友達になりたい
「へ~。行きにそんな事があったんだ」
美和ちゃんは私のお弁当箱にフォークを伸ばして、玉子焼きをつまんで口にほおばると、
「楽しくないのに、楽しいか…。ホントややこしい奴だね、渡部って」
今度は私のミートボールをフォークで刺してパクリと頬ばりました…。
「美和ちゃん…それ、私のお弁当…」
「細かい事は気にしない気にしない」
美和ちゃんは自分のお弁当箱の唐揚げをフォークで刺して、不満を述べようとする私に食べさせて、口をふさぎました。
美和ちゃんの家の唐揚げ、相変わらず美味しいなぁ。
お弁当を盗み食いされる理不尽さは拭えないけれど、唐揚げの美味しさには敵わず、嫌でも気分が浮き上がります。
「てか、あんた…人の心配より自分の事はどうなのよ?」
私にフォークを向けて、
「穂香だって、まだクラスで友達ひとりも作れてないでしょ~が?」
美和ちゃんは、やれやれと言いたげな顔でため息をひとつつきました。
「…わ、私は…美和ちゃんがいるから、別にクラスに友達がいなくても大丈夫だもん」
「じゃあ、一々渡部なんか気にしなくてもいいじゃん」
「だって…気になるんだもん…」
胸の中にまた、モヤモヤとした気持ちが広がっていきました。
そもそも、私はなんでこんなに奏ちゃんの事が気になるのか、はっきりとわからなかったのです。
「あのさ、穂香」
美和ちゃんは、少しだけいつも以上に強い口調で私の名前を呼ぶと、
「相手が気になるって事は、どんな些細な事でも知りたい、目がついつい行ってしまうのは」
少し下がり気味の丸い瞳が微動だにせずに私の瞳の動きを捕らえ、
「ホントは渡部と友達になりたいって、穂香の心がそう思ってるからじゃないの?」
放たれた言葉と同時に、美和ちゃんの瞳が優しい光でふわりと緩みました。
4月半ばの涼やかな風に揺れる、明るい赤銅色の長い髪。リップクリームで潤った艶のある、ふっくらとした唇。美和ちゃんも、同じ女の子なのに、とても可愛くて、見つめられるとなんだか心拍が速まってしまいます。
…中学の時よりも、顔も体も大人っぽくなったなぁ…。
「…そっか」
美和ちゃんの言葉に、心のモヤモヤが晴れていくのがわかりました。
「私…渡部さんと、友達になりたいんだ…」
霞が晴れて、はっきりとした心の答えが見つかり、私は頬が、緩みました。
「全くぅ…。あんたはホント、鈍臭いんだからぁ」
美和ちゃんは、私のお弁当箱からデザートの、
「ああっ! 楽しみに残しておいた私のイチゴ~っ!」
私が叫ぶと同時に、「あ~むっ♪」と楽しげに声をあげてイチゴを口にほおばりました。
「酷いよ! 美和ちゃんのばかあっ!」
「まあまあ、あたしのとっておきのデザートあげるから、そう怒るなって」
そう言って私に差し出したのは、美和ちゃんが嫌いなプチトマトでした。
…美和ちゃんのばかぁ…。