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将棋大戦

作者: ひろ
掲載日:2025/11/13

※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。

 もう、人類は将棋でコンピューターには勝てない。

 そう言われて久しい…。



 しかし、その中でただ一人


 「コンピューターがコンピューターである限り、人には絶対に勝てんよ。」


 その言葉の主は、大原善治15世名人。

 名人位在位通算55期。齢102にして未だA級からの陥落無しという生ける伝説である。


 その大名人が長年の沈黙を破り、遂にコンピューターとの戦いに乗り出した。



 大原対コンピューター。


 時は8月15日。場所は東京千駄ヶ谷の将棋会館特別対局室。将棋の聖地にして、いまや大原が守る人類最後の砦である。

 


 午後一時ちょうど、先手大原で世紀の対局が幕を開ける。

 人々が固唾をのんで見守る第一手。


 …と思いきや、一手目を指す前に大原がつぶやいた。

 「俺は、冷房が苦手でな。」

 エアコンのスイッチが切られた。


 三手目を指す前にまた大原がつぶやいた。

 「エアコンのせいで体が冷えてしまった。寒くてたまらない。」

 暖房が付けられた。


 「ちょっと空気が乾燥してないかい?唇が割れてしまった…イテテ。」

 加湿器が付けられた。


 そしてそのまま長考に沈む大原。まだ五手目である。



 一時間…二時間…



 ❲対局室 室温48℃ 湿度98%❳


 空気が歪む。

 しおれ花瓶に張り付く床の間の花。

 泡を吹いて崩れ落ちる記録係を、救急隊員が運び出すひとときの喧騒。

 その中にあってなお静謐を身に纏い微動だにしない大原…。



 …そして三時間。

 実に三時間に及ぶ長考の末、大原が動いた。


 五手目、1六歩。



 と、ここでコンピューターが煙を出してブラックアウト。

 コンピューターの試合放棄により、大原の勝利が決まった。



 「な、言っただろ。」


 大原はこともなげに言う。


 「コンピューターは人には勝てん。」



 大原善治。

 盤外戦術で数多のライバルを葬ってきた男。


 102歳となった今もその力は健在である。



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