表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/54

友達になりたい

「へ~。行きにそんな事があったんだ」

 美和ちゃんは私のお弁当箱にフォークを伸ばして、玉子焼きをつまんで口にほおばると、

「楽しくないのに、楽しいか…。ホントややこしい奴だね、渡部って」

 今度は私のミートボールをフォークで刺してパクリと頬ばりました…。


「美和ちゃん…それ、私のお弁当…」

「細かい事は気にしない気にしない」

 美和ちゃんは自分のお弁当箱の唐揚げをフォークで刺して、不満を述べようとする私に食べさせて、口をふさぎました。


 美和ちゃんの家の唐揚げ、相変わらず美味しいなぁ。 

 お弁当を盗み食いされる理不尽さは拭えないけれど、唐揚げの美味しさには敵わず、嫌でも気分が浮き上がります。


「てか、あんた…人の心配より自分の事はどうなのよ?」

 私にフォークを向けて、

「穂香だって、まだクラスで友達ひとりも作れてないでしょ~が?」

 美和ちゃんは、やれやれと言いたげな顔でため息をひとつつきました。


「…わ、私は…美和ちゃんがいるから、別にクラスに友達がいなくても大丈夫だもん」

「じゃあ、一々渡部なんか気にしなくてもいいじゃん」

「だって…気になるんだもん…」

 胸の中にまた、モヤモヤとした気持ちが広がっていきました。

そもそも、私はなんでこんなに奏ちゃんの事が気になるのか、はっきりとわからなかったのです。


「あのさ、穂香」

 美和ちゃんは、少しだけいつも以上に強い口調で私の名前を呼ぶと、


「相手が気になるって事は、どんな些細な事でも知りたい、目がついつい行ってしまうのは」


 少し下がり気味の丸い瞳が微動だにせずに私の瞳の動きを捕らえ、


「ホントは渡部と友達になりたいって、穂香の心がそう思ってるからじゃないの?」

 

 放たれた言葉と同時に、美和ちゃんの瞳が優しい光でふわりと緩みました。

 4月半ばの涼やかな風に揺れる、明るい赤銅色の長い髪。リップクリームで潤った艶のある、ふっくらとした唇。美和ちゃんも、同じ女の子なのに、とても可愛くて、見つめられるとなんだか心拍が速まってしまいます。

…中学の時よりも、顔も体も大人っぽくなったなぁ…。


「…そっか」

 美和ちゃんの言葉に、心のモヤモヤが晴れていくのがわかりました。


「私…渡部さんと、友達になりたいんだ…」

 霞が晴れて、はっきりとした心の答えが見つかり、私は頬が、緩みました。


「全くぅ…。あんたはホント、鈍臭いんだからぁ」

 美和ちゃんは、私のお弁当箱からデザートの、


「ああっ! 楽しみに残しておいた私のイチゴ~っ!」

 私が叫ぶと同時に、「あ~むっ♪」と楽しげに声をあげてイチゴを口にほおばりました。


「酷いよ! 美和ちゃんのばかあっ!」

「まあまあ、あたしのとっておきのデザートあげるから、そう怒るなって」

 そう言って私に差し出したのは、美和ちゃんが嫌いなプチトマトでした。


…美和ちゃんのばかぁ…。



  

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ