全に、ラーシアの悪影響以外のなにものでもなかった。


「そこは疑ってないわよ」

「あ、ありがとうございます」


 掴んでいたアカネの手が緩む。

 だが、それは一瞬だった。


「勇人のことだから、こう、盤面をひっくり返すのに必死で気付いてないかもしれないけど」


 ユウトの服を掴んだまま、アカネはキスができる距離まで顔を近づける。


「一人だけでもアレだったのに。痴女帝が二人になったら、世界の破滅よ?」

「おや? 妾は喧嘩を売られておるのかのう?」


 ヴェルガが面白そうに茶々を入れるが、アカネは完全に無視する。はっきり言って、それどころではない。


「勇人、冷静になりなさい。一人でさえも持て余してるのに、協力でもされたらさらに手に負えなくなるわ」

「妾は、怪獣かなにかかの?」

「でもそれは、帰ってからの話だよな」


 もちろん、ユウトは冷静だった。

 冷静にヴェルガの発言を無視して、真実を突きつける。


「……うっ」

「まずは、アンダーメイズを踏破しない限りは、話が進まない」


 風紀委員長のヴェルガが反対した状態では、最下層までの到達も覚束無いだろう。

 ヴェルガ抜きでもオベリスクまでたどり着けるだろうが、最悪どころか、当たり前のように邪魔をされる可能性が高い。


 ヴェルガが自力で気付いてしまった時点で、他のルートへの修正もできない。


 ある意味で詰んだ状況を覆す。アカネが言ったとおり盤面をひっくり返す手段が、ヴェルガとともに帰還するという提案だったのだ。


「えっと、それはほら。みんなと協力して……」

「ラーシアは、どっちに着くと思う?」

「そうね……。そうなるわよね……」


 結局、それが決定打となった。


 ユウトから手を放し、アカネは勢いよくベッドへ倒れ込んだ。

 反動で体。特に、胸が精神的な意味ではなく弾み、ヴァルトルーデとセネカ二世の目が細くなった。


「とはいえ、これはヴェルガにも言わなくちゃいけないことだが……」


 アカネのことは視界の端に収めるに止め、ユウトはベッドに座ったままヴェルガを見つめる。


「本当に、俺たちがいた世界へ渡れるのかは分からない」

「それは、承知の上よ」


 いきなり約束を反故にするような言葉も、ヴェルガには想定の範囲内でしかなかった。


「妾らは泡沫の夢のような存在であり、夢を見ている婿殿が目覚めてしまえば、それこそ(あぶく)のように消えてしまう。そうなれば、ともに生きることなど叶わぬ。そう言いたいのであろう?」

「ヴェルガ。断言してもいいが、ユウトはそこまで言っていないぞ」


 横で聞いていたヴァルトルーデが、美しい瞳をさらに細めて指摘した。


「ともに生きるなどと、いったい、どこから出てきたというのだ」

「無論、行間からよ」

「……なるほど」

「いや、ヴァル。そこは納得しないでほしいんだけど」


 その行間は広すぎる。なんでも好きに書き込めるほどに。


「まあ、ヴェルガが転校するというのであれば、私は一向に構わないと答えるしかないわけだが」

「セネカも、それには同意します」


 聖女と神王が、揃ってうなずいた。


 元の世界への移動が転校と認識されていることに、ユウトは感心してしまった。この辺りに、ユウトとアカネが元の世界へ戻ることを、あっさりと認めた秘密があるようにも思える。


 もちろん、二人の心の有り様は聖人に近く、常人には与り知れないというのが大きいのだろうが。


「なんとでも言うが良いわ。妾は許そう」


 赤毛の女帝は、傲慢に。そして、淫靡に言い放った。


「妾は、婿殿の世界へ行く。こんなチャンスは、二度とあるまい」

「信じるのか? 俺の話が、どこまで本当か分からないのに?」

「確かにの。要は、保証のない空手形に乗せられようとしておるわけよな」


 不審の言葉。

 だが、その淫猥で嬉しそうな表情は、とても詐欺の被害にあっているとは思えない。


 騙されるなら騙されるで、それも一興。むしろ、それもユウトの愛。


 このシチュエーションを。否、ユウトとの蜜月を本気で心の底から楽しんでいた。


「こんなこと、前にもあったわよね……」


 ようやくベッドから起き上がったアカネが、髪を整えながらため息をつく。

 次元竜(クロノスドラゴン)ダァル=ルカッシュとの邂逅を経て、ユウトとヴァルトルーデだけが地球への帰還を余儀なくされた後。


 こともあろうか、赤毛の女帝はフォリオ=ファリナの百層迷宮を踏破し、アカネやアルシアたちとともにユウトを追って地球へたどり着いたのだ。


 ヴェルガの再現度が高すぎる。無駄に。


「というか、あれよね。勇人、こっちとあっちのヴェルガをかみ合わせるとか、そんなことを考えてるわよね?」

「……そんなこと、もちろんあるさ」

「うむうむ。妥当なところよな」


 ユウトの素直な吐露に、あろうことかヴェルガもうなずく。

 元々相性の悪いヴァルトルーデだけでなく、セネカ二世まで理解できないと不躾な視線を注ぐ。


 けれど、それを気にするヴェルガではない。


「妾よりもよほど長い期間、婿殿と一緒にいながら別の女にかっさらわれる為体(ていたらく)。実際に会ったら、きつく叱ってやらねばな」

「なにそれ怖い。絶対、スーパーヴェルガ大戦ってなるじゃない……」


 同属嫌悪の最たる物だろうか。

 ヴァルトルーデを相手に引かなかったというヴェルガが、ヴェルガと一騎打ち。


「絶対に、一騎打ちにならないわよね……」

「手下を作るのは、上手いからな……」

死界の王(ノーライフキング)も、一瞬で部下にしていましたね……」


 アカネだけでなく、ヴァルトルーデやセネカ二世も真っ暗な青写真に絶句してしまう。


「まあ、そこは迷惑とか影響が出そうだったら――」

「出るわよ、確実に」

「――とにかく、ヴェルガに関してはヘレノニア神がきっとなんとかしてくれるさ」


 そもそも、元の世界のヴェルガは行方知れずだ。そうそう、危機的な状況にはならない……はず。


「それに、向こうに帰れば、俺と朱音だけじゃないし」


 もう、隠していても仕方がないと開き直ったようだ。

 ユウトが、その結論に至った最大の理由を口にする。


「ヴァル、アルシア姐さん、ヨナ、エグザイルのおっさん。それに、ラーシア。みんなの力を借りてなんとかするさ。俺たちだけが苦労するってのも、不公平だしな」


 ユウトがそう言って、懐かしそうに笑った。

 そのタイミングで、部屋の外から控えめな声が聞こえてくる。


「ユウト様、よろしいですか?」


 同時に、コロが前肢で扉を叩く音がした。


「あの……。ユウト様の親友だと仰る草原の種族(マグナー)の方と一緒になったのですが……」


 散歩から戻ってきたカグラが、扉の外から控えめに言った。


「勇人の親友の草原の種族(マグナー)……。一人しかいないわね」

「……仲間の力を借りるって話の中で、ラーシアは除外すべきだった」


 これでは、否定したくてもできない。

 後悔先に立たずだとため息をつきながら、ユウトはベッドから立ち上がった。


「ちょっと、追い返してくる」

「はいはい。ごゆっくり、どうぞ」


 温かな言葉と視線に見送られ、ユウトはカグラに礼を言ってからコロを抱き上げた。

 コロの柔らかく温かな感触で活力を得たユウトは玄関へ向かい、そこで待つラーシアと対面した。


 なぜか、革鎧(ソフトレザー)短弓(ショートボウ)で武装しているラーシアと。


「やあ、ユウト」


 ラーシアのことを知らなければ、天真爛漫な子供のようなと表現するだろう笑顔で、大きく手を振った。


 まるで、再会を祝うかのように。


「久しぶり! 元気にハーレムしてた? 学園天国?」

「は? 学校で、毎日顔を突き合わせて……まさか」


 ユウトは気付いた。

 気付いてしまった。


 勘が良すぎるのも考え物だが、今さら事実は覆せない。


 ラーシアだ。目の前のそれは、確かに絶対間違いなくラーシアだ。


「もしかして……もしかして……本物……か……?」

「もちろん」


 誤解の余地無く言い切って、親指をくっと立てる。


「大きなことを言うようだけど、ユウトの親友の草原の種族(マグナー)といったら、今やこの世界で……ボク一人だからね!」

「マジか……」


 ユウトは、その場で崩れ落ちた。

 その頬を、コロが心配そうにペロペロと舐めるのを止めることもできず。


 ただただ、その場にうな垂れ……ラーシアはいたずらが成功した子供のように喜んでいた。

チューチュートレインみたく、ラーシア(真)の後ろからラーシア(夢)を出そうか少し迷った。


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[一言] Choo Choo TRAINの次はマトリョーシカに挑戦してくれるに違いない
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