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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 1 レベル99から始める領地経営 第四章 発展編

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3.馬車鉄道構想

配分ミスしてしまいました。

今回、かなり短めです。申し訳ありません。

「わざわざ集まってもらって、すみません」


 丁寧だが空気の読めていないユウトの挨拶で、メインツの商談・夜の部が始まった。


 空気が読めていないというのはつまり、自分たちよりも上の立場にもかかわらずへりくだられているという居心地の悪さと、今度はなにを言われるのかという警戒感を考慮していないという意味だ。


 それは、ハーデントゥルムの評議員とは立場を異にするミランダ族長も、ユウトにはかなり好意的なレジーナさえも同じだった。

 ただでさえも、日中に行われた玻璃鉄のプレゼンテーションで限界に近づいているというのに。


 今回、メインツへの客人が泊まるために用意された宿舎。

 その食堂に集められたのは、ハーデントゥルムの評議員五名に、メインツからはミランダ族長と職人の代表が数名。


 一方、領主側はユウト一人。


 遅い時間のためヨナは既に寝ている。仕方がない。子供は寝るのが仕事だ。ヴァルトルーデも、例の族長の館で他のドワーフたちと酒を酌み交わしている。つまり、仕事中だ。


「それで、お話というのは?」

「まあ、新しい事業の提案というか相談というか。そんな感じです」


 《燈火(ライト)》を封じられた玻璃鉄(クリスタル・アイアン)が、辺りを照らす。たったひとつだけだが、ユウトたちが座るテーブルの周囲だけであれば充分な光量を持っている。

 それに、あまり明るくしては困る事情もあった。


「まずは、これを見てください」


 呪文書を5ページ分切り裂き、村長たちをファルヴに集めたときにも使用した第五階梯の理術呪文《完全幻影(ミラージュ・ファクト)》を発動する。


 皆が集まってテーブルの上に展開される映像。


「馬車……ですかな?」


 それは、誰かがつぶやいたとおり、二頭立ての馬車だった。ただし、こちらの世界で一般的に見られる馬車とは違い、客車には鉄の車輪が備え付けられていた。

 そして、線路の上を走っている。

 音までは出ていないが、ユウトの記憶を元にした動画に、一同はまた衝撃で言葉もない。


「これは、俺の世界で昔使われていた馬車鉄道と呼ばれる輸送手段のひとつです」

「馬車鉄道……」

 

 《完全幻影》の維持に精神を傾けながら、ユウトが説明を始める。

 翻訳は上手く働いてくれたようで、単語が通じないということはなかった。ただし、鉄道は通じていないだろう。


「まあ、この線路がコロのような役割を果たして、速く、より多くのものを快適に運ぶことができると思ってください」


 馬車鉄道とは、日本では蒸気機関車が普及するまでの間、一部で使用されていた馬を動力にした鉄道だ。

 利点はあったのだが、蒸気機関車に勝てるはずもなく廃れてしまっている。

 ユウトも、北海道へ修学旅行に行ったときに開拓をテーマにした観光施設へ寄らなければ、絶対に知らなかっただろう。


 しかし、知ってさえいれば、後は多元大全で詳細を調べることが可能だ。


「速さは、そうですね……。人が歩く速さの倍は出ます。馬の力にもよりますが、人間なら二頭立てで30人は運べるでしょう。そして、この線路を使用することで、普通の馬車に比べて揺れも少ない」


 総合すると、馬車に比べて速さは変わらないが積載量や快適性は上。

 もちろん、蒸気ではなく馬が動力のため餌や水など生物特有の問題を抱えてはいるのだが、それは現行の馬車も代わりない。


「といっても、いきなり街道に敷設するつもりはありません。まずは、ハーデントゥルムの山越えに利用できないかと思っているのですが、どうです?」

「山越えですか……」


 ユウトたちは《瞬間移動(テレポート)》で移動したので問題は生じなかったのだが、ハーデントゥルムの陸側は、険しい山道になっている。

 ハーデントゥルムで陸揚げされた荷は、必ずこの山道を通らなければ各地へ発送できないのだ。


 防備としては上々で、ユウトは鎌倉の切り通しのようなものかと思っていたが、商業都市としてはマイナスにしかならない。


「確かに、あの山越えが楽になるとなったら、喜ばれるでしょうね」


 レジーナの反応に、ほっと息を吐くユウト。他の評議員たちも、概ねレジーナと同意見のようだった。


「というわけで、費用はうちが持ちますから、線路と貨車を試作してもらいたいのですが? あと、枕木はコークスを精製するときに出たタールで腐食を防げるので、その加工も一緒に」


 ユウトがミランダ族長に依頼すると、しかし、彼女は渋い顔をしていた。


「それは、馬でなくちゃならんのかね?」


 蒸気機関の話をして、通じるだろうか?

 そう考えた次の瞬間、ユウトはミランダ族長の言わんとするところを理解した。


「ああ、トロッコか」


 世界一有名な考古学者が登場する映画でも活躍していたトロッコ。もちろん、ドワーフたちは鉱山の中で鉱石の輸送に使いたいのだろうが。


「大きさにもよりますが、手押しかロープを引っ張っての運搬も可能でしょう。まあ、短距離に限られますが」


 その言葉にドワーフたちは顔を見合わせ、商人たちは表情を曇らせた。

 気持ちは分かるが、こんなところで一番手争いをされても困る。


「とりあえず、メインツの鉱山で鉄道の実験をしてみましょう。それを受けて、ハーデントゥルムにも敷設するということで」

「妥当なところじゃな」

「そうですわね……」


 ユウトの仲介で、なんとか場は収まった。


「しかし、この線路とやらは、鋳造で作った方が良さそうじゃが、どの程度の強さが必要になるかの……」

「長さも、どこまでなら作れるのか。そして、どのくらいの長さが最適なのか見極めねばならんじゃろう」

「そうじゃな。じゃが、枕木とやらも重要じゃぞ。あれで、線路と馬車の重みを支えにゃならん」

「線路とやらの幅に合わせて車輪も馬車も設計する必要があるな」


 ユウトが作った幻影を指さしながら、ドワーフたちが侃々諤々の議論を始める。

 これには、ユウトも商人たちも苦笑いを浮かべるしかなかった。

 だが、実にドワーフたちらしい。ユウトがこの街へ初めて来た時の陰鬱さが嘘のようで、自然と、苦笑が微笑へ変わっていく。


「それで、アマクサ様。実際のところ、この馬車鉄道をどうするおつもりですの?」

「まだ実現性は微妙なところだけどね……」


 そう前置きしてから、ユウトは腹案を口にした。


「メインツとファルヴ、ファルヴとハーデントゥルムを馬車鉄道で結んで、物流を活性化させたい。将来的には、ファルヴと周辺の村にも繋いでいきたいね」


 野盗やモンスターが跋扈するこの世界。当然、安全対策には気を配らなければならないが、それさえクリアできれば、画期的な輸送手段になるはずだ。


「具体的には、馬車鉄道のキャラバンを作り上げたい」


 行商人は馬車で商売経路を巡回していく。

 しかし、極論すれば物と金のやり取りさえ行われれば、商売は成立する。ユウトがやろうとしているのは、馬車鉄道による代引き通販だ。


 大型の貨車と、客車。そして、護衛からなる護送馬車団を用意し、馬車鉄道の職員が商品と料金のやり取りを代行する。可能なら、伝票のやり取りだけでも良いだろう。

 需要に応じて本数や規模を決定していくのは大変だろうが、そのうち自然と需給バランスも取れると目論んでいる。


「――というのは、まだまだ先の話。まずは、やたら重たい玻璃鉄の輸送が第一かな」


 そう締めくくったユウトだったが、商人たちの無言の熱意にまでは気付けない。



 レジーナも他の商人たちも、ユウトが描く風景を想像し、自らが行う商売という怪物が持つ可能性にあらためて身震いする思いだった。

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