エピローグ
本日は、2話連続で投稿しています。
こちらはEpisode 12のエピローグとなります。
まだ読まれていない場合には、お手数ですが前話からお読みください。
また、あとがきに、次回以降の更新予定も記載させていただきました。
お手数ですが、そちらもご確認をお願いします。
「勝負あり! 勝者、アルサス・ロートシルト、アマクサ・ユウト!」
頭上から聞こえてきたその声を受けて、ユウトは《絶魔領域》の持続を切った。
力を取り戻していくレイ・クルスを横目に、大きく息を吐く。
「終わった……」
柄にもなく熱くなってしまった。
少し恥ずかしいが、本当に恥ずかしいのはこれから。
そもそも、実際のところ、まだなにも終わってはいないのだ。
「あ、あー。テストテスト。おっ、音声拡大が戻った」
「ラーシア、そいつ貸してくれ」
「ちょっ、終わりのアナウンスぐらいさせてよ」
そんなラーシアの抗議は、完全に無視。
珍しく強引さを発揮し、ユウトはマイクを奪い取った。
ただ、それには背後からラーシアを羽交い締めにしたアルビノの少女の協力もあった。
のみならず、無表情で、くっと親指を立て幸運を祈られてしまう。
やりにくい。
だが、やらなければならない。
「ヴァル、見ての通りだ!」
マイクを手に、顔を上げて貴賓室にいる愛しい人へ呼びかける。
「勝った。他の誰でもない、ヴァルのために勝ったんだ」
この前置きは、必要だろうか?
ユウトのなかの冷静な部分が、そう問いかける。
本題を切り出すのが恥ずかしくて、つい前置きを入れてしまったが、それ自体恥ずかしくないだろうか?
「でも、こんなの特別なことじゃない。ヴァルのためなら、何度だって勝ってみせる。だから、ヴァル――」
ああ、もう良い。
言うべきことは、ひとつしかない。
勢いで押し切れ!
「――俺と、また、一緒になってくれ!」
語尾が、徐々に小さく木霊していく。
不気味なほどの沈黙が、闘技場を、世界を支配した。
それはそうだ。今、言葉を発していいのはただ一人。
「ユウト!」
ヴァルトルーデが、その呼びかけに応える。
それは皆の期待通りの行動だったが、そこから先は、予想外の展開。
ヴァルトルーデは、そのまま貴賓室から飛び降りた。
感極まってはいるが、錯乱しているわけではない。
悲鳴が上がる前に、飛行の軍靴を起動させ、真っ逆様だが安全にユウトの胸へと飛び込んでいった。
「すまない、すまない。ありがとう……」
「泣かせるためにやったわけじゃないんだけどな」
「ばか……」
ユウトは愛する人を、マイクを取り落としながらも、しっかりと受け止める。
もう、ヴァルトルーデしか目に入らない。ヴァルトルーデも、ユウトしかいない。
「しかし、馬鹿なのは私のほうだな。二度と、こんな軽率なことはしないからな」
「良いさ。俺がなんとかしてやる。それに、ヴァルのそういうところも結構好きだよ」
「どうせなら、私自身も好きに――んっ」
最後まで言わせなかった。
ユウトはヴァルトルーデの唇を塞いで、強引に黙らせた。
触れている部分が火傷しそうなほど熱く、それでいて、全身がとろけそうなほど甘い。それになによりも、幸せな感触。
この日、一番の歓声が上がったが、もちろん二人の耳には届かない。
「あー、もう。なにこれ。みんなで一所懸命戦ったのに、終わってみれば、二人がいちゃついてるだけじゃん。はいはい、撤収撤収」
草原の種族のやさぐれた声――しかし、もっともな指摘――は、大歓声にかき消される。
こうして、二日に亘ったファルヴ武闘会の幕は閉じた。
それから数日後。
パス・ファインダーズの三人が、再びヴァイナマリネンの居城八円の塔に集まっていた。
「メルエルは、いねえのか」
「へそを曲げおったわ」
「しゃあねえ、今度だな、今度」
手みやげ代わりに持ってきたドワーフの蒸留酒をテーブルの上に置きながら、エルドリックが怪しげに笑う。一国の王がしていい表情ではない。
しかし、それを指摘するような人物は、この場には存在しなかった。
「今度……か」
愛想のない態度で座るレイ・クルスが、意味ありげにつぶやく。彼が、図書室で行われる酒盛りに参加する意義はないように思われたが、律儀に顔を見せていた。
「おお、誰かと思ったら、今回のあれこれで吟遊詩人の歌の内容が変わったレイ・クルスさんじゃないですか」
「知ったことではないな」
友人のからかいも容赦なく切り捨て、レイ・クルスは目を閉じた。
下戸と称する彼は、酒にもつまみにも手を出そうとしなかった。
そんな迷惑そうな態度もお構いなしに、エルドリックは二日酔いで熟睡していたクレスが、準決勝と決勝を見逃して本気で落ち込んでいたことやローラから小言を山のようにもらったことを楽しそうに語る。
「おお。そういえば、レイがこっぴどくやられた小僧だがな」
「やられたのは、俺だけじゃない。俺たちだろう」
「最近、他二人の嫁から突き上げを喰らっとるらしいぞ」
「あんな恥ずかしい告白を一人にだけしたら、そりゃ、そうなるだろうな」
愉快だと、エルドリックが笑う。
同時に、女の扱いを指南しないといけねえな、とも思う。
この話題に関してだけは、レイ・クルスも唇に微笑をたたえていた。
死と魔術の女神の墓所で彼女に会うという目的は果たされなかったが、特にわだかまりはないようだ。
「そういえば、二人には言っておくことがある」
そんな黒髪の剣士が、声に真剣味を増して言った。
「俺は、ヴェルガ帝国を乗っ取ることにした」
「おいおい、正気か」
「本気ではある」
「若い奴らの説教から、なに学んだんだよ」
「学んださ。俺一人では限界があるということをな」
「そうじゃねえ、そうじゃねえだろ……」
思いも寄らぬ宣言に、さすがのエルドリックも頭が痛くなる。
仕方がないので、酒をぐびぐびあおった。止めても無駄なのは分かっている。となれば、飲むしかないだろう。
「良いところに目を付けたな。帝国の勢力を糾合し、天上へ攻めいって神に囚われたヴェルガを解放するという題目で、スィギルをどうにかするか。実現できるかどうかは別にして、これなら帝国内をひとまとめにできるな!」
だが、ヴァイナマリネンは違った。
素早く情勢をまとめ、悪くない案だと後押しするようなことを言う。
「ヴァイは黙れ。というか、それで、神に勝てるのかよ」
「さあな。ヴェルガ帝国だけで足りなければ、次は世界征服だ」
そのときは、貴様らも新しき英雄たちも、俺の配下だ。
悪を許さず否定するのであれば、監視しながら目的を遂げさせてみるといい。
そんなことを考えながら、レイ・クルスはエルドリックが持ってきた蒸留酒の小樽に手を伸ばす。
飲むのは、数十年ぶり。
「……やはり、不味いな」
あのときのようにむせることはなかったが、体を剣に変えても感想は変わらない。
ただ、あのときと違うとしたら。
その酒からは、青春の味がした。
これにてEpisode 12終了です。
戦闘シーンもキャラも多い毛色の違った話となりましたが、
よろしければ、感想・評価などいただけましたら幸いです。
また、プロット製作などのため、いつものようにしばしお休みをいただきます。
書籍化作業もありますので、再開は9/7(月)を予定しています。
いつもよりも長めの2週間というお休みをいただきますが、
これからも本作品をよろしくお願いいたします。




