番外編その7 漂泊の守護神 第十五話
本日は二話投稿。一話目です。
今回は、好きなロボットアニメのオープニングを聞きながら読むといいと思います(後書きに続く)。
華々しくこの世界に生まれ出でたアルスマキナ。
黒竜が、畏敬と憧憬のまなざしを向ける機械仕掛けの英雄。
「これ、どうやって制御するんだよ!?」
「ユウトくん、ちょっと話が違うのではない?」
しかし、その内部は混乱の極みにあった。
二本のレバーとフットペダルで操縦できるのだろうと高をくくっていたユウトだったが、まさか、いきなり空を飛ぶとは予想だにしていなかったのだ。
チュートリアルをすっ飛ばしていきなり実地訓練に放り込まれたようなもの。
「……そう考えると、結構、そんな目に遭ってきた気がするなぁ!」
ろくでもないことに気づいてしまったユウトは、操縦桿から手を放して呪文書を取り出した。
「《本質直感》」
第九階梯の理術呪文《本質直感》は、術者に理屈を超えて正解を悟る能力を与える。
その第六感により、アルスマキナの操縦法を“知った”ユウトは、フットペダルを思い切り踏み込んだ。
すると、アルスマキナはさらに上空高く飛んでいく。
「よし。こっちが出力か。なら……ッッ」
続けて、二本の操縦桿をぐっと押すと、角度を付けて下降していった。
「きゃあ」
下の操縦席から、かわいい悲鳴が聞こえてくるのが気になったが、今は操縦に集中しなくてはならない。
ユウトが操縦桿をそろって左に倒すと、アルスマキナが左に移動する。角度を微妙に変えると、今度は旋回し始めた。
「きゃああっ」
操縦桿を右に倒せば右に、引くと上昇。左右のレバーを異なる方向に倒すと、機体がひねりながら飛んでいく。
「……ユウトくん……少し加減というものを……」
「ごめん。感覚的に動くから、つい」
下の操縦席から恨みがましい視線を向けるアルシアに、ユウトは言い訳をしつつ謝った。
その間にもペダルと操縦桿を小刻みに操作し、アルスマキナをなんとか一定の高度に保っている。
「制御できているみたいだから、構わないのだけど……」
怖かったわけでも、酔ったわけでもない。
ただ、驚いただけなのよと、アルシアは弁解しつつ微笑んだ。普段に比べて、だいぶ引きつった微笑ではあったが。
「うん。感覚的にいけそうだ」
「そう……。感覚的なの……」
感覚。ユウトからは、あまり聞きたくない言葉だった。
しかし、《本質直感》で操縦法を“知った”ユウトには、他に説明する言葉がない。
「これがヴァルだったら、むしろ歓迎するぐらいなのにね……」
というよりも、ヴァルトルーデが論理的に……などと言い出すほうが恐ろしい。世界が破滅する。
「しかし、動かせはしたけど、どうやって次元の穴や異質なる征服者に対抗すればいいんだ?」
「まさか、穴に突っ込んで自爆なんて言わないわよね?」
「それはないと信じたいな……。なにか、武器はないのか?」
そのつぶやきに反応したかのように、エレメンタル・リアクターがうなりを上げた。
勇壮でテンポの速い音楽が天に響き、アルスマキナの右腕に光が宿る。それが一気に伸びると、次の瞬間光が消え去り、一振りの剣に姿を変えていた。
長大な、見る角度によっては長さを錯覚してしまいそうな両刃の剣。鍛え上げられた刃は純白で、硬質でありながら優しい光を放っている。
「音声に反応した? それとも、俺の意思を汲んで……?」
だが、ユウトは優美な両手剣ではなく、それを生んだ仕組みに心をとらわれていた。武器を生成。もしくは、召喚したメカニズムは、いくらでも理術呪文で説明はできる。
けれど、それを発動させたきっかけは、単純な合い言葉式では説明がつかない。
「ユウトくん! 外でモールゴシュがなにか言っているわよ?」
「ん?」
操縦と思考にかかり切りになっていたユウトに対し、アルシアはコックピットの全面に表示されているスクリーンに注意を向ける余裕があった。
二人乗りだったことに感謝しつつユウトがスクリーンを見ると、モールゴシュが翼をはためかせ遙か上空を目指して飛び上がっていた。
まるで、なにかから逃げ出すかのように。
いや、実際に逃げ出しているのだ。
「異質なる征服者……」
天敵の出現に反応したとでもいうのか。
先ほど目撃したのと同じ、手足が異常に長く直角に折れ曲がり、筒状になった頭部を持つ異質なる征服者がモールゴシュの後を追っていた。
ただ、先ほど目撃したそれより巨大で、その背中には天使のような翼が生えている。
異質なる征服者と、天使の羽の組み合わせは、醜いの一言。マイナスとプラスを掛け合わせればマイナスになるのと同じように、醜悪さを強調するだけ。
その異質なる征服者が、ぐるりと筒状の頭を回し、アルスマキナと目を合わす。
獲物を見つけたと表現するには無機質で、機械的と呼ぶには不気味に過ぎた。
そして、こちらへ一直線に向かってきた。
「ユウトくん、どうします?」
それは、ユウトに方針を委ねるのではなく、決断を促す言葉だった。
ここから呪文を使って対応する。
この機体を捨てる。
そして、このアルスマキナで異質なる征服者に対抗する。
選択肢は、二人で共有している。だから、アルシアがすべきなのは、ユウトへの信頼を言葉にすることだけ。
「アルシア、俺に命を預けてくれ」
「もちろん」
ユウトの男らしい言葉に、アルシアの胸の内が燃え上がる。
一方、このときのユウトに失敗したら世界が滅びる――などという雑念は存在しない。負けたらどうしようなどという心配もない。
アルシアとともに目の前の脅威を取り除く。
そのことだけに、集中していた。
「さぁて、頼むぞ」
ユウトが唇を舐めながら操縦桿を引くと、アルスマキナがそれにあわせて巨大な両手剣を頭上に振りかぶった。
先ほどと同じ操作で、異なる動き。状況にあわせてアルスマキナ側が処理をしているのか、それとも、操縦者の意思に反応しているのか。
分からないが、ユウトの思うとおりに動く。今は、それで充分だ。
巨大な両手剣を振り上げたアルスマキナに対し、翼を生やした異質なる征服者が突撃してくる。
「やああぁっっ」
突っ込んできた異質なる征服者にタイミングを合わせ、ユウトは全力で操縦桿を押した。
それと連動し、アルスマキナが両手剣を振り下ろす。
一閃。
ヴァルトルーデの鋭さと、エグザイルの力強さを兼ね備えたかのような斬撃。
――直後、異質なる征服者は停止した。
「……しまった」
簡単なフェイント。
しかし、操縦に不慣れなユウトには効果的だった。
たったそれだけの引っかけで、両手剣は空を、空だけを斬り、異質なる征服者は嘲笑うかのように再び突っ込んでくる。
《本質直感》によってそれが分かるのに、空振った直後のユウトは、対応できない。
「お願い、動いて」
けれど、コックピットにはアルシアもいた。
祈るような気持ちで――これは、彼女の専門分野だ――フットペダルを踏むと、アルスマキナは上でも下でもなく、そのまま前へ進んだ。
それで進路が逸れ、異質なる征服者はアルスマキナの左足に衝突する。
それが良かったのか、先ほど目撃した巨木のような消滅は避けられた。
「足一本ぐらいで!」
ユウトは操縦桿を回して、アルスマキナを反転。足を消滅させ通り過ぎていった異質なる征服者と相対する。
足は人間で言えば腿にあたる部分の先からなくなっていたが、ユウトたちは無傷。
飛んでいるんだから行動に支障もない。あるいは、これを見越してシュヘンダークは空へ発進させたのか。
なら、そもそもなぜ足があるのか。
そんな疑問は、どうでも良かった。
異質なる征服者は、未だ健在。アルスマキナの足を消滅させた分、一回り小さくなっているが、逃げ出そうともせずこちらを狙っている。
単に、次元の穴を広げるだけであれば、また、その辺の木でも山にでも突っ込めばいい。そうしないのはつまり、このアルスマキナを脅威として認識しているからに違いなかった。
「もう、同じ失敗はできないな……。素人なのに、難易度高いぜ……」
両手剣を構えず、だらりと下ろしたままユウトがつぶやく。
一方、異質なる征服者もこちらの出方を見守っていた。
訪れる、膠着状態。
そのまま数分過ぎ去ろうとしたところ、突如としてアルシアが振り返った。
「ユウトくん、なにかボタンが出てきたわよ」
「押して!」
ユウトにも、なにがなんだか分かってはいない。だが、《本質直感》のささやきではなく、ユウトはシュヘンダークを信じた。正確には、その狂気を。
果たして、その賭は成功だった。
アルシアがコンソールに出現したボタンを押すと同時に、アルスマキナの胸の部分が左右に開き、巨大なレンズのような物体が現れる。
エレメンタル・リアクターがうなりを上げ、重厚な調べが流れる。
それと時を同じくして、レンズに光が集束し、雷光となって射出された。
その雷光は異質なる征服者に命中しても消滅せず、それどころか全身を拘束し、雪山の斜面へと押しやった。
「こんな武器が隠されていたなんて……」
「ビームまであるとはなぁ」
「知らずにボタンを押せって言ったの?」
「こういうときに出てくるのは、たいてい苦境を脱出するための隠し装備だから」
そう根拠ないが正解を口にしたユウトは、フットペダルを踏み、操縦桿を操作して異質なる征服者を追った。
翼を生やした醜怪なモンスターは、未だ、雷光の網にとらわれたまま。
先ほどの意趣返しとばかりに、ユウトは、そしてアルスマキナは巨大な両手剣を振り上げる。
一閃。
数十メートルを超える巨大な漆黒の騎士が振り下ろした一撃は、雷光に捕らわれ藻掻く異質なる征服者を真っ正面から断ち切った。
両手剣は健在。
異質なる征服者が追いやられた山肌も、消えていない。
アルスマキナも無事。
ただ、異質なる征服者だけが、痕跡ひとつ残さず消え去った。
「ユウトくん、ぶつかるわよ!?」
「これで、なんとか!」
だが、その勢いで体勢を崩してしまったアルスマキナ。ユウトは、両手剣を杖代わりにしようと、山の斜面に突き刺す――が。
「消えた!?」
そう。両手剣が突き刺さった一帯が、まるで最初からなにもなかったかのように消えてしまった。
異質なる征服者が衝突したときと同じように。
支える物がなくアルスマキナは斜面を滑り落ちるが、今の現象が衝撃的すぎて悲鳴も起きない。飛べば良かったという後悔さえ浮かばなかった。
麓で停止したアルスマキナのコックピットで、アルシアとユウトが呆然と口を開く。
「これは……」
「もしかして、この武器は異質なる征服者と同じ性質を持っているとか、そんな設定なのか……?」
「それは、世間の理解が得られないはずだわ!」
アルシアが、ある意味真っ当な悲鳴をあげた。
ユウトも、内心それに同意してはいたが、より大きな部分を占めるのは、「マジで朱音が喜びそうな設定だ、これ」という現実逃避にも似た思い。
「もしかして、アルスマキナ自体が次元の穴を引きつける存在だったのではない?」
「ありえるな……」
可能かどうかは分からない。だが、つじつまが合うのは確か。
「さすが、バトラスの生みの親だ」
よく分からない賞賛だか罵倒だかを口にし、ユウトはアルスマキナを再び飛ばした。真相はどうあれ、これなら次元の穴をなんとかできるかもしれない。
だが、そこにたどり着く前に再び異質なる征服者が立ちはだかる。
「一体ぐらい、また――」
「いえ、ユウトくん。これは……」
大きさも、姿も、翼があることも先ほどの異質なる征服者と変わりない。
否、変わらなかった。すでに、過去形だ。
アルスマキナの姿を認めた、異質なる征服者の輪郭がゆがみ、分裂した。
同じ大きさのままではない。もっと微少に、数え切れないほど膨大に。
例えるなら、イナゴの群れ。
空の一部が、分裂した異質なる征服者で黒く染まる。
それがひとつの意思を持って、アルスマキナへと。ユウトとアルシアへと殺到していった。
やや離れた場所から見守っていたモールゴシュも言葉も出ない。
「くっ」
両手剣を振り回しいくつかは消滅させるが、とても間に合わない。
「「《大魔術師の縮地》」」
思わずといった調子で、ユウトは理術呪文を使用した。
本来であれば、術者のみに持続的な瞬間移動能力を与える理術呪文。
にもかかわらず、アルスマキナは突如として姿を消し、短距離――数百メートルほど――向こうに離れて出現した。
「自分にだけ有効な呪文は、アルスマキナにも効果があるの!?」
「なんとなく使える気がしただけ!」
感心しているような、驚愕しているようなアルシアへ、ユウトは雑に応えた。《本質直感》のおかげで、確信はあったが、使ってみるまで分からないというのが本当のところだった。
これでユウトたちも多少の余裕を得たが、異質なる征服者も必死に追いすがる。ここで天敵を消滅させなければ、目的は達せられないと知っているのだ。
結局のところ、どれだけ短距離瞬間移動で逃れても、両手剣を振るしか数を減らす方法がなく、アルスマキナは少しずつ侵蝕を受けていく。
頭が胸が肩が腕が手が足が。イナゴとなった異質なる征服者によって無へと変えられていった。
このままでは、同時に消滅するのも時間の問題。
――このままならば。
「アルスマキナ、異質なる征服者を滅ぼすモノだって言うなら、出し惜しみせず力を見せろよ」
コックピットでユウトが吼えた。
アルスマキナの実力は、この程度ではない。そんな確信があった。
「こんな機械に頼るぐらいだったら、俺が直接手を下したほうがマシだぞ!」
その呼びかけに応じたのか。
あるいは、外部の状況を検知したからか。
それは定かではないが、変化が訪れた。
鋼の刃に緑色の光が灯り、それは大きなうねりとなって巨大な両手剣よりもさらに巨大な力の渦となった。
それに触れたイナゴ状の異質なる征服者が、解けるように消滅する。
その光の渦は、コックピットも覆った。
「力が……抜け……る……?」
それに触れたアルシアが、だるそうにささやき声を漏らす。
精神力か生命力か。どういう方法でかも分からないが、パイロットからもエネルギーを求めている。
ある種の永久機関であるエレメンタル・リアクターでも賄いきれないようなエネルギーを必要としている。
だが、そんなことユウトには関係なかった。
「吸うなら、俺だけにしろ!」
アルシア姐さんになにしてやがるんだ!
滅多に怒らない。ラーシアやヴァイナマリネンを除いては不快感を露わにしないユウトが、明確に怒りを発した。
その怒気に飲まれ、光の渦がアルシアから退避する。代わりに、ユウトの周囲を覆う光が倍以上に濃くなる。
「ユウト……くん……」
こちらを見上げるアルシアを安心させるように微笑んで、ユウトは操縦桿を握った。
「さあ、終わらせるぞ」
その曖昧極まりないが明確なことこの上ない命令に、アルスマキナは応えた。
アルスマキナが、ユウトが両手剣を大きく天に掲げると、力の渦は嵐となって島全体を覆った。
すでに、異質なる征服者たちの姿はない。虫のように小さくなって、そのまますべて駆逐された。
無人島を覆っていた黒い雲は取り払われ、エメラルドグリーンのオーロラが天を彩っている。
そこから流れる妙なる調べは、勝利と栄光を約束する背景音楽。
二種のコボルドも、黒竜も。島にいるすべての生物が、それを祈るような気持ちで見上げていた。
それは恐らく、信仰の最もプリミティブな形。
そんな中、ユウトはアルスマキナを走らせる。いつの間にか、アルスマキナが負った損傷はすべて――失った片足も、イナゴ状の異質なる征服者によって食い荒らされた傷も――再生していた。
けれど、それは特筆すべきほどのことではない。
「我が母、死と魔術の女神トラス=シンクよ、愛娘である我が希う。異質なるは罪にあらず。なれど、世界を無に帰す悪しき行いに応報を与えんことを――《奇跡》」
これから起こる奇跡に比べたら。
エメラルドグリーンに光る刃を伴って、アルスマキナは疾駆する。否、アルスマキナ自体が、光と化した。
次元の穴目指して、奇跡の力を宿した大いなる機械は飛翔する。
途中、異質なる征服者が体当たりを仕掛けてきたようにも思えるが、触れると同時に異質なる征服者だけが消滅した。
相手も、無理をしたのだろう。
次元の穴は、最初に見たときよりもかなり小さくなっていた。
しかし、それは容赦する理由になどならない。なりはしない。
エメラルドグリーンの霊気を放つ両手剣を先頭に、次元の穴へと突貫した。
その表面で渦状の光はせき止められ、光の粉が周囲に舞う。固い岩盤にドリルを突き立てているかのよう。
均衡。
拮抗。
伯仲。
「まだ足りないんなら、必要なだけ持ってけッッ!」
エメラルドグリーンの霊気が一際大きくなった。
ぴしりと、世界が割れる音がする。
エレメンタル・リアクターから流れる調べが、さらにテンポを上げ、激しくなっていく。
それは、貫く音。
境界を安寧を犯す存在を貫く音。
軋みを上げて、アルスマキナの両手剣に。霊気にひびが走り、ぱりんと砕け散った。
「ユウトくん!?」
「大丈夫!」
エレメンタル・リアクターが奏でる音楽は、ゆったりとしたテンポの優しい曲に変わっていた。
それは、終わりを告げる音。
エメラルドグリーンの光が晴れ、えぐれた大地が見える。周囲に生えていた木々はなぎ倒され、生命の気配はない。
同時に、次元の穴の姿も、どこにも。
完全消滅。
完膚なきまでに、次元の穴は消え去った。
それをユウトとアルシアが認識すると、力を使い果たしたかのように、アルスマキナもゆっくりと地上へ落下していく。
墜落ではない。着地だ。
その途中、アルスマキナのコクピットに、再び立体映像が現れる。
「よくやってくれた。正義の心を持つ者たちよ。ありがとう。心から、感謝する」
白衣に禿頭の男、シュヘンダークが深く頭を下げた。
「すまないが、このアルスマキナの機能の一部を永遠に凍結する」
「そいつは良かった」
こんな危険な力、ずっと保管しなくてはならないとなったら、ぞっとする。
「だが、基本的な機能は残っている。願わくば、私の遺産が適切に使用されんことを」
そう言って、シュヘンダークの立体映像は消え去った。
同時に、アルスマキナが地上に降り立つ。次元の穴を消し飛ばした中心地に。
「ユウトくん、体は平気?」
「ああ……。かなり疲れた。あとで、アルシア姐さんとだらだらしたい」
「それで疲れがとれるの……?」
後ほど実践し、疲れは癒えたが、また別の疲労にさいなまれるという知見を得た。貴重な経験と言えるだろう。
それはともかくと、アルシアがふと疑問を口にする。
「倒せたのはいいけれど、結局、あれはなんだったのかしらね……」
「一番可能性が高いのは、絶望の螺旋の眷属……かなぁ」
絶望の螺旋自身は撃退したものの、その眷属・信奉者は数多く残っているはずだ。
いずれ、第二第三の異質なる征服者が出現するかもしれない。
否、異質なる征服者にしても、あれが最後という保証もなかった。
それでも構わない。
「出てきたら、叩きつぶすだけ……か」
ヴァルトルーデみたいだなとユウトは苦笑するが、紛れもない本音でもあった。
カイトとユーリ。これから生まれる、アカネとの子供たちの未来を守るためであれば、なんでもやる。なんだって、できる。
そして――
「アルシア姐さん」
「なに?」
なんとなく、名前を呼びたかっただけ。
そんな本音を口にすることはできず、ユウトは思いつきで言葉を重ねた。
「男の子と女の子、どっちがいい?」
「どちらでもいいわよ」
以前から考えていたことだったのだろう。
答えは、すぐに返ってきた。補足も、含めて。
「でも、どっちでもいいから双子で両方生むなんてことは私にはできないから。そこまでは、期待しないでほしいわ」
「いや、それ、ヴァルにしかできないから……」
結局のところ、世界を守るのは正義の心などではなく、小さな。けれど、大切な愛情なのかもしれなかった。
(続き)ちなみに、作者は自作のロボットアニメプレイリストを聞きながら書いていましたが、
ちょうどクライマックス部分を書いているときにグレンラガンのオープニングが流れ、「勝ったな」と思いました。