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番外編その7 漂泊の守護神 エピローグ

今週は二話投稿しています。

前話をお読みでない場合は、そちらからお読みください。

 次元の穴を消滅させた、少し後のこと。

 コックピットから出ようとしたユウトの目の前に、花で編まれた玉座と、黒いトーガを身に纏った少女神が姿を現した。


 シュヘンダークのように立体映像というわけではない。


 部分的な顕現。それにより、世界が歪んでいるのだ。

 加えて、時間も止まっているのかもしれない。同じくコックピットから出ようとしたアルシアが、その途中で静止しているのが、その証拠だ。


「こんなに早くお出でになるとは、思っていませんでした」


 操縦席に戻りつつ、ユウトは玉座に座る少女――トラス=シンク神に軽く頭を下げる。


 その言葉は本当で、ここが青き盟約の世界(ブルーワーズ)ではなく、『忘却の大地』と知ってからは、単に送還してくれるだけだと思っていた。


「こちらの神には話を通してあるのじゃ。それに、大仕事を終えた眷属を労わねば神の名が廃るのじゃ」

「俺は眷属じゃ……。いや、いいです」


 否定しても、ゼラス神の眷属であるユウトは、自らの眷属同然と言われるだけだ。


 それよりも、ユウトは異質なる征服者アナザー・コンクエストについて尋ねることにする。


「まさか、あんな危険なのがいるとは思ってもみませんでした」

「それは、すまないことをしたのじゃが、此方も知らなかったのじゃ」

「……は?」

「なにせ、管轄違いじゃ」

「まあ、それはそうなんでしょうけど……」


 管轄違いと聞くとお役所仕事が思い浮かぶが、この場合は、まさに世界が違うのだ。下手に干渉したら、別の危機が発生しかねない。


「コボルドたち――ドラゴン・キンがおったじゃろう?」

「ええ。島に残ってますけど……」

「あのまま二種のコボルドの抗争が激化すると全面衝突が起こるのじゃ」

「それで?」

「ドラゴン・キンが負けるのじゃが、そのうちの一人が復讐を誓って邪悪なドラゴンに変生し、こっちにまで災厄をまき散らすところだったのじゃ」

「ええええ……」


 異質なる征服者アナザー・コンクエストが発生せず、そのため、モールゴシュも介入せず。

 そんな場合には、起こりうる未来だったのか。


 まったく想像の斜め上の言葉に、ユウトは言葉がない。


 異質なる征服者アナザー・コンクエストに関しては、


「まあ、そこも含めて解決したんだから、別にいいですけど」

「そう言ってもらえると、此方も助かるのじゃ」


 報告は終わった。


「では、そろそろ帰ら――」

「それで報酬じゃが……」


 しかし、話は終わっていなかった。


「俺とアルシア姐さんがバカンスをもらってますから。もう、前払いでもらってます」

「……それでは、神の威厳が保たれんのじゃが。……そうじゃ」

「今思いついたように言ってますけど、絶対に考えてきてますよね?」

「この度、授かった子が健やかに育つよう、此方の加護を山盛りで与えるというのはどうじゃ?」

「それは、まあ、駄目って言ってもやるでしょうから反対はしませんが、山盛りはちょっと……」


 そこまで言って、ユウトは違和感に気づいた。


「って、この度? 子供が?」

「うむ。ばっちりなのじゃ」

「……ありがとうございます」


 ユウトとしては、そう言う他になかった。

 もちろん、心当たりは山ほどあるので、驚きはしたが意外ではない。


「まあ、正確には、これからできるのじゃが」

「……は?」

「というわけで、休暇はここからが本番。しっかり楽しむのじゃ」

「あれ? アルシア姐さんと話していかなくて――」

「ふははははははのじゃ」


 そう謎の笑い声を残し、花の玉座とともにトラス=シンク神が消えていく。


(あれか。子供ができたら、アルシア姐さんの夢に出るつもりで、今回アルシア姐さんをスルーしたんだな)


「ユウトくん、どうしたの? 降りないの?」

「いや。ちょっと、ぼーっとしてただけだよ」


 神が義母だと、大変だ。


 愛する妻の後ろ姿を眺めつつ、世界を救ったばかりの大魔術師(アーク・メイジ)は、しみじみとため息を吐いた。





「……ということがあったのさ」


 数日後。

 死と魔術の女神からの探索行(クエスト)を果たしたユウトとアルシアは、ファルヴへの帰還を果たした。

 そして、旅の塵を落とす間もなく、ユウトの執務室に集まった仲間たちになにが起こったのか語り終えた。


 ユウトは、一週間ほど不在にした間に積み重なった書類を時折横目に見つつ、だったが。


「ロボット、どこ?」

「可愛く聞いても、ヨナにあげたりしないぞ」

「え?」

「なぜ、もらえるつもりだったのかが気になる」


 真っ先にリアクションをしたのは、ヨナ。

 ユウトとアルシアが無事に帰ってくるのは当然だと、アルスマキナの行方を問う。


 というよりは、お土産をねだる子供のようでもあったが。


 しかし、ユウトとしては温泉まんじゅう感覚で渡すわけにはいかない。


「とりあえず、海に沈めておいた」


 あの後、アルスマキナは、無人島近くの海に沈めておいた。間違っても、誰かが乗り込んだりしないよう、ハッチには呪文で厳重に封印を施して。

 コボルドたちの後処理もあり、近日中に、また訪れることになるだろう。


「なるほど。ニューノーチラスのパターンね」

「そういうことなら、仕方ない」


 てっきり文句を言われるかと思っていたユウトだったが、予想外の反応を受けて拍子抜けしてしまった。


 そんなユウトは無視して、アカネとヨナが、分かり合ったかのようにサムズアップしている。見れば、ラーシアもうんうんとうなずいていた。


 あまり関わり合いになりたくない。


「ヨナに渡すかどうかは別にしてだ」


 黙って話を聞いていたヴァルトルーデが、子供を産んでからさらに輝きを増した美貌にわずかな憂いを浮かべて言った。


「そのアルスマキナとやらは、破棄するにはいかないだろうな。そうそう出番はないだろうが、今後、必要になる場面が出てくるかもしれない」

「殴っても殺せないのは、厄介だからな」

「うむ」


 イスタス公爵家の物理担当が、そろってうなずいた。


「そう考えると、なにか起こったときのために、アルスマキナがどういうものなのか。研究しておくべきかもしれないわね」


 意外にも、アルシアが積極的にアルスマキナの仕組みを知っておくべきだと主張した。

 同乗経験のある彼女だけに、切実な問題なのかもしれない。


 けれど、その重大さを共有とまではいかなかった。


「え!? 量産型を作るって!?」

「エンジン爆発する?」

「欠陥機じゃねーか」


 しかも、なぜヨナは赤い瞳を輝かせているのか。普段は感情を表に出さないのに、うれしそうなのはどうしてなのか。


「アルシア姉さんの言う通りではあるけど、俺たちじゃ時間も技術もないぞ」

「巨大ロボットなんだから、真名ちゃんのところに丸投げしちゃえば?」

「それか、ヴァイナマリネンのジイさんか……」


 アカネの提案に、ユウトは考え込む。


 いわゆる科学技術がどの程度使われているのか分からないが、それを知るためにも賢哲会議(ダニシュメンド)の協力は必要かもしれない。

 この場にはいないが、真名としても、点数稼ぎにいいだろう。稼げる点数が膨大すぎて、逆に困らせるような気もするが、考えないこととする。


「パイロットやる!」

「操縦席、ヨナの身長じゃフットペダルまで足が届かないような」

「チャイルドシートがあれば、いけるんじゃない?」

「チャイルドシートで解消する問題か?」


 最終的に、アルスマキナはヴァイナマリネンに引き取られ、賢哲会議(ダニシュメンド)と共同研究となる。

 そして、ユウトたちが神となった後に量産型が大いに活躍するのだが……。それはまだ、かなり先の話だ。


「ところでさあ、ユウト?」

「ラーシアから渡されたアイテム類なら、結構役に立ったぞ。ありがとう」

「違う違う。ボクが、そんな細かいことを気にするようなちっちゃい人間だと思ってるの?」

「……じゃあ、なんだよ」


 思っているという本音を飲み込みながら、ユウトは言った。


「聞いた冒険の話と、ユウトとアルシアが帰ってくるまでの日数。ちょっとばっかし、計算が合わないんだけど?」


 そして、後悔した。


「気のせいだろ」

「計算が合わないんだけどぉ?」

「うぜぇ」

「やったね!」


 ユウトが心底。本当に心の底から嫌そうな表情を浮かべると、ラーシアは小さな拳を天に振り上げた。


「そーだよ。トラス=シンク神からの迎えが来るまで、何日かアルシア姐さんと二人きりで過ごしたよ。これで満足か?」

「うん!」


 プリントアウトして飾りたくなるほどいい笑顔で、ラーシアがうなずいた。


 ユウトが被弾しているおかげで矢面に立たずに済んでいるアルシアは、少しだけ表情を硬くしていた。

 それに気づいたヴァルトルーデが、気遣わしげに幼なじみに問いかける。


「アルシア、どうかしたのか?」

「いえ、なにも?」


 そのヴァルトルーデに、アルシアは表情を変えずに答えた。


「それなら、いいのだが……」


 やや納得いかない表情を見せるものの、ヴァルトルーデ自身、なぜ疑っているのか分からず首を傾げた。


 そうした仕草だけでも、ヴァルトルーデは美しい。


 しかし、ヴァルトルーデは――ついでに、ラーシアも――知らなかった。


 ファルヴから旅立って戻ってくるまでは一週間だったが、実際にユウトとアルシアが無人島にいたのは10日以上だったことを。


 帰還の際、トラス=シンク神が気を利かせ(・・・・・)、戻る時点をずらしたのだ。


 そのことに、次元竜(クロノス・ドラゴン)ダァル=ルカッシュだけは気づいていたが、誰にも喋るつもりはないようだった。


 ユウトが、仕事を処理する限りは。

友人「誤字チェックしたよ」

藤崎「ありがと~」

友人「でも、これさ。もう、番外編じゃなくて、普通に続編だよな?」

藤崎「……うん」



というわけで、三ヶ月ぐらいかかってしまいましたが、番外編その7完結です。

お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

さすがにもう、こんなに長い番外編はないと思います。ないはずです。


……ないといいなぁ。


それから、ノクターンで連載した『変奏のアルスマキナ』との関係について、

活動報告で軽く解説していますので、よろしければそちらもどうぞ。

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