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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 9 結婚狂想曲 第三章 その時に

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7.最強対常勝(前)

「脆すぎる……」


 ヨナの超能力(サイオニック・パワー)により、《光彩の砦フォトン・フォートレス》諸共消え去った、不殺剣魔ジニィ・オ・イグル。


 ファルヴの街に残された痕跡は、《フレアバースト》の余波を受けて円状に焼け焦げた道路。そして、今なお漆黒の穴が開いたままのヘレノニア神殿跡地だけ。


悪魔諸侯(デーモンロード)が、この程度でってことはないはずだが」


 うぬぼれではなく、自分たちがあまりにも強かったという可能性はある。それにしても、相手の抵抗が弱すぎた。


 つまり――


「こっちは、ついでだったってことだよなぁ」


 本命は、あくまでもヴァルトルーデ。不殺剣魔とヘレノニア神の因縁を考えれば神殿が目当てだったとも考えられるが、それならばファルヴの城塞という格好の標的がある。

 垣間見せた戦闘狂ぶりが本物なら、やはり、ヴァルトルーデが目的だ。


 どうすべきか……と考え込むユウトの肩には、一仕事終えて満足そうなヨナが乗っかっている。功労者へのご褒美として認められているのか、アルシアでさえもなにも言わない。


「ユウト、これからどうする?」


 悪魔(デーモン)を殺し尽くしたエグザイルが、アルシアから治療を受けながら方針を問う。物足りないと、顔どころか全身に記して。


 そして、それはもう一人の戦士も同様だった。


「良いところを取られてしまったが……。逆侵攻するなら、私も手を貸そう」

「むしろ、()らせろって言ってるよね」


 ラーシアの言わずもがなの指摘は綺麗に無視して、ユウトはアルサス王に頭を下げる。


「あー。この度は――」

「今の私は、ただの聖堂騎士(パラディン)だ。いや、今回もか?」


 そんな臣下に対し、アルサスは片手を上げて堅苦しいことはなしだと制した。そのほうが、いろいろと都合が良い。

 ユウトにとってもそれは同じだったので、あっさりと態度を切り替える。


「そうですか。とりあえず、再戦できるかどうかは別にして、悪魔諸侯がこの程度で終わりとは思えません。警戒だけはしてもらえると助かります」

「承知した。それに、この神殿の惨状も捨て置けないな。目星はついているのかい?」

「いえ、まだです。ヴァイナマリネンのジイさんにも協力してもらって、手を打ちます」


 フォリオ=ファリナのメルエル学長にも招待状は出しているが、多忙ということでまだこちらには到着していなかった。

 けれど、大魔術師(アーク・メイジ)が二人もいて解析できない秘跡(サクラメント)も魔法もありはしない。


「ユウトくん……」

「分かってますよ。まあ、ヴァルなら大丈夫でしょうけど、早めにどうにかします。でないと、結婚式に間に合わない」


 気遣わしげに声をかけてきたアルシアが、驚きに息を飲む。アルサス王やラーシア、エグザイルですらも同じく二の句が継げない。


「間に合わないって、中止にするのではないの?」

「まさか。悪魔諸侯一人でそんなことできないでしょ」


 まだ早朝。数時間の猶予はある。

 そして、そう考えているのはユウト一人ではなかった。


「それに――」

「ヴァルも同じこと考えてるはず」

「ヨナ。それは俺の台詞……。まあ、それだけじゃないから、別に良いけど」

「どういう意味?」


 頭上からの問いにユウトは、はっきりと、しかし誰にも理解できない内容で応えた。


「不殺剣魔ジニィ・オ・イグルの間違いも、正してやらないといけないからな」





 奈落に堕ちたヘレノニア神殿。

 その奥へ奥へと、ヴァルトルーデは追い詰められていた。彼女自身それを自覚してもいたが、かといって魔法のように都合の良い解決手段はない。


 いくらヘレノニアの聖女であっても限界は存在する。現に、今も取りこぼした悪魔が脇をすり抜けていく。

 その目指す先には、神殿の倉庫があった。


「タイミングを合わせるでありますよ! てぇっ!」


 アレーナのかけ声を合図に、バリケードの内側から数本の槍が突き出される。聖堂騎士だけが使用できる《善の刃ブレイド・オブ・ヴァーチュー》が付与された穂先が、悪魔の体を刺し貫いた。


「グケェッッ」


 鶏の頭を両肩と腹にひとつずつ生やした四足の悪魔、ヒューヘンルズが、死者でも目が覚めそうな絶叫を上げる。実際、重傷を負い倉庫で安静にしてた数名の神官が顔をしかめた。

 しかし、それだけの効果はあった。再び放たれたアレーナの号令によって長槍(ロング・スピア)が引き抜かれると、鶏の悪魔がどうと倒れ伏し、塵となって消滅する。


 そして、黒く染まっていた床が、その部分だけかつての色を取り戻した。


 奈落に存在していることによる汚染。

 悪魔たちを倒し続けることで浄化されるものの、現状維持に過ぎない。それが分かっていてもなお、35名の聖堂騎士や神官たちは退くことも諦めることもしなかった。


 ヴァルトルーデが時間を稼いでいる間に家具などを運び込み応急の防壁を築き、武器もヘレノニア神が愛用する長剣(ロングソード)ではなく、長槍に持ち替えた。 

 そして、4~5名程度の班に人員を分けてローテーションで事に当たる態勢を整える。


 すべては、ヴァルトルーデへの負担を減らすため。


「今回も、なんとか凌いだか……」

「ほとんど一人で相手をしておられるヴァルトルーデ様のお陰だがな」


 一戦闘終え休憩を取る神官たちが語り合う。彼らの視線の先には、純白のウェディングドレス。アレーナから話が伝えられた直後、誰からともなく走り出し、真っ先に確保していた。


 はっきり言ってしまえば、彼らは――アレーナも含めて全員――足手まといだ。

 ヴァルトルーデ一人であれば、悪魔の群れを一蹴することも可能。少なくとも、彼らはそう思っている。

 だから、積極的にではないにせよ、求められれば自ら命を絶つ覚悟ぐらいはあった。悪魔に転生させられると聞いて、実際にそうしようとした者もいる。


 思いとどまったのは、ヴァルトルーデがそれを求めないことなどよく分かっていたから。


 ならば、死のリスクを少しでも避けることに集中すべき。そのついでに、彼女の大事なものを守るぐらい許されるはずだ。


「ああ。俺たちでも倒せる悪魔を、送ってくれてるんだろうな」

「まったく、とんでもない話だ……」


 始めは、その武に圧倒された。

 名ばかりの神殿長ではあったが、時折訪れては聖堂騎士や神官たちに稽古をつける彼女の教えは、正道でありながら実戦的。


 そうして腕を上げれば上げるほど、隔絶した違いが分かるようになる。


 才能が違うのは確かだろう。


 それ以上に、場数が違った。聞けば、冒険者時代は凶悪なモンスターや邪教の徒たちと毎日数回戦い続けていたのだという。

 それだけ生死のやりとりをすれば、この強さにも納得できる。


 絶対に、真似はできないが。


 上司であり、師であり、憧れの存在である彼女が、愛する男と結婚をするのだという。

 祝福しない者など、一人もいない。


「そろそろ準備をするか」

「ああ。死ぬなよ」

「そいつはお互い様だ」

「違いない」


 そう。ここで一人でも死ねば台無しだ。

 ヘレノニアの信徒として、悪を討つのは義務であり生き様である。それを抑えてもなお、彼らは自分の命を優先することにしたのだ。


 他ならぬ、ヴァルトルーデのために。


「ついに、上級悪魔までお出ましか」


 そんな想いを寄せられていると気づく余裕もなく、倉庫から少し離れた通路で、ヘレノニアの聖女は熾天騎剣(ホワイト・ナイト)を鞘に収めた。


 邪悪なる炎の精霊皇子イル・カンジュアルに創造されたとされる、業火の悪魔バラー。

 全身を炎で覆った、がっしりとした体躯の巨人。ねじくれた角は天井に接し、通路全体を塞いでいる。

 山羊にも似た頭部だが、結局のところ、邪悪としか言いようのない存在だ。


 その圧倒的な上級悪魔が、他の悪魔たちを下がらせヴァルトルーデの前に姿を現した。


「こちらとしては戦いたくなどないのだが、これも契約でな」

「約束は破れぬか」


 上級悪魔には、人間をも超える知性がある。

 意外と聞き取りやすい声で、業火の悪魔は宣戦を布告した。


「《魔炎ネクロティック・フレイム》」


 ブルーワーズには、善悪正邪を問わず神々が存在する。ゆえに、バラーの指先から放たれた悪の炎も、また神術呪文であった。

 だが、この程度の攻撃ヴァルトルーデにとってはなんということもない。籠手と一体化した盾で顔だけかばい、逆につっこんでいく。


「ぬるいな」

「知っておったよ」


 上級悪魔となれば、悪魔諸侯の軍勢のなかでも高い地位を占める。この業火の悪魔も例外ではなく、不殺剣魔の将軍として多くの悪魔を率いる立場にあった。

 ゆえに、相手の実力を見誤ることなどない。


 この《魔炎》は、ただの目くらまし。


 本命は、両手に持った武器だ。


 鞭の先に火を帯びた長剣がくくりつけられたかのような異形。ウィップソードと呼ばれる二本の武器を自在に操る。

 扱い難いことこの上ない――狭い通路であればなおさら――このウィップソードも、業火の悪魔バラーが手にすれば、《両断(ブレイク)》の魔化同様、容易に首を刈り取ることができる。


 そう、ヴァルトルーデがこちらへ突撃してくることなど分かっていた。接近するより他に攻撃手段などないのだから。


 そこに刃を置いて(・ ・ ・)さえいれば、あとは勝手に……。


「知っているのは、こちらのほうだ」


 業火の悪魔と対するのは、これで三度目。

 戦闘に関することであれば、ヴァルトルーデがその特性を忘れるはずもない。


 交差するように首筋を狙ったウィップソードは、致命的な攻撃を自動的に防ぐ盾で簡単に弾いてしまった。


 残るは、無防備に立ち尽くすバラー。


選定(セレクト)


 玻璃鉄(クリスタル・アイアン)の鞘に収めた熾天騎剣を抜刀。

 《聖化(ホーリィ)》、《鋭刃ポインテッド・ブレイド》、悪魔(デーモン)に対する《絶種(スレイ)》は基本。

 さらに、業火の悪魔に対して選んだ魔化は、《巨刃(エンラージ)》、《自律(オート)》、《押出(バッシング)》。


 使い手を離れた熾天騎剣は、しかし所有者の意志に従い、独りでに宙へ浮かんで巨大化した刃を合計六回振るう。

 そしてその都度、勢いに押されるように離れていった。


 《押出》を選定したのは、下手に接近して、その炎の体で焼かれたくないから――ではない。


「お、おのれぇっ」

「私は知っていると言ったぞ」


 熾天騎剣の連撃を受けたバラーの命の灯火が消える。

 否、消える寸前に大きく弾けた。


 全身を包んでいた炎が一際燃え上がり、轟音とともにそのそびえ立つ肉体が四散した。初めて見たとき、ユウトが「テロかよ」と感想を漏らした大爆発。

 ヘレノニア神殿が内部から鳴動し、床が天井が壁が無惨な姿となる。


 だが、それだけ。


 《自律》の効果により戻ってきた熾天騎剣を手にしたヴァルトルーデは、全くの無傷。何者も、彼女の美しさに手を加えることはできない。


「こいつは、ひでぇ。バラーが完全に無駄死にじゃねえか」

「ああ。まったくだぜ」


 爆煙の向こうから現れる影がふたつ。

 手足のバランスが悪く、武器の群れを引き連れた赤毛の女たち。


「さぁて。改めて自己紹介だ、ヴァルトルーデ・イスタス」

「あたいは」

「あたいらは」

「ジニィ・オ・イグル」


 不快なハーモニーを奏でる二人。


 見間違えようもない。

 不殺剣魔ジニィ・オ・イグル、悪魔諸侯が二人いた。

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