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45 エイタの戦い

 回転する視界が瓦礫の山へと突っ込んだ。しかし休む暇などなく飛び上がり瓦礫をかき分けながらその場を脱すると、そのすぐ後には巨大な何かが突っ込んできて辺りもろとも吹き飛ばす。


「なかなか素早い、やっかいだ」


「・・・くっ!!」


 すでに戦いが始まってから”数時間”。少しでも気を抜けば死ぬという状況で極限にまで高まったエイタの戦闘能力はこの場でなんとか生きていけるくらいには成長していた。


 とはいってもすでに満身創痍であり、息も絶え絶え、体のあちこちが悲鳴を鳴らしており今にでも倒れてしまいそうだけど。


 ただ幸運なことに大男もダメージの度合いはあまり変わらない。くーねと戦った時に負った腹の傷、これが相手の動きを著しく鈍らせていた。でなければエイタはもうペシャンコになっているだろう。


 それにエイタの攻撃が完全に効いてないわけではなく、多少ではあるがダメージが通っているのもまだ負けるわけにはいかないと思える理由の一つかも知れない。


 っと、現実逃避をするのはここまでみたいだ。


「ぐっ、手負いとはいえ、ここまで苦戦、するとはな。」


 大男が陥没しひび割れた腹を抑えながら瓦礫の山から立ち上がる。蒼白な顔面に大量の血管を浮き上がらせ、拳を強く握りしめている。


「はぁ、はぁ、、、なんなら諦めてもいいんだぜ?この結界が解けるまで仲良くお茶でもしようや。」


 今はほんの少しでも息を整える時間が欲しい。だからこうして度々話しかけている。だが大男は乗ってこない。踏み込み、跳躍、殴打によって返される。


 もはや避ける気力なんてない。精一杯腕に核力を集めなんとか攻撃を凌ぎ、弾いた反動で反撃する。


「うぐっ、さぁ!ちょっとは聞いてくれてもいいんじゃん!」


「ふんっ」


 しかしエイタの攻撃は腕をちょっと焦がすだけ。受け止めた腕を振り払い吹き飛ばされる。


 飛ばされて地面にぐしゃっと着地。ゲホゲホと咳き込み腹にたまった血を吐き出しながらなんとか立ち上がる。


(あぁ、まじ無理ゲー。頭ぼーっとするわ。くっそ、せめてあの腹に渾身のを叩き込めれば、、、)


 考えるのは簡単。行うには超難度。なんとか突破口を探そうとするが貧血のせいか頭がうまく働かずふらついてしまう。それを好機と捉えた大男がまた殴り掛かってきた。


(やば、避けなきゃ)


 意識が朦朧としてしまったことで反射的に避けようとするが、足が絡まりよろけてしまう。


「あっ、、」


 バコーーンッともろに攻撃を食らってしまい盛大に吹っ飛ばされる。地面を数バウンドし家屋を倒壊させながら突っ込む。


「・・・ぐっ、うぅ」


「っふ、、、ようやく、終わりか、随分と長いこと耐えられたが、所詮は人間。ここまでだ。」


 腹を片手で押さえ頭を振りながらゆっくりと俺にトドメを指すために近づいてくる。


(うぐぐ、動かない。。。くそ、、ここまでなのか。もう少し、、もう少しで何か掴めそうなのに。。。)


 倒れていても左眼に灯る炎だけは爛々と滾らせながら大男を睨みつける。禍々しい黒紫色のオーラを纏わせた拳を振り上げ俺を確実に潰そうとする光景を眺めながら視界の端に別のものが映った。


(あれは、、、)


「ほんとうに、俺を倒して、、、いいのか?”道の水晶”の在処、、を知ってるのは俺、だけだぜ。」


 途切れ途切れの言葉。ただのハッタリ。だがその言葉を聞いて一瞬だけピクッと大男の動きが止まった。


「・・・構わん。貴様を殺して探すだけだ。村もそこまで広くない。更地にすればすぐ見つかる。」


 勝ちを確信しているからか答えを返してくれる。がすぐ言い終わるとまた拳を振り下ろすための行動に入ろうとする。


 ほんの一瞬だけの時間稼ぎ。だがなんとか間に合った。


「・・・ッ?!」


 ピシュンッと何かが大男に向かって飛来する。全部で三本。そのうちの二本は腕で弾かれ、または防御されたが、残りの一本が運よく大男の左肩に突き刺さった。


「ぐっ」


 すぐにその場を飛び退き脱するとさらに数本の矢が飛んできて大男が居たところの地面に突き刺さる。


「なにが、、、」


 大男が矢が飛んできた方向に視線を向けるとそこには恐怖に怯え顔からは血の気が引き、全身をブルブルと震わせながらもクロスボウを構えている村人達がいた。


「エイタ君っ!!!遅くなった!今助けに来たぞ!」


 そしてその中心にいるのはコウヘイ。まったく、無謀なことをしてくれる。と思いつつもつい口をにやけさせてしまう。


「ゴホッ、がはっ、まったく、来なくていいって言ったじゃないですか。いや言ってはないか。」


 口周りの血やらなんやらを腕で拭いながら立ち上がる。これだけ時間を稼いでくれたんだ。立ち上がらない訳にはいかないだろう。


「愚かな、自ら死にに来たか。」


 肩に刺さった矢を無理やり抜きながら大男が吐き捨てる。睨む先は俺ではなく村人たち。


「いいや違う!俺たちは戦いに来たんだ!子供たちが命を懸けて戦ってくれているのに全部任せてみて見ぬふりなんてできない!それに隠れていたっていつか死ぬだけだ。それなら俺たちはその瞬間まで戦う!」


「「「うおおおおーーー!!!」」」


 村人たちが交代交代にクロスボウを放ち弾幕を形成する。パシュパシュと音を放ちながら次から次へと大男に向かって矢が飛んでいき、黒紫色のオーラを纏っている腕で顔を覆い防いでいた。


「うっとおしい。」


「エイタ君!今のうちに逃げるんだ!ここは私たちに任せてくれ!」


 コウヘイが親指を立てながら叫んでくる。本当に大丈夫か?と思い後ろにいる村人たちを見ると彼らは俺を見て全力で首を横に振りまたは腕をバッテンにして必死にアピールしてた。


((((ムリムリムリムリムリムリ!!!!))))


 すんごく心の声が聞こえてくる。おそらく多少なりとも俺と大男の戦いを見ていたのだろう。だからもし今俺がいなくなれば自分たちが一瞬でミンチにされると思っているはずだ。


 そしてその予想はおおよそ正しい。心核を持たずまた核力もない村人たちは言わば赤子同然。そんな状態で核力を纏っている大男の攻撃を食らえばひとたまりもないだろう。


 そもそも大男のオーラに当てられて絶望しないだけでも大変だろうに。


 ゆえに俺が戦線を離れるわけにはいかない。だから、


「ありがとうございます!お言葉に甘えてお先に失礼しますね!」


「おう!」


「「「ひえええぇぇぇぇえええええ!」」」


 普通にお言葉に甘えることにした。村人たちがムンクの叫びみたいになりながら絶叫している。


 涙目を浮かべ無言で「いかないで?」と必死に訴えかけてくる村人たちを無視し建物に隠れるように逃げる。


 俺の姿が見えなくなってしまい諦めた村人たちは「くっそがああああ!!」と叫びながら大男に矢を放っていた。


 だがエイタも直ぐそこにいる。別に本当に逃げる気もないし。ただ数時間ぶっ通しで戦っていたんだからほんの少しくらい休ませてほしいだけ。


 初撃を見た感じしっかり当たりさえすればクロスボウでもダメージが入ることは確認済み。矢の弾幕をわざわざ避けていることからも大男にとって脅威となっているだろう。現状大男には遠距離攻撃もないし連携により弾幕を途切れさせない限りはなかなか近づくことも叶わず時間稼ぎをすることは可能。


 ただそれも矢が尽きれば終わってしまう。現状の消費スピードから見てもおそらくは五分、いや三分ほどしかもたないだろう。


(それまでになんとか回復しないと。。。)


 山の方では未だにくーねとジュプドロンの戦いの音が聞こえてくる。血泥のような結界のなかで一際輝いて見える星が高速で動き回っているのが分かる。くーねだろう。


(はっや、なんであんなに動けるんだ。練度が違うと言われればそれまでだが。)


 思わず見惚れてしまいぼーっと一等星を眺めていると腕がズキズキと痛み現実に戻された。


(いってぇ、ギリギリ防御は間に合ったけど核力が足りなかったか。操作速度は結構上がってきたんだけどな。相手の速さに追いつけてない。そういえば組手の時にくーねに言われてたっけな。)


『速度が足りない?ん~~もっとこう、ばっーーんとするといいよ!』って、両手いっぱい広げてたっけ。


(そういえばあの時霧島さんが「ふっふっふ、エイタ君のその悩み、お約束だね~」ってドヤ顔でいってたけど、霧島さんはなにかしってたのか?)


 久々の休息のおかげかいろんな考えが浮かんでくる。なんだか体が休まってる感じはしない。


(霧島さん、無事かなぁ。)


 ミカのことは村を出たとき以降一度も見てはいない。くーねがジュプドロン。大男がここにいる以上大丈夫だとは思うのだがやはり姿を見てないのは心配だ。なにか事故にあったりしていなきゃいいのだが。


 ――ドゴオオォン


「「「「うぎゃあああああ」」」」


 村人たちの方からすごい音が聞こえてくる。はっとしてそちらを見ると捨て身で突っ込んだであろう大男に村人たちが吹き飛ばされていた。


「くそっ!ダメージ覚悟で突っ込んだか!」


 よく見ると大男の腕やら脚やらに矢が刺さっている。おそらく頭などの急所だけを守った上で突進したのだろう。


 元々地面を狙った攻撃だったのか吹き飛ばされはしたが直撃した人はいなそうなのはよかったが、


 まだ二分も休めてない。がもう十分だ。エイタは足に炎を集中させると地面を蹴り一気に駆け出した。


 勢いそのままに拳にも炎を纏い大男を殴りつける。


 ドパンッと殴打した部分で核力が破裂し、爆発する。


「ぐっ、随分早く、もどったな」


「なんだ、気にしてくれてたのか?」


「貴様は一番、厄介だから、な」


 攻撃を肩に食らいのけ反った大男の腕にまたどす黒いオーラが集まっていき、反動の流れのままカウンターを打ち込んできた。


 炎を纏ったままだった腕で防御しぶつかり合い、バチィィンと盛大な音を鳴らす。


 お互いが距離をとるように吹き飛び地面に着地。


 身体に刺さった矢を抜きながら忌々しそうにエイタを睨む大男とは違い、エイタは自分の手のひらに視線を落としていた。その手のひらはあふれ出る核力によっていまだに燃えている。


(そうか、、、そういうことか!やっとわかったぞ!俺の核力は常にあふれ続けている。目立たないように何とか通常時は瞳の奥だけに隠していたけど戦闘となるとそれすら出てきてしまう。そして俺は毎回攻撃や防御のたびにこの常に溢れている核力を部分的に送っていた。だから速さで負けていたんだ!そうだ、簡単なことだった!別にいちいち使った核力を戻す必要なんてないんだ!ずっとだしっぱにしとけばいいじゃん!)


 思えば核力を道具のように”使う”ことに固執していた気がする。だが核力は道具なんかではなくもう体の一部分なのだ。


 核力の炎が身を焦がす熱さなんてとっくに慣れている。俺は全身に核力を巡らせ燃やしていく。


「ぬっ、貴様、なんだ。なにをした」


 纏う雰囲気が変わったことに気づいたのだろう。大男が警戒しながら観察してくる。


「いやなに、仲間の言う通りにばっーーーんとしてみただけだ。」


 くーねの真似をするみたいに腕を広げパタパタさせながらそんなことを言うと相手は顔を顰め、


「ふざけやがって。」


 頭を振った大男が一気に突進してくる。


 一撃目を腕で防御しもう片方の拳を打ち込む。が相手の手のひらに受け止められてしまう。鍔迫り合いのように押し合い状態になる。


(いけるっ!)


 今までならたとえ防御ができていたとしても力で押され、また反撃するころには相手の体制が整っている状態が多かった。


 だが今ならお互いの力量はほぼ互角!だよね?!そして俺にはまだ足があるっ。


「ぬおおおおおおおっっ!!」


 全力で前に押しながら足にさらなる核力を集めていく。さすがに爆発するほどの攻撃はある程度核力を収束させないといけない。常に溜めてたら動くたびに体が爆発してしまうからこればかりは仕方ない。


(狙うは勿論。。腹っ!!!)


 拮抗状態の中エイタの足が浮き大男が押し倒すように攻めてくる。ほぼ水平状態になった。目を合わせ睨み合う両者。右足の先に炎が収束していき危険な輝きを放ち始める。


 大男が足の光に気づき逃げようとするが掴み合う手に力を籠め逃がさない。逃げさせない。


 藻搔き合いの中先に動いたのはエイタだった。


 空中にいながら全力で体をひねり回し、大男の陥没した腹に蹴りを叩き込む。


「おらあああああぁぁっ!『エクスプローーードッ!!』」


 ――ッカと世界が白く染まり一拍置いて大男の腹を中心に大爆発が巻き起こる。


 ドッゴオオオオオォォォンと轟音を鳴り響かせながら爆風により地面に強く叩きつけられる。


「っぐぅ」


 大男も横方向に吹き飛びいくつもの家屋を貫通していき岩の壁のような場所にめり込むように激突した後、停止した。


 大量の核力を使ったことでとんでもない倦怠感を感じながら首だけを大男が吹き飛んでった先へ向ける。


 壁を背に座り込むように俯いている大男が動く気配は、ない。


「よ、、よっしゃ、、、よっしゃあああ!!!」


「「「「「うおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


 つい大きい声で喜んでしまうと吹き飛ばされボロボロとなっていた村人たちもそれ以上の声の大きさで喜んでいた。エイタに駆け寄り腕を天に上げさせながら喜んでいる。


「すごい!すごいぞエイタ君!!!君が!君があれを倒したんだ!!」


「ははっ、ほんとに、倒せた。俺、倒せたぞ。くーね!」


 達成感により震える体ととうに超えていた限界のお陰で身体に力が入らずそのまま気絶するように眠ろうとしたその時、


「おい、なんだあれ、、、」


 喜びの中浮かれている村人達の中でそんな不安そうな声がやけに透き通って聞こえた。


 全員の視線が言葉を発したであろう人ではなく大男へ向けられる。もちろんエイタも首を無理やり動かし見る。


 いまだ動かず一見すると死んでいるようにも見える大男。では何故疑問の声が上がったのだろうか。何故あいつから目が離せないのだろうか。


 そんなの決まっている。


 少しずつ、徐々に大男の体に纏わりつくようにオーラが集まっているからだ。


 本能が全力で警鐘を鳴らしている。今すぐあいつにトドメを刺せと。"今"ならばまだ間に合うと。


 壊れてしまいそうな体を無理やり起こしなんとか立ちあがろうとする。エイタの意思を察したのか村人達も手伝ってくれて、なんとか立ち上がることができた。


 でも、大男までは少し遠すぎた。


 ピクッと指が動いた。


 腕が動いた。


 体が震えた。


 俯いていた顔を上げた。


「まさか、負けてしまう、、とは、な。私はここまでなのか。。グフッ、これは一生使う気などなかったが、こうなった以上致し方無い。」


 遠く離れていたが確かに聞こえたそのセリフ。ゆっくりと動き出した腕が内ポケットから何かを取り出した。


 なんだろうか。枝?木の先端の枝を摘み取ったかのようなそれ、しかしその色は紫黒く、禍々しく脈動している。


「先に、、、向こうへ行かせていただきます。。」


「やめろ、、、」


 今生の別れのような事を呟き、そんな明らかに怪しい枝を大男は口を開け食べようとする。


「やめろおおおおおっっ!!!!」


 エイタの叫びなど聞こえていないのか大男は枝を飲み込んだ。


 ゴクン。と喉を鳴らす音だけが響いた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ――ドクンと大男を中心にオーラが脈動し、波紋のように広がっていく。


 広がっていくオーラに当てられ何人かの村人が泡を吹いて倒れてしまった。


 ドクドク、ドクドクと大男が蠢く。体中に黒紫色の線が浮き出て少しづつ大きく肥大化していた。


 体のあちこちから体の繊維が飛び出していき伸びていく。まるで枝を伸ばしていくように幾重にも裂けては絡まり、より大きく。


『ウオオオオオオオオォォォッッッ』


 咆哮が上がった。


 もはや見上げないといけないくらいに大きくなった大男だったナニカはギチギチと体を慣らしながら拳を振り上げ、地面を叩きつけた。


 ドゴオオオンゥと一瞬で地面が捲り上がりとてつもない衝撃波が発生する。地鳴りが起こりその場に尻もちをついて転んだ。


「ば、化け物。」


 思わず口に出たセリフだが、相手の見た目も相まってそれ以外に表現のしようがない。


 形こそ人型を保ってはいるがその体は肥大化した繊維で幾層にも絡まりまるで編み込まれた大木。そこから繰り出される質量に任せた単純なる攻撃はたとえ核力を纏っていたとしても関係なく潰されてしまいそうだ。


 パシュッと音がした。村人の一人がクロスボウを撃ち放つ。


 化け物は避けるどころか何も気にした様子はなく矢はあっけなく身体に突き刺さる。それだけ。


「効いて、ない。。それどころか、、、」


 刺さった矢の周りがボコボコと動き出し枝が伸びてきたかと思えばそのまま矢ごと埋めるかのように集まり固まっていく。


「なんだあれは、、、まさか取り込んだのか?」


 コウヘイが信じられないといった様子で言葉を漏らす。エイタも大体同じ気持ちだ。


 あれはもう倒すとかどうするかという次元を超えている。そんな気がする。でも、誰かがあいつをどうにかしないといけない。それだけはわかる。


「コウヘイさん。村の皆さんを連れて、どこか遠くへ、避難してる人も、みんな」


「どこかって、どこへ行けっていうんだ。それにエイタ君。君はどうするんだ?」


 未だ濃密な膜によって周りを覆っているドームを見ながらコウヘイは言葉を返してくる。


『グウウウオオオオオオオオンンンゥゥッッ』


 大男の成れの果てには意思がないのかただその場で暴れていた。ただその体の大きさと暴力的なパワーのせいで冗談のように村が崩壊していっている。その範囲は少しづつだが広がっている。ここももうじき危ない。


「そりゃ、どこかはどこかですよ。なるべく安全そうで、静かな方へ。あれが暴れ続ければこの村も直ぐなくなっちゃいますよ。」


 コウヘイはグググと歯を食いしばりながらも大男を見て「確かに、このままでは、、、」と呟いていた。あの化け物が暴れ続ければ今ここにはいない避難している人たちも危ないと理解したのだろう。


「君は、残るつもりなのか。一人で、そんな傷だらけの身体で!」


「誰かがあれを引き付けておかないと。」


 話は終わりだと、大男に視線を戻し、歩き出そうとしたところで全身から力が抜けるようにガクッとひざを折ってしまう。


 うつ伏せに倒れる寸前でコウヘイに抱えられる。


「言わんこっちゃない!もう限界じゃないか!ダメだ。君を置いてはいけない。無理にでも連れてって、、、っ熱い?!」


 身体を抱えようとしたコウヘイがエイタの全身に纏われている炎の熱で弾かれる。離されたエイタはビタンッと地面に落とされた。


「なん、だ。この熱さは。。」


「コウヘイさん。だい、じょうぶ、ですから。村のみんなを、、、」


 生まれたての小鹿のように足を震わせながら立ち上がる。


 大男を見るとちょうどこちらに顔が向いており、大きな口を開いているところだった。


「っあ」


 大男の胸が膨れ上がっており、黒紫色のオーラが胸から喉元にかけて集まり光が漏れる。


 何をしようとしているのか?いやあれしかない。


 ”撃ち出す”つもりだ。なにを?そんなの知るか。


 ゴオオオオオオオオォォと大男が風を吸い込む音がこちらまで聞こえてくる。


「っ!?にげっ、」


『グルウオオオオオオオンンッッ』


 大男の成れの果てとなった怪物の口から何かが放たれた。


 エイタの視界はやけに鮮明に、それでいてとれもゆっくりと流れていた。まだ怪物の口からなにかは出切ってない。


(ああ、これが死ぬ前の景色なのかな。)


 周りも、自分も、すべてがゆっくりと進むこの世界で思考だけが動く。


 絶対に、諦めない。


 その気持ちだけでこの場に立つ。自分の用いる全てを使ってそれで動けなくなったとしても後ろの人たちは守ってみせると。


 だが、こんな絶望的な状況の中にも拘らず、エイタは全身から力を抜いた。


 一瞬で世界のスピードが元に戻る。


 なぜそんなことをしたのか、それは、


「おまたせっ!話は半分くらい聞かせてもらったよっ!」


 ここ最近で毎日のように聞いている透き通った可愛らしい声がこの場違いな戦場に響き渡る。


 ちょっと前まで話したことすらなかったのに、今では親友のように信頼している。


 だからつい気を抜いてしまった。任せて大丈夫だと確信したから。


「これ以上は私が許さないかなっ!巻き上げ潰せっ!『ロックフーン・ディザスター!!』」


 真後ろからとてつもない風が発生する。地面の岩や周辺の瓦礫を巻き込みながら成長していった凶悪な竜巻が生きているかのように怪物の顔面目掛けて飛んでいく。


 ほんの一瞬の出来事だった。大男が口からなにかを射出する直前。竜巻が怪物の顔面、顎を穿つようにカチ上げる。


 ――グオオオオォォン。


 逸らされた顔が斜め上を向き口から何かが飛んで行った。


 バチゴオォォン


 とてつもない速度で放たれた砲弾が血泥の結界に衝突し、激しいスパークを生じさせる。


 バチバチと弾けたあと轟音とともに結界を突き抜け遥か彼方へと消えていく。


「なっ」


 久方ぶりに見た空は一瞬のうちに穴がふさがり閉ざされてしまった。

 

(はえーあの結界って破れるんだ。)


 そんなこと考えている場合ではないとわかってはいるんだけど気が抜けてしまったせいかどうにも思考が緩くなってしまっている。


 うしろからザザッと足音が聞こえたので振り返るとそこには、


「きりし、、、魔女っ子ミカるん?!」


 キャピーーンっと効果音が聞こえてきそうなポーズを決めた霧島ミカがそこにいた。


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