46 くーねの戦い
今年一年ありがとうございました!
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元々いた村から少し離れたところにある山の中腹あたり。その場所でくーねは戦っていた。
襲い来る触手を流し、弾き、時に破裂させる。
すでに幾度もしたやり取りであり、なんど触手を消滅させようとその数と勢いが衰えることはない。
『ヒーヒヒヒ、弱いッ!弱いなぁ偶像?いつのまにそんななっちまったんだ?』
左右前後上下に加えて斜め、全方位から十二本の触手が迫りくる。全身に纏ったケミカルな光をポワンッと火照らせているくーねは手のひらから光を伸ばし両腕を横に広げたくらいの長さにすると光速をもって触手を切り刻んだ。
光の軌跡を描きながらバラバラと落ちていく触手を見ながらも特に気にした様子のないジュプドロン。それどころかその顔はニタニタと歪んでいる。
肩を上下しながら呼吸しているくーねとは違いジュプドロンにはまだまだ余裕がありそうだ。
「どうして、、禍災がここにっ、あなたは私が消滅させたはずっ!」
『ギヒーギギギ、知りたいか?知りたいよなぁ?そりゃ気になるよな。目の前に殺したはずの相手がいるんだもんなあ?俺でもそうなる自信があるぜぇ。』
言いながらさらに触手を五本飛ばしてきた。内三本を切り捨てつつ一本を足で弾き飛ばす。最後の一本に着地し本体へと急行したくーねは脳天から渾身の一撃を叩き込んだ。
――ズドンッと巨体が沈み込む。
『グフッ、フッフ、そんなんでどうにかなるとでも?」
「くっ!」
ジュプドロンが触手を天に伸ばすと直後赤黒い稲妻が発生し、触手伝いに落ちてくる。あたりを巻き込みながら轟音が発生する。
雷が迸る前に離脱していたくーねは手のひらをジュプドロンに向けると光を撃ち放つ。
「う~~~ん!『フォルミナスバーストっ!!』」
極大な光が柱となって空間を焦がしながらジュプドロンを飲み込む。しかし光の中でも悠然としているジュプドロンは幾本もの触手を射出するとそれぞれの触手が雷を迸り衝撃とともにくーねの光を霧散させてしまう。
「むむむっ、《千の怒雷【カールデル】》。やっかいだなぁ。」
魔王軍幹部、ジュプドロンの技の一つ。《千の怒雷【カールデル】》。伸ばした触手に自身の核力を超高圧力で流し込むことで、結果雷のような衝撃を発生させる。それによって触手が崩れ落ちてしまうのだが幾らでも生やすことができるのでジュプドロンにとってはデメリットにはならない。
とても両の指じゃ数えられないくらいの触手が雷を纏って接近してくる。
「数には数だよっ!くるくる回れっ!『サテスティアル』!」
くーねの体の周りに光の球が生成され、くーねを中心として回転する。触手が近づくと光球を反応させてぶつけ、消滅させていく。
バチバチと赤黒き稲妻が迸り、ポツポツと光球がぶつかり合うことで戦場に無数の花を咲かせていった。
『ギュギィ?いつまでそうしているつもりだ?本気を出してない偶像など半日と持たないぞ?それとも出せないのか?ヒヒヒギギギーギギ。まあどちらでも私は構わないんだが。』
「うるさいよっ!禍災なんて今の私でも十分なんだから!一度負けてるくせに!」
『ギギーー!!舐めたこと言いやがって。まあいい。貴様が既に手一杯なのは分かっている。精々粘って見せろ。』
「くぅ、」
《千の怒雷【カールデル】》と光球がぶつかり合うたびに発生する激震に耐えながらも攻撃の隙間を縫いジュプドロンに接近、なんとか掌底を打ち込む。
撃たれたところを起点に波が広がりジュプドロンの本体をぶにょぶにょと震わせるが次の瞬間には左右から迫ってきた岩の塊に圧し潰される。
綺麗に模られた岩を内側から破壊しながらなんとか地面へと降り立つ。
「げほっ、げほっ。もうっ!」
地中から突き出てくる触手を避けるため地面を蹴り常に移動し上空で赤黒い雷をまき散らしているジュプドロンを見る。
(どうしよう!どうしよう!技が効かないよ!通用してないよ!流石は魔王軍幹部だね!)
キキッーーと急停止するとすぐ目の前から触手が飛び出しそれを掴んだくーねは引っ張られるように上空へと戻っていく。
ジュプドロンより高く舞い上がったくーねは手を放しその場でグルグルと縦回転すると足を眩く発光させ重力も味方にして落下した。
「とっーーーーーう!願って願って!『しゅーーてんぐすたーーー!!』」
キックの体制で突っ込んでいく。ジュプドロンが触手を幾重にも重ね壁を築くがその全てを貫きジュプドロンに衝突する。
ズドンッと顔が陥没し地面に墜ちるかと思われたが、触手を伸ばしなんとか体を支えとどまった。
『ギギギヒヒヒヒ。無駄だ。分かっているだろう?そんなんじゃ私を倒すどころか碌にダメージも与えられないと。」
お返しとばかりにジュプドロンが口を大きく開けて咆哮する。
心をザワつかせる不快な絶叫と共に本体から飛び出した触手が天高く昇っていき集まり大きくなっていった。
『ユウカイノソ。コンキュウクラウワ、ソノガオオカク。コノチニメグミアタエン。【ガーデレイン】』
雲のように集まった触手から一斉に雷が降り注ぐ。逃げ場などない大豪雨。
「こ、れは、アデナルを滅ぼした・・・雨・・・」
今はまだくーねの周りだけだがその雲はジュプドロンが力を供給する限り消えることはなく、また少しづつ大きく成長していく。かつてくーねのいた世界のとある街を一夜で滅ぼした最悪の雨。
「くぅぅぅ!!」
『キーーッキキキ』
激震轟く雷の雨が降り注ぐ中、吹き飛んでしまいそうな意識の中で動き回る。隙間などないが少しでもダメージを食らわないよう立ち回りながらジュプドロンと戦う。しかしくーねはそんな状況でありながら昔のことを思い出していた。
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貿易都市アデナル。三つの国の中間に作られたこの都市は国境を跨ぎ様々な文化が入り混じった世界で最もにぎやかな街だと言われている。
「ふんふんふふ~ん」
そんな都市に近づいていく馬車の集団。その最後方の馬車でくたびれたローブを被り顔を隠していた一人の少女が鼻歌を歌いながら足をパタパタさせていた。
「嬢ちゃん機嫌がいいね!アデナルに行くのは初めてかい?」
「うん!初めて行くの!いろんなものがいっぱいあるんでしょ?人もいっぱいいるんでしょ!私ね、アデナルにいったら歌を歌いたいと思ってるんだ~!あとあと!おいしいものも食べたい!」
「はっはっは!そうかいそうかい!アデナルは貿易の中間地点だからね。いろんな国の食べ物が入り混じっていてストリートを見て回るだけでも日が暮れちまうから気を付けるんだよ。歌?はよくわかんないけど劇場とかもいっぱいあるから見て回ってみるといいよ。」
馬車を動かしている御者の人と他愛もない雑談をしながらものんびりとアデナルに向かっていくキャラバン。今まで楽しそうに話していた少女だが何かに反応するようにパタパタさせていた足をピクッと止めた。
「おい!あれはなんだ?!」
そんなピクニック気分をぶち壊したのは先頭の馬車に付いていた護衛の声だった。
カンカンカンとすぐに鳴り響く警戒の音。敵襲があったときの合図だ。
「おや?こんなところで珍しいですね。ここらへんじゃ魔獣もあまり出ないはずですし、アデナル行の馬車を襲うなんて無謀なことをする盗賊なんてここ数年聞いてませんが。」
「こちらは大丈夫そうですし、私も様子を見てきます。」
警鐘が鳴っても特段驚かない御者さん。長距離の旅を何度もしていれば襲撃された回数も一度や二度じゃないだろうし慣れているのかもしれない。それか今回ついている護衛がそこそこ有名な腕利き冒険者パーティーらしいことも理由の一つかも。
最後尾に配置されていた護衛も安全確認をした後に前方の方に加勢にいった。
「ごめんな嬢ちゃん。まあすぐ終わるだろうからちょっと待っててくれ。」
そう言って御者さんは馬車を止め、荷台の屋根に上ると前方の様子を伺い始めた。
「う~ん。なにがおきたんで・・・ッ?!」
なにを見たのか、御者が言葉を失い固まる。直後前方から土砂崩れのような轟音が聞こえてきた。
「きゃーーー!!」 「ぐわあああああ」 「ひいいいいい!!」
『ウオオオオオォォォオオオ!!』
たくさんの悲鳴と何者かの咆哮が聞こえてくる。
血相を変えた御者が転げ落ちるように降りてくると少女の肩を掴んで強く揺らした。
「じょじょじょじょっ、、嬢ちゃん!すぐに逃げるんだ!ここは危ない!君だけでもどこか遠くへ!」
「おじさんたちは?」
「いいんだ!おじさんたちはしぶといからね!気にしなくていい!でも君は今すぐ逃げるんだよ!最後方のここならまだ逃げる時間が、、、」
ガコンッと馬車が揺れる。浮遊感を覚え、少しずつ馬車が浮いていくのが分かる。何者かが持ち上げているのだ。
傾いていく馬車、後ろの天幕が捲り上がるとそこには、
「ひぃいい!」
自分の身長より大きい顔、大きく見開かれている一つ目。ギザギザと不揃いの牙を覗かせる顎。
「サイクロプス、か」
聞こえるかどうかくらいの声で呟く少女。
そいつを見て怯えてしまう御者とは対照的に落ち着いている少女はタンッと立ち上がるとサイクロプスへと向かい歩いていく。
「じょっ、、嬢ちゃん?!危ないっ!」
必死に呼び止める御者に振り返った少女は腕を出し親指を立てサムズアップした。風に煽られ被っていたローブが捲り上がるとそこには、
「なっ、、、もしや、あなたは、、、」
長い黄金色の髪を左右に結った少女はニッと笑いかけると一瞬にしてその場から消える。
そのすぐ後には馬車は力を失ったように地面に墜ちた。が落下の衝撃はない。怯えながら外に出た御者が見たものは首から上を失い地面に倒れているサイクロプスだけだった。
。。。
その日、キャラバンの護衛依頼を受けていた冒険者パーティーのリーダーは人生最大の危機に陥っていた。
若くして冒険者になり、頼れる仲間たちと共に様々な依頼をこなし、ダンジョンを攻略していた彼らはいつの間にか第二級冒険者へとなり上がっていた。
将来を期待され騎士団からのスカウトもありまさに順風満帆。この護衛依頼が終わったらアデナルの高級レストランでパーティーメンバーの一人でもある術師にプロポーズもする予定だったのだ。
窮地に陥ったことだって何度もあるし、そのたびに首の皮一枚の戦いでなんとか潜り抜けてきた。ドラゴンスレイヤーだって成した。
なのに、
「なんなんだよこいつはっ!」
第二級冒険者パーティー【飛ばすぜ咆哮】のパーティーリーダー、レクルは絶対の信頼を持つ愛剣を握り締める。
ただの護衛任務の筈だったのに、アデナルまでの道に魔獣は殆ど出ないのが一般常識だったのに。
いまレクルの目の前には巨大な魔獣がいた。サイクロプスだ。しかしただのサイクロプスではない。
本来サイクロプスとは第三級冒険者ほどの実力なら十分討伐可能な魔獣だ。実際にレクルも何度も倒したことがある。
しかし今目の前にいるサイクロプスは何かが違った。漆黒の皮膚を持ち背には悪魔のような翼が生えている。普通じゃない。
しかも纏っている核力が尋常じゃない。これは第二級に上がる際に倒したドラゴンよりもそのプレッシャーは重い。
「レクル!くるぞっ!」
仲間の呼び声と同時に振りかぶったサイクロプスの腕。動きはそこまで速くない。これなら、
「っなめんな!合わせてくれ!」
「おう!」
単純な拳の叩きつけを回避し、飛び上がったレクルは剣に風を纏わせサイクロプスの首を狙う。
仲間がサイクロプスの目玉目掛けて矢を放ち、矢を防御しようとしたサイクロプスの動きが若干鈍った。
「おりぁぁぁあああ!!『ストームダインッ』!」
ガキンッ、と鈍い音が鳴る。レクルの剣は確かに首を断ち切ろうとした。だがサイクロプスが硬すぎた。
「まじかっ?!」
すぐにその場を離れ地面に向かおうとしたレクルの目に映ったのはありえないスピードで振るわれるサイクロプスの剛腕。
「レクルッ!!」
仲間の叫びが聞こえた時にはすでに殴られた後。木に衝突し、朦朧とする意識の中なんとか離さなかった愛剣を支えに立ち上がる。
「だ、、、あぁ、くっ」
「『ストームカッターー!』レクル!大丈夫?!」
「あぁ、、なんとか、、、」
レクルの左腕は完全に折れていた。利き手ではなかったがこれでは剣を満足には振えない。
弓を持った青年と術師の女の子がサイクロプスの注意を惹きレクルから遠ざけようとするが渾身の攻撃さえ全く歯が立たないことに焦りを覚える。
「くそっ!くそっ!なんなんだよこいつ!」
「『ストームカッター』『ストームカッター』!もう!全然効かないっ」
サイクロプスが適当に腕を振るうとそれだけで地面が捲り上がり滅茶苦茶になる。
『グオオオオオオォォォォオオオ!!』
咆哮を上げるサイクロプス。体を中心に噴出された漆黒のオーラが竜巻のごとく巻き上がっていく。
「きゃあああああ!!」
「ケイ、、ナッ!!っぐ、おおおおおお!!!」
レクルは全ての力を振り絞り片手で剣を振るうと術師の女性、ケイナに向けて風を放った。
風は竜巻の隙間を通りケイナを優しく包むとその範囲から脱出。
帰ってくる風。ケイナをキャッチする。
「レクル、、ありが、とう。」
「ケイナ!大丈夫か?!しっかりするんだ!」
漆黒の竜巻に曝されたケイナのダメージはかなりのものだった。
「みなっ!大丈夫か、、、っ?!」
最後尾で殿を務めていた仲間が合流しその惨状に驚愕する。が、流石は第二級冒険者というべきかすぐに状況を判断し行動に移した。彼はヒーラーだった。ケイナを治癒するため駆け出す。
しかしその行動をサイクロプスが許すかどうかはまた別の話。翼をはためかせ浮き上がると力を籠め地面を踏みしめる。
地面が波打ち、その場に立ってはいられなくなる。
勝ちを確信したサイクロプスは竜巻を腕に纏わせるとレクルとケイナに向かって振るう。
【飛ばすぜ咆哮】は風の力を主体に戦うパーティー。それが同じ風を使うやつに負けるなんて、
そんな屈辱を籠めた眼差しで睨みつける。先ほどケイナを助け出すために力のほとんどを使ってしまった。もう動ける力も残っていない。
「レクル、最後があなたと一緒でよかった。私、貴方のことが好き。」
ケイナがレクルの頬に手を添え微笑む。まるでこれで最後だとでもいうように。
レクルはうれしかった。ケイナが自分と同じ気持ちだったなんて。
「ケイナ、俺も、俺もケイナのことが好きだ!」
微笑み合う二人、最後の最後にお互いの唇と重ねようとし、、、
視界が真っ白に染まった。
「「!?」」
急に起こった発光現象に二人して顔を上げる。光が収まっていくそこにはサイクロプスの姿はなく代わりに一つの小さな影があった。
長いツインテールをなびかせ、くたびれたローブを羽織った少女は空中でクルンと回転するとレクルたちに向かい笑いかける。
「二人のその恋、このくーねたんが応援しちゃうよっ!!」
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