50 詰み
お久しぶりです!
ぼうぼうと風を切る音が聴覚を機能させずにいる中、空中を落下していたくーねはうっすらと目を開いた。
絶対に負けられない戦いで自分は何を考えているのだと。いや何を考えていたかももうほとんど思えてはいない。ただ少しだけ懐かしい気がしただけだ。
体中を雷に焼かれ、ズタボロになりながらも”数時間”戦い続けたくーねは意識を朦朧とさせ、動く力もほとんど残ってはいない。
体から漏れている光で尾を引きながら地面に向かって落っこちるその姿を遠くから見たら流れ星と勘違いしてしまいそうだ。
紙一重で何とか凌いでいた攻撃を、ついに受けてしまったのだ。
『ギヒーーー!ヒヒヒヒ。ここまでか?偶像?随分と早かったじゃねえか。』
気味の悪い塊のジュプドロンが触手を伸ばし落下してるくーねに向かって更に追撃を加える。言うことを聴かない体を無理やり動かし弾こうとするが物量に押し負けてしまう。
そのままズタズタに地面に打ち付けられる。
「くぅっ!」
『もう動けないようだな?偶像?今までよく頑張ったよ。貴様は正しく英雄だった。』
ニタニタと笑うジュプドロン。くーねの攻撃により傷ついてはいるが、致命的なものはない。
『十分戦っただろう?いっぱい救っただろう?もういいじゃないか。休んだって誰も貴様を責めたりはしないさ。』
「わた、、、しは、、、」
『既にあの世界は救われている。貴様のお陰でな。もう役目は果たされた。だからもう死ね。』
「まだっ!」
圧縮した力を暴発させ、無理やり起き上がる。そのままの勢いでジュプドロンを殴り飛ばした。
ドパッと肉片が飛び散り大きく欠損するジュプドロンだが、その表情は変わらない。空中に飛び出したくーねに《千の怒雷【カールデル】》が襲い掛かり、虫の如く簡単に撃ち落される。
『ギヒヒヒ、哀しいな。これがあの英雄の末路なのか。見る影もない。力を失うとはこんなにも恐ろしいものなのか。』
地に落ちたくーねは完全に動かなくなっていた。ジュプドロンが笑う。
『終わりか?俺を殺したお前はここで終わるのか?どうすればいい?どうすればお前は力の全てを振り絞る?もう尽きたのか?なにも残っていないのか?』
くーねの反応を探る様に言葉を続けるジュプドロン。
『もう起きれないのだな。なら無理やりにでも貴様を起こしてやろうか。そうだな。貴様と一緒にいたあ奴ら、それを目の前で殺せば流石に起きるか?仲間なのだろう?』
「・・・・・・」
流石に反応があるだろうと発した言葉だったが、予想以上にくーねは反応しなかった。傍から見たら死んでいるのではと勘違いしてしまうほど。だがジュプドロンは知っている。くーねがまだ生きていると。
『フン、ならそこで寝ているがいい。次貴様が起きた時、全てが終わった後でまた会おう。』
魔王軍幹部、禍災 ジュプドロン・ギシュターン。彼が求めているのは戦いの勝利でもなければ、魔王からの命令を遂行することでもない。ただ純粋に、ただまっすぐに、”英雄”の絶望を。
くーねの絶望を望む。それがジュプドロンの欲するもの。そのためなら自分の命すらどうでもいい。
。。。
「あっぶなーーい!」
「ぬわああ!!」
人が簡単にぶっ飛ぶほどの風圧で吹き飛ばされる。そのまま瓦礫の山へダイレクトシュート。
そんな酷すぎる扱いを受けたにも関わらず全く気にした様子のない少年はごろごろと転がった後にすぐ立ち上がると力を溜めた拳を大樹に突き立てた。
大木に打ち付けた拳が爆散するも、大樹は少し抉れる程度で対したダメージにはならない。
「やばすぎるって!手応えない!!」
「エイタ君!くるよ!『ストーンバレット!』」
ミカがハンドスコップで地面を掬い取ると大樹に向かって投げ飛ばす。土は道中で弾丸のように細かく鋭く尖っていき、大樹から放たれた種子のようなものを撃ち落しながら着弾。
グオオオオオオオォォォ
大地を揺るがすほどの咆哮が鳴る。大樹の化け物。大男の成れの果て。突如生まれてしまったこの怪物に、エイタとミカは攻めあぐねていた。
正確には自分たちの攻撃がほとんど通用しないことに焦っている。
「無差別に暴れていることだけが救いだね。あれ以降やばそうな砲撃もしてこないし。」
「ああ、こいつに自我があったら俺たちもう終わってたな。」
額から流れ落ちる汗だか血だかわからないものを拭いながら状況を判断する。
怪物と成ってしまった大男。ミカが来てくれたことで精神的な余裕は回復したが、絶望的という現状は変わってはいない。
「エイタ君、あの技、あと何回撃てそう?」
断続的に土の弾丸を放ちながらミカが問いかけてくる。あの技とは俺が極限まで核力を溜めて爆発させているあの『エクスプロード』のことだろう。てかそれ以外に技ないし。
「二回、、、かな。腕が吹き飛んでいいなら三回。そっちは?」
「うーん。大技で言うなら私もあと一回かな。細かいのならもう少しは、、、正直もうぶっ倒れそうだよ~」
お互いにギリギリなのは一緒か。向こうの化け物もそうだといいんだけどな。
大樹の怪物は無差別に暴れまわっている。体を振り回せば冗談のように家屋が吹き飛び瓦礫の山すらぺちゃんこに。
「あっちは元気そうだな。」
「こっちも負けてちゃいけないよ!さ!エイタ君いっちょ空飛んでみようか!」
「えっ?!空?!飛ぶって何?!」
「もー、わかってるでしょ!あの明らかに急所っぽいところにエイタ君の『エクスプロード』を打ち込むんだよ!」
そういいながらミカが指さす先は怪物の頭。その額に露出した怪しく輝く宝石のようなものだった。
確かにゲームなら弱点になってそうな部位ではあるが、、、
「もしかしなくても俺をあそこまで飛ばすつもりか?」
「大丈夫!操作には自信があるよ!」
ニコニコと笑顔で扇子を取り出すミカ。ほかに打開策もない現状ではこれしかないのか、、、
「な、なあ、最悪飛んでいくのはいいとして俺はそのあとどうなるんだ?落下死なんてごめんだぞ」
「それこそ大丈夫だよ!ちゃんと受け取って見せるから。。。。。。(多分)」
え、この子今多分って言った?ちょっと最後にボソっといったよね?
「よしじゃあとっとと飛んじゃおうか!いっくよーーー!」
「え?!もう?!ちょっと待ってまだ心の準備が、、、ってああああああ~~~!!」
「もー!善は急げだよ!」とかなんとか言ったミカが扇子を大きく振りかぶると突風が発生して俺はあっけなく怪物に向かって飛ばされてしまった。
「ぬおおおおおおお!!!」
吹き飛ばされる中でもなんとか体制を立て直し、右手に核力を収束させていく。短時間で何度も酷使した体が悲鳴を上げ、特に核力を集めている右手が弾け飛んでしまいそうなほど痛む。
歯を食いしばり痛みを我慢しながらも精いっぱい叫ぶ。
「うおおおおおぉぉぉ!!!『エクスプローーーードッ!』」
一直線に額に到達したエイタの一撃は大爆発と共に確実に額の宝石を破壊した。
ぷらんぷらんと力が抜けた体で自由落下をしていると、直ぐに地面が近づいてくる。
そのまま落下してあと数十センチで衝突。というところでなんとか停止した。内心めちゃめちゃ怖かった。
「あっっぶなかったー。全然受け止めれなくてもうだめかと思ったよ。」
「霧島さん。。。俺はこれから高いところから落ちても大丈夫なように体を鍛えようと思う。」
「ごめんってばーー!」
ミカが風を解除するとドサッと地面に落とされる。もう大して痛みも感じなくなってきた。仰向けになり大樹の怪物を確認する。
オオオオオォォォォ
額の宝石を破壊された怪物はそこを中心としてひび割れが進行しており、ボロボロと崩れていっている。
ここは危ないと思ったミカがエイタを担いで離れていくと次第に崩壊は強まりついには自立することもできずに地鳴りを立てながら倒れた。
「ほんとに弱点だったんだね。」
ミカがぽつりと怖いことを言っている。この娘は確証もなく人を飛ばしたのか?
「とにかく倒せたんだ。これで後はくーねが、、、」
そう言いかけたところで違和感に気づく。たったさっきまで絶え間なく鳴り響いていたはずの轟音。遠くに見えていた赤黒い雷と煌めく光が今は全くないのだから。
これがくーねがあいつを倒したということならそれでいいのだろう。だがなんだ?この嫌な感じは。
まだ終わってない。なにかが、こっちに来ている。
「エイタ、くん。。。」
「霧島さん?どうして、、、っ?!」
ミカの震えた声、疑問に思ったのは一瞬。圧倒的な気配が頭上に広がる。
『ギヒヒヒヒ、すこし目を離していた隙に随分と面白い事になってるなぁ?』
耳をつんざくような声が聞こえる。聞いているだけで神経を逆なでされるような不快感が全身を拘束し、まともに思考が回らない。
『全くもって予想外。どうやら貴様らはよっぽど運が悪かったらしい』
遂に来てしまったのだ。魔王軍の幹部が。
「ジュプドロンっ!!おまえっ、、、どうしてここに、、、?! くーねは?!」
先ほどと同じ醜態を晒さないよう精神を保ちジュプドロンを睨みつける。
『ギヒ、ギヒヒ、偶像?あぁ、あれならもういないさ。俺が潰した。徹底的になぁ?』
ギロッと中央の大きな目を広げながらエイタを見つめてくる。
「・・・っ!!」
怒りでどうにかなりそうだった。歯を食いしばりすぎて口が開かない。
もし隣にミカがいなかったらがむしゃらに特攻していたかもしれない。そうしないのはミカがエイタの腕を握りしめる様につかんでいたからに他ならない。
『おやぁ?驚いた。そっちにいるのはあの目障りな光を持っていた人間か?光は確実に潰したはずだが何故生きている?まさか自力で立ち直ったのか?』
ジュプドロンに目をつけられたミカがビクッと震える。そうか、ミカもジュプドロンに何かされたのか。
「あんなのじゃ私は死なないっ!」
『ギヒヒ、そうか、腐ってもあいつの仲間というわけか』
より一層掴む力が強くなったミカのお陰で少しだけ冷静になれた。
なんの気まぐれか。あいつは俺たちをすぐには殺さない。いつでも殺せるのだろう。反撃されたとしても平気なのだろう。それは事実だ。
だが気に食わない。
シュルシュルと触手を操りながら地面まで降りてきたジュプドロンは気色悪い口を歪めながら観察している。
俺はほぼ無意識のうちに右手に核力を集めていた。お粗末な力の流れだ。当然ジュプドロンも気づいている。
だがあいつは見ているだけだった。ニヤついた顔で大人しく。ご丁寧に正面の触手を除けさせながら。
ともすれば挑発しているようにも見える。「いいぜ。一発撃ってみろ」とでも言っているようだ。
そんな二人の尋常ならざる気配にミカも気づく。
「だめだよ、、エイタ君。それを撃ったら、体が、、、」
しかしエイタはミカの腕を優しく離してあげると立ち上がって言う。
「わかってる。でもこれは理屈じゃない。ただ、あのキモイ顔がムカつくからぶっ飛ばすだけだ。」
「・・・うん。そっか。じゃあエイタ君。私の分までお願い。さっきあいつに酷いことされたからやり返して。」
ミカのほうを向くとそんなことを言って笑っていた。つられてこっちも表情を緩めてしまう。
「へへっ、任せておけ!」
ミカの気持ちも一緒に背負いジュプドロンに向かい進み始める。数本の触手でふよふよと宙を浮いている塊を殴るために。
限界まで核力が溜まった拳が悲鳴を上げている。だが、まだ足りない。
ジュプドロンの目の前までたどり着いた。もう目と鼻の先にはそいつがいて、視界にはこいつの眼球しか見えないくらい。
ここまで溜めるのは初めてだ。避難所で技に目覚めたあの日ですらここまでは溜めれなかった。戦闘中にこんなに溜めれる猶予もなかった。
深呼吸する。もう恐れはない。
溢れ出している”白い炎”が燦々と燃え上がる。もはや直視することすら出来ない。
エイタが構える。臨界点を迎えようとしている圧縮された炎の塊が引きつられて揺れる。
想え、想え、想え、
今度こそ再現して見せる。あの日、学校でくーねが放った攻撃を。
「エイタ君!叫んで!」
俺が憧れたあの光を!
「輝けっ!希望の閃光っっ!えくすぷろおおおおおぉぉっど」
思い切り振りぬいた拳は真っ直ぐにジュプドロンへと直撃し、
「ばぁぁああああすとっっ!!」
光が爆ぜ、世界が真っ白に染まった。




