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54 銀色の騎士


 朧げな意識の中で霧島さんが必死に逃げているのが分かった。


 俺が意識を取り戻したのは山を転げ落ちている途中のことだ。


 不思議と痛みはなかったがそれ以上に足手まといになっている自分に苛立ってしまう。この状況で何寝てんだよと。


 やがて高いところから放り出された俺たちは地面へと落ちる。


 手足どころか何も動かない体。


 動かせない視界をぼーっと見ていると何かが忙しなく動いているのが分かった。


 空だ。


 それはジュプドロンの結界のさらに外側。


 ぐにゃりと変形している結界を沿うようにあっちへ行ったりこっちへ行ったりと動き回っている。


 入りたいけど何処から入ればいいかわからない。みたいな。


 どこか既視感を覚える。どこで見たんだっけな。それを見ていると霧島さんが頭をなでてきた。


 そのおかげか急速に体が感覚を取り戻して行くのを感じる。熱が入っていくというか。モノクロだった世界に色がついていく。


 ほんの少しなら動けるかもしれない。


「うぅ、きり、、しま、、、さ、ん。」


「エイタ君?!」


 絞り出した声で霧島さんを呼ぶ。俺が急にしゃべりだしたことにかなり驚いているみたいだ。


 だが驚いているのは俺も同じだった。感覚が戻り周りが騒がしいとか結界の色がおかしいとかもあるがそんなことどうでもよくなるくらい俺は釘付けになっていた。


 先ほどから動いていた結界の外側にあるもの。


 それは”銀色”に輝く、


「ひか、り、、」

 

「エイタ君?どうしたの?」


 そう。それは光だ。つい昨日精神世界にいたときに一瞬見えた銀色の光そのもの。やけに印象に残っていたから覚えていた。


 なぜあの光が見えるのだろうか?いったいなんなんだろう?いやそれよりも、


「ひかりが、まよってる。。。」


 そう、あの銀色の光は迷っている。


 何かを探しているかのように。


 あれが何なのかはわからない。だが感覚はあった。くーね風に表現するならばあれはきっと”希望の光”


 あの光に教えることができれば、、、ここにいると。


「俺に、もう少しでも核力があれば、、、」


 そうすればあの光に教えることができたかもしれないのに。


 確証はないが、向こうもこちらの光を見ることが出来ると思うから。


 と、思っていた時だった。


 口を開けられ何かを思いっきりねじ込まれる。


「んががっ!!!」


 動揺する暇すらない。全身に核力が流し込まれる。突然バケツに入った熱湯をぶっかけられる様な、そんな感覚。


 炎が灯るのが分かった。視界が白く染まりゆらゆらと燃える。


 視野が一瞬で広がり瞬時に状況を理解する。


 それはジュプドロンの攻撃がすぐ目の前まで迫っている瞬間。


(あ、これは避けれない。)


 そもそもが死にかけ。なんか片腕もない。


 霧島さんが俺に抱き着いて迫りくる攻撃に対してハンドスコップを掲げた。その体は震えており、彼女の精いっぱいの抵抗だった。もう彼女に核力は残っていない。形だけの抵抗。


 俺はその手にそっと左腕を重ねた。先ほど回復した核力を注いでいく。


 たとえ俺の核力が全快だったとしてもこの攻撃を防げはしなかっただろう。


 つまりこれも形だけの抵抗だ。それでも最後まで戦ったという意志だけは捨てたくなかったから。


「エイタ君。。。ありがとう。」


「こちらこそ。」


 そこにはいったいどんな意味が含まれているのだろうか。


 それを知らぬままやがて俺たちは闇に飲まれた。


 。。。



 。。。。。。



 。。。。。。。。。



 あれ?


 思っているような衝撃は来なかった。それどころか、


「あれは、、、なんだ?」


 それは目の前に広がっている光景。


 エイタ達の目の前に突如として現れた”何か”がジュプドロンの攻撃を防いでいる。


「かべ?・・・なのかな?」


 やがて攻撃の威力が減衰していき、完全に収まると俺たちは闇から解放され”朝日”を浴びる。


 久しぶり過ぎるまぶしい光に目を細めて天を見上げるとそこには穴の開いた結界がゆっくりと閉じていくところが見えた。


 そんな穴から何かがゆっくりと降りてくる。


 神々しい何かが。


 銀色の光を纏ったソレが、まるで降臨でもしているかのようにゆっくりと。


 今ここにいるすべての存在が、その差し込む光に当てられて降ってくる存在に目を奪われていた。


「て、天使きたぁ」


 ミカが思わず呟く。ああ確かに。それは正しく天使の降臨の様。


 ふわりと腰まで伸びているツーサイドアップの”銀髪”を揺らし、まるで”騎士”の様なハーフプレートを身にまとった少女が目の前に降り立つ。


 目の前に突如出現した巨大な何かを片手で持ち上げた少女は、その自分の身長と同じかでかいくらいの板の様な何かを背負った。


 そのことで今まで見えていなかった裏面が見えたことでようやくあれが盾だということに気づいた。


 ちらっと一瞬俺たちを見た少女は興味なさそうにざっと視線を巡らせるとすぐにジュプドロンのほうに向いた。


 その際に無造作に石が二つ放り投げられる。霧島さんが「おっとと」とか言いながら受け取る。


 それは魔石か?


 恐らく俺たちが核力切れだと見切ったのだろう。これで回復でもしろということか。


 霧島さんが二つのうちちょっと大きいほうを渡してきた。一応受け取ったがこれどうやって使うんだ?


 とか思って霧島さんを見てみたら、霧島さんも魔石をジーっと見つめて難しい表情をしており、「よしっ」と小さく覚悟を決めると魔石を口に含み始めた。


 えぇ、、、うそでしょ。


 次の瞬間には魔石の色が徐々に失われていき、核力の回復はできているようだった。


 これは俺も覚悟を決めないとな。 パクッ


 そんな俺たちのバカげたやり取りをしている間に大きい盾を背負った騎士っぽい少女はジュプドロンに近づいていく。


「お、おい!」


 「危ないぞ」と言いたかったが歩きながら後ろに手で制してきた少女に止められる。


 なんだか頼もしさすら感じるその後ろ姿に思わず黙ってしまう。突然現れて何者なのか。分からないが俺の中に一つの可能性が浮かんでいた。


 あの独特な雰囲気。創作物から飛び出してきたかのような異質な見た目。なによりよく知っている”あの少女”と重なって見えるような言いようのない”既視感”


「ナナナ、ナゼ、ナゼキサマガイルノダ?!!?!」


 少女は答えない。ジュプドロンはあの少女を知っているようだった。明らかに動揺している。


 ピンチの時に突然やってくる突拍子のなさといい、あの子から感じる尋常ならざる気配。やはりあの少女は、


「異世界人?、、、くーねたんちゃんと同じ?感じがするよね。」


「霧島さん。それ今俺が言おうとしたのに。。。」


 俺のしょんぼりはともかく、ミカのいう通りなのだろう。あの子は恐らく異世界人。そして魔王軍幹部であるジュプドロンが認知しているほどの存在。


 状況にもそぐわず胸が熱くなっていくのを感じる。


 ちょっとずつ間合いが詰まっていく二人。


「ホントウニ、ホントウニセカイハヨソウガイダラケダ。コレモマタゼツボウナノカ・・・」


 先に焦れたのはジュプドロンのほうだった。


「フザケルナアアァァアアアア!!」


 全身をぐちゃぐちゃと膨れ上げさせながら無理やり触手を噴出したジュプドロンは赤黒い雷を纏わせながら少女へと襲い掛かった。


 少女に動く気配はない。誰もがその先に予想出来る展開に目を背けようとした。ズタズタにされた少女の姿が。


 そのまま薙ぎ払うように振るわれる触手。ズドンッと鈍い音が鳴り響いた。


「なっ?!」


 そのあとに見た光景は、まさに驚愕の一言。


 今まで散々苦しめられたあいつの触手が、ただの一本でも当たれば死んでしまうような凶悪な触手が。


 まさかあの華奢な少女が”片腕”で止めてしまうなんて、誰が予想できただろうか。


 ジュプドロンが自身の傷を顧みず連撃を叩き込む。しかし少女が動くことはない。


 その場ですべてを受け止め、叩き潰していた。


 それは圧倒的な強さの証明。


 一歩も引かずに攻撃を捌き俺たちを守るその姿は正しく、


 ”騎士”だった


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