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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 2 もう一人の来訪者 第一章 もう一度、異世界の始まり

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4.文化が違う(後)

 市場にたどり着いた二人がまず回ったのは、生地や古着を扱う店だ。

 既製服が存在しないわけではないが、庶民は古着か自作。余裕がある層であれば仕立てを依頼する。そのため、新品の服が店で売られていることは少ない。


「ここだけ見たら、フリマよね」

「中身はだいぶ違うと思うがな」


 ユウトの適当な相づちに返事はせず、しゃがみ込んで物色を始めた。


「これは、フランネル? あ、毛織り物もあるのね」

「どう? こっちなんか、東方産の草木染めよ」


 女店主が、アカネへクリムゾンレッドの生地を見せる。

 ユウトはその様子を一歩離れて見ているだけだ。興味がないと言えばまったくその通りなのだが、善し悪しが分からないのも事実。

 魔法具(マジック・アイテム)なら、鑑定する呪文が使えるのだが。


「手触りも良いし、結構良い生地なんじゃないかしら。そういえば、全部手織りなのよね……」

「そうさ、うちのはどれも上物だよ」

「うーん。コスプレ衣装を仕立てる感じで、自作できるかしら……。でも、ミシンなんて無いわよねぇ」

「ミシンは見たこと無いな。まあ、仕組みは調べられるから、どっかに作ってもらう手はあるが……。いつになるか分かんねぇな」

「いや、そこまでは」

「手縫いで良いって言うのなら、とりあえず買うか?」

「そうね……って、お金」


 いつもの習慣でアカネがポケットに手を伸ばすが、当然財布は持ち歩いていない。そもそも、日本円が使えるはずもない。


「金ならあるぞ」


 なにも心配するなとユウトが言うが、アカネは微妙な表情。


「なんていうか、そうやって断言されると引くわね」

「遠慮するな。俺への借金は、まだまだ増えていくんだからな」

「勇人最悪だわ」

「まあそれは冗談だが、迷惑料みたいなもんだと思えよ」

「ううむ……。たしかに、諸々償ってもらおうとは思ってたけど……」


 悩むアカネ。

 どうでも良いから、買うなら買ってと視線で懇願する女店主。


「色々やりたいし、勇人お願い」

「あいよ」


 葛藤の末、アカネはユウトを。ユウトの財布を頼ることにした。


「じゃあ、そっちのを……。あ、量り売りとかできます? とりあえず、3メートルぐらいずつ欲しいんだけど」

「はいよ。ちょっと待っておくれ」


 アカネの求めに応じ、目分量で布の長さを測っていく女店主。

 その手際の良さを眺め……ようやく、違和感に気づいた。


「勇人、メートルが通じたんだけど」

「ああ……。俺も最初びっくりしたなぁ」


 不信感を抱かれないように、小声で応じるユウト。

 内容は聞こえないが、行動自体の怪しさは隠しようがなかったが。


「言葉が自動的に翻訳される関係で、一緒に単位も変換されるらしい」

「便利というか、適当というか……」

「楽で良いじゃないか」


 その機能が貨幣価値にまで及ばない理由までは不明だが、ユウトは気にしていない。


「これで良いかい?」


 二人の会話が一段落したタイミングで、女店主が声をかけてくる。

 見たところ、特に不正の跡も見られない。

 一度こうと決めた後は遠慮もなくなり、複数の種類をそこそこの長さで購入したため結構な量となっていた。


「……全部で金貨二枚と銀貨五枚だね」


 値段交渉はきっちり行なったが、結構な金額だ。

 ただし、上物ではあっても最高級品ではなく、仮に後宮へ納品されるような品でも平然と購入できるユウトにはなんら問題はない。

 ぴったり払ったユウトが品物を受け取り、露店を離れる。


「いきなり買わせちゃって悪いんだけど、どんだけの価値なのか分かんないわね……」

「俺の感覚だと、金貨一枚で樋口一葉か諭吉一枚って感じだな」

「そうなると、二万円ぐらい……?」

「大ざっぱだけど」


 ユウトが持つ無限貯蔵のバッグへ複雑な視線を向けるアカネ。約二万円という金額は高校生には高いが、布代としては、こんなものかとも思える。


「何度でも言うけどまったく気にするな。こっちだと、俺は金持ちだからな」

「暗くてお靴がわからないわ」

「どうだ、明るく……って金貨燃えねえよ。あと、成金でもないし、明かりぐらい呪文で出せるわ」

「それもどうなのかしらねぇ」

「まあなぁ……」


 こっちの感覚だと普通のことが、あっちの常識で照らすと残念なことになってしまう。

 そんな会話をしつつ、次は古着の露店へ。

 男物・女物問わず、子供服も並んでいる品揃えの良い店だった。


「さあ、見てってくれ。どれも状態の良い品ばかりだよ」


 先ほどの布屋とそう離れていない。

 金払いが良い上客と判断されたのだろう。そのため、最初から愛想もいい。


「これが、こっちの服ね。いかにも昔の……」


 ブルーワーズでは一般的なチュニックを広げながらつぶやく。

 店主が言うとおり古着の割りにはみすぼらしい感じはしない。

 だが、それだけだ。


「う~ん。縫製が甘い……。手縫いだから、どうしてもばらつきが……。それに、デザインも……」


 聞こえないように小声で不満を漏らすアカネ。どうやら、こちらはお気に召さなかったようだ。


「下着は、そこそこあるからまだマシだけど……」

「服も買わなくちゃとは言ったけど、無理にここで買う必要はないぞ。仕立ての店で頼んだって良い」

「でも、この辺が一般的なんでしょう?」

「まあ、そうだな」

「なら、買うわ」


 真剣な表情で断言する。

 ユウトも、これが他人の金でなければ格好良いんだけどな――などとは言わない。

 結局、上下セットで何種類か購入。ついでに履き物も買っていった。自分で着るというよりは、なにかの資料の様だ。


「さ、次は食べ物かな」

「そうね。まだお腹は減ってないから、食材を見てみたいわね」

「あいよ」


 そっちであれば詳しいし、お勧めの店もある。

 人通りが増え始めた市場を縦断して、目的の店へと向かった。


「しかし、そのバッグ便利よね。22世紀のひみつ道具みたい」

「ああ。重量はこのバッグの分しか感じないからな。ちょっと金のある冒険者なら持っておくべき」


 冒険の中で見つける大量の貨幣や宝石など、この無限貯蔵のバッグが無ければすべてを持ち運ぶなど不可能だ。

 ただし、万能というわけでもない。


「この入り口よりもでかいサイズは入らないし、本当に無限に入るわけじゃないけどな」

「それでもよ。これがあったら、薄い本がどれだけ入ると思ってるの?」

「知らねえよ!」

「でも、あっちで常用するにはためらわれるデザインだわ」


 ユウトが持つ無限貯蔵のバッグを見ながら、遠慮のない意見を言う。それも無理はない。端的に言えば、ただのずだ袋だ。


「そっちも知らん」

「男は、これだから」


 市場とはいえ、そこまで広くもない。

 ほどなくして、一軒の店に到着する。


「まず、ここ。野菜とか穀物とか、農産物の店だ」

「どれどれ」


 興味津々といった様子で、品揃えをチェックしていく。

 小麦粉に、そば粉。大麦といった穀類。

 人参、セロリ、大根や蕪に似た根菜類。それに、キャベツのような野菜。


「どれも、普通の野菜ね」

「そりゃそうさ。こんな市場じゃ、珍しいだけの商品は売れないよ」

「そういう意味じゃないんですけどねー。それより、味見とかできます?」

「味見って生でかい? 止めときなよ、腹をこわしても知らないよ」

「こっちじゃ、あんまり生食はしないんだよ」


 堆肥の関係で生では寄生虫が心配……ということは、後で説明すればいいだろう。


「そう? じゃあ、一通りもらおうかしら。いい?」

「ああ。店ごとでもいいぞ」

「そんなにどうしろって言うのよ」


 もちろん店ごとではなく、野菜を中心にいくらか購入。小麦粉などの穀類は、城塞の台所にストックがあるので見送る。

 その後も、肉を取り扱っている露店で塩漬け肉や干し肉を買ったり、ハーデントゥルム産の魚介類を物色したり、珍しい香辛料を見て回ったりと、充実した時間を二人で過ごした。


「でも、普通よね」

「なんだよ」


 とりあえず、一旦城塞へ戻ろうとしていたところ、アカネが少し残念そうに切り出した。


「異世界なら、見たこともない色の野菜とか、モンスターの肉とか売ってても良さそうなのに」

この世界(ブルーワーズ)をなんだと思ってるんだ」

「イメージってもんがあるじゃないのよ。イメージが」

「あきらめろ。そもそも、モンスターの肉なんて、食わねえぞ」

「はぎ取って、上手に焼いたりしないの?」

「しねえよ。埋めるか、焼き捨てるかだ」


 そもそも、頻繁に出会うモンスターといえば、ゴブリンやオーク、オーガなどの悪の相を持つ亜人種族たち。よっぽど餓えていない限り、食べたいとは思わない。


「それから、変な野菜なんて、俺が知る限り見たことがない。というかむしろ、ジャガイモとかトマトとか普通の野菜でもこっちに無いのがあるくらいだ」

「ううん。トマトがないのは、レパートリーが狭まっちゃうわねぇ」


 思案げなアカネが、ふと思いついたと言葉を発する。


「そうなると、逆に不思議よね。地球に似すぎてない? いや、こっちに、あっちが似ているとも言えるけど……」

「それを言ったら、呼吸できる時点でおかしいってことになるからなぁ」


 ユウトも通った道だが、考えてもどうにもならなかった問題。


「ええとなんだっけ? インテリジェントデザインだっけ? 一人の神様がどっちの世界も作ったとか?」


 幼なじみの仮説に肩をすくめる。


「さあな。こっちの神様に会ったときは、そんな話は出なかったけど」

「神様に会ったとか、平然と言われてもリアクションに困るわね」

「スルーしとけ。重力が変わらないのも、一年が360日ぐらいなのも、そんなの気にしてたらなにもできない」

「そんなだから、地球と一年半もズレてることにびっくりするのよ」

「正直、そんなところまで、手が回らなかった」

「でも、秘密が隠れてそうじゃないのよ」

「別に、世界の秘密になんて興味ないさ。俺たちの生活に関わってこないのなら、調べようとも思わない」

「せっかくのファンタジーなのに、ユウトはユウトなんだから」 


 無関心を責める内容だったが、声音に棘はなく顔も笑っている。


「まあ、あれよね。ファンタジー的に一番説得力があったのは、このお城だわ」


 進路上に鎮座するファルヴの城塞を指さして、アカネが言う。


 夜の間は、はっきり見えなかった。出て行くときも、当然、ちゃんとは見ていない。

 それが今、一歩近づく毎にその偉容がはっきりと分かる。


 分厚く高い城壁。

 東西南北にそびえる、その城壁よりも高い尖塔。

 跳ね橋の先にある巨大な城門。

 そして、中央に鎮座する城館。

 確かに、非日常の光景だろう。


「ダイナシだ、こいつ……」


 これには苦笑もできず、ただ頭を振るしかなかった。

インテリジェントデザインは知性体が世界を創造したということにして、

神の存在を出さずに創造説を学校教育に浸透させるため編み出されたそうですが、

作中では、地球も異世界も同じ神(みたいな存在が)作ったんじゃないの?

そう考えないと、共通点多すぎない?ぐらいの意味で使用しています。


なので、本来の意味とは異なりますのでご注意ください。

また、この辺の話に深入りすることもありません。たぶん。

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