俺は死にたくない!!
「うう...」
困った。
今、とっても最悪な状況だ。
どういう状況かって?
それについて語る前に、まず、俺の悲しい昔話を聞かせてあげようじゃないか。
...
俺には、あの時、どうしても欲しい本があったんだ。
『大金持ちになれる本』
フリーター(今は、職無し。間違ってもニートじゃない!)
25歳。
一応大卒で、長野から上京してきた俺に待ち構えていたのは、就職難という悲しい結末。
内定もとれないままに「どうにかなる」と理由もない自信を掲げ、日々をのらりくらりと暮らしてきた。
ただ、そんな甘ちゃんな俺を救ってくれる神様なんていやしなかった。
そんな感じで追い込まれていた俺に対して、神様は残酷にも、俺の心に悪魔を住まわせやがった。
『大金持ちになれる本』
職無し、フリーターの俺にとって、その本は金塊よりも価値があるように見えたのだろう。
俺は、慣れない手付きで、しかし確実にその手を犯罪に染めようとしていた。
その時だった。
「おい、あんた」
ドスのきいた男の声が、俺の耳を貫く。
あとになって知ったのだが、俺が入った店『招き猫ブックセンター』は、招かれざる客に対しては、鬼の所業とも思える処置を下す古本屋として有名だった。
「何やってるんだ?」
「いや、これは...」
「犯罪者は、皆そうやって誤魔化すんだ」
犯罪者...という言葉にカチンと来てしまった俺は「違う!」と強く反論してしまった。
「どう違うんだ?」
「...」
そして、すぐに黙る。
「よし、警察に...」
「い、いや!やめて!」
我ながら、なんて女々しい声をあげてしまったのかと反省した。
「じゃあ、どう落とし前つけてくれるんだ?」
「そ、それは」
黙る俺に対して、店主がにやりと笑う。
「なら、こうしよう。長野の連峰にある『幻の湧き水』をとってこい。期限は1週間だ」
「長野!?」
やった!久しぶりの帰郷だ...あれ?
でも...
(交通費どうしよう...)
まさか、歩けってわけじゃ...
「あの、交通費...」
「バカ野郎、1週間もやるんだ。歩け」
そのまさかだった。
「出来なきゃ、埋めるぞ?」
「!」
何処にですか、という問いを俺は怖くて聞けなかった。
...それからの1週間は、地獄だった。
歩き疲れ、身ぐるみを剥がされそうになり、血豆ができては、塞がって、また開いての繰り返し。
そして...
命綱なしでの登山は、さすがに痺れたぜ!なんて、かっこつける余裕もなく...
「死ぬ...」
まさに、生ける屍。
死んだ方が楽だと思った。
でも、それでも、命とお金は捨てられない。
そんな必死の思いで、俺はやっと...
やっと...!
「おっしゃー!」
幻の湧き水を手に入れた。
目尻には、涙という湧き水も添えて。
しかし、そこからの帰還はさらに悲惨だった。
疲弊しきった状態で、1週間というタイムリミット。
それでも、頑張った。
そしてついに見えてきた『招き猫ブックセンター』のでかでかとした看板。
俺は、歓喜のあまり、全身から力が抜け...
「あれ...?」
倒れた。
.........さあ、昔話はここまでさ。
唯一の財産である時計は、午前6時過ぎを示す。
残りの4時間弱、俺は生きていられるかなと思いつつも。
(...まぁいいか)
と、一つの事をやり遂げた感慨にふけていた。
だっていいだろ?
もう...俺は眠いんだ。
完