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がんばります!

 お昼を終えて、午後からのレクリエーションの為、再度班で集まりました。

先生の説明によると、公園内の地図を頼りに、各所に立っている6人の先生を見つけ、スタンプを貰う、スタンプラリーをするというのが、レクの内容でした。


 県営の公園は、三つの市を跨ぐとても広い敷地です。

 その広大な敷地は、殆どが森で占められていますが、中には大きな池や乗馬場、広い芝生の広場に、屋内、屋外の遊具所。

アヒルや鴨等の動物が飼育されているゲージもあったり、野外音楽堂や、公園環境史料館もあり、きっとスタンプを所持している先生を探すのには、また、沢山歩く事になるでしょう。


 そう思ったら、否応なしに顔が地面に下がり、ため息が出てしまいました。

 そんな私に浅野君は、


「レクなんだから、真面目に全部スタンプを集めるなんて事、考えなくていいから。疲れない程度にのんびりやろうよ」

 

 言葉と笑みで、私に安心を与えてくれました。奏ちゃんに視線を向けてみると、私達に背中を向けるように別の方向を向いていました。


「渡部さんも、それでいいよね?」

 浅野君は、奏ちゃんに意思確認をしましたが、なんの返答もありません。


「嫌だって返事しないのはいいよって同意してんのと同じだと思う事にするから」

 浅野君は小さな笑みを携えてそう言うと、

「じゃあ、行こうか。先ずはここから一番近い――」

「近場は混むから乗馬場で」

 

 奏ちゃんはそう言って歩き出しました。

奏ちゃんが喋った事に私はとても驚いて、思わず呆気に捕らわれてしました。


「…ちゃんと意思表示できんじゃん」

 浅野君は小さくも楽しげに笑ってそう言って歩き出しました。そんな浅野君を見て、私も思わずつられるように小さく笑ってしまいました。


「乗馬場…。馬、いるんでしょうか…」

「多分いると思うよ」

「渡部さんは、馬…好きなんでしょうかね…」

 私のつぶやきに、

「渡部さんに聞いてみたら?」


 笑顔の浅野君に背中を押された気分になり、私は、


「わ、渡部さん! 馬っ! 好きですか?」


 勇気を振り絞って聞いてみました。

絶対に返事はないとわかっていました。だけど、わかっていても何もできずにモヤモヤするよりは、それがたとえ無駄な事だと思われても、何かしたかったんです。


 案の定、奏ちゃんからは返答は――


「馬は好きよ」

「へっ?」


 驚いて間の抜けた声を発してしまった私に振り向く事はしませんが、確かにそう返答をくれた後、


「お節介な馬ヅラは嫌いだけど」


 一瞬ですが浅野君にチラリと視線を向けて、微かに口角を上げました。


 私は思わず浅野君を、じっと見つめてしまいました。

「オレ…馬ヅラ…か?」

 片唇をひくりと引きつらせて、浅野君は私に問いかけました。

 赤みがかった焦げ茶色の、目と耳が少し隠れるほどの長さの髪。目は一重で涼しげに細長く、鼻も高過ぎず低すぎず。

口は結構横に広い感じで輪郭は少し面長ですが、馬というほどの長さではなくて…。


「いや…そんなにまじまじと見つめられると、さすがに照れるんだけど」

 苦笑いを浮かべる浅野君に、


「あわわわっ! ごっ、ごめんなさいっ! 面長ですが、う、馬というほどの顔の長さではありませんよっ!」

「…なるほど、オレ、確かに顔長いよね…」

 更に苦笑いをする浅野君を見て、私は頭の中が軽くパニックになり、

「はっ! ち、違うんですっ! あのっ! あのっ!」

 おたおたとして、言葉を上手く出せない私に、


「相澤さんて、なんか、背中にゼンマイとかついてそうだ。頭グシャグシャと撫でたくなる、相澤さんの友達の気持ち、なんか良くわかるよ」


 浅野君はケラケラと声をあげて笑い出しました。


「ぜ、ゼンマイはついてませんからっ!」

 気恥ずかしさに耐えきれず、逃げるように奏ちゃんを見ると、


「…」


 奏ちゃんは、無言でチラリと私を見て、微かに笑みを浮かべた…ように見えました。

また少しだけ距離が縮んだように感じて、歩く足が浮き上がるように軽やかに包まれました。


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