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番外編その11 High School Dungeons&Dreaming 第一話

ハリルホジッチ解任でほとほと嫌気がさし、まったく書けなくなってウィッチャー3ばっかりやってましたが、ようやく帰って参りました。


今回の番外編はかなり長くなりそうな気がしますが、お付き合いいただけましたら幸いです。

「勇人っ」

「……」

「勇人!」

「……」

「起きて、勇人ッ!」


 乱暴に体を揺すられて、天草勇人はむくりと体を起こした。


 しかし、すぐに再起動完了とはいかない。あくびをこらえながら、不思議そうに周囲を見回す。

 その視線はすぐに、栗色の髪を肩の辺りまで伸ばした華やかな少女で停止した。


 余程急いでいたのか。額に汗が浮かび、切羽詰まった表情をしている。


「朱音……? あれ? なんで制服?」

「良かった。勇人は、正常みたいね」

「それ、あんまり聞かない評価だなぁ……って、俺も制服?」


 それ以前に、ファルヴの執務室ではなく高校時代の教室だった。場所どころか、世界が違う。

 見憶えのある。けれど、あり得ない光景。

 前後の記憶も曖昧で、脳が現実を拒んでいる。


「勇人、こっち来て」


 アカネに手首を掴まれ、なにがなんだか分からないうちに立ち上がった。抵抗しても無意味だと、経験上知っている。


「ヒューッ! こいつは熱いね!」


 聞き憶えのある殴りたい声に見送られ、ユウトとアカネが教室を出ていった。手を掴まれたまま、人気のない場所へ。


 冷静に考えると、とんでもないことをしているような気がする。


 だが、それどころではない。


 なすがまま廊下を走りながら、ユウトはようやく事態を理解し始めていた。


「……誰からの攻撃だ?」

「夢じゃなくて、そこにたどり着いちゃうのがあれよね」


 顔は見えないが、苦笑の気配は伝わってくる。

 最低限の理解だけ共有しつつ、二人は階段を上って屋上への扉の前。奥まった、人気のない場所に到着した。


「屋上の鍵は……開いてないのね」

「その辺はリアルというか、なんというか」


 屋上へ出るのは諦めて、二人はしゃがみ込んだ。


 視線を合わせ、深刻な表情をしているパートナーの顔が目に入ると、同時に笑った。それで、緊張がほぐれたらしい。


「とりあえず、状況を整理しよう」


 人差し指をくるくると回しながら、声をひそめてユウトが言った。


「なんらかの干渉を受けて、俺と朱音は精神世界に飛ばされた。あるいは、共通の夢を見ているものと思われる」

「ただ地球に飛ばされたわけじゃないのよね?」

「正直、地球とブルーワーズの関係を考えると、そっちのほうが遥かに難易度が高い」


 そして、容疑者は次元竜(クロノス・ドラゴン)ダァル=ルカッシュぐらいしか考えられない。

 だから、候補からは外れると、ユウトが断言する。


「あと、ラーシアっぽいのがいたしな」

「いたわね……」


 あのはやし立て方。間違いなく、ラーシアだ。


 この不可思議な状況に、仲間がいる。


 心強い。

 そのはずなのだが、不安しか感じないのはなぜだろうか。


 目を逸らしたユウトとアカネだったが、今は、より重要な問題がある。


「なにより、俺は、これと同じ状況を知っている」

「それって……あ、あの痴女帝の!」


 赤毛の女帝ヴェルガ。

 悪の半神の奸計によって、ユウトはブルーワーズへの転移とヴェルガとの出会いをやり直しさせられたことがあった。


「確かに、そっくりよね。あのユウト洗脳オープンワールドに」

「オープンワールド呼ばわりは止めろ」


 事実にかなり近いだけに。途中まで、必死に頑張っていた自分がいたたまれない。


「ということはつまり、今回も?」

「可能性はあるけど、それなら朱音を一緒に取り込んだりはしないだろう」


 なんらかの事故でアカネが巻き込まれた可能性もあるが、ヴェルガが、そんなことをするだろうかという思いのほうが強い。


 ある意味、信頼しているとも言えるだろうか。


「他に考えられるのは、どっかの神様か、ヴァイナマリネンのジイさんか、それ以外のなにかか……」


 アカネが持っている神々の護符の防御を貫いているのだから、悪意はないと思いたい。

 だが、今のところは情報が足りない。


 ひとまず、学校生活をこなしつつ、情報を集めていくべきだろう。迂遠にも思えるが、常に拙速にとはいかない。


 なにしろ、魔法を使えるのかも、まだ分かっていないのだ。


「そもそも、私がこう(・・)なんだから、夢とかそっち系よね」

「こう?」

「そうよ。違ってるでしょ?」


 意味ありげに笑うアカネを、ユウトが自然に眺めやる。


 胸元のリボンは緩められ、ブラウスのボタンも外れていた。

 他の誰かが同じことをしていれば下品と感じただろうが、制服を着崩したアカネ不思議と魅力的だ。


 惚れた弱みもあるだろうが、彼女の派手な容姿と合っているからだろう。


 久しく見ていないが、つまるところ、いつも通り。


「いつも通り可愛いが」

「うんうん……って、違うわよ。違わないけど、そこじゃないわよ!」

「ああ……。そうか」


 久々の制服姿だから、気付かなかった。


「お腹が……」

「そうなのよ」


 出産を控え、大きくなっていたお腹が元に戻っていた。

 最悪の事態すら過り、ユウトがすっと目を細める。


「そりゃ、夢じゃないと困るな」

「はい。怖い顔しない」


 両手でユウトの顔を包み込み、アカネはにっこりと笑った。

 こうなることが分かっていたようだ。


「大丈夫よ」

「根拠がないんだが」

「あたしは、母親よ」


 ユウトは、両手を挙げて降参した。そう断言されては、男にはどうしようもない。


「まったく、朱音には敵わないな」

「あら? 勇人が勝てる相手っているかしら」

「そりゃ……」


 ユウトはいくつもの顔を思い浮かべ……。


 あっさりと、話を逸らした。


「でも、俺たちって、今、何歳なんだろうな……?」

「勇人」

「あっちで二年過ごした頃に朱音が来て、それから――」

「――勇人」


 発する言葉は同じ。

 それなのに、冷たく鋭い声だった。


「今はそれどころじゃないでしょ?」

「あ、はい」


 わけの分からない状況に陥っても、とりあえず、二人の関係は変わらないようだった。





「いやぁ。案外早いお帰りだったね」

「やっぱ、うぜぇのがいたな」

「せっかくだから、アカネと二人でもっとゆっくりしていけばよかったのに。ボクたちの昼休みは、まだ始まったばかりだぜ」

「ラーシアの再現度高え……」

「ところで、ゆっくりしてって、なにをするんだろうね?」

「実は、この中に殺人鬼がいるので、こんなところにいないで自分の部屋とかに引きこもったほうが良いぞ?」

「斬新な死亡フラグ!?」


 教室に戻ったユウトとアカネを出迎えたのは、ラーシア。


 紛れもなく、ラーシアだった。

 子供のように身長は低く、子供のような天真爛漫な笑顔を浮かべ、子供のように性質が悪い。


 そのラーシアが、高校の制服に身を包み、ユウトのことを親友だと接している。


「相変わらずの二人ね……。会話内容だけ聞いてると、お互いにまったく話を聞いてないわ……」

「なぜ、そこで俺にまで流れ弾が飛んでくるのか」


 アカネの感想は納得いかなかったが、人間関係だけは保持したまま、夢の世界に放り込まれていると考えて良さそうだった。


 ただ、相手がラーシアだから、確信とまではいかない。


 だから、ユウトは一歩踏み込むことにした。


「なあ、ラーシア」

「なんだい、ユウト?」

「俺、異世界で大魔術師(アーク・メイジ)になって世界を作った後、領地経営とかしてたんだ」

「そっかー。いいんじゃない?」


 いきなり荒唐無稽なこと――紛れもない事実なのだが――を言われても、ラーシアは動じない。腕を組み、ふむふむと理解を示す。


「でも、まさかユウトまで、Webマンガデビューを狙ってるとは」

「いや、そういうんじゃないんだが」

「まあ、実際に魔法使えるんだし、そういうのもありでしょ。自分の特技や経験を作品に活かせれば、大きなアドバンテージと差別化になるし」

「編集者かっ」


 とりあえず、条件反射でツッコんでしまったが、魔法、使えるらしい。

 ということは、地球にもかかわらず、魔法が普通に使える世界設定になっているようだ。


「確認事項が、また増えた……」

「どうなってるのかしらね……」


 そもそも、ラーシアやエグザイルが同じクラスにいる時点でおかしいのだが、当事者としては混乱するばかり。


「授業受けてる場合じゃないんじゃない?」

「俺もそうしたいところだけど、ここまでくると、授業にも情報があるような気がしないか?」

「その可能性ありそう……」


 思い悩むユウトとアカネ。


「ユウト」


 そこに、深い重低音で名前を呼ばれた。

 そちらに目をやると、予想通りでありながら、想像を絶する光景が広がっていた。


 エグザイルが、その巨体を制服にぎゅうぎゅうに詰め込み、特大サイズの椅子に座っている。


「騒いでないで、早くこっちに来い」


 机を挟んだ対面には、妻――なのかどうかはわからないが――スアルム。二人は、重箱を広げ、こちらを待っていた。

 もちろん、スアルムも制服を身につけており、似合うに合わない以前に、違和感しかない。


 それよりもなによりも。


 二人が仲睦まじ過ぎて、割って入れそうになかった。


「まさかの、岩巨人(ジャールート)一番のリア充問題」

「問題って……。いや、まあ、言いたいことは分かるけどよ」

「でも、実際、スアルムさんは義理の妹で幼なじみだし……どこのギャルゲーの主人公よってことになるのよね。手から和菓子とか出すの?」

「出さねえだろ、さすがに」

「ファルヴの地下では、一年中桜が咲いてるのに」


 こそこそと喋るユウトとアカネを見かねて、エグザイルが肩をすくめる。


「なにを言っているんだ。オレたちは、そういうんじゃないんだが」

「ほんと、そういうところよね!」


 完全に鈍感系主人公ムーブじゃないと、アカネが声をあげた。どことなく、嬉しそうだ。


 しかし、すぐに真顔に変わった。

 次なる。

 そして、なくてはならない人物が姿を現したから。


「天草勇人は、いるだろうか?」


 彼女の姿を目にした瞬間。いや、その前。教室に入ってきた途端、空気が一変した。


 昼休みの騒がしさは消え去り、神妙さを通り越して、神聖な雰囲気すら漂い始める。教室が、一瞬にして神社のような聖域に変わった。


 彼女の存在は、そして、美しさには、それだけの力があった。


 けれど、彼女は自らの存在を美を特別視することはない。周囲の反応にも、特段の興味を示さない。


 ただ、自らの目的を達成するために行動する。


「天草勇人に、話があるのだ。アンダーメイズ攻略に関する、重要な話だ」

「……ヴァル?」

「ああ。ヴァルトルーデ・イスタスだ。キミが、天草勇人だな」


 どうやら、ここでは初対面らしい。

 他人行儀なヴァルトルーデに面食らいながら、それでも、アンダーメイズという新しい単語――情報を逃すわけにはいかない。


「生徒会長だ。ユウトになんの用だろうね?」


 しかし、それはラーシアからもたらされた新たな情報に容易く上書きされてしまった。


「生徒会長?」


 ヴァルが? 生徒会長? 大丈夫なのか?


 自分の境遇を棚に上げた状態だが、ユウトの心には、心配しかなかった。

ついに手を出してしまった学園パロディ。

キャラを出すだけで文章を使うのに、見切り発車で始めてしまった番外編。

果たして、いつになったら本筋には入れるのか。


作者にも謎ですが、とりあえず、毎週日曜日に更新の予定です。

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