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番外編その5 歩いてたら異世界にたどり着いちゃったので、新米冒険者の師匠になりました その1

長くなりそうな気配がしたので、前中後編です(たぶん)。

続きは、なるべく早くお届けできるよう頑張ります。

「あれは、リトナが『ラーシアくんとの子供よ』って、赤ん坊を抱いて現れた直後のことだった――」

「待て待て待て」


 教壇の上に置いた踏み台で遠い目をするラーシアに、ユウトが慌ててストップをかけた。


 文字通り、話が違う。


「それがどうやって、新米冒険者へのアドバイスになるんだよ」


 ヴァイナマリネン魔法学院付属初等教育院。

 放課後の教室に、四人集まっている。その四人のうち、半数は初等教育院には相応しくない外見――要するに大人だった。


 今、制止の声を上げたイスタス公爵家の家宰にして大魔術師(アーク・メイジ)ユウト・アマクサもその一人。

 ラーシアとヨナの悪巧み――初等教育院の生徒を集めて講演をしようとした――を察知し、解散を指示したのもユウトだ。


 しかし、完全に中止にすることはできなかった。

 アルビノの少女から猛抗議を受け、内容が問題なければ後日やり直すということになった。

 そのため、最少人数で講演は行われることになってしまったのだ。


 と言っても、“身内”と呼べる聞き手しかいない。


 もう一人いる大人の参加者は、秦野真名。

 このブルーワーズから見れば異世界人であり、地球の神秘を管理する賢哲会議(ダニシュメンド)に属している。

 そして、止むに止まれぬ事情から、新米冒険者として『善と悪の無限迷宮』へ挑戦をしている。


 同じ境遇の鈴木秀人に関しては、ユウトが珍しく強権を発動して帰らせた。ラーシアの話を聞いたら、どう考えても引くからだ。


「まあ、まあ。聞けば分かるって」

「そう。ラーシアだから、きっと役に立つ話をしてくれる」


 主催者であるヨナが、講演者(ラーシア)をかばう。


 アルビノの少女にしては珍しい態度。余程、ラーシアを信頼している――というわけではない。単純に、ラーシアに対するハードルを上げているだけだった。


 それを理解してもなお、ユウトの心配は消えない。

 同時に、野放しにしなくて良かったなとも思う。


「そうそう。万事、僕に任せなよ」

「止めろとは言わないが……。冒険者の心得を教授するはずじゃなかったのか?」

「またまたぁ」


 ユウトの指摘に、ラーシアは朗らかに笑って言う。


「ボクが教訓話をしたって説得力ないでしょ?」

「そりゃそうだが……」


 本来はもっと言いたいところだったが、話の流れについていけない真名の手前、自粛せざるを得ない。

 それを知ってか知らずか、ラーシアは再び語り始める。


「いきなり子供が生まれたと言われたボクは、悩み、彷徨い……いつしか異世界にたどり着いていた」

「…………」

「あれ? 待ったはないの?」

「…………だよ」

「ん~? 聞こえないなぁ?」

「呆気に取られて声も出ないんだよ!」


 散歩をしてたら、ちょっと良い雰囲気のカフェを見つけた――ぐらいの気軽さで異世界に行ってきたなどと語られても困る。

 地球と青き盟約の世界(ブルーワーズ)を行き来している身で言うべきことではないかもしれないが、本来、世界移動には多大な困難が伴う。


 『忘却の大地』からラーシアを追うため、エリザーベト女王は次元航行船(プレイン・クラフト)を使用した。

 ユウトがペトラたちを奈落へ連れていったときには、第八階梯の理術呪文|《次元移動ディメンジョン・トラベル》が必要だった。


 本来は、それほどの困難を伴うものなのだ。決して、自分探しの途中でたどり着いて良い場所ではない。


「さすが、ラーシア」


 そんな驚くべき、しかし、ラーシアならあり得るかもしれないという掴みに、ヨナは赤い瞳を爛々と輝かせていた。


 危険な兆候だ。


 しかし、なによりも、問題なのは……。


「ラーシアって、話は盛っても、完全な嘘は吐かないんだよなぁ……」

「信用を感じるネ」

「うぜぇ……」


 この講義自体を取りやめさせることも不可能ではないが、後日、自分がいないところでやられたら手出しができない。

 それなら、コントロール可能な状況で暴走させたほうが良い。


 ユウトは、そう考えた。


 それに、ヴァルトルーデがいたら変に影響され対抗心を燃やされかねない。今の状況は最善ではないが、次善ではある。


 ユウトは、そう諦めた。


「それで、異世界――『竜鉄の世界』(アル・ティエラ)にたどり着いたボクは、二人の幼い冒険者に出会ったのさ」


 思い出しながら。いや、懐かしみながら、ラーシアは再び語り始めた。





 ラーシアは、黙々と歩き続けていた。


 平原を森を街道を山の稜線を。


 草原の種族(マグナー)にとって、旅は人生そのもの。移動すること自体、なんら不思議はない。


 ただ、歌いもせず深刻そうに、家や隊商に行き会っても酒や食料を“拝借”せずに歩き続けるのは、ある種異常だった。


 そうして、昼夜を問わず、どれくらい歩き続けただろうか。


 ラーシアは、不意に立ち止まって周囲を見回した。


「なんか、見慣れない場所に出ちゃったなー」


 その声に不安の色はない。むしろ、楽しそうですらある。

 リトナから告げられた衝撃的な台詞は、既に意識から消えていた。完全に忘却したわけではないが、目の前の異常事態に興味が移り変わっている。


 そこは鬱蒼とした。それこそ、不死の怪物(アンデッド)でも出てきそうな森の中。

 木々は微妙にねじくれ、見るからに禍々しい。空気も冷たく、暗く、しんと静まりかえっている。


 森は本来、豊かな実りを与えてくれるはず。


 にもかかわらず、ここは不吉の一言だ。鳥の鳴き声はおろか、虫の一匹も見当たらない。


「なんとなく、源素の力が濃いような気がするなぁ。それで歪んだ?」


 そんな森をラーシアは普段と変わらぬ様子で歩いて回り――不意に駆けだした。移動しながら、素早くエルフの女神(エフィルロース)から祝福を受けた矢筒から弓矢を取り出す。


 一瞬の遅滞もない、流麗な動作。


「ククク、厄介事の匂いがするね」


 その嗅覚の正しさを証明するのは後からになるが、ラーシアの聴覚は正確に戦闘音を捉えていた。

 それに従い森を駆けること数十秒。


 開けた一角で、二人の冒険者風男女とモンスターが戦闘している場面に遭遇した。


「うわちゃ、植物系かぁ」


 ブルーワーズにも、モンスター化した植物は存在する。

 妖魔諸侯の一柱、妖樹の御子ニーケンララムはあまりにも大物だが、その配下の妖魔たちは言うに及ばず。

 樹精(エント)といった穏やかな生物から、巨大な食虫植物ともいえる吸血歩行植物(ヴァンプ・ヴァイン)や毒の胞子で動けなくした後に生物を菌床にして繁殖する毒大茸ポイゾナスシュリーカーなど枚挙に暇がない。


 目の前にいるのは、吸血歩行植物(ヴァンプ・ヴァイン)の亜種だろうか。全体が黒い焔に包まれた、5メートルほどの歩行する広葉樹。

 前面には、吹き上げた黒い炎で苦痛に歪んだ顔が形作られている。

 そのモンスターが、根を足のように、枝を鞭のようにして冒険者たちへと迫っていた。


 二人組の冒険者のうち、前衛に立つのは赤い髪をポニーテールにした少女。湾曲鉈刀(ククリ)を両手に構え、迎え撃つ。


「ええいっ!」


 いや、少女のほうから向かっていった。


 慎重さの代わりに、申し分のない速度で突撃。器用に、鞭のように迫る黒炎の枝をかわしていく。その動き。いや、センスか。どちらにしろ、素質と才能はかなりありそうだ。


「かったぁッ」


 ただ、経験が足りない。

 湾曲鉈刀(ククリ)は分厚い樹皮に跳ね返され、食い込ませることもできなかった。


「てっしゅーてっしゅー!」


 少女は、攻撃が効かないと見るや、慌てて後ろへ下がった。どうも、思慮も足りないようだ。


 そして、支援も足りない。


「《ウォール・オブ・フレイム》!」


 後衛にいる黒髪の少年が炎の壁を生み出す。ユウト――魔術師(ウィザード)のように呪文書を飛ばすことなく創造された。

 ヨナのような超能力者(サイオン)なのか。


 ラーシアには断定できなかったが――そもそも、あまり関心はない――ヘタクソだということはよく分かった。


 黒炎を上げる歩行植物をピンポイントに狙っていたのだろう。目算がずれたらしく、壁が立ったのは敵の後ろ。


 なんの障害にもならなかった。


 そもそも、敵が火を噴いてるのに、炎の壁を出してどうするのか。


 いらいらして術者の少年を見ると、ミスを悔やんではいるが、戦意を失ってはいなかった。態勢を立て直そうと、前衛の少女と連携して後ろに下がろうとしている。


 どちらも、子供のようだが、その姿勢は悪くない。


 それにしても、突出しがちな前衛と、思慮深い後衛の組み合わせには縁がある。


(まるで、ヴァルとユウトだね)


 こう思ってしまった時点で、見捨てるという選択肢はなくなってしまった。

 植物は内臓がないので、弓矢では打撃を与えにくい。本来なら、エグザイルかヨナ辺りに任せたい相手なのに。仕方がない。こうなったら、仕方がない。


「仕方ないな……助けいる!?」

「…………ッッ」


 驚いて、後衛の男の子がこちらを向く。どうやら、まったく気づいていなかったらしい。

 それで、手出しして構わないと判断。


 まずは牽制代わりにと、矢をつがえる。


 瞬間的に放たれる、七連射。


 一射目を放とうとしたまさにその時、鏃の先の歩く植物に――本来はありえないはずの――弱点を感じた。

 その感覚を信じ、ラーシアは立て続けに矢を放つ。


 それらはすべて過たず、歩く植物の中心に突き刺さった。


 少年と少女も、矢を射られた歩く植物も。ラーシア以外の動きが止まる。


 だがそれは、次の動きへの溜めに過ぎない。


「オッ、オオオォォオ――」


 歩く植物は世界すべてを呪うような怨嗟の声を上げ、金色の塊に姿を変えてしまった。


「うっそぉ……。邪炎樹霊イヴィル・ファイアツリーが一撃で……?」

「凄い……。まさか、セシィの他に連星(トライ)宿星者(フェイトスピナー)が?」


 少年と少女が興奮した様子で駆け寄ってくるが、ラーシアはそちらを見ていない。


 今の手応え。


 その理由を考えていた。


 敵――邪炎樹霊イヴィル・ファイアツリーというらしい――が、ただの植物モンスターではなかった。つまり、内臓のような急所を備えていた可能性はあるだろうか。


「ないよねぇ」


 見た目だけではない。実際に戦ったうえでの判断だ。そもそも、あんなモンスターをブルーワーズで見たことがない。


「あ……」


 唐突に閃いたひとつのアイディア。

 ユウトやアルシアが聞いたら即座に否定するだろうが、ラーシアは正しさを直感する。


「世界が違えば、法則(ルール)も違うってこと……?」


 そのつぶやきは、かなり確信に近かった。

5000文字書いてもタイトル回収できなかったときに、これはヤバイって思いました。

というわけで、続きは少々お待ちください。


更新まで他の連載作品を読んで待っていただくのもひとつだと思いますよ!

(よろしければ、下のリンクからどうぞ)


たぶん、次の更新情報はTwitter(https://twitter.com/fujisaki_Lv99)が一番早い気がします。

それでは、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 改行は入っていなかったとのこと、大変失礼しました。 スマホで読んでいたためかもしれません。 お手数おかけしました。
[一言] > 移動しながら、素早 >く、 不要な改行が入っているようです。
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