自由猫、場をかき乱す。
黒くて長い髪がよく似合う、日本人の女の子。
「えっと、どちら様でしょうか・・・?」
こんな人がうちに来る理由がわからない。
何かの勧誘?壺でも売ろうってのか?
どうしよう、買っちゃいそうな自分が怖い。
「・・・・春風秋人?」
「そうですけど・・・。」
「・・・・これからよろしくお願いします。」
「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
挨拶が済むとその子は家に入っていく。
たくさんの荷物とともに。
ちょーっと待ってくれ。
なんなの?どうなってるの?
誰なの。あの子は。
うちの子なの?隠し子なの?
「お、お兄ちゃん!?」
リビングから元気な妹の声が聞こえる。
不思議少女とエンカウントしたなこりゃ。
「私はお兄ちゃん?」
あれ、さっきの子かな。
あなたはお兄ちゃんではないと思いますが。
「ちょっと!兄ちゃん!」
呼ばれてます。俺が。
「どうした、妹よ。」
あれ、今言ったの俺じゃないよね。
完全にあの子だよね。
なんかややこしくなる前に行った方がよさそうだ。
もう十分ややこしいが。
「いや、あなたじゃなくて、私の兄ちゃんだって!」
「それは私のではなく、あなたのお兄さんだということ?」
「違う!」
「まぁまぁ落ち着いて。」
事態の収拾を図る。
「この人誰?兄ちゃんの知り合い?」
「いや妹よ、この人は今日、というか数分前に初めて会いました。」
「そんな人が何で中に!?」
「それは俺が聞きたい。」
はい、そういうことで。
「ではあなた。」
「・・・・。」
「あのー、聞いてます?」
「・・・・・・ん?」
ソファーでテレビに夢中なあの人を呼ぶ。
てか順応早いな。自由人か。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいかな。」
「すりーさいずは秘密。」
「そんなもん聞いてないわ。」
「先に言っておきなさいってお母さんが。」
「どんなお母さんなのそれ。ってそんなことより、君は誰?」
「鈴代涼香。」
「鈴代、さんね。」
「涼香でいい。」
「あ、そう。んで、その、涼香、は何でうちに・・・?」
「お母さんに今度はこのお家でお世話になりなさいって。」
”今度は”・・・?
「もしかして俺の母さんとフランスで知り合ったっていう・・・?」
「・・・たぶんそう。」
「ちょっと兄ちゃん、話が解らないんだけど。」
「あぁ、つまりだ・・・。」
それから電話のことやら何やらを妹に説明した。
その間ずっと涼香はテレビ見てたけど。
当の本人が自由すぎるだろ。
「・・・なるほど。」
夏菜はしかめっ面。
いきなり一人居候するなんて話はなかなか受け入れがたいよな。
事実俺も困惑気味だ。
でもま、あいつも俺と二人で過ごすよりは少しはマシかもしれないしな。
これで俺も少しは気が楽に・・・。
「私は反対だよ。」
「・・・・え?なんで?」
意外な返事だった。
「なんでって、だってどんな人かもわからないし、第一急な話すぎてついて行けないよ。」
それに・・・・と夏菜は口ごもった。
「それに・・・なんだよ。」
「な、何でもないよ!」
「何で俺が怒られるんだ?訳がわからん。」
「そんなことはいいの!それより、どうするの?」
「どうするって言ってもなぁ。」
多分ホテルとか予約入れてないだろうし、母さんの頼みだしなぁ。
ここは・・・。
「住まわせてやるしかないだろ。」
「なんで!」
「いや、多分ここで暮らす以外考えてなさそうだし。母さんの頼みだしな。」
「・・・・あっそ!私知らないから。」
「え、嘘でしょ?何でそうなるの?一緒に頑張ろうよ。」
「知らないったら!」
不機嫌に部屋に戻ってしまった。
何故そんなに怒るのか。見当もつかん。
「私、迷惑?」
いつの間にか隣に涼香が立っていた。
「え?・・・・・いや、そんなことないよ。」
「ほんとうに?」
「ほんとうに。夏菜も急なことでびっくりしただけだよ。」
「秋人は?」
「俺も動転してる。」
「・・・・そう。」
一瞬だけ、涼香が悲しそうな顔をした気がした。
その悲しそうな顔が、何か他の人とは違う気がして
ここで迷惑だ、なんて言ったら崩れてしまいそうだった。




