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レベル99冒険者による、はじめての領地経営  作者: 藤崎
Episode 3 帰還へのランアップ 第二.五章 異界からの求婚者
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4.奇策

お待たせしました。連載再開です。

「重婚許可って……ユウト、頭大丈夫?」

「この中だと、マシな方だろ」

「比較対象が悪すぎるっ」


 がしゃんとカップとソーサーが衝突する音がした。

 すでに飲み終わっていたためか、中身はこぼれていないのは幸いだった。茶器は壊れても呪文で修復できるが、中身はそうはいかない。


「ユウトくん、あなたいったいなにを……?」


 珍しく動揺したアルシアが、訳の分からないことを言いだした仲間に顔を向ける。

 茶器を盛大に鳴らすという無礼を詫びることもせず、突然の血迷った発言を咎めるでもあきれるでもなく、驚きを隠そうともせずに。


「まあ、説明は後で。とりあえず、今日は戻りましょう」


 エリザーベト女王の前では、まだ言えない。

 それに、この案で説得できる確率は六割。残り四割を埋めるため、情報が必要だ。そもそも、ちゃんと説明しなければ、ただ痛いだけの発言になってしまう。


「女王陛下、本日は誠にありがとうございました。次回は、より有意義なお話ができるものと確信いたしております」 


 そう一方的に締めくくり、ユウトは席を立った。遅れて、アルシアとラーシアもそれに倣う。

 エリザーベト女王は、ラーシアに向けて哀願するような視線を向けたが、先ほどまでの大騒ぎを思い出したのだろう。バトラスを横目で見てから軽く息を吐き、無言で退出を認めた。


「それでは、其がご案内いたしましょう」


 ひざまずき、アルシアの手を取ろうとして拒否されたままだったバトラスが、軽い駆動音をさせて立ち上がる。

 そういう部分は機甲人(ウォーマキナ)らしい。工場長(プラント・マネージャ)は、なにを思ってあんな性格にしたのか。古代人の考えることはよく分からなかった。


「それでは、お願いします」


 とはいえ、勝手に帰るわけにもいかない。それに、これは話を聞くチャンスでもある。

 ユウトにとっては渡りに船だった。


 エリザーベトはなにも言わず、無言でラーシアを見送る。

 彼も、なにか言おうとし――結局、口を開くことはなかった。


「女王陛下も、押してダメなら引いてみろといったところですな」


 そろって廊下へ出たところで、うむうむと感心したようにうなずく機士。

 全身鎧がそんな仕草をすると、逆にユーモラスだ。


 発言内容を除けば。


「バトラスさんは、反対なんですね」


 内装と同化しそうな色合いの機甲人の背へ、ユウトはそんな質問をぶつける。


「反対というよりはですな。女王陛下のわがままで、ご迷惑をおかけするのが非常に心苦しい」

「あの行為は心苦しくないのかしら……」

「機甲人だし、心に棚があるんじゃない?」


 もっともな指摘だが、黙殺。

 ユウトは、さらにバトラスへ世間話のように話しかける。


「そういえば、この次元航行船も一瞬でこっちに到着するわけじゃないんですよね?」

「いかにも。今回は二十日ほどかかっておりますな。航路データがそろいましたので、帰路はもう少し短縮できるでしょうが」


 機甲人には機密という概念がないのか。そう疑ってしまうほど、あっさりとバトラスは答えた。

 あるいは、隠すような情報でもないのか――


「そうなんですか。普通の船だと、長期の航海の時は家畜を積んだりするそうですね。いや、そちらから要望のあったリストに食料品関係が少なかったもので」

「家畜……ですか。ああ、家畜。なるほど。そういうものもありましたな」


 ――むしろ、伝えたいのか。


「この船に乗っているのは、ほとんどが機甲人ですから必要ないのではないですかな」

「なるほど。そういうことでしたか」


 そこで、ちょうど甲板にたどり着いた。

 黙ってついてきていたアルシアとラーシアは、しっかりと空気を読んでユウトへ意図を問いただすようなことはしない。二人とも、それどころではないのかも知れないが。


「それでは、また」

「いつでもお越しください。歓迎いたします」


 同性――確認していないが――相手には、実に紳士的な重装機士のバトラスが、タラップを降りる三人を見送る。


(まあ、糸口はつかめたな)


 成果が得られたことは確か。後は、説明と説得と実行が残っている。


「そこが一番難しいんだよなぁ」


 地上に降りたユウトが、振り返ってスペルライト号を仰ぎ見た。

 巨大としか言いようがない次元航行船。フェリーなど現代の客船を知るユウトですらそうなのだ。ファルヴやその近郊からも、噂を聞きつけた人々が見学に来るのも当然だろう。


 日本だったら、そんな人々相手に屋台が出ているところだ。そして、ヨナが喜ぶ。


 ただし、これは都市の近くに珍獣が現れた――という話ではない。

 戦列艦ということは、あの横っ腹には多数の砲門があり、ファルヴへ撃ち込めるということでもあるのだ。現実としてそうされることはまず無いだろうが、為政者としてはそれだけで脅威だ。


 なんとか、穏便にお帰りいただかなくてはならない。


「んでさー、ユウト。ぶっちゃけ、どうだったのよ」


 そんなユウトへ、ラーシアがじれたように声をかける。


「説明が難しいなぁ」

「それで済まされると思っているんですか?」


 思ったより近くから、アルシアの非難が飛ぶ。

 怒っているのか……。怒っているのだろう。

 驚きというクッションを挟んだ分、より深くなっている可能性もあった。


「しないとは言ってませんから……ね?」


 精一杯の笑顔で――見えはしないが――アルシアをなだめつつ、ユウトはファルヴの城塞へと足を向ける。この後、またヴァルトルーデたちにも報告が必要だ。

 説明するなら一緒にした方が良い。


「でも、その前にいくつか確認を。なあ、ラーシア。あっち行ってた時、馬車に乗ったりしたか?」

「え? なんの話? 馬車、馬車ね……」


 意図が読めないながらも、ラーシアは律儀に思い出そうと、眉間にしわを寄せる。子供が大人の真似をしているかのようで、微笑ましい。


「乗ったけど、ゴーレムの馬だったかな。ユウトが作ったみたいなやつ」

「なるほど。あとは、どんな物を食べた?」

「それ、必要な情報?」

「じゃなきゃ、聞かないよ」

「う~ん。そうだなぁ……。あっ、魚が美味しかったかな。でも、肉が少なくてエグは文句言ってた」

「じゃあ、最後の確認。機甲人は、どれくらいいた?」

「どれくらいって……別に、エリザの国は機甲人の国じゃないよ。たまに見かけるかなってぐらい?」

「ユウトくん、その確認に、どんな意味があるんです?」


 不信ではなく純粋に疑問だと、アルシアから質問が出る。


「これは、まあ、先に話しといた方が良いか。珍しく、歩いて移動してるし」


 砂銀で描かれた結界を越え、ファルヴの街へ入ったユウトは、特に声を潜めるでもなく推論を述べた。


「『忘却の大地』全体の問題か、エリザーベト女王の国だけかは分からないけど、たぶん、家畜になるような動物が極端に不足している。もしくは、絶滅している可能性が高い」


 ユウトのその推論を聞き、二人は口を開けて驚きを露わにした。


(そういえば、相手の国の名前を聞いてなかったな。どっかで確認しておこう)


 とんでもないことを言い出しておきながら、ユウトはまったく関係ないことを考えている。


「それは、いくらなんでも信じられませんね。それで国が成り立つとは思えませんよ」

「労働力は、ゴーレムが補っているのかな? 食料に関しては、昔、俺の故郷だとほとんど肉食しなかったし、代わりに虫で補ってた地域もあるみたいだ」

「ああ、虫かぁ。確かに食べたかも。クリーミーで結構いけるよね」


 無言で、アルシアがラーシアへ顔を向ける。これは、信じられないという時のリアクションだ。

 ただ、彼女も冒険者。すぐに気を取り直し、ユウトへ確認をする。


「あの変な機甲人に、その話をしたのも……」

「最初は、家畜? なにそれって感じだったじゃん。わざとなのかは分からないけど、あれで疑惑が確信に変わったかな」


 そして、機甲人の船員がほとんどだという話がとどめになった。

 

「特殊な船って言ったって、機甲人が多すぎるのはおかしい」

「そう?」

「ああ。仮にも女王陛下が乗り込むってのに、人間の随行員が少なすぎる。機甲人がほとんどというのなら、人間用の食料を消費しないってことでもあるんだぞ」


 徐々に大きくなるファルヴの城塞を眺めながら、ユウトが言う。


「それに、あのバトラスさんは、船員じゃない。近衛だよ」

「ああ……。ちょっと近すぎた気もするけど、確かにそうだね」

「船を動かす役目は帯びていない。なら、人間で良いじゃないか」


 長期の航海に耐えうる人選。つまり、機甲人を集めざるを得なかった。


「つまり、ラーシアの代わりに、牛馬などの動物を贈る。そういうことですね?」

「うん。あの船に積める範囲内だからどれだけになるか分からないけど、ちょっとしたノアの箱船だ」


 後は、その世話の仕方も指導しなくてはならないかも知れない。


「えー? なんか釈然としないんだけど。というか、それだけでエリザが帰るの?」

「納得はしてくれないだろうな」


 あっさりとユウトは肯定してしまった。


「ユウト……」

「分かってるからそんな顔するな」


 腰のあたりにすがりついてくるラーシアを邪険に振り払いながら続けた。


「実は、向こうは一枚岩じゃない。エリザーベト女王とそれ以外の思惑は違うと思った方が良い」

「それ以外には、牛馬を渡して寝返らせるつもり?」

「そこまで積極的ではないですけどね。一緒に説得してくれるぐらいで」


 敵に回らなければそれで良いと、ユウトは笑う。

 人の悪そうな笑みで。


「そうやって外堀を埋めて初めて、エリザーベト女王には、ラーシアという『実』ではなく、『名』を与えるだけで納得してもらえるようになるんじゃないかなと」

「『名』って、なにさ。もう、ユウトは回りくどいな!」


 ファルヴの城塞。その正門にたどり着いたところで、ユウトはいきなり立ち止まる。


「なになに、どしたのさ」

「まあ、ここから先は、無傷では無理だ。だから、ラーシアにも泥をかぶってもらう必要がある」

 

 肩に手を置き、上からユウトはこう言った。


「ラーシア、結婚してくれ」 


 さっきは、まだ序の口だった。

 衝撃で、アルシアは膝から崩れ落ちた。

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