5 異世界から来たアイドル 1
「やっほー!呼ばれた気がした!くーねたんです!!」
夕闇にキラキラと煌めく長い金髪はツインテールに結われ、太陽のように爛々とした瞳はトパーズのように透き通る。黒を基調としたセーラー服風の衣装にはひときわ目立つ黄色いリボンが胸元で弾んでいた。膝上まで伸びた髪と同じような色合いのコートをなびかせ、ふわりと広がるスカート。その下から伸びた足は黒いニーソに包まれ、太ももとのわずかな隙間に完璧な“絶対領域”が完成している。ふくらはぎまであるブーツは動くたびにカツカツと軽快な音を響かせ、頭のてっぺんからはアンテナのようなアホ毛がぴょこぴょこと小刻みに揺れていた。
そして少女はクルンッと一回転するともう一度声を張り上げた。
「生きてるだけで百億点!!間に合ってよかったよ~っ!!」
あまりにも現実離れしたその姿と振る舞いにエイタもミカも一瞬、言葉を失った。
「え、えっと・・・あー、うん?」
「あれれ~?どうしたのかな!私に会えたのが嬉しすぎて固まっちゃった?」
両手をヒラヒラと振りながら近づいてくる少女に、エイタの脳内は疑問符で埋め尽くされていた。
(何を言ってんだこの子は。ていうか後ろで光ってるのってなに?!どっから出てるの!それにさっきの光の柱はっ・・・!)
混乱に包まれながらもエイタは大切なことを思い出す。
目の前の少女が先ほどエイタ達のピンチを救ってくれたのだ。
「助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら、俺たちは・・・」
(よくわからないけど、この子が助けてくれたことは確かなんだよな?)
「んー?お礼なんて別にいいんだぜっ!私は私のやるべきことをしたまでだー!」
少女はビシィィと親指を立てて、どこかで見たような決めポーズを取ってみせた。
ようやく現実感を取り戻し始めたミカも恐る恐る口を開く。
「えっと、その、ありがとうございます。助けて、いただいて。それで、あの、あなたは、一体?」
しどろもどろになりながらもなんとか少女に質問するミカ
「っふふ。私が何者かって?」
少女はそう言うとコートの内ポケットに手を突っ込み取り出したのは、なぜかマイク。次の瞬間、どこからともなくキラキラなメロディが流れ始めた!
「えっ!?音楽!?」
二人の目が見開かれる中、少女は大きく屈んだと思うと、高く跳ね上がり空中でくるりと一回転!背後に展開される謎の空間!
「キラメキハートに希望をチャージ☆ 流星アイドル!くーねたんっ!!」
ビシッ、バシッ、ドドンッ!! そして締めのキラーーーン!!
それは某少女たちが変身した後に上げる名乗りの如く、そんな一幕を見せられたエイタは思わず叫んだ。
「ニチアサかよ!!」
隣ではミカが感極まったように興奮していた。
「す、すごい!すごいよエイタ君!本物!本物の魔法少女が目の前にいるよ!!」
「うーん、魔法少女なのか?アイドルって言ってたよな?」
「最近はアイドルも魔法少女もなんでもありなの!」
もはや何が何やら、エイタの理解が崩壊しかけていた。
だが、その“非日常”は、次なる“非日常”によってあっさり打ち砕かれる。
――ズサッ――ズサッ――
どこかで聞いた音が近づいてくる。
思い出す。ここがゾンビだらけの世界になってしまったという、忌まわしい現実を。
「「「う”あ”あ”あ”ぁ”」」」
二人は恐怖を思い出し、震えながらも手にした武器を強く握り直す。
(何度だって戦ってやる!)
覚悟を決めて一歩踏み出そうとしたその時だった。くーねはニコニコと笑みを浮かべたまま、ゾンビたちの方へと歩き出した。
「ゾンビさん達!会いに来てくれたの?ありがとね~~!」
「あ!おい!危ないって!!」
エイタが慌てて叫ぶが、くーねは振り返り、エイタ達を安心させるかのように微笑むと、再びゾンビに向き直る。
「よーーし、今日は出血大サービスだよ!!」
そういうと右手に持ったマイクをゾンビ達に向ける。次の瞬間
マイクの先端が突然ガシャンと変形し、そこに光の粒が集まり始めた。
「な、なんだあれ」
キラキラとした粒子が空間を舞い、七色を超える光が辺りを眩く照らす。
「煌めけっ!希望の閃光っっ!」
やがて光の塊を形成していく。その輝きは次第に目を焼くような閃光へと変わっていき、
「しゅーてぃんぐすたぁぁーーー」
臨界点まで達した光が、弾ける。
「ばぁぁああああすとっっ!!」
そんな掛け声と同時に放たれた閃光は極大の光柱となり、ゾンビたちを、瓦礫を、壁を、全てを飲み込んで消し飛ばし進んでいく。凄まじい轟音と発生する衝撃波によってエイタ達はその場に立つのがやっとになっていた。
「すごい、、、」
ただ一言。
数秒か数十秒か、ようやく光が収まり、静けさが訪れる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やっと周りが見えるようになった二人の前には、地面をも抉り一切合切を消滅させた光の一本道だった。それがずっと先まで続いている。
あまりにも現実離れした光景に、二人はただ立ち尽くすしかなかった。
くーねは仁王立ちで、ドヤ顔を浮かべながら振り返る。
「ふっふっふっ、どうだ!すごいだろぉ~!」
仁王立ちしたくーねはそのままの姿勢で、後ろにバタリと倒れ込んだ。
「ちょ、ちょっと!?大丈夫か!?」
エイタとミカが慌てて駆け寄る。
近づいて顔を覗き込むと、くーねは小さく呟いた。
「うぅ・・・力、使い果たしちゃった・・・」
ガクッと首を落とすくーね。そして、そのまま完全に気を失った。
「な、なんというか・・・」
「すごくかっこよかったのにね・・・」
二人は何とも言えない表情で見つめ合い、気絶したくーねをそっと支えるのであった。
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