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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 15 竜の後継者 第三章 黒き刃の陰謀

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6.竜との対話(前)

「青の洞窟って感じだな」


 アルシアの尽力により、一命を取り留めた蒼の古竜ゴウレイ。

 その巣穴である洞窟へと招かれたユウトは、幻想的な美しさに感嘆の声をあげた。美しいものならば、ブルーワーズへ転移して以来ずっと側にいたが、それとこれとはまた別。


 ドラゴンの巨体が出入りできるほど広大な洞穴は、何者の手も入っていない自然のそれだ。ごつごつとした岩肌は緑がかった深い青色で、それ自体が発光しているのか、きらきらと輝いている。


 自然が生み出した神秘。

 これぞ、ファンタジーと呼ぶにふさわしい光景。


 アカネにも見せてあげたかったと、心の底から感じる。ファンタジー世界でファンタジーが不足している幼なじみなら、喜んでくれただろうに。


「そうね。綺麗だわ」


 せめて写真だけでもとユウトが携帯電話を取り出そうとする傍らで、アルシアもくるりとその場で一周回って幻想的な光景を目に焼き付ける。

 以前――真紅の眼帯越し――ならば、ただの洞窟としか感じられなかった光景を。


 それを見て、ユウトは極めてプリミティブな感慨を抱く。


 恩に着せるつもりなど欠片もないし、別に誇りたいわけでもない。


 それでも、アルシアの目が見えるようになって良かった。


 ただ単純に、そんなことを考えていた。


 もっとも――


「でも、売ることは……できないよねぇ……。お金にできないのは、もったいないなぁ」

「試しに削るか?」

「見物料を取ったほうがいい」


 ――そんな気持ちは、一瞬で吹き飛んでしまったのだが。


「お前らは……」


 げんなりとして、ユウトは右手で目を覆う。

 そのリアクションには演技も含まれていたが、あきれているのも事実だった。


 そんな、ある意味いつも通りのユウトたちに、カグラはひきつった笑顔を浮かべている。もちろん、洞窟の美しさに感心する余裕などない。

 そもそも、感心でも感動でも良いが、そちらに気を取られているほうがおかしい。


 洞窟の一番奥に、うずたかく積まれた財宝の山。

 その上に、蒼の古竜ゴウレイが鎮座しているのだから。


「おう。まあ、我が家の美しさに目を奪われるのは仕方ねえが、話をしようじゃねえか」


 ドラゴンの巨大な口から、威勢のいい言葉が発せられた。

 敵意はなく友好的とすら言える声は、洞窟に反響して物理的な圧力にとなって体を揺らしたが、不思議と不快感はなかった。


 レイ・クルスとワドウ・レンカに対して狂気にも似た怒りを見せていたのと、同じドラゴンとは思えない。そういえば、ここに来るまでもかなりおとなしかった。

 まるで、死に瀕して憑き物でも落ちたかのようだ。


 それに、ラーシアたちの不敬には、目をつぶることにしたらしい。

 聞こえていなかっただけかもしれないが、大らかなドラゴンだった。


「まずは、命を救ってくれたことに礼を言わせてくれ。助かった」


 そう言うと、こちらがなにか反応するよりも早く、すっと頭を下げた。


「こちらこそ、余計な手出しを」

「いや、それはこっちだろ。まったく、世界は広いもんだな」


 これが本来の蒼の古竜ゴウレイということか。人間でだったなら、なかなかの好漢と言えるだろう。

 ただ、家よりも遥かに巨大な生物が頭上から発している言葉だと考えると、どうしても違和感は拭えない。

 それに、こちらも打算があってのこと。あまり感謝されても気が引ける。


「新たな犠牲が出なかっただけで、充分です。それよりも、俺は天草勇人。異世界からの来訪者で、西の大陸からやってきました」

「地の宝珠を持ってるのも、お前さんだな」


 ゴウレイがにゅっと首を伸ばし、鼻先をユウトに近づける。

 カグラは思わず悲鳴をあげそうになったが、アルシアたちは平然としていた。敵意がないことは、分かっているのだ。あわてるような状況ではない。

 ユウト自身、中学の修学旅行で遭遇した鹿のことをぼんやり思い出す程度には余裕もある。


「ああ。預かってるだけ……と思ってほしいんですけど」

「ま、それならそれで良いさ。強制するもんでもねえからな」


 ユウトから離れて、鼻を鳴らす蒼の古竜。

 とりあえず、及第点といったところのようだった。 


 ユウトとは違い、自らは自己紹介などしようとせず――知られていないとは微塵も思っていないのだろう――ゴウレイは続けて大きな口を開いた。


「だが、人と天の所有者。アレは、駄目だ」


 不意に、ゴウレイがまとう霊気(オーラ)が変わる。

 ただ存在しているだけで空気がびりびりと振動し、普通の人間なら、この場にいるだけで確実に気を失う。


「同胞を亡き者にされたからと、言っているわけではないぞ。いや、それを忘れることはできんが、実際に目にして感じた。アレは、闇が深すぎる」

「ワドウ・レンカに隠れた意図はあるみたいですが、排除するという方針に異存はありません」

「平然と、それを言うか」


 ゴウレイがあきれたように言うと、その巨大な口から笑いの呼気が漏れる。

 ユウトは、なにか面白いところがあっただろうかと首を傾げた。


「人と天も、黒い剣も尋常じゃあねえだろうが」

「ああ……」


 そういう意味だったかと、得心する。

 ユウトは、後ろを振り返り、交渉を任せてくれている仲間たちと視線を合わせる。


 そして、再度ゴウレイへと向き直って言った。


「俺の仲間も、尋常ではないので」

「ふっ。はっはっは! そうか! 尋常じゃねえか!」


 呵々大笑。

 そう表現する他にない咆哮が青の洞窟に響きわたる。


 空気どころか岩肌まで振動し、普通の人間であれば、これを受けただけで気絶しかねない。


「俺たちは、ちょっと力の強いドラゴンってだけだったのにな。あいつと連んで崇められてから、調子に乗っていたのかもしれねえ」


 あいつとは、竜帝のことだろう。

 黄の古竜ゴウリン、赤の古竜ゴウホウ、白の古竜ゴウガク、黒の古竜ゴウブン。それに、蒼の古竜ゴウレイ。

 彼らは、リ・クトゥアに古来住まう守護竜というわけではなく、竜帝の友としてリ・クトゥアの統一に協力しただけだった。


 伝説の真相に、カグラは言葉を失った。

 いや、元々口を挟むことなどできずにいたのだが、完全に思考停止している。


「それって……」


 カグラとは違う意味だが、ユウトも衝撃を受けていた。

 今まで、こんな簡単なことに気づかなかった自分自身に。


「竜帝は、システムとして確立されてなかったわけか……。そりゃそうだ。こんなに戦乱が長引いているんだから」

「ユウト、システムってどういうことよ?」

「そうだ。どういうことだ」


 下からラーシア。上からゴウレイに問われ、ユウトはあわてて思考をまとめる。


「王の子……王子が王になる、王位継承のシステム。これは分かるよな?」

「あ、当たり前じゃん。法律的ななにかで決まってるんでしょ? バカにしないでよ、ヴァルじゃないんだから!」

「まあ、そこはともかく。王子に王の資質があるかどうか。つまり、才能なんか関係ない。王子個人とは無関係に、ルートに乗れば王になる。これが、制度化された王位の継承だ」

「才能は無関係であることが、制度化と同じことなら……」

「そう」


 言わんとするところに気づいたアルシアに、ユウトはうなずきかける。


「宝珠を手にし、古竜の承認を得なくてはならない竜帝の座。これは、個人の資質にのみ左右される。それが、一概に悪いわけじゃないが……」


 竜帝の後継者となる。

 それを通常の王位継承の制度と同じように考えたため、今まで後継者が生まれなかった。仮に生まれていたとしても、その死後は、また同じことの繰り返しだろう。


 有能すぎる英雄の死後に分裂・崩壊する国家など、枚挙に暇がない。


「竜帝という幻想を追い続け、その果てにワドウ・レンカが生まれたというわけか」


 もしかすると、ワドウ・レンカの真意も、この辺に関連しているのかもしれない。


「いやでも、そうなるとレイ・クルスが協力している理由が……」

「う~ん。大した話じゃなかったね」

「ああ。よく分からんが、話がずれたのはドラゴンの俺でも分かるぞ」

「そうだな」

「エグザイルのおっさんが、二人に増えた……」

「むしろ、ヴァル度保存の法則?」

「ヴァル度ってなんだよ」


 ヨナが妙なことを言い出し、ユウトは半目でそちらを見る。


「ヴァルがいなくても、ヴァルっぽい反応を誰かがする法則」

「あー。うん。それ以上はだめだぞ」


 なんとなく分かるが……分かってはいけない気がする。


 夫として。


「ユウトくん、それよりも宝珠のことを尋ねてみない?」

「……そっか。そうですね」


 無駄な話をしていたとは思わないが、現状では問題解決に寄与しないのも確かだろう。ヴァイナマリネンでもいれば話は別だが、介入を阻止したのもユウト自身だ。


 問題は、人と天の宝珠を手にしたワドウ・レンカと古竜の一体を殺したレイ・クルスをどう止めるか。

 正面から戦っても負ける……とは思わないが、万が一にも失敗は許されない。だから、情報はあればあるだけありがたい。


「宝珠か」


 蒼の古竜ゴウレイが、地上高くから言う。


「ええ。俺は地の宝珠を預かってますが、大地を操るといった用途にしか使っていないもので」


 懐から取り出した地の宝珠を、手のひらに乗せながら言う。


 水田に適した土壌に変化させる。

 大規模な地割れを作って昆虫人(インセクティアン)を生き埋めにする。

 山をぶち破ってトンネルを造る。


 ……振り返れば、目先の利益しか考えていなかった。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。


 だが、反省は後だ。


「あとは、竜帝の残留思念とたまに会話をしたりか」

「なんだと?」


 蒼の古竜が驚きの声をあげると同時に、勢い込んで近づいてくる。ユウトは反応できず、そのままゴウレイの鼻先が地の宝珠に触れた。


 その瞬間、宝珠から閃光があふれる。


「きゃあっ」


 いきなりのことにカグラが可愛らしい悲鳴を上げ、だからというわけではないだろうが、閃光が塊となって竜人の巫女を打ち据えた。


「カグラさん!」


 ユウトの焦燥の声。

 しかし、カグラはそちらを見ようともしない。


 その視線は頭上の蒼の古竜へと注がれ、不敵な笑みを浮かべている。


「よう、ゴウレイ。久し振りだな」


 カグラの口からカグラの声で、竜帝が久闊を叙した。

モンスター文庫のサイトが更新され、表紙画像の正式版が公開になりました!

http://www.futabasha.co.jp/monster/


あと、5巻の書き下ろし短編はヴェルガ様メインの話……というか、ユウトとヴェルガ様が喋ってるだけですが(笑)。

その後の展開を知っているWeb版読者の方々もにやりとできるシーンもありますので、

よろしければご購入の上、お読みいただけたら作者は大変喜びます。

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