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48 騎士少女


 聖教会騎士団、第二隊所属。 ニイム・ユニカ


 最年少で騎士へと上り詰め、魔王軍との戦い、幹部の撃破、海の都を救うなど数多の戦場で戦果を挙げていく彼女のことを人は敬意を籠めて守護騎士(パラディン)と呼び、称えた。


 そして今最も”英雄”に近い人の一人だという声も大きい。いや彼女はすでに”英雄”だという声すらある。


 そんな英雄一歩手前の騎士であるニイムは今、貿易都市アデナルにある聖教会で管理されている神殿を一人で歩いていた。


 コツコツとなる足音が白亜の大理石でできた廊下に響き渡る。


「はぁーーーーー。もう嫌しゃめ、早く帰りたいしゃめ。そもそもアイツは嫌いなんだしゃめ。頭の固いジジイが早くくたばんねえかなしゃめ。」


 大きいため息をつき嫌な顔を隠そうともせず悪態を吐く少女のその姿は、とても人々から称賛されている騎士の姿には見えない。


「あ!ユニカ様!おはようございます!もしかして枢機卿のところに行かれますか?」


「あぁ、おはしゃめ。そう、ジジイはいるしゃめ?」


「はい!あ、いえ、、、先ほどまではいたのですが枢機卿は朝の散歩に行ってしまわれまして、、、もうすぐ戻られるとは思うのですが。」


「は?散歩しゃめ???なんなんしゃめ。呼び出しておいていないとか意味わかんないしゃめ。もういいしゃめ帰るしゃめ!」


 駐在兵の話を聞き枢機卿がいないと知ったニイムは回れ右するともと来た道を戻り始める。


 だが数メートル歩いた所でニイムは唐突にその場で止まるとバッと振り返り手を掲げる。


 突然の行動にビクッとなる駐在兵を気にすることなくニイムは声を張り上げた。


「『アクアチャージ』」


 水のようなものがニイムの目の前に広がり球体みたいな形となり展開される。その数瞬後に廊下の奥の方から飛来した鷲のようなものがぶち当たった。


 バチンとニイムが作り出した球体に衝突した鷲は包み込まれるように球体の中に取り込まれていくと、藻搔きながらもブクブクと泡と立て消滅する。


 一連を見届けたニイムは廊下の奥にある一際大きく、豪華な装飾が施されている扉を睨みつけた。


「ニイムよ。気づいておるのに帰るでない。まったく昔から変わらんなおぬしは。」


 扉の片方を開きながらそんなことを言い一人の老人が出てきた。


「すっ、枢機卿?!戻られていたのですか。ん?でも部屋の入口はここしかないはず、、、いったいいつ戻られたのですか?」


 駐屯兵が頭にハテナを浮かべている横を「それを聞くのは野暮ってもんじゃよ」といいながら通り過ぎニイムに手招きする。


「入るがよい。お茶でもしようぞニイムちゃん」


。。。


「と、いうわけじゃ、状況はまずまずといったところじゃろう。」


 部屋にて一際大きい椅子に深々と腰を下ろした枢機卿は状況を報告していた。大きいテーブルをはさんで客人用のソファに座って紅茶を飲んでいたニイムは「はぁ」とため息をつき視線を枢機卿に向ける。


「やっぱり魔王軍の手は既にアデナルに入り込んでいると思った方がいいしゃめ。発覚してから二週間、あまりにも動きが早すぎるしゃめ。」


「ふぅむ、なかなか厄介なことになって来たな。ただでさえ近頃幹部たちの動きが活発になっているというのに。」


 ニイムたちは現在魔王軍に関しての話し合いをしていた。というのもニイムがこの都市に来た理由こそがその魔王軍がこの街で暗躍しているかもしれないという情報を聞きつけたから。


 すでに何人もの騎士たちが消えている。これには強大な何かがかかわっている。だからこそ遠方からニイムが呼び出されたのだ。


 また「はあああ、」と大きなため息をつきながらソファに横になったニイムはテーブルの上にあったクッキーを上に投げ口でキャッチした。


「行儀が悪いぞニイムよ。そんな風に育てた覚えはない。」


「ジジイに育てられた覚えはないしゃめ~」


 もぐもぐとクッキーを食べながら寛ぐニイムに呆れた顔で言う枢機卿。だがニイムは適当に流してしまいこんどは枢機卿がため息を吐いた。


 そんな緊張感があるのかないのかわからないような空間にコンコンとノックがされる。


「む。誰も通すなといったのじゃがのう。」


 突然の訪問者に眉を寄せる枢機卿だがニイムはよっこらしょと起き上がると


「はいっていいしゃめ~」


「ちょっ、ニイム!」


「どうせ話はほとんどおわったしゃめ。別にいいしゃめ。」


「失礼します!」


 部屋に入ってきたのは一人の兵士だった。部屋の前にいた駐在兵とはまた別の。


「なにがあった。」


 枢機卿が少し声のトーンを落としつつ聞くと兵士は「はいっ!」と元気に返事を返しつつ内容を伝え始めた。


「正門の門番から入都者についてお伺いを頂きたいと連絡がありました。なんでも聖教会のブラックリストに登録されている者が来たのですが、、、」


「ん?ブラックリストじゃと?そんなもの捕まえるかつまみ出せばいいだけじゃなかいか。なにが問題なのじゃ?」


 枢機卿が兵士に睨みを利かせながら言うと「それがそのものが英雄でして、、、」となんとも歯切れ悪く答える。


「む、そうか、英雄か。なるほど。それはたしかに。」


「聖教のブラックリストに登録されている英雄?候補が多すぎて誰かわからないしゃめ。」


ニイムが興味をなくしたかのようにまたソファに横になる。


 そんな兵士にとってはとても枢機卿の前でやる行動とは思えない奇行。しかし気にした様子もない枢機卿が話を続ける。


「それで、一体誰が来たのだ?グラウか?ベルディッヒか?」


「いえ、、、その、実はくーねたんが、、、」


 バンッと叩きながらニイムが勢いよく起き上がった。


「くーね?!いまくーねと言ったしゃめ?!だめしゃめ!だめしゃめ!くーねは絶対に街に入れちゃだめしゃめ!!!通告もされているはずしゃめ!」


「しかし、くーねたんは世界の英雄、、、みなその不当とも思える扱いに困惑しております。なぜ街に入れないのですか?」


 ニイムの突然の反応に驚きながらも困った顔をする兵士。それだけくーねはこの世界にとって特別な存在なのだ。


「だめなものはだめしゃめ!あんなのを街に入れたらこの街が終わるしゃめ!いいしゃめ?追い返すしゃめ、絶対に街に入れてはいけないしゃめ」


 勢いよく捲し立てたニイムがテーブルに置いてあった紙にペンを走らせるとそれを兵士に突き出した。


「門番への伝言しゃめ。これを読めば大丈夫しゃめ。」


 兵士に伝言を書いた紙を渡すとしっしと追い返す。


 兵士も「わ、わかりました。」と渋々部屋から退出した。


「くーねたん、か。確かにとてつもない存在ではあるが、街に入れても良かったのでは無いか?」


 そんな枢機卿の発言にキッと睨みで返したニイムは今日一番のため息を吐き出す。


「なにもわかってないしゃめ、くーねを街に入れるなんて、、、魔王軍の幹部が街に潜んでいる方がまだマシしゃめ。」


。。。


 昼頃、ニイムはご飯を食べる為に街に出ていた。


 多くの飲食店が建ち並ぶストリートに入り背負った身の丈より大きい盾をガリガリと引きずりながらキョロキョロと辺りを見渡す。


「相変わらずお店が多いしゃめ。何が何だか全然わからないしゃめ。」


 どの店からも食欲をそそられるような香ばしい匂いが立ち上り、それが混じりあった通りは歩いているだけでお腹が空いていく。


 ほかの国では決して味わえないだろう空気感に一瞬「この感覚を味わえないなんてくーねはかわいそうしゃめ」と思いかけたが、すぐにくーねがしでかしたことを思い出して首を振った。


 そこそこ込み合う通路でほかの人にぶつからない様に歩いていると何者かがニイムのスレスレを通過した。


守護騎士(パラディン)、あなたも来ていたのですね。」


 はっとしてすぐに振り返る。と、そこには一人の男性がいた。


 奇抜な塗り物をつけた白い化粧顔。鮮やかな赤い服にへんてこな形をした帽子。明らかに異質だった。奇術師のようにも見える。なぜ通り過ぎた今まで何も思わなかったのか。


(こいつは、やばいしゃめ。。。)


 ステップを踏み距離をとったニイムは自分の身長以上の長さがある銀色の棒を何処からともなく取り出すと腰を低くして構える。


「貴様、なにものしゃめ。」


 すると奇抜な男は肩を震わせて笑う。


「ギヒヒ。ギヒヒヒヒィ。そろそろ教会が動き出すころだとは思っていましたが、まさかこんな大物が釣れるなんて!私は幸運なようですね。」


「おまえ、まさかしゃめ、、、」


 そんな剣吞な雰囲気を出す二人に周りの人たちがざわざわと騒ぎ出す。


 そんな時だった。街中に地面を震わすほどの警報が鳴り響いたのは。


 ウウウウウゥゥウウウウウウン


「?!」


「ギヒ?」


 目の前にいる存在から注意をそらすことなく観察する。何をした!と目線で訴えてみるが、奇抜な男もまた状況が分かってないかのように困惑を浮かべている。


 にらみ合いが続く中、誰かが声を上げた。


「お、おい、なんだあれ!門が光ってるぞ!」


 その言葉につられニイムと男もお互いににらみ合いながらも、とある門へと意識を向けた。


 この街には門はたくさんあるが、街中で見える門など一つしかない。


「なんだあれしゃめっ?!」


 街のどこからでも見えるほど大きい正門が、怪しい光を放っていた。


「ギヒヒヒ、まったく、なぜこうも物事とはうまく進まないものなのか。早く行ったほういいですよ。守護騎士(パラディン)?」


「おまえは何を知っているしゃめ!」


 門に向かっていた視線を男に戻すも、そこには既に誰もいなかった。


 視線を外したのは本当に一瞬だったのに、と自分の愚かさを憎むと同時にニイムは全力をもって門へと向かって走り出した。


 いなくなったあの男は絶対放置してはいけないヤバイやつだが今はそれよりもあの門だ。門があんな光るなんて聞いたことないし文献にもない。


 とんでもないことが起きていることは明らかだったから。


 物凄いスピードで門へと近づいていくと門がほんの少しづつ動いていることが分かった。


 何かがあの門を開けようとしている。そして門はそれを阻止しようと抵抗している。


 それを理解したニイムは握る銀の棒に力を籠める。


 「ライトニングチャージッ!」


 ニイムが叫ぶと全身に銀色の稲妻が発生する。それを手に持った棒に収束させていきながら投擲の構えをとると、


「『グングニルッ!!!』」


 投げた。


 放たれた銀の棒は雷の尾を引きながら地面を抉り、一直線となってちょうど門の隙間から出てこようとした存在を穿つ。


「ふぎゃっ!」


 そのまま押し返し外側へと吹き飛ばした。


(い、いま一瞬見えたやつって、、、気のせいしゃめ?いや、私があいつを見間違えるわけないしゃめ。。。)


 人一人分くらい空いた門を通り外に出たニイムはそこでぐてーーっと倒れている女の子をみて辟易とする。予想通りの人物がいたことに。


 自分の攻撃を食らっておきながらそれらしいケガもしていない少女は、ニイムの顔を見るなりとても嬉しそうに表情を綻ばせると両手を挙げて声を出す。


「あーーっ!にい」


 そんなまるで自分が何をしたのか全く分かってなさそうな奴に喋らせないように被せてやる。


「くーねっ!!!お前は本当にもう!なんなんだしゃめ!なにかをしないと気が済まないのかしゃめ?!いかれてるしゃめ!!」


 よし!遮って言えたぞ!と思うが、


「久しぶりだね!元気だった?にいむ!!」


 そんなことはどうでもいいとさらに続ける少女。


「んもおおおお!!話を聞けしゃめええぇぇ!!!!」


 何も悪いことはしていないと確信している少女に向かってニイムの悲痛な叫びが正門に響き渡るのだった。


最近忙しく少し不定期になってしまうかもしれません

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