表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 16 叙事詩の終焉(エピローグ) 第一章 三度目の結婚式
506/627

12.新婚旅行(後)

すいません。三話で終わりませんでした。

もう一話だけ続きます。

 続けて訪れたのは、隣国クロニカ神王国。

 近いところから順番にという、計画性など皆無な移動。しかし、経路などという概念は、《瞬間移動(テレポート)》の前には存在しない。


 そろそろユウトの自前の呪文も尽きかけ、一枚金貨数千枚はする――売っていればだが――巻物(スクロール)の出番も見えてきたところだ。


「いかがでしょう、セネカは変ではないでしょうか?」


 その神都ルテティアに存在するフェルミナ大神殿。

 さらに、その中心にある神王のプライベートスペースで、セネカ二世が嬉しさと恥ずかしさを絶妙にブレンドした表情を見せていた。


 普段は絶対に見せることのない、艶やかな姿の神王。

 神都の住人が目にしたならば、宗教的な喜びを感じたことだろう。


 その代わりというわけではないが、セネカ二世の隣にいるアカネはご満悦だった。


 それも当然だろう。


 以前依頼を受けた、太陽神フェルミナと同じ巫女装束――アカネ曰く、卑弥呼みたいな服――を、セネカ二世のような美少女に着せているのだから。


 苦労はした。

 だが、その甲斐はあった。満足だ。


「まるで、お会いしたフェルミナ神の生き写しのようですよ」


 この場には護衛も置かず、美と芸術の女神の分神体(アヴァター)を除いては、セネカ二世とアカネのほかはユウトしかいない。

 必然的に、ほめるのはユウトの役回りになるのだが……もちろん、お世辞でも追従でもなかった。


 長い髪は頭の両側で一部が束ねられ、かんざしで飾られている。山形の模様が描かれた広口袖の羽織というエキゾチックな装いも、よく似合っていた。

 神王としての威厳と、崇める神と同じ衣装を身にまとって無邪気に喜ぶ愛らしさが程良く調和している。まだ微調整が必要なのか、少し大きめなのもそれに一役買っていた。


「まあ。セネカを女神のようだなどと、ほめすぎです」

「そう表現されると、うちの夫が軽い人間みたいねぇ」

「本当に女神がいると、ややこしいな」


 なお、素性を明かすともの凄くややこしいことになる女神は、部屋の隅で待機していた。もちろん、カメラを構えながら。

 神王にすら気取られない神の力に感心すれば良いのか、ぶれなさに呆れれば良いのか。


 恐らく、深く考えないのが正解だろう。


「さて、改めまして」


 しばらくはしゃいでいた――といっても、同年代の女子に比べれば大人しい――セネカ二世だったが、ユウトとアカネと順番に目を合わせてからおもむろに口を開く。


 それだけ。

 ただそれだけで、華やぎくつろいだ空間が荘厳な神事の場に変わった。


「お二人とも、結婚なされたとの由。この度は、お祝い申し上げます。天上にあらせられるフェルミナ神も、祝福されていることでしょう」

「ありがとうございます」

「改めて言われると、照れるわね。ありがとうございます」


 神王を前に、夫婦そろって頭を下げる。

 厳かな空気が流れた……が。


「それでは、堅苦しいのはこの程度にして、式の様子など詳しいところをお聞かせください」


 それを破壊したのは、他ならぬセネカ二世。

 言葉はまだしも丁寧だったが、来客用のスペースへ率先して移動し、椅子に座ると好奇心を抑えきれないとうずうずし出す。


 その姿は、恋愛話に興味津々な年頃の女の子そのもの。


 初対面の時の怖いほどの威厳は、どこへ行ってしまったのか。

 ユウトたちのと天上での冒険を経て打ち解けた神王は、年齢相応の可愛らしい素顔を見せる。


 その可憐な姿に、アカネは心奪われた。

 けれど、あることに気付き顔を曇らせる。


「……勇人は、なんなの? あれなの? 身分が高い子を砕けさせる趣味でもあるの?」

「ねえよ。意図してもいねえよ」


 それに、該当するのはセネカ二世とペトラぐらいのものだろう。

 アカネの非難には、無理がある。


 ユウトは、そう視線で訴えかけるが、アカネの憂い顔に弾き返されてしまった。


「無意識なのは、なおさら性質が悪いわね……」


 アカネがわざとらしくため息をつく。

 しかし、本気で言っているわけではないはずだ。


 そう判断したユウトは、セネカ二世の求めに応じ、予め用意していた結婚写真を贈呈する。


「まあ……」


 写真と目の前の二人を見比べ、セネカ二世は感嘆の声をあげた。

 その反応には慣れた新郎新婦だったが、その分、神王の愛らしさを愛でる余裕が生まれる。イーブンだろう。


「素敵ですね」


 写真という存在自体への驚きから、そこに映し出された幸せそうな新婦へとセネカ二世の関心が移る。

 うっとりとした表情は、アカネの姿を自分に置き換えているのかもしれなかった。


「なんか、こう、照れるわね」

「ほめられてるんだから、堂々としてれば良いんだよ」

「そこは控えめな日本人だもの」

「そうは言っても、素敵なのは、確かなんだからさ」


 唐突な称賛に、アカネは返す言葉を失った。

 それどころか思考も停止し、自分でも真っ赤になっていると分かる顔をうつむき隠そうとするのが精一杯。


 どこからともなく、シャッター音だけが響く。


「ところで、アカネ様」

「……なんでしょう?」


 写真に夢中だったセネカ二世は、アカネの不審な挙動には気づかなかったらしい。

 なんとか再起動を果たしたアカネは、表面だけでも取り繕う。


「実際、婚約者の期間もかなりあったと聞いておりますが、式を挙げられると変わるものなのでしょうか、実際」


 そんなアカネの外面を、惑いなく正面から貫くセネカ二世。


 一方、ユウトは瞑目し、精神集中を始めた。

 魔術師(ウィザード)司祭(プリースト)、そして超能力者(サイオン)にとって、戦闘時のような緊張状態でも呪文や超能力を発動させるための精神集中は初歩の初歩。

 外界と自らとを切り離し、衝撃をやり過ごすのだ。


「そう言われると、難しいんだけど……」

「セネカとしては、そこを詳しく知りたいのですが」

「そうね……。婚約したってみんなには言っても、やっぱり、あたしと勇人だけの関係みたいなところがあるのよね」


 外界と自らとを切り離し、衝撃をやり過ごすのだ。


「なんとなく……分かるような気がします」

「でも、改めて誓いの言葉を言って、みんなの前でキスをすると、『ああ。勇人のものになっちゃったのね』っていう自覚? 感慨? そんなのが湧いてくるのよ」


 ――やり過ごすのだ。


「まあ、まあまあ。それは、素敵ですね。日記に書いてもいいですか?」

「……誰にも見せないでね?」


 そうして、しばらく。

 セネカ二世との写真撮影はアカネのデッサンにより完成したフェルミナの神像を前に行うこととなり移動を開始した。


 ユウトの知らぬ間に、決まったことのようだ。

 というよりは、ユウトが気づいたときには神像の前にいたと表現したほうが適切だろう。


 そんな被害は発生しつつも、謎のカメラマンの正体を気取られることなく、なんとか写真撮影は終了した。





 人に会う予定は、セネカ二世が最後だった。


 途中、ハーデントゥルムにも立ち寄りヴェルミリオを立ち上げた時に行ったファッションショーの会場でも写真を撮影して――新郎新婦はファルヴへと戻る。


 このファルヴからまた移動(・・)するのだが、その前にユウトとアカネは、空からファルヴの街を眺めていた。


「あの時のことは、今でも憶えているわ」

「俺もだよ」


 アカネの腰を抱きながら、ユウトも感慨深そうに答える。


 アカネがブルーワーズへ転移した後、空を飛び二人で見たファルヴの夜景。それは、生涯忘れられない光景で、忘れることのない思い出だった。


 しかし、アカネにとっては、意味合いが少し違う。

 彼女にとっても、最も印象的な体験なのは間違いないが、やっとユウトに会えたからだということに、気づいているだろうか。


(気づいてないでしょうね)


 アカネは即座に否定する。

 だが、だからこそユウトで、そんな彼を好きになったのだ。

 そこに、後悔は欠片もない。


「どうかした?」


 気づけば、笑っていたらしい。

 疑問を浮かべるユウトに、アカネは静かに首を振って答える。


「そろそろ、下りましょうか」

「ああ、時間もあんまりないしな」


 本来であれば市場なども巡りたかったのだが、もう店じまいしている。

 となれば、寄るべき場所はひとつだ。


「リィヤ様にお願いするのは、ここが最後ね」

「そうなるな」


 最後に立ち寄ったのは、美神の劇場。

 良くも悪くも、いろいろな意味で思い出深い場所だった。


 すでに日は傾きかけている。


 時間的な面でも、ブルーワーズでの旅はいったん終わりとなる。


「なんというか、人生って分からないものよね」


 絢爛たる美神の劇場を入り口前の階段から見上げるアカネが、しみじみと言う。

 まさか、自分が書いた脚本で奇跡が起こるとは。こちらに来る前は、いや、来てからも想像していなかった。


「ぶっちゃけ苦労はしたけど、嬉しいものね」

「アカネ先生のお陰で、株が上がった」


 どういう仕組みかは分からないが、あの劇が話題になったお陰でリィヤ神にも利益はあったらしい。美と芸術の女神であるからには、素晴らしい芸術が生まれるだけで力になるのであろうが。


「朱音が喜んでいるのなら、なによりだ。民を慰撫するためにも、次回作も期待していますよ。先生」

「やだわ。パンとサーカスだわ」

「神も慰撫されるから期待しています、先生」

「なるほど。芸事のルーツは神事ってことか」

「……が、ガンバリマス!」


 若干光の消えた目で答えるアカネ。


「そろそろ写真撮りましょ、ね」


 これ以上は触れられたくなかったのか、目的を果たそうと提案する。

 ユウトたちも、否やはない。

 なにしろ、今は無理を言って人払いしているのだ。


「是非もない。任せてもらう」


 リィヤ神もやる気に満ちていた……が。


「二人の写真を撮ってもらった後は、リィヤ様も一緒に撮りましょう」

「え?」

「やっと、三脚の出番がやってきたな」


 ユウトも無限貯蔵のバッグから撮影道具を取り出し、準備をする――と。


「なんで泣いてるの!?」


 リィヤ神の分神体は涙を流して喜んでいた。


「家宝にする」

「まだ早いと思うけど……。まあ、心意気は伝わった」


 神の家宝とはどういう意味なのかと思わないでもなかったが、喜んでくれるのは純粋に嬉しい。


「最高の一枚にする」


 改めて気合いを入れて撮影された二人の写真は、確かに素晴らしいものだった。


 こうして、ブルーワーズでの予定をすべて消化し……。

 新郎新婦は、生まれ故郷――地球へと移動した。

というわけで、新婚旅行(地球編)にご期待ください。

明日で、明日で終わりますから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ