7 異世界から来たアイドル 3
先ほどまではあんなに元気いっぱいだったのに今はその元気も見る影がない
儚くも泣いている少女に見とれていたエイタだが「はっ」っと我に返る
(俺はいつまで見とれてるんだ)
頭をガリガリ掻きながらくーねの前に出ていくエイタ
「起きたみたいだな、体調は大丈夫か?」
急に声をかけられビクッとしたくーねはエイタを見るとごしごしと目を擦り涙を隠した。
そしてまた元気に言葉を返してくる
「おぉ!!少年!生きていたか!」
「そりゃ生きてるよ!君が助けてくれたからな!あとほぼ同年代の女子に少年とは言われたくない!」
「あっはっは、そりゃよかったよー!」
元気に笑っているように見えるが、先ほどの涙を見た後だとどこか無理をしているように感じる。
「ならまず、君の名前を聞かないとね!」
そんな考えごとをしていて、すこし下を向いていたエイタの顔を覗き込むように近づいてきたくーね
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない!えっと名前だったよな。俺はエイタだ、粒谷エイタ」
「うん、エイタ!よろしくね!」
エイタの名前を何回か反芻したあと手を差し伸べるくーね
「ああ、よろしく。えっと、、」
手を出そうとしたエイタの手を強引につかみ自分のところに持っていき盛大にブンブンするくーね
「私はくーねたんです!!」
「えっと、それは活動名かなにか?」
「くーねたんはくーねたんです!」
さぁ読んでみて!ホラホラ!と手をブンブンするくーねだが”くーねたん”の”たん”の部分が引っかかってなかなか呼ぶ気になれないエイタ
「じゃ、じゃあ、くーね」
できれば”たん”は呼びたくない。そんな思いから”たん”を抜かして呼ぶエイタだったが
一瞬くーねの手がピタッと止まった。
そしてまたブンブンと手を振り始める
「もぉ~~!私はくーねたんだってば~!」
しばらく”たん”つける付けない問答をしたエイタ達だが最終的にくーねが諦めることで終わった。そのあとはとりあえず戻ろうということになり保健室へと戻ってきていた。
くーねが寝ていたベットに今はミカがすぴすぴと寝息を立てながら寝ていた。くーねが寝かせてあげたのだろう。
「ふふふ~ん」と鼻歌を歌いながらカニのマスコットをミカの頭にのせて遊ぶくーねを見ながらエイタは尋ねる
「なあ、くーねは一体なにものなんだ?あの力は、、、?」
するとくーねはエイタに向き両手をバッと上げながら高らかに・・・言おうとしてミカが寝ていることを思い出し少しトーンを落として宣言する。
「私はアイドル!超スーパーミラクルウルトラハイパーダイナミックアイドルだよ!」
「いや、さっぱりわからん。」
さもありなん。理解できるやつがいたら、天才か同類のどちらかだろう。
「え~、わかんないの~?う~ん」
今の説明のどこがわからないのかがわからない!とでも言いたげな顔で腕を組みながらうんうん唸りだすくーね。頭のアホ毛が右にぴょこ、左にぴょこと揺れている
「なんかこう、あるだろ?魔法少女です。とか、世界を救う使命がー、みたいな?」
「まほう、しょうじょ?う~ん、よくわかんないけど多分違う!私はアイドルだから!」
「あんな凄い力持ってるのに?」
するとくーねは一瞬顔を曇らせて「そんな凄い力じゃないよ」と呟いてから、表情を明るく直す。
「アイドルはあれくらい出来ないとね!」
一瞬曇ったくーねの顔に引っかかりを覚えつつも、
最近のアイドルはすげえな。大変なんだなとか思うエイタであった。
しばらくして朝日が昇る。一直線に抉れた道のその先から、日差しが差し込んでくる。
エイタもくーねも朝日を眺める。
「朝、、か」
後ろから「んんんぅ」と言う声が聞こえてくる。日に当てられたミカが起きたのだ。
「あれぇ~、ここは外~?」
そんな寝ぼけた声が聞こえてくる。
振り返ると頭にカニを乗せたミカがぼーっとこっちを見ていた。
暫くこっちを見ていたミカだが、はっとして状況を思い出しいそいそと寝ぐせを直し始める。
くーねが元気いっぱいな顔でミカに突撃していく
「起きたか―――!!さあ、人質となったかっこんを返すのだ!」
そんなことを言って。
「え?!か、かっこんって?なんのこと?!」
「何を言う!キミの頭に乗せているだろう!」
「えっ?あ、ほんとだ、なんか乗ってる。って君かぁ~」
「君はかっこんって言うんだね。ごめんね、さあご主人のところにお帰り」と言いながらくーねにカニを、いや、かっこんを返すミカ。
因みにかっこんをミカの頭に乗せたのはほかでもないくーねである。
くーねのところに返ったかっこんは手のひらから左肩の方へ移動していった。もしかしたらかっこんの定位置なのかもしれない。
「よし、じゃあ改めて!私は流星アイドルッ!くーねたんです!!あなたたちは?」
威勢よく改めて挨拶をするくーね。
超スーパーミラクルなんたらかんたらはどうしたんだと思いながらも返すエイタ。
「俺はエイタだ。高校生」
「えっと、同じく桐島ミカです。」
一瞬「こうこうせい?」となるものの、名前を聞くと元気よく両手を万歳させるくーね
「うんうん!よろしく!エイタ!ミカ!」
先程同様ミカとブンブン握手を交わしたくーね(ミカもノリノリだった)
「よろしくね!くーねちゃん!」
ミカがそう呼ぶとくーねは首を横に振って否定する。
「ちっがーーう!私はくーねたん!」
「え~、くーねちゃんでもいいじゃ~ん」
またまたくーねの”たん”つける付けない問題が発生したが、今度はミカが「じゃあくーねたんちゃんで!」ということで一応の収束をした。
そのあとくーねが一つの質問をして来た。
「それで、ここってどこかわかる?」
「は?」「え?」
それは、質問としては何らおかしくないのだが、この状況に至っては少しだけ引っかかる質問だった。
「えっと、ここがどこかを知らないのか?」
「そうなんだよね~、いや~困った困った。なんだか道に迷ったみたいでー」
「えへへ~」と頭を掻くくーね
「ここは私たちの通う高校だよ?まぁもうないんだけど」
するとくーねは首をこてんと傾げながら聞き返す。
「こう、こう?学校のことかな?」
「そうだよ?」
「そっかそっか」となにやら周りをキョロキョロし始めたくーねを前に、エイタとミカはこそこそ話を始める。
「なあ、さっきからおかしくないか?この子”高校”って単語に引っかかってたぞ。そういえばさっきも”魔法少女”って単語に覚えのない反応してたな。」
「うーん」と悩んだ後ミカも手をポンと叩く。
「エイタ君!これもしかしたらあれかも!異世界!異世界転移だよ!」
「異世界!?いやいや・・・さすがに・・・」
そう言いつつ、昨日のビームを思い出す。
(・・・ないとは言い切れないのか)
「きっとそうだよ~!くーねたんちゃんは異世界からやってきたんだよ!」
ある程度周りの観察が終わったのかくーねがこっちに向き直る。
「う~ん、これはまずいな~」と呟きながら
「どうかしたのか?」
「あははー、どうも”私がいた世界”とは”違う世界”に来ちゃったみたいだな―って」
「参った参った」といった感じで手をぷらぷらさせるくーね
「本当に違う世界なのか・・・」
隣でミカが「ほらーーー!!やっぱり異世界転移だよ~~」とはしゃいでいる。
確かにそれならくーねの知らない単語や謎の力も納得できるが(あとかっこん)
「くーねたんちゃんは異世界からやってきたってこと?」
「異世界?まあこの世界からしたらそうなるのかな?」
「凄い凄い!!ほんとに異世界があるんだなんて!ねえねえくーねたんちゃんがいた世界はどんな世界だったの?」
ミカの質問にくーねは「うーん」と考えた後、小さい声で「あんまいい世界じゃないよ」と呟く。
聞き取れなかったのかミカが「ん?なんて」と聞き返そうとする。
あまり話したくなさそうだな、と感じたエイタは話題を変えることにした。
「それよりさ、これからどうする?くーねは異世界から来たんだろ?」
「うがーー、そうなんだよ、どうにかして元の世界に帰らないと!どうしよ~」
エイタの問いに表情をパっと切り替えて返すくーね
「じゃあ私たちが案内して一緒に探してあげるよ!」と言ったミカだが、周りの状況を思い出す。
「そういえば、私たちも何も知らないね」
「そうなんだよな~、朝なのに未だに人が来る気配もないし」
「いつまたゾンビが襲ってくるかもわからないよね」
「とりあえずどこかに移動しないか?このままいつまでも学校にいても状況は変わらなそうだし。」
「そうだね、くーねたんちゃんも一緒にいこ?」
くーねも「うん!いこういこう!」と先頭を切って歩いて行ってしまった。やっぱり元気だなぁ~と思いつつくーねとミカに着いていくエイタ。
(遂に、学校を出るんだ)
振り返って学校を見る。地震により崩壊し、また一部は一切合切が消滅している。
そんな光景を忘れないようにしっかり脳に焼き付け、エイタは前を向いて歩き出した。
そして3人は進んでいく、一直線の道を、これから始まる茨の道を――
章としてはここで区切りです。
次章はエイタ達の戦闘をもっと書ければと思います。