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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 6 はたらく冒険者たち 第三章 天から地から
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5.神々の来臨(後)

タイトルは後編ですが長くなってしまい宴会にたどり着かず。

このシリーズ、明日も続きます。

「それでは、どこへ案内をしましょう。希望があれば、一応、聞きますけど……」

「希望はあるのである」


 音も気配も感じさせず、ゼラス神とユウトの間に割り込んできたがっしりとした体躯の男。あくまでも自然体だが、エグザイルにも似た威圧感があった。


「おっと、吾輩はレグラである。そなたらの自己紹介は不要であるぞ」

「ということは、もしかしなくても、あの……」

「その通りなのである」


 力の神レグラ。

 彼だけが、ユウトと仲間たちとの関わりが見えない。しかし、神々の交友関係など分からないのだ。案外、知識神と仲が良いのかも知れない。


「それで、どこへ」

「なにか腹に入れたいのである」

「それなら……」


 城塞で準備をしている。なにも問題はない。

 そのはず、だった。


「東方屋という珍しい料理を出す店に案内を頼むのじゃ」

「なぜそれを」


 レグラ神の後ろからひょいと顔を出してきた死と魔術の女神。予想外の名詞が出てきて、さしものユウトも二の句が継げない。


「それはもちろん知識神だから、ではないんだな。知り合いの推薦なんだ」

「知り合い……」


 この瞬間、ユウトの頭の中でパズルのピースがかちりとはまる音がした。同時に、ラーシアの顔が思い浮かぶ。空を見上げれば、この青空に浮かんできそうだ。


「……承知しました。朱音、悪いけどすぐに出せそうなものだけ見繕って、カグラさんと合流してくれ」


 そう言うと同時に、幼なじみへ無限貯蔵のバッグを手渡した。


「アカネ先生」

「あー。ノート持って合流するから」


 まるで子供をあやすかのようにリィヤ神を振りきると、アカネは一目散に駆けだした。


 それで認識阻害の効果範囲外に出て、傍目には突然出現したように見えたのだろう。城塞の正門を守る衛兵が目を丸くするが、説明している暇はない。


「……食事なんてどうでもいいのに」

「美食も芸術だよ」

「さあ、行くのじゃ」

「楽しみなのである」


 四柱もの神々を先導するという大役を任された、大魔術師(アーク・メイジ)。なにを話せばいいのかも分からない。こういう時はヴァイナマリネンの傍若無人さがうらやましくなるが、無い物ねだりでしかなかった。


「とりあえず、《伝言(メッセージ)》で仲間を呼びますので」


 断りを入れてから、仲間たちに発見と合流先の連絡を行う。


 このあと、どんな惨状が繰り広げられることになるのか。想像もしたくなかった。





 カグラは、東方屋を貸し切りにしたいとリトナが言った意味を、今まさに体感していた。


 草原の種族(マグナー)が多く集まるので、騒がしくなって別の客に迷惑をかけるからと思っていたが、違った。


 注文された料理の種類、量、ともに桁はずれ。


 おそらく、数十人前になるだろう量を作り続けねばならず、カグラも、手伝いに来ている里の女衆も休む暇もなく働き通しだった。あてにしていたわけではないが、外せない用事があるということでアカネの手伝いが得られなかったのは痛い。


 それでも、リ・クトゥアから来た女たちは勤勉だった。


 アカネに教えられた通り、しっかりと米を研いだあとには蜂蜜を混ぜたきれいな水で吸水させる。宴が始まるのは昼過ぎという曖昧な指定だが、その頃に蒸らし上がるよう計算をしてかまどに火をくべていく。


 その間に、惣菜の準備だ。


 ハンバーグのために合挽き肉を用意し、つなぎを混ぜてパティを作っていく。

 フライ料理も外せない。衣を準備し、タネに下ごしらえをしていった。


 これらは、焼きたて揚げたてが命。タイミングを計って完成させなければならない。それは、リトナがこよなく愛する刺身も同じだ。


 また、今回はメインだけでなく前菜として餃子やシュウマイも試作をしている。醤油が大活躍する予定だ。

 ユウトがいたら「すでに和食じゃねえ」と指摘が入っただろうが、残念ながらそれは叶わない。


 下ごしらえに奔走する里の女たちを監督していたカグラは、満足そうにうなずくとかまどへと移動する。


 こちらは、今まさにクライマックス。


 鴨肉と野菜の煮物。スープとして、野菜がたっぷり入った豚汁など。


 味付けはファルヴ周辺地域にあわせるのではなく、和風を優先。心配になる部分もあるが、リトナからのリクエストであるし、自信もある。


 ならば、それに応えるのみ。


 味見をするカグラの表情を、食い入るように見る竜人(ドラゴニュート)の女たち。その視線を意識しつつも、割烹着をまとったカグラは厳正なる審査を下す。


 すなわち、花のような笑顔を。


「ばっちりです」

「ありがとうございます」


 同じく華やかで達成感に満ちた笑顔で、東方屋の厨房が彩られる。

 この分なら、準備は問題ないはずだ。


 そう。それは喜ばしいことなのだが……。


「それにしても、リトナさんのお友達はどれだけの大食漢揃いなのでしょう」


 すでに店に来て一杯やっている草原の種族の少女と、彼女を追ってきたラーシアの姿を思い浮かべる。


 二人ともその体躯からすると食べる方だが、彼らが数倍に増えてもすべて消費しきれるとは思えない。

 あるいは、食べきれないほどの量で歓待するのが草原の種族の流儀なのか。


 けれど、それを考えても仕方がない。

 今は、やるべきことをやるだけだった。


 そう決意を新たにしたカグラの耳に、店へと人が入ってくる音と話し声が聞こえてくる。どうやら、リトナの友人(・ ・ )が到着したらしい。


「おー。遅かったね」

「先に街中を巡っていたのである」

「まあ、アタシは馬車鉄道にも乗ったし、他の街にも行ってたけどね」


 挨拶と確認のためにカグラが店へ出ると、リトナが彼女の倍以上は背の高い修道僧の男と親しげに話をしているところだった。

 なぜかラーシアは魂が抜けたように放心していることを訝しがっていると、予想外の人物が彼女の前に進み出る。

 

「ユウト様?」

「カグラさん、申し訳ない」


 なぜか出会い頭に謝罪をするユウトに、カグラは首をひねった。

 なにに対して怒っているのだろうか? もしかして、人数が増えるだろうか? それとも、彼の向こうにいる来客の中に、草原の種族が誰一人としていないことだろうか?


「みんなを連れてきた」


 そこに、アルビノの少女が《テレポーテーション》で現れる。真っ先に到着してよさそうなものだったが、どうやらヴァルトルーデたちを回収してきていたらしい。


 真紅の眼帯でも分かる神気。

 アルシアは慌てて両膝をつき非礼を詫びる。聖堂騎士(パラディン)も、当然のようにそれに続いた。


「遅くなりまして、申し訳ありません」

「構わないのじゃ」

「そういうわけには」

「天草勇人には伝えたけど、今日は無礼講だよ」


 ひらひらと手を振って、むしろめんどくさいと二人に言葉をかける夫婦神。そのまま、店の中央にテーブルを集めて作った席へと移動する。

 あまりにも自然で、誰も声をかけられない。


「久しぶりであるな、超能力者(サイオン)の少女よ」

「うっ……」


 力の神に迫られ、慌てて岩巨人(ジャールート)の背中に隠れるアルビノの少女。なにがあったのかは分からないし、エグザイルには相手が誰かも分からない。だが、ヨナが助けを求める以上、引くという選択肢は存在しなかった。


「ほう……」


 強敵を前に、二人の目が怪しく光る。


 そこに、敵意も憎しみもない。

 ただ、興味と理解。力ある者同士のシンパシーがあった。


「その挑戦、受けて立つのである」


 緊張が最高潮に達したその瞬間。


「……いいから座る」


 意外にも、その勝負を制したのは美と芸術の女神リィヤだった。襟首を掴んでレグラ神を半ば倒し、そのままゼラス神たちの下へと引きずっていった。


「ぬう。是非もなしなのである」

「ふう……」


 エグザイルの全身から、一気に汗が噴き出した。

 逃げるつもりも負けるつもりもなかった。だが、勝てたかと聞かれたなら、無言を貫くしかない。


「ユウト、あれは何者だ?」

「力の神、挑戦者を守護する者――レグラ神の分神体だよ」

「道理でな」

「ただ、なんでヨナのことを知っていたのかは分からない」


 それは、ヨナに説明を求める言葉だった。逃げ出そうとする少女の襟首を掴み、目線の高さへ引き上げる。


「夢に出てきた」


 言葉少ないその説明で事情を察した。ゆっくりと、アルビノの少女を地面に戻す。

 ヨナの破壊力へのこだわりは、見方を変えれば力の信奉者と言えなくもない。ユウトは知識神、アカネには芸術神の招きがあったように、彼女は力の神の召喚を受けたのだろう。


「二回連続でいらないとか言われて、向こうも意地になったわけか」

「だって。なんか、うざ……暑苦しかった」

「言い直してもフォローできてないからな」


 ユウトの指摘に――自覚はあったのだろう――すねたようにつんと横を向く。学校では姉御をやっているようだが、ユウトたちの前では相変わらず。

 それが、なんとも愛おしい。


「はいはい。今日はアタシのおごりだから、みんな座って座って」


 いつの間にか上座に移動していたリトナが、事態の収拾に乗り出した。


「ラーシアくんのお友達はそっちに座る。カグラちゃんは、お料理お願いね。あと、お酒も」

「は、はい」


 その場に棒立ちになっていたカグラが、弾かれたように厨房へと舞い戻る。

 なにか神がどうこう言っていたような気がするが、聞き間違いだろう。そうに違いない。


「ところで、なぜ……」


 有無を言わせぬ号令に、魔法銀(ミスラル)の鎧という彼女なりの正装を身につけたヴァルトルーデがためらいがちに口を開く。

 分神体が居並ぶ中、なぜリトナが仕切っているのか。そもそも、どうして彼女はこの店を借り切ったのか。


「え? まだ分からない?」


 ニヤニヤと。してやったりという顔をして、彼女は癖毛を指に絡ませる。


「まいったなー。まいっちゃったなー」


 つまり、分かった人間は説明しろということだ。


「ヴァル、驚くなよ?」


 謙譲精神からではなく末席に陣取ったユウトが、言っても仕方がない警告を婚約者に。否、仲間たちに送る。


「あの御方は、タイロン。草原の種族の創造神、その分神体だよ」


 ユウトの言葉が浸透するまでの数十秒間。沈黙が、東方屋を支配する。

 忙しなく動く厨房からの声も遠い。


「な、なんだと!?」


 思わず椅子を倒す勢いで、ヴァルトルーデが立ち上がった。発言者が彼でなければ、つまらない冗談だとにらみつけているところだ。


 一方、ヨナはよく分かっていないのか。あるいは、どうでもいいのか特に反応はない。残るアルシアとエグザイルの二人は、今年分の驚愕はもう完売したと、やはりコメントはなかった。


「この街を訪れるとは言ったけど、いつ誰がとは確約してないし? あと、アタシは今まで通りリトナって呼んでね」

「そもそも、俺が誘ったのはゼラス神お一人だったはずなんですが」

「神の口にも戸は立てられないんだよね」


 責任を放棄するような言葉を発し、知識神は隣に座るトラス=シンク神の肩を抱いた。死と魔術の女神は嬉しそうに胸板に顔を埋め……なにかに気づいたように、定命の者へと教えを授ける。


「命は短いのじゃ。ほれ、そこの若人も遠慮するでないのじゃ」

「そうやって、火種を……」


 きらきらと目を輝かすヨナの頭を押さえ、ユウトは自分の頭も抱えたくなった。なんだこれは。わけがわからない。


「なるほど……」


 ようやく事情を飲み込めたのか。ヘレノニアの聖女が椅子を戻して席につく。  


「それで、ラーシアがあんなことになったのか」


 座敷にいたラーシアの体が、ぴくりと動いた。まるで、絶命寸前の陸に上がった魚のように。

感想欄では鋭い指摘もありましたが、TaylonタイロンLytonaリトナという簡単なアナグラムでした。


ラーシアの嫁候補としては、「兄の敵だとラーシアを狙う草原の種族の少女」というのもあったんですが、

ハードボイルドになりすぎるので見送ったという経緯もあったりします。


というわけで、次回のタイトルは「混沌の宴」。

神々の来臨編も一段落するはずです。

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[一言] 古い感想が読めなくなってるのが残念なんだよなぁ… ところで、たまに残ってる誤字は指摘したほうがいいの? 完結してるから遠慮してるんだけど…
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