↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

蝋燭(ろうそく)出せ

作者: 後東衣桜利
掲載日:2026/08/08

ろうそくだーせーだーせーよ~だーさーないとひっかくよ~おーまーけーにーかみつくぞ~

ろうそくだーせーだーせーよー


荷見野(にみの)マヤコが外出先から帰ってくると、年の離れた弟のアオムが、いつものTシャツと下はジャージズボン姿にリュックを背負っていた。アオムはこれから同級生の友達と自転車でまわってお菓子をもらいに行くところだった。

マヤコは18歳。アオムは11歳。

「これからまわるの?大丈夫?」

「ケントとユウマと一緒だし、大丈夫だよ」

「気をつけて。あまり知らない家には行っちゃだめだよ。あんまり遠くへ行っちゃだめだよ。この辺だけにしなよ」

「うん!」

今日は8月7日。北海道では毎年この日は『ろうそくだーせ』がある。午後4時前後位から夕方にかけて、小学生位までの子供達が近所を周り、ろうそくだせの歌を歌ってお菓子や

ろうそくをねだる風習だ。そしてここは札幌のある地域。令和になり、そういう動きをすることも、町内会によって色々違い、まったくしない地域もあるし、回覧板などで通知し、積極的な盛んな町内会もある。ちなみにこの地域は後者である。


マヤコ自身も昔は浴衣をきて、8月7日には、ご近所をまわりお菓子をもらったな~と数年前を思い出す。

ご近所や、友達の家だったり、お菓子をくれるお宅や、お店もあった。

お菓子ありますの張り紙がある蕎麦屋に母が一緒に来てくれたり、口コミであそこはもらえるよと噂のあるケーキ屋に行き、小さなソフトクリームをもらったりもしたことがある。銭湯でももらえた。

逆にご近所でもあるコンビニエンスストアでは拒否された、「あそこはくれないのよね~」と何度も母が言っていた。

7歳になり、弟が生まれてからは友達とまわったり、小学六年生になったら、行くのもほんとのご近所と、回るのも控えめになったりした。

ネットやテレビでみる、東京などでハロウィンにお菓子をもらうのとちょっと似ていた。札幌のこの町内会でも、一時期流行ったのか、10月31日にハロウィンの格好をして子供達がお菓子をもらいにきたこともあったが、マヤコの友達など、ほんの限られた仲間内だけなのか、ちょっとわからなかった。

どちらかというと、札幌ではハロウィンよりろうそくだーせが盛んなのでは?とマヤコの主観ではそう思う。


中学生になってからは、マヤコは働いている両親の変わりに家にきた子供達にお菓子を配る役目だった。お菓子は前の日に母が用意してくれていた。


麦茶を飲んでいると、早速、玄関のチャイムが鳴った。

「ろうそくだーせだーせーよ~だーさーないとーひっかくぞ~おーまーけーにかみつくぞ~ろうそくだーせーだーせーよ~」

玄関から子供達の歌声が聞こえる。

すぐに玄関のドアを開け、マヤコは子供達に昨晩母が用意したビニール袋に分けたお菓子を配る。ビニールには、うまい棒だったり、パックに入ったお菓子などが入っている。

子供達は、マヤコからお菓子を受けとると次々に隣のお宅へ行っていた。

マヤコの家は賃貸住宅だ。青い三角屋根で築年数の古い家で、半分半分に分かれている。同じような賃貸テラスハウスが数件並ぶ。この数件が同じ大家さんの所有だ。


今日はちょっと気分が沈む出来事があった。

前から気になっていた他校のある男子に、彼女がいたことである。

友達の家へ漫画を借りに行って自転車で帰る時にたまたま見かけたのだった。

2人は一緒に仲良く話をしながら近くの市民プールの中に行っていた。背の高い男子と背の低い女子。とても親密な雰囲気で、入っていけない空気感があった。

『なんだ、彼女がいたのか』

マヤコは、がっかりしつつも、そうだろうなと思った。マヤコはどちらかと言うと、依存気味の人間に頼りにされる存在として扱われることが多く、対等の自立した関係というよりも相手にとって都合が良い存在、良い人、という関係ばかりだ。前から気になる他校の男子も、たまたま地下鉄で彼が話しかけてきて、話すようになったというものだった。

その男子も自分に対して異性として好意があるというよりも、何だかうまく人との関係が築けないから、自分を頼りにしてくる、そんな感じだった。他の自分に寄ってくる人達も大体そんな感じで、いいかげんそんな関係にうんざりしていた所だった。


ピーンポーン

再び自宅にチャイムが鳴る。今回はろうそくだせの歌声は聞こえない。出るとそこには大きな花柄がいくつもついた朱色の浴衣を着、金魚のようなピンクとオレンジの中間色の淡い色の、しゅわしゅわな帯と称する腰巻きを巻いた小さな少女が玄関の前に1人立っていた。

「ろうそく出せの歌を歌って」

「歌?」

マヤコは少女にろうそく出せの歌をうたうように促したが、少女はわからないようだった。マヤコが少女に教えるようにして一緒に歌った。

「はい、これ」

マヤコは少女に用意していた袋に入れたお菓子を渡した。

「ありがとう!」

少女は嬉しそうにお菓子を持って去っていった。

今日は北海道では七夕でもある。

織姫と彦星。

いつか特別な存在、彼氏ができたら良いな、マヤコはそう思った。


あれ?

さっきの朱い浴衣を着た少女がやってきた。

「怖いから一緒についてきて」

たしかに、小さい少女が1人夜道を歩くのは危ない。マヤコは少女についていった。

アオムがマヤコを見かけて、その後を追いかけて行った。アオムの友達のケントとユウマも一緒だ。



マヤコはハッとした。弟のアオムがマヤコの服を後ろから引っ張っている…。

「姉ちゃん!」

朱い浴衣の少女はいなくなっていた。



ろうそくだーせーだせーよー

ださーないとひっかくぞー

おまけにかみつくぞーろうそくだーせーだせーよー


どこかから歌声が聞こえてきた。
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。