ツルツルの木
掲載日:2025/10/29
空に浮かぶ円盤は、その真下の大地に一本の奇妙な木を生やした。
幹も枝も葉もない。
まるで磨き上げられた金属柱のように、
ツルツルと光を反射するだけの木。
その木からは甘い芳香を放つ液体が滴り、
無数の昆虫たちが群がりはじめた。
昆虫たちは蜜を舐め、繁殖し、やがて彼らを捕食する鳥たちが集まり始めた。
そして急速に生態系は変容していった。
蜜を摂取した昆虫たち、それを捕らえた鳥たち。
その全てが異様なまでに滑らかな表皮を持った。
羽毛を持たず、艶のある皮膚に覆われたスズメが、音もなく地面を跳ねた。
人々はその姿に神経をざらつかせ、捕らえて焼いた。
だがすでに遅かった。
鳥たちの糞は世界各地に広がっていた。
それがまた新たな生命を変えていく。
ツルツルの牛、ツルツルの豚、ぬめるように光る魚。
食卓に並んだそれらを食べた人々までも。
髪も眉毛もまつ毛もなくなり、
頬がつるりと光り始めた。
それは、人々が空想してきた
『エイリアングレイ』
そのものだった。
「ワレワレは、宇宙人ダ」
声を震わせて少年たちは無邪気に言った。
大人たちは、にやりと笑った。
誰もが新天地を宇宙に求めたある日。
人類はツルツルになった。
かつて『宇宙人』と呼んだ、その姿に。




