陰キャ後輩がすすめてくるだけの話
陰キャ後輩(♀)×本が全ての先輩(♂)
おや? 後輩ちゃんが興奮しているようですよ?
多分R15でもない。
読書に集中しよう。
周りは雑音、僕には関係ない。
「うん、ふん…」
「集中…」
「あん…」
さっきからずっと、隣に座る後輩が興奮している。
両耳にイヤホンをし、『何か』を聴きながら読書している、後輩ちゃん。
普段は陰キャで無口な後輩の口から、実にアレな声がもれている。
表情も、「あれ? これアレじゃね?」て感じで直視できん。いつもは無表情なのに。
2人きりの図書室。本当、2人きりでよかった。よかったよ!
「うん」
と言い、僕は頷く。
集中、集中ね。
…。
集中できるかぁ!
「はあ…うん…」
「先輩、これ聴きません?」
「嫌です」
「これ、凄い良いですよ?」
「何かは知りたくないな、うん」
やれやれ、今日は何をすすめてきているのやら。
この後輩は、色々なものに夢中になる。
放課後の、2人だけの活動『文学同好会』で、毎日色々なものをすすめてくる。
『文学同好会』は、ただ本を読むだけの活動。元々は『文学同好』で、僕1人だけだった。いつの間にか2人になり、『会』になった訳。
「これ、私の好きなvtuberが頑張っていて」
「うん」
「アレなASMRをしているんです」
「わかった、絶対聴かない」
僕は笑顔で首を横に振る。
ASMRって、演技して喋るやつ、だっけ。
「すっごい頑張ってるんですよ? この頑張り、興奮します」
「そこはよかったかな」
頑張りに興奮しているんだね?
「収録中、どんな感じだったんでしょうね。ね?」
「妄想やめて女子高生さん」
そして同意を求めてこないで。僕一応男子高校生。
「聴いて下さい、おすすめします」
「全力で断ります」
「そうですか…」
後輩ちゃんは、しょんぼりとする。
罪悪感よ、いいから、わいてくるな。僕は聴きたくないだけなんだ。アレなボイスを。
「じゃあ」
「じゃあ?」
「イヤホンをスマホから外して、大音量で流す」
鬼畜!
「わかった! わかったから!」
『私がいるんだよ? 私だけ見てよ』
…。
「どうですか? 先輩」
僕は興奮を全力で阻止している。
「可愛いですよね、ね?」
放課後の図書室、2人きり。
隣には、少し興奮している、後輩の少女(陰キャ)。
僕は、今、イヤホンでASMRを、聞いている。vtuberの、アレな、ASMR。
一体、これは。
どういう…どういう状況なんだ。
なんて…なんてものを学校で聞いてるんすか…。
読んで頂き、ありがとうございました。あなたの夜がいい夜になりますように!