中層突入と猫の活躍
翌朝、アリカは白い猫を肩に乗せて第一圏の中層部分に向かった。一夜を共に過ごした猫は、もはや単なる動物ではないことが明らかだった。危険を察知する能力、人間のような知性的な反応、そして時々見せる不思議な現象。
「シンメトリー・ホールの威容」
中層の入口を潜ると、そこは想像を絶する巨大な空間だった。直径50メートルはある円形のホール。天井は高さ30メートルのドーム状になっており、壁面のすべてが完璧な鏡面で覆われている。
八面体状に配置された無数の鏡面が、光の反射を無限に繰り返している。アリカが一歩動くたびに、無数の映像が数学的な対称性を保ちながら移動し、まるで万華鏡の内部にいるような幻想的な美しさを作り出していた。
「にゃーん」
肩の上の白猫が、何かを警戒するように鳴いた。金色の瞳が鋭く光り、ホールの奥の一点を見つめている。
「何か危険があるのですか?」
アリカが尋ねると、猫は床の一部を見つめた。一見すると他の部分と同じ美しい鏡面だが、わずかに色調が異なっている。
「対称床パネル... これもギミックですね」
*【ギミック発見】*
『対称床パネル:正確な対称性で踏まないと落下』
『難易度:中級 要求能力:群論理解、空間認識力』
『制限:非対称な踏み方をすると、5メートル下の水中に落下』
「正確な対称性... つまり、左右完全に対称的な場所を同時に踏む必要がある」
アリカは群論の知識を活用し、床面のパネル配置を解析した。C2対称性(180度回転対称)を基調とし、一部にC4対称性(90度回転対称)が組み合わされている複雑な構造だった。
「まず基本的なC2対称から」
慎重に第一歩を踏み出した。左足で左側のパネルを踏むと同時に、右足で右側の対称位置を踏む。パネルが美しい音を響かせて光り、成功を示した。
*【成功】*
『対称床パネル:第一段階クリア』
「にゃーん」
猫が満足そうに鳴く。その反応から、猫も対称性の概念を理解していることが分かる。
「あなたも対称性を理解しているのですね」
次の段階では、より複雑な対称性が要求された。C4対称性を要求するパネル群が現れた。これは90度回転させても同じ配置になる対称性で、4つのパネルを同時に踏む必要がある。
「C4対称性... 四つのパネルを正確な位置で」
アリカは両手両足を使って、4つのパネルを同時に踏んだ。数学的に正確な90度間隔で配置されたパネル。群論の知識なしには絶対に解けない配置だった。
*【成功】*
『対称床パネル:第二段階クリア』
その時、パネルの一部が突然崩れ始めた。時間制限があるギミックだったのだ。
「にゃーん!」
猫が急に興奮し、アリカの頭上に飛び移った。次の瞬間、アリカが立っていたパネルの一部が崩落した。
「危険を察知してくれたのですね。ありがとう」
猫の予知能力に助けられて、アリカは安全な場所に移動した。残り時間は30秒。最終段階のD6対称性(正六角形の対称群)を解く必要がある。
「D6対称性... 6回回転対称と6つの鏡面対称」
これは最も複雑な対称操作だった。6つのパネルを正確な位置で踏み、同時に特定の順序で操作する必要がある。
「あなたの直感と私の論理... 連携しましょう」
アリカは猫の動きを観察しながら、数学的に正確な操作を実行した。猫が指し示す方向と、群論の計算結果が完璧に一致する。
残り5秒で最後のパネルを踏むと、すべてのパネルが美しい光を放って安定した。
*【ギミック成功】*
『対称床パネル攻略完了』
『時間制限内クリアボーナス:+100EXP』
『経験値獲得:250+100=350』
「私たちの息の合った連携... これは偶然ではないですね」
「にゃーん」
猫は誇らしげに鳴いた。その表情には、明らかに知性と満足感が表れている。
二人の連携により、シンメトリー・ホールの最初の試練を突破した。しかし、ホールの奥からはより強力な気配が漂ってきている。
「次の試練... 鏡の迷宮のようですね」
ホールの奥に、無数の鏡で構成された巨大な迷宮が見えていた。その複雑さは、これまでの試練をはるかに上回っている。
「にゃーん」
猫がアリカの肩で身構える。二人は、より困難な挑戦に向かって歩を進めた。