8 風化した街 1
校舎を抜け出した三人は、瓦礫と”雑草”が絡まる道を進む。
遠くに見えるのは、かつて賑わっていたはずの街のシルエット。しかし、その光景は彼らの想像をはるかに超えていた。
「これは、、、ひどいな」
ものすごい違和感を感じる。
街には、崩壊によるの痕跡が残るだけで、人っ子一人いない。ほとんどの家屋が倒壊し、なんとか持ちこたえている家もそのほとんどがおおよそ人が住めるような状態ではなさそうだ。
「私達が生き残ったのって、ほんとに奇跡だったんだね。」
そんな複雑な気持ちのエイタ達とは対照的にくーねははしゃいでいた。
「わぁ!なにこれ!凄い!っあ、こっちも!どれもこれも見たことないよ~」
目を輝かせ、存分に異世界を堪能しているくーね。
ほっといたらどこまでも行ってしまいそうだ。
「くーね、あんまり離れないでくれ。俺たちが危ない」
「そうだよくーねたんちゃん、私達は無力なんだから。ゾンビ出てきたらどうするの!」
ミカがくーねの手を掴み離れて行かないようにする。
「おっとっと、ごめんごめん!つい興奮して。それにしても二人とも無力だなんて。またまた御冗談を~」
掴まれておとなしくなったくーねがそんなことを言う。
「いやいや、俺たちは無力だよ。今生きているのだってくーねがいてくれたからで。」
「くーねたんちゃんはどうして私達が無力じゃないと?」
「んー?だって”心核”もってるじゃん!」
そういうとくーねはエイタを、正確にはエイタの持っているバールを指指していった。
「え?”シンカク”?なんだそれ?」
エイタがミカを見ると、ミカも知らないようで首を横に振った。
「あれ?心核を知らないの?持ってるからてっきり知ってるものだと思ったけど」
「その”シンカク”だっけ?それがあると無力じゃなくなるのか?」
くーねは「もしかしてこの世界にはないのかな?」と呟きつつ、少し考えた後話し出す。
「エイタが持ってる”それ”とあとミカが持ってる”それ”も、それには”心核”が宿ってるんだよ」
追加されたミカが「えっ!私も!?」と驚いている。
エイタは自分の持っている”それ”バールを見つめた。
くーねは説明を続ける。
「私達の世界ではね、物に力が宿るんだよ!たとえばね~これ!」
そういうとくーねはポケットからカスタネットを取り出した。
「カスタネット?それも”シンカク”ってやつが宿ってるのか?」
「まあまあ見てて!」と言いつつカスタネットをタンタン鳴らしだすくーね。
すると、不思議なことが起こった。
くーねがカスタネットを叩くたびに、カスタネットからキラキラしたエフェクトが出てきたのだ。
「わぁ~綺麗!」
「ね!そうでしょそうでしょ!これお気に入りなんだ~」
気分が上がってきたのか鼻歌を歌いながらカスタネットを叩くくーね。
くーねの周り、あたり一面がキラキラに埋め尽くされていった。
ある程度歌って満足したのか、くーねはカスタネットを鳴らすのをやめた。
「ね!どうだった!凄いでしょ!可愛いでしょ!これ見つけるの大変だったんだよ~
これが、”心核”の宿った物の力だよ~」
確かにすごかったが、
「つまり、俺が持ってるバールもキラキラなエフェクトが出ると!?」
「あはは!違う違う!今のは一例だよ。”心核”が宿った物の力は千差万別!どんな能力が付いてるのかは使うまで誰にも分んないんだよ」
「そうなのか。でもどうしてこれが”シンカク”だって分かるんだ?俺にはただの物にしか見えないんだが」
「私も、その”シンカク”?が宿ってるようには見えないな」
ハンドスコップを「えいえいっ」と振って何かを出そうとしていたミカも、なんの反応もなく、がっかりする。
「おそらくはもともとこの世界に”心核”がなかったから、感覚が育ってないだけだよ!大丈夫!!”心核”の宿ってる物と一緒にいればそのうち分かるようになるよ!」
そんなもんかと思ってバールを見つめていたが、ある違和感に気付く。
「”心核”についてはなんとなくわかったけど、じゃあなんでその”心核”がこの世界にあるんだ?くーねの世界の力なんだろ?」
くーねは「うーん」と頭を捻り考えるがすぐ、「わかんない!」と考えるのをやめた。
「多分だけど私のいた世界とこの世界が繋がっちゃったときに流れてきたのかもね」
「繋がった・・・か」
「まあまあ!宿っちゃったものは仕方ないよ!それよりどんな能力が付いてるか楽しみだね~」
すぐ話を切り替えて、「わくわくだねっ」と腕を振るくーねに若干の違和感を覚えつつ、話を続ける。
「どんな能力が宿ってるのか確認するにはどうすればいいんだ?」
「んっとねー、二人のには心核が宿ったばかりなの。目覚めてないんだよ。どんな能力なのかはまだわかんない。」
自分たちも凄いことが出来る!と思っていただけに「なーんだ」とちょっとしょぼーんとする二人。
「あーっ、でもでも、今の状態でも基礎能力くらいは上がると思うよ!」
「基礎能力?なんだそれは」
また出てきた新たな単語に期待が上がる。
今度こそ自分たちでも使えるのではないかと。
「基礎能力はそうだな~、簡単にいうとめっちゃ動けるようになる!」
そろって首をかしげる二人を見て、あまり伝わってないと思ったくーねはその場でジャンプをして動き始めた。
「たとえばジャンプ力!」
ぴょーんと上にとんだくーねは、なんと3メートルほどジャンプした。
「くーねたんちゃん!!すごーーい!」
「なん、、、、、だと、、、、」
純粋に驚くミカとは対照的に、エイタは驚愕していた。
ミカが不思議がり、エイタの視線の先を追うとそこには、、
「エイタ君!どこ見てるのっ!」
バチンッと目を塞がれるようにビンタされた。叩かれた後に「あ、ごめん。つい」という声が聞こえてくる。
くーねは絶対領域が出来るくらいには短いスカートを履いている。そんな恰好で高く飛べば当然見える、、、
「見えないだとっ!」
見えなかった。
「どうだった!あれ、どうしたの?」
地上に降りてきたくーねは目を押えてなにかを呟いているエイタを見て疑問がる。
「くーねたんちゃん!ダメだよそんな恰好でジャンプしちゃ!見えちゃうよ!」
ミカの発言を聞き「ああなるほどね」と大体の状況を察する。
「ふっふっふ、それなら大丈夫だよミカ!ほら!」
そういうとその場でぴょんぴょんしながらクルクル周りだす。遠心力によりスカートが暴れる。
「あー!そんなことしたら見えちゃうよ!ってあれ!?見えない!?どうして!」
「そう!見えないでしょ!なぜならこのスカートも”心核”だからね!」
不思議がったミカがスカートを観察しだす。スカートを持ってガバッ!「うそ、これでも見えない!」
「”心核”ってスカートにも宿るんだね」
「そうだよ~、どんなものに宿るのか、どんな能力が付くのか、完全にランダムなんだよ~。このスカートの”心核”は【絶対に見えない】って能力だね」
「クソッ!”心核”め、余計なことしやがって」
いまだに目を押えてるエイタを、白い目で見るミカ。「エイタ君、そんなに見たかったの?」と。
「違うんだ、ただ目が行ってしまっただけだ。見えそうになると男子は抗えないんだ。違うんだ、信じてくれ」
苦しい言い訳を重ねる。「つまり見えそうなら見るってことだよね」と更にジト目になるミカを見て、まずいと思い話題を戻す。
「つっ!つまり、その基礎能力ってやつは、身体能力が上がる。ゲームで言う所のステータスが上昇するってことか?」
「すてーたすってのが何かはわかんないけど、大体はそんな認識であってるよ!」
そういわれればなんだか体が軽い気がする。と思う。
実に単純な脳みそだ事。
「まあ、いいや。そのうち能力も目覚めるらしいし、しばらくはこれで」
「そういえば、くーねたんちゃんは”心核”いっぱい持ってるみたいだけど、持ってる分だけ基礎能力も上がるの?」
「んーんー」と首を横に振りながら言葉を続ける
「基礎能力は”心核”に依存しないんだよ。なんていえばいいかなー。
”心核”を扱えるようになるために体が成長するって感じ?かな」
「あーなるほどな。じゃあいっぱい”心核”を持って最強!みたいなことは出来ないんだ」
「戦えば戦うだけ基礎能力が上がっていくんだよ。つまり地道にやるしかない!」
「まあ力が増す能力を持った”心核”もあるけどね」と言いながら歩くのを再開するくーね。
説明が終わったってことだろう。
それからしばらく歩いていたエイタ達だが、学校を出てからというものずっと感じていた違和感にエイタはやっと気が付いた。
「なあ、草が多すぎないか?」
その発言でミカも「はっ」とする。
くーねはそもそもこの前の状態を知らないので首を傾げた。
意識して周りを見るといたるところに雑草が生えていた。アスファルトを突き破り根を生やしたり、家屋に絡みついたり、
「1日でここまでなるか?」
そこまでいってゾッっとする。自分たちはなにか重要な勘違いをしているのではないかと。
そしてなかなか気づけなかった理由に当たりをつける。
そう、この崩壊した街は、”馴染んでいる”のだ。まるで”この崩壊がもう”ずっと前の事”だとでも言うように。