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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 13 花嫁に捧ぐ夜想曲 第一章 ヴァルトルーデとの日

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3.寝室に集う

「あーっ。勇人、やあぁっと、来たわね!」

「すみません。間違えました」


 仕事を終えて二人の寝室へと――今のところは、だが――へ戻ったユウト。

 しかし、予想だにしなかった出迎えを受け、即座に扉を閉めてしまった。言うまでもなく、ただならぬアカネの様子に危機感を憶えたからであり、その判断はすこぶる正しい。


「入りなさい」

「はい」


 しかし、それが許されるかどうかは別の話だ。

 ユウトが立ち去るよりも早く扉を開いたアカネに連行され、再度室内に足を踏み入れる。これから裁判を受ける被告人のように。


 ユウトは、改めて寝室を見渡す。

 寝室ではあるが、ベッドには誰もいない。それどころか、スペースを確保するため、片隅へ追いやられている。


 床には四人分のクッションが置かれており、その中心にはチーズなどの簡単なつまみと飲み物もあった。車座になってアルコール付きの女子会を開催していたようだ。

 天上から帰ってきた際にも同じような事態は起こったが、そのときとは雰囲気が異なるように感じられた。


 そこへ連行しようとするアカネは、寝室にふさわしい格好をしている。

 上下をグレーで揃えたVネックのトップスにのショートパンツというルームウェアは、確かに大胆ではあるが、寝室で婚約者と過ごす分には、まったく問題はない。


 柔らかな微笑みを浮かべているヴァルトルーデは、見慣れたシルクの寝衣。いつ、何回見ても、良い物は良い。


 そして、三人目のアルシアは真紅の眼帯を外し、ダークブラウンの瞳を露わにしている。これだけで、彼女の意識としてはかなり大胆なはずだが、身につけている衣装はそれ以上に冒険をしていた。


 白いワンピースに似た形態に特筆すべきものはないが、光の加減によっては透けて見え、アルシアの理想的な――男性から見た――体の線が否応なく強調されている。

 胸の下には飾り紐が通され、三つあるボタンはふたつまでが開放されていた。胸元を覆うレースの可愛らしさとは対照的な魅力があった。


 そんな彼女たちに見つめられているのは、ユウトだけ。

 そんな彼女たちを目にしていい男も、ユウトだけ。


 けれど、その幸せに浸るのは、難しい状況だった。


「ええと、なんの集まりなのでしょうか」


 妻と婚約者が勢ぞろいした部屋に、酒の瓶が何本も転がっていれば敬語になろうというものだ。悪い予感しかしない。


「言うなれば……。そう、親睦会だな」

「ぜってーちげぇ」


 朗らかに言うヴァルトルーデへ、即座に否定の言葉を返すユウト。

 アカネの目は据わり、アルシアも真紅の眼帯を外して微笑んでいるのだ。それがただの親睦会であろうはずがない。あってはならない。


「違いはしないぞ。ああ、私は飲んでいないからな。安心しろ」

「そこは安心したけどさ……」

「さ、勇人。座って、座って」

「いや……」

「座りなさい」

「はい」


 泣く子と酔っぱらいには勝てない。

 逆らっても無駄だと、ユウトは寝室の床に置かれたクッションに腰を下ろした。


「んで。ほんと、なんの集まりなんだよ」

「飲みなさい」


 再び提示した疑問。

 しかし、アカネは答えずに、玻璃鉄(クリスタル・アイアン)のグラスを差し出した。いや、正確には、押しつけてきたといったところか。

 その縦長のグラスには、白ワインが並々と注がれている。


 そこから目を背けると、すらりとした白い足が飛び込んでしまい――結局、後ろめたさから受け取ってしまった。


「こういう飲みかたをするもんじゃないだろ」

「ユウトくん」

「アルシア姐さん!」


 見るからに尋常ではないアカネと違って、アルシアはまだまともかも知れない。

 アルシアのダークブラウンの瞳をすがるように見つめるが……。


「遅れてきたのだから、ね?」


 その希望は粉々に打ち砕かれた。


「いただきます」


 飲めなくはないが、積極的に飲みたいとも思わない。

 そんな風にアルコールから適度に距離を取ってきたユウトにとって、この量はなかなか厳しかった。


 それでも、ヴァルトルーデからのうらやましげな視線を感じつつ、大魔術師(アーク・メイジ)は一気に飲み干す。

 空気を読む。とても、大事だ。


「ぷはぁ……」


 一瞬で顔が赤くなり、動悸が速くなったことを自覚する。直に収まるだろうが、少しだけ頭がふらふらした。


「見事なプロポーズだったわね」

「うえ?」


 なにを言われたのか、よく分からなかった。

 それは、どのプロポーズのことを言われているのか、瞬時に判断できなかったからでもある。


「この前の闘技場でのよ」

「ああ。うん、あれか」


 その件に関して、アカネが感情を溜め込んでいたのは気づいていた。なのに、フォローを後回しにして爆発させてしまったということか。

 子供ができたということに浮かれていた自分を殴りつけたくなる。


 しかも、その不満を口にするため、アカネはお酒の力まで借りているではないか。


「アカネ……」


 謝ろう。

 許してもらえるかどうかは分からないが、まずはそこからだ。


 ユウトが居住まいを正し、口を開こうとしたその瞬間。


「正直、置いてけぼりでした」


 アルシアからも不満が噴出した。


「確かに、ヴァルのことが心配で、ヴァルのためを思ってユウトくんを送り出しました。ええ。私の判断です」


 そう言いながら、アルシアは手酌でグラスにワインを注ぎ、一息にあおった。白い喉がなまめかしく動き、口の端からこぼれた液体が垂れ落ちていく。


「そんな、一気に飲んだら……」

「それでも、あの展開は予想外でした」


 もはや、ユウトの言葉など聞いていない。

 堰を切ったように、寝間着姿のアカネとアルシアが言葉を発する。


「元サヤに収まったのは、あたしも嬉しいわよ」

「そうね。それは当然」

「それに、別段目立ちたいってわけじゃないし」

「ええ。ちょっと恥ずかしいわね」


 交互に発せられる言の葉の奔流は、横からの介入を許さない。

 相づちを打って、こちらのペースに持っていこうなど夢のまた夢。


「でもほら、愛されてるって感じがするじゃない」

「確かに。それでも、うらやましく感じる部分はあるわ」

「そうよね。女の子だもんね」

「私の告白など、霞んでしまったわ」


 ヴァルトルーデがどうしているのか。それを確かめる余裕もないほど、ユウトは追いつめられていた。


 なにか、言わなくては。


 その焦燥とアルコールに後押しされ、ユウトはなんとか二人の間に割って入った。


「いや、そんなことはないと思うよ。アルシア姐さんから愛されてるんだなって思えて嬉しかったし」

「…………」


 アルシアは突然真顔になり、しばし動きを止める。

 けれど、弾かれたように動きだし、また白ワインを追加した。


「勇人……。恐ろしい子」

「今のは鮮やかな手並みだったな」

「どういう評価だよ、それ」


 もう、訳が分からない。

 飲まないとやっていられない。というよりは、アルコールに逃げれば楽になれるかも知れないと、ユウトもワインを水のように飲み干した。


「朱音にだって、感謝してるし、いろいろ負担かけて悪いと思ってるよ。俺も、そこまで余裕があるわけじゃないから甘えちゃってさ」

「感謝ねえ。具体的に、どれくらい?」

「なんなら、ヴァルにしたのと同じようなプロポーズをしたっていい」

「え? それはちょっと……」


 と言いつつも、アカネは嬉しそうだった。


「今のは、聞き捨てならないが……。もう、これくらいでいいだろう」

「そうね」

「そうですね」


 二人は、にっこりと微笑み、肯定。


「だから、この話は終わりね」

「ええ。ユウトくんも、多少は身にしみたでしょう」

「え? あれ……?」


 先ほどまでの刺々しい雰囲気はあっさりと消え去り、いつも通りのアカネとアルシアが現れた。

 鮮やかな幻術にかかったようで、言葉も出ない。


「だって、前にこうやって集まったとき、これからも四人で仲良く頑張ろうみたいな感じになったでしょ?」

「なったけど……。えー? あー。おう?」


 少しして、言葉は出るようになったが、意味をなさない。


「いや~。ここまで上手くいくとは」

「ユウトくんは、攻められると弱いようですね」


 してやったりというアカネとアルシアの表情を見て、ユウトはようやくすべてを理解する。


「……もしかして、今のは演技?」

「多少は本音も含まれていましたよ」

「そうね。四割ぐらいは」

「思ったより多かった! ごめん!」


 結婚生活は、男が譲れば上手くいく。

 ユウトは、父からのアドバイスを思いだし、心の底から正しさを認めていた。


 とりあえず、これで手打ちということのようだ。


 そう安心したユウトへ、最後の追い打ちが仕掛けられる。


「ところで。ヴァルから、今後、ベッドの当番をどうするかっていう提案があったんだけど」

「ユウトくんの見解を聞かせてもらえるかしら」


 前屈みになった二人が、意味ありげな微笑みを浮かべて迫ってくる。

 わずかに汗ばみ、頬は上気し、瞳も潤んでいた。


 その誘惑を振り払うのは、非常に困難で。


「今日のところは、なにもしないけど……」


 そう。なにもしないが……。


「不足したコミュニケーションを補うため、同じ部屋で寝るというのはどうだろう?」


 ヴァルトルーデとアカネとアルシアと。

 ユウトの愛すべき妻と婚約者たちは、それを言葉ではなく行動で肯定した。

今回の件で得るべき教訓は、コミュニケーションが不足すると爆弾が爆発すると言うことだ。

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[一言] しばらく前のコメント返しにあった、もげる前に爆発するってのは、これか…
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