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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 3 帰還へのランアップ 第三章 半神の帝国
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8.後始末

閑話っぽくなって、短め&話があんまり進まず申し訳ありません。

「凄いわねぇ。びっくりしたわ、色んな意味で」


 凄惨な光景すら、一幅の絵画に変えてしまうヴァルトルーデの美しさ。

 相変わらずの美貌と圧倒的な実力に、アカネは感心する他なかった。


「まあ、ユウトたちを温存できたのは良かったね」

「不安はあったけど、終わってみれば楽勝だったなぁ」


 ユウト、アルシア、ヨナ。

 いずれも強力ながら、呪文や超能力(サイキック・パワー)には使用回数制限がある。そのため、体力以外は目減りのしないヴァルトルーデたちに戦闘を任すこともよくある。


 そして、今回もそうなった。

 さらに言えば、勝ったこと自体は喜ばしい。

 けれど、かつて当然のように憧れた恐竜たちが、簡単に屠られる様を見るのは実に複雑だった。吐息(ブレス)攻撃もなく空も飛ばないドラゴンと考えれば妥当な結果なのかも知れないし、もちろん、怪我をしてほしいわけではない。

 そうではないのだが……。


「とりあえず、肉を回収しよう」


 気を取り直したユウトは、物言わぬ骸となった恐竜たちを横目に、呪文書から7ページ切り裂き虚空に放った。


「《魔力の剣(フォース・ブレイド)》」


 7枚の呪文書が、大魔術師(アーク・メイジ)の頭上で光りの粒へと変わり、一振りの長剣(ロングソード)へと再構成される。


「征け」


 術者の命に従い、純粋魔力の刃が恐竜の体へ突き立てられ、切り裂き、肉がブロック状に切り分けられていく。回収するのは、もも肉に、あばらの周りを重点的に。内臓は、見送った。


「あれー? なんか、さっき温存って話をしたと思ったんだけど」

「ロマンのためだ、許せ」

「もしかして、勇人……」

「食べてみたいじゃないか」


 ドラゴンなどモンスターの肉を食べる習慣は、ブルーワーズには――少なくとも人間の間には――ほとんど無い。ゲテモノに近い扱いだ。

 しかし、今回の相手は恐竜。 

 夢といえば大げさだが、気になるものは仕方ない。


「マンガ肉ね、確かに……」


 そして、ここにまた一人、そのロマンを解する者が存在していた。


「似たもの夫婦だ」

「夫婦だなんて、そんな」

「いや、そっちに反応してほしかったんじゃないんだけど……」


 処置なしと、ラーシアは首を振る。

 一方、アルビノの少女が興味津々に聞いてきた。


「おいしいの?」

「いや。たぶん、それほどでもないと思う」


 肉食獣の肉は臭みがあるという話だし、そもそも、味だけで言えばそのために育てられた肉の方が旨いに決まっている。

 ただし、料理には、思い入れや状況といった要因が関わってくるのも確かだ。


「用事が済んだなら、先に進むぞ」


 そう言うボーンノヴォルだったが、しっかりと自分が倒した分は確保している。巨人が、恐竜を担いでいる姿は幻想的だが、シュールさにも溢れていた。 


 ユウトは手早く血抜きし、小分けにした肉をあらかじめ用意していた麻袋に突っ込んで、無限貯蔵のバッグへ放り込んだ。

 再び取り出されるのは、数時間後。

 この日の行程を終え、野営を行うときとなる。





「ふうむ……」

「ううん……」


 既に陽は暮れ闇の帳が永劫密林を覆いつつある。

 水場からほど近い開けた場所で野営をしている中、来訪者のカップルが肉にかじり付きながら難しい声を上げた。


 恐竜たちとの最初の遭遇(エンカウント)から半日。

 同様の襲撃を何度か撃退した後、ついに密林の王者と認定されたのか、肉食恐竜たちに襲われることはなくなった。むしろ、遭遇しても向こうから逃げていくほど。

 どういう伝わり方をして、どういう認識をされているのかは分からないが、ユウトとしては少し寂しい。


 目的地である次元竜(クロノス・ドラゴン)の住処までは、ようやく道半ばといったところ。

 ボーンノヴォルの指示に従って野営の準備を整えたのだが、《灰かぶりの馬車ファントム・キャリッジ》をテント代わりにするため準備はほとんど必要ない。

 なれ合う気はないとでも言うかのように、彼の死巨人(タナトス)は距離を取り、一人で夜を越す態勢を取っているとなれば、なおさら。


 唯一のアクシデントは、ラーシアが「ボクたちは外で寝ようか」などとゲスい顔で言ってきたので、ヴァルトルーデにお仕置きされたぐらいのものだろうか。


「筋が多いな……」

「臭みも残ってる……」

「そうか? なかなか美味いぞ」

「ああ。充分だろう」


 エグザイルやヴァルトルーデは褒めてくれるが、慰めにはならない。この二人は、なんでもたくさん食べる。

 ユウトとアカネが難しい顔をしているのは、もちろん、串焼きにした恐竜の肉の味についてだった。


 マンガ肉はロマンの最たるものだが、現実的にかなり無理がある。

 ボーンノヴォルがやっている、周囲の木をへし折って即席のグリルを作り、ティラノサウルスを丸焼きにしている光景から目をそらしながら諦めた。


 獲れたてのため熟成が足りない点に関しては、ユウトが巻物で用意していた《腐敗(ロッツ)》の呪文を慎重に使用してクリア。毒などの心配は、アルシアにも神術呪文を使用してもらい排除。

 味付けは、これまたユウトが事前に準備していた大量の香辛料でアカネが下拵えをし、たき火で焼き上げた一品。


「筋張ってるというか、なんというか……」

「歯ごたえがありすぎるわね。ゴムっぽい……」


 手間暇かけてこしらえたにもかかわらず、正直なところイマイチ。ロマンは現実の前に脆くも崩れ去った。

 だが、これでも、まだマシな方。

 ヴァルトルーデが仕留めたスピノサウルスなど、まさに煮ても焼いても食えないという評価がぴったりで廃棄せざるを得なかったのだ。


「食べられるけど、わざわざこれを選ぶことはない」


 ヨナのこの言葉が、最大公約数的な感想となるだろう。


「でも、鶏肉みたいな味かと思ったら、結構牛肉に近いな」

「そう。それは意外だったわ。鳥に進化したって話だし、トカゲって鶏肉っぽい味なのに」

「とりあえず、草食恐竜に期待するしかないか……」

「やることが、原始人じみてきたわね。もちろん、調理は私がするわよ」


 しかし、現実問題としてはわざわざ狩りに行くことはできないだろう。

 本来の目的は別にあるのだから。


「それよりも、ユウト」


 エールで肉を流し込みながら、ヴァルトルーデが言葉を発するために口を開く。


「この永劫密林を、本当にヴェルガ帝国のものにしてしまって構わないのか?」

「さすがに無理やり奪い取ることなんかはできないから、委ねざるを得ないんだけど……」


 もう一本串焼きに手を伸ばすかどうか考えながら、豪快な食事風景でも美しさが損なわれることがない聖堂騎士(パラディン)へ返事をする。


「最悪、焼き払うことも念頭に入れてる」

「物騒な話ですね」


 ユウトの逡巡に気づき、肉が焦げすぎないように自分の取り皿へ分けていたアルシアが、そんな相づちを打つ。マイナスの論評だったが、少なくとも否定はしない。

 

「俺だって、こんな自然の神秘を破壊したくはないけどさ」


 アルシアから串の半分だけ肉を分けてもらい、それを口に入れてからユウトは続ける。

 ラーシアとヨナからの生暖かい視線は無視して。


「ここが食料庫になるのは、仕方がない。お互いに、メリットがあるかも知れない。でも、あの恐竜を兵力化されでもしたら、困ったじゃ済まない」


 こんな話をできるのは、周囲に《静寂(サイレンス)》の呪文で防音を施しているから。

 空気の流れが止まって煙が内部にこもりそうだとアカネは反対したが、当然、遮るのは音だけ。物理現象を引き起こすのではなく、現実を改変して結果を出現させる。

 そこに気づかないと、理術呪文を使用するのは難しい。


「あれを調教するのは難しいんじゃないか?」

「頭をいじる?」

「ヨナは、もうちょっと穏当な表現ができないのか」


 しかし、概ね正解ではあった。

 知性の低い動物やそれに類するものにしか効果はないが《支配(チャーム)》系統の呪文で、恐竜たちを操ることは可能なはずだ。

 持続時間は、長くても数日。また、ロートシルト王国との前線へ持っていくには手間がかかるし、餌の問題もあるだろうが……不可能ではない。


「それはちょっと考えたくないわ」


 ティラノサウルスが兵士や騎士をなぎ倒し、食らう様を想像したのか。アカネは手で口を押さえて、串を皿に戻した。

 そんな繊細な反応を見せたのは彼女だけだが、その憂慮は共有されている。


 彼らだからこそ、あっさりと撃退してみせたのだ。

 ただの兵士が相対するには、荷が勝ちすぎる。


「ユウトが最悪の事態も考えてくれている。それが確認できれば充分だ」

「そうですね」


 今は考えすぎても仕方ないというヴァルトルーデに、アルシアも同調する。


「悪いけど、まずはオベリスクの確保を優先させてもらうよ。次元竜ダァル=ルカッシュが話のできる状態であれば、戦闘は最後の手段だ」

「魔力を吸収して、狂っているという話だったか……」

「程度にもよりますね」

「あと、ユウトとアカネがいるだけで弱くなるんでしょ? なら、可能性があるんじゃない?」


 正確には、異なる次元の存在により異常が正され次元竜ダァル=ルカッシュの力が制限されるということらしいが、大枠では間違っていない。


「とりあえず、行ってみないと分からない。最後は力押しってことだな」

「いつもどおり」


 身も蓋もないが、それが真理だった。

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