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桟橋

作者: 塚本亮悟

桟橋


- 昼 -


 海辺の観光スポットは大勢の人で賑わっている。人混みを掻い潜って海が一望できる広い岸壁の方へ出て散歩していると、かもめが海面に近い高さで風を受けて飛んで行く姿が見えた。胸辺りの高さまである柵の向こう側には桟橋が幾つか見えていた。

 桟橋の途中にはフェンス張りの大きな扉が備え付けられていた。更にその扉の両脇には一メートル幅のフェンスが溶接されていた。関係者以外を立ち入らせないように誂えられたものだろう。

 首からぶら下げていた双眼鏡を手にする。

 目当てはこの辺りに集まってくる海鳥だが、何故か今日はその扉のことが気になって仕方がなかった。

 双眼鏡越しに扉を観察してみる。しかし、よくよく眺めてみると、おかしな点が幾つか露わになってくる。その扉のフェンスは隙間には無数の擦り傷がつけられていた。ペンキが剥がれて銀色の下地が露わになっている個所もある。そして何よりそのフェンスには普段めったに遭遇することのないものがびっしりとこびり付いていた。

 それは無数の生爪だった。

 大きさから推し量ればどれも小さい子供のものと思われる爪だ。その生爪が潮風に晒され、揺れていた。一体どういう状況に陥ったらこういったことが起こるのか想像もつかない。誰かの悪戯なのか?だが、その爪の一つ一つは至る所に黴が生えて腐食しているものもあれば、鳥に啄ばまれて割れているものもあるし、皮膚の一部がくっついたままの真新しいものまである。ここで何かが起き、そして想像をすることさえ憚られる出来事は今なお続いているようだった。

 このドアが何を隔絶しているのか今でも謎のままだ。


- 夕暮れ -


 夕日は立ちこめる霧の向こう側に佇んでいた。

 その桟橋にはまだ夕暮だというのに殆ど人が居なかった。柵を乗り越え、フェンスが張られた大きな扉が間に構えている桟橋に立つ親子連れを覗いては。ウインドブレーカーにカーゴパンツ姿の父親が子供の手を引き、ドアに鍵を差し込んだ。母親は風に乱される髪を片手で押さえつけ、岸壁と桟橋を隔てる柵に手をかけていた。

 「ねぇパパ、この向こうにサンタさんが居るの?」

 子供は父親の顔を見上げながらそう尋ねた。

 「そうとも。そしてパパやママにもプレゼントを用意してくれているのさ。凡庸な命よりももっと優れた命をね」

 父親は子供をフェンスの奥へ進むよう促した。子供は父親が口にした言葉の意味を理解しようともせず、好奇心に目を輝かせて桟橋の先にある波止場へ駆けて行った。港は今や濃い霧に包まれようとしている。波止場もその扉の向こう側が橙色に染まる霧に埋もれてしまっていた。父親は逃げるようにフェンスから離れた。

 更にその後方で微笑む母親の瞳には冷たい光が宿っていた。もう片方の手は新しい命を宿した腹の上に添えられていた。

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