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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 16 叙事詩の終焉(エピローグ) 第一章 三度目の結婚式
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10.新婚旅行(前)

12,000文字程書いても新婚旅行が終わらなかったので、サブタイトルを若干変更しました。


9.天草朱音(前)→9.天草朱音


その上で、新婚旅行は前中後の三話構成になります。

どうしてこうなった……。

 アカネの提案であるフォトウェディング。

 写真だけ撮って済ますというその案は、さすがに採用できなかった。


 というよりも、具体化する前にユウトがアイディアを付け加えた。


 式は、本当の身内だけでやる。

 代わりに、縁のある各地を巡って写真を撮りながら、関わった人々に報告を兼ねて写真を渡していくのだ。


 地球で同じことをやったら良い顔をされないかもしれないが、こちらでなら写真の珍しさだけで歓迎される可能性が高い。

 結婚報告に新婚旅行を兼ねた、ユウトらしい計画と言えるだろうか。


 そして二人は、最初の地にたどり着いた。


「ここが、ヴァルとアルシアさんの生まれ故郷なのね」

「ああ。そして、俺が転移した直後に過ごした村でもある」


 ファルヴの城塞から一秒。

 ユウトとアカネは、始まりの地であるオズリック村の入り口に姿を現した。


 新郎は黒竜衣(ドラゴンクロース)のままだが、新婦はウェディングドレスを着替えている。ただ、魔法具(マジック・アイテム)を使用した関係で、アカネにドレスを脱いだという感覚はあまりない。

 また、着替えた服もウェスト部分を絞った白いワンピースを選んでおり、あえてドレスに雰囲気を似せているようだった。


 ただ、肝心のユウトは、どっちも似合っているとしか言えなかった。


 まあ、ファッションチェックをされても困るので、ユウトはこのままで良いとアカネは思っている。

 他人にも見られるファッションは、自分のセンスで。ユウトにしか見せない格好は、ユウトのために。それが、バランスというものだ。


「転移してきたのはファルヴの地下だけど、そういう意味では、ここが異世界生活の始まりだな」

「第二の故郷みたいな感じね」

「今じゃ、ファルヴのほうが長いけどな」


 村の中心へと移動しながら語り合う二人。

 アカネがユウトに胸を押しつけるかのように腕を抱く姿は、独り身には酷な光景だ。


「お、あそこは……」 


 そんな他者の評価など気にせず――というよりは、思いつきもせず――ユウトが不意に立ち止まった。

 それに合わせてアカネは、ユウトの視線を追う……が。


「え? ただの地面にしか見えないけど?」

「ラーシアとエグザイルのおっさんが流れ着いたとき、あの辺で野宿してたらしい」

「最初がそれって、どうなのよ」


 あきれるように言うアカネだったが、想像してみると悪くはなかった。

 巨人と小人のような二人が、テントを張って生活していた。メルヘンのようでありながら貧乏臭さもあり、ギャップが面白い。


「でも、思いっきり不審者よね」

「実際、ヴァルが声をかけるまで、村人は警戒して遠巻きにしているだけだったらしい」


 さもありなん。

 しかし、それがきっかけでヴァルトルーデ、アルシア、エグザイル、ラーシアが冒険者としてパーティを組むこととなり、ファルヴの地下でユウトと出会ったのだ。


 その意味では、本当の始まりの地だと言えた。


「そう言われてみると……いや、ただの原っぱね」


 アカネが笑い、ワンポイントになっている胸元のネックレスが揺れる。

 上半身にはふんだんにレースが使われており、華やかさと落ち着きが同居しているワンピース。こうしてそぞろ歩いても悪目立ちせず、それでいて質の良い生地と仕立てでフォーマルな場でも問題はない。


 そんな新妻幼なじみをずっと眺めていたいユウトだったが、しかし、現実はままならないもの。

 新婚旅行にあるまじきため息を吐き、アカネの目を見つめながら言った。


「さて、朱音。そろそろ良いんじゃないかと思うんだが」

「そうね、勇人」


 視線を交わした二人はくるりと振り向き、声をそろえて言った。


「「なんで、ここにいるんですか」」


 その視線と声の先には、見憶えのある女性。


「……気にせず、どうぞ」


 いや、女性というよりは女神というべきか。


「アカネ先生のお姿を記録にとどめているだけ」


 美と芸術の女神リィヤの分神体(アヴァター)が、スケッチブックを開いて立っていた。


「記録って……」

「最近、ないがしろにされている気がするので。存在のアピールも兼ねて」

「そもそも、気軽に降りてくるのが間違ってる気がするんですがね!?」


 あきれるアカネに、正論を吐くユウト。

 しかし、リィヤ神には通じない。


 なにを言っているんだろうかと、きょとんと首を傾げる。

 綺麗にウェーブがかかった金髪とリボンが揺れるが、さすがは美の女神というべきか、それだけで充分に目を惹いた。

 ユウトには、感慨は与えられなかったようだが。


「問題ない。私はただの黒子」

「存在感があり過ぎる」

「大丈夫。姿ぐらい、いくらでも消せる」

「そりゃ、そうだろうけど」

「まあ、勇人。せっかくだし」


 どうやってお帰りいただこうかと思案するユウトに、アカネが微笑みかけた。


「どうせ、ここにいなくても見守ってたりはするんでしょ、神様なんだから」

「それはまあ……」

「それに、あたしは勇人だけを見てるから」

「……だな」


 今は、ユウトもアカネしか見えていない。それに、どうせ途中からはついてこれなくなるのだ。


「役に立つから」


 なぜか堂々と胸を張り、なにかを寄越せと言わんばかりに手を伸ばす美と芸術の女神。


「朱音のサインでも欲しいのか?」

「それも欲しいけど」

「サインなんてないんですけど!?」

「今日の私は、記録係」


 それでようやく、ユウトはリィヤ神の要求に気づく。

 気づいたが、なぜそれを知っているのか分からず、不審の視線を向けてしまう。


「腐っても神」

「腐っても……」

「そういう意味じゃないからな」


 そう言われては、仕方がない。

 ユウトは、無限貯蔵のバッグからデジタルカメラを取り出した。それも、手のひらに収まるようなコンパクトタイプではない。アカネでも手に余るような一眼レフ。アカネの父――そして、ユウトのでもあるが――忠士の私物だった。


 メモリには、すでに新郎新婦やその家族の写真が納められている。

 思い出の地を巡り、さらに記念となる写真を増やしていく。これが、新婚旅行計画の根幹だった。


「でも、カメラなんか使ったことはないのでは?」


 早速、カメラを構えて練習を始める美と芸術の女神リィヤ。

 意外なことに、かなり堂に入っていた。


「腐っても神」

「もう、いいから」


 念のため写真を確認したが、特に問題はない……どころか、構図など素人目に見てもかなりのもの。任せても良いどころか、ユウトよりもよほど上手い。


「とりあえず、行くか」

「そうね」


 専属カメラマンを引き連れ、ユウトとアカネはオズリック村の中心部へと進んでいった。





 まだ日が高いため、オズリック村の人々はそれぞれの仕事に従事している。

 そのため、村のメインストリート――といっても、酒場兼宿や雑貨屋がある程度だが――には、ほとんど人通りがなかった。


「ああ。そういえば、あの水車小屋」

「もしかして、二人が住み着いてたとか?」

「いや、〝虚無の帳〟(ケイオス・エヴィル)のスパイが住んでて戦いになったことが。粉塵爆発起こしかけて、やばかった」

「……いきなりハードね」


 しかし、村の光景は、そんな過去を感じさせないほど長閑だった。

 うららかな太陽の光も、その印象を強めている。いや、太陽神フェルミナの加護ということも充分考えられた。


 そんな中、二人は腕を組んで領主の館目指してゆっくりと進んでいくのだが……。


「ふんっ。別の女を連れて帰ってくるとはな」


 目の前に、のんびりとした村の雰囲気とは一線を画す、立派な体躯の老人が現れた。


「そして、あの宿で、おっさんやラーシアと暮らしてた。あの頃は金がなかったんで、三人で一部屋だったなぁ」

「お金のない勇人とか、新鮮ね」


 しかし、ユウトだけでなくアカネもまったく動じない。

 その横を通り過ぎながら、思い出話に花を咲かせる。


「あと、吟遊詩人(バード)のエルモさんもいたなぁ。今でもいるのかな」


 正直、歌も演奏も今一つだった。

 その代わり手先は器用で、ラーシアから「なんで盗賊(ローグ)を目指さず、吟遊詩人になんかなっちゃったの?」と言われてへこんでいた。


 懐かしい、思い出だ。


「……悪意はない。二人の世界に入っているだけだから」

「悪意があったら、ワシは泣くぞ!」


 本当に二人の世界に入っていたユウトとアカネだったが、そこまで言われてはさすがに外界にも目を向けざるを得ない。

 軽快とは言いがたい動作で振り向き、挨拶をする。


「お久しぶりです、ゼインさん」

「ヴァルの結婚式の時にはお世話になりました、朱音です」

「お、おう」


 ヴァルトルーデとアルシアの義父を自任する、オズリック村の領主ゼイン。

 人間の戦士(ファイター)である彼は、老境にさしかかっても筋骨隆々。体の厚みも、ユウトを遙かに凌駕する。


 そんな老戦士が、気圧されたように一歩後ずさる。


 ユウト一人だったなら、それこそ舅として嫌みのひとつでも言ったのだろうが……。


「ふんっ。まあ、挨拶に来ただけましか」


 隣にいるアカネに、すっかり毒気を抜かれてしまった。

 それほどに新婦は美しく、幸せそうだったのだ。


「あと、あそこがレンの家な。今は、空き家になっちゃってるけど」

「なるほど。レンちゃんの生家というわけね」 

「生家とか、日常であんまり聞かねえなぁ」


 ……加えて、なにを言っても話を聞きそうにない雰囲気を感じていたのかもしれなかった。


「というわけで、朱音とも結婚しました」

「ヴァルとアルシアさんと同じになりました」


 往来で、新郎新婦が頭を下げる。

 その堂々とした開き直りっぷりに、ゼインの体から力が抜けた。


 横でパシャパシャと正体不明の機械を操っている美女の存在も、その一因に違いなかった。


「それで、報告も兼ねてよろしければどうぞ」


 そう言いながら、ユウトが無限貯蔵のバッグから冊子のような物を取り出した。


「なんだ、こいつは」

「見てもらえば分かるかと」


 しかめ面で受け取ったゼインだったが、中身を見て顔色が変わった。


「こいつは……」


 まるで幽霊(ゴースト)でも見たかのように、手元の写真と目の前の二人を見比べる。


 そう、写真だ。


 ウェディングドレスを着て幸せそうに微笑むアカネと、少し緊張したユウトの結婚写真。デジカメで撮影したそれをプリントアウトし、予め用意していた台紙に挿入している。表紙も厚みがあり、高級感があった。


 無限貯蔵のバッグには、同じ物が数枚ストックされていた。


「まあ、なんかの魔法か。普通なら驚くところだが、大魔術師(アーク・メイジ)様だからな」

「これと似たような物を、オズリック村でも撮らせてもらおうと思っているんです。記念で」

「そいつは構わねえが、衣装はどうするんだ? うちで、着替えるか?」

「あ。お構いなく」


 それ以上は説明せず、ユウトはゼインを引き連れて村の奥へと移動する。

 目指す先は、以前、レンが教えてくれた森の中の泉。まだ見習い魔術師(ウィザード)だった頃に呪文の練習をした思い出深い場所だ。


「綺麗な場所ね」


 しばらく歩き目的地に到着すると、思わずといった様子でアカネが感嘆の声をあげる。

 おとぎ話の一幕のように、今もそこは幻想的な美しさをたたえていた。


「良いロケーション」


 カメラを構えた美と芸術の女神のお墨付きだ。


「じゃあ、朱音。着替えようか」

「お願いね」


 写真を撮る準備として、ウェディングドレスに着替えなければならない。

 にもかかわらず、二人とも気楽なもの。


 首を傾げるゼインを余所に、ユウトは無限貯蔵のバッグから一組のカードを取り出した。


 衣装係の紙片デック・オブ・クローゼット

 予め、もしくは新規に衣服を登録し、一瞬で現在のものと入れ替えができる魔法具だ。


 ユウトがそこからカードを一枚抜き、指を鳴らす。

 すると、アカネが光に包まれ次の瞬間にはウェディングドレス姿になっていた。


「ナイス」


 再び、美と芸術の女神のお墨付きが出る。

 少し簡単すぎやしないだろうかと、さっきまで着ていた白いワンピースが登録されたカードを束に戻しながら思う。


 まあ、アカネが綺麗という事実には全面的に同意するが。


「早く、アカネ先生の横に移動する」


 急かしてくるリィヤ神に従い、ユウトは動こうとし……その直後、思い出したように立ち止まった。


「ゼインさんも一緒ですよ」

「なんで、ワシが絵に加わらねばならん……」

「あとで、ルファさんと二人でさっきみたいな写真撮りましょうよ。この衣装係の紙片には、いろいろ服が登録されてますから」

「……仕方ねえな」


 不承不承といった感じで、ゼインがゆっくりと移動を開始する。

 その背中をユウトは苦笑を浮かべつつ追い――そしてまた、思い出が加わった。

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