美和ちゃん
アスファルトで整備された平らなハイキングロードを歩き、私達は予定より三十分近く遅れて目的地に到着しました。
公園の案内所の前には、クラス違いの友達の美和ちゃんが心配そうな顔をして、到着の遅れた私を待っていてくれました。
美和ちゃんは、眉間にしわを寄せてずんずんと足音が聞こえてきそうな勢いで私に向かい歩いてくると、
「もうっ! やっぱり班行動なんて無視して、穂香と一緒に行くべきだった! 後悔よ! 超後悔っ!」
私を胸に抱きしめて、
「鈍くさいあんたの事だから、山道で転けてケガしたんじゃないかとか、方向音痴っぷりを大いに発揮しまくってひとりで迷子になったんじゃないかとかっ! 体力無くて行き倒れになったんじゃないかとかっ! 超~心配したんだからねっ!」
私の頭をグシャグシャと撫でぐりながら、美和ちゃんは怒涛の如く言葉を発しました。
「み、美和ちゃん、お願いだから落ち着いて…」
「やだやだやだ~っ! 心配してすり減ったあたしの心が癒されるまでは、穂香を離さない~っ!」
興奮状態で叫ぶ美和ちゃんと、されるがままでおたおたする私を見て、浅野君は苦笑いしながら、
「じゃ、相澤さん、また後で」
一緒に昼休みを取る約束をした友達の元へと歩き去ってしまいました。
少し離れた場所で奏ちゃんは私達を見ていましたが、班が解散になった空気を察してか、踵を返して公園内へと歩き出してしまいました。
「ま、待ってください! 渡部さん!」
私の歩調に付き合わせてしまい、お昼が遅くなってしまった事を謝りたかったし、置いていこうとせずに、付き合ってくれた事にお礼だって言いたかったのに…。
私が呼び止める声に全く反応する事なく、渡部さんは颯爽と足を動かし、公園内へと消えてしまいました。
「あたしの可愛い穂香をガン無視って…。渡部ってなんかホント噂通り感じ悪い女…」
舌打ちしてそう言う美和ちゃんに、
「渡部さん、感じ悪い人じゃないよ。それに、噂に踊らされるの良くない…」
私より頭半分ほど背の高い美和ちゃんを見上げると、
「全く…穂香は臆病な小動物のくせに、変なとこお節介なんだからぁ…」
口を尖らせ、
「まあ、そういうあんたがあたしは好きなんだけどさぁ~」
美和ちゃんはふへへぇ~と声をあげて、しまりのない顔で笑いました。
「心配してくれて…ありがとう、美和ちゃん」
思いきり撫でぐられてグシャグシャになった髪を手櫛で直しながら、私も照れ臭さと嬉しさで頬が緩みました。